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十四章 フェッチ
二
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さて、混迷の極みだった宴から数日後。ダンジョンの主は当たり前のように帝国の上層部に食い込み、食い破り、己の立ち位置を確立していた。詳述するとノーイが雑に作った人間と同じ形にしている胃が痛んだり穴が開いたりするので省くが、宮廷闘争とはかくも醜きものなのかと嘆く程度のものである。
とはいえ、それは元勇者パーティーや巫女三姉妹も同じくである。圧倒的な武力、驚異的な諜報能力、そういった力による支配が罷り通ってしまったのだ。これまた詳述するとノーイの本体に通じている消化やら同化やらを担当している胃的な部位が悲鳴を上げるので省くが、力とは力なのであるという言説がぴったりな状態であった。
「で、ノーイ様は?」
「見りゃわかるだろ雑用係してんだよ話しかけてくんな」
えーん、と泣き真似を始めたフェッチを無視して本日の仕事こと王宮の図書室とダンジョンの主の部屋を往復しているノーイである。彼は平穏に、平和に、平凡に生きていきたいのだ。どうして人間って争わないと生きていけないのかな……と神官のような思考を巡らせる日々である。
だもので、ノーイは雑用係としての仕事を続けていた。そもそも契約上、ダンジョンの主から逃げられはしないのだが、現状を鑑みるとダンジョンの主の庇護下にいた方が生存確率が高い。何せダンジョンの主は、皇帝の右腕であるフェッチと同等かそれより上の立場に成り上がったのだ。
しくしくと胃が痛み始めたので回想を止めたノーイは、そんな訳で大量の本を運び続けている。そんなノーイの後ろをついて歩きながら、フェッチが言い募っていた。
「暇なら手伝ってくださいよワタシだって忙しいんですよそんな中で難しい案件ほいほい投げてくるんですよアイツは何でですかワタシはただ平穏無事に生きていたいだけなのに逃げ出そうにももうこんな地位になっちゃったら逃げ出せないしこれは最終的に元彼氏と駆け落ちって感じにして逃亡するしかないかなって」
「お前の自滅にオレを巻き込むなよ!?」
「だってノーイ様はお強いし賢いじゃないですかワタシよりもきっと速やかに問題を解決できるんですよ適材適所って言葉もありますしあーあノーイ様がこの話を受けてくれないとワタシは過労死しちゃうんだノーイ様はそんなワタシの屍を踏みつけて平凡な人生を送るんだそれってとっても許されざる罪では?」
「……オレに殺されたいとか?」
「ワタシ、生きてたいです、ごめんなさい」
すっ……と据わったノーイの視線に負けて謝罪したフェッチ。しかし心は折れ切っていないようで、目線だけはノーイを責め立てている。コイツ根性あるなとは思ったが煩わしいことは確かだし、このままつきまとわれればまた要らぬ誤解を呼ぶこととなる。だもので、ノーイは深々と溜め息をついて肩を落とした。
「その、オレなら速やかに解決できる問題って何だよ」
「概要をまとめたものがこちらとなります」
「最初からオレになすりつける気満々だった?」
それに、平穏に生きたいという願い自体はとてもよく理解できたから。そう思って少し情けをかければこれである。モンスターって誰も彼も本当に自分本位でやだな、と己を棚上げして思うノーイをよそに、フェッチは書類の束を差し出した姿勢のまま笑っていた。
とはいえ、それは元勇者パーティーや巫女三姉妹も同じくである。圧倒的な武力、驚異的な諜報能力、そういった力による支配が罷り通ってしまったのだ。これまた詳述するとノーイの本体に通じている消化やら同化やらを担当している胃的な部位が悲鳴を上げるので省くが、力とは力なのであるという言説がぴったりな状態であった。
「で、ノーイ様は?」
「見りゃわかるだろ雑用係してんだよ話しかけてくんな」
えーん、と泣き真似を始めたフェッチを無視して本日の仕事こと王宮の図書室とダンジョンの主の部屋を往復しているノーイである。彼は平穏に、平和に、平凡に生きていきたいのだ。どうして人間って争わないと生きていけないのかな……と神官のような思考を巡らせる日々である。
だもので、ノーイは雑用係としての仕事を続けていた。そもそも契約上、ダンジョンの主から逃げられはしないのだが、現状を鑑みるとダンジョンの主の庇護下にいた方が生存確率が高い。何せダンジョンの主は、皇帝の右腕であるフェッチと同等かそれより上の立場に成り上がったのだ。
しくしくと胃が痛み始めたので回想を止めたノーイは、そんな訳で大量の本を運び続けている。そんなノーイの後ろをついて歩きながら、フェッチが言い募っていた。
「暇なら手伝ってくださいよワタシだって忙しいんですよそんな中で難しい案件ほいほい投げてくるんですよアイツは何でですかワタシはただ平穏無事に生きていたいだけなのに逃げ出そうにももうこんな地位になっちゃったら逃げ出せないしこれは最終的に元彼氏と駆け落ちって感じにして逃亡するしかないかなって」
「お前の自滅にオレを巻き込むなよ!?」
「だってノーイ様はお強いし賢いじゃないですかワタシよりもきっと速やかに問題を解決できるんですよ適材適所って言葉もありますしあーあノーイ様がこの話を受けてくれないとワタシは過労死しちゃうんだノーイ様はそんなワタシの屍を踏みつけて平凡な人生を送るんだそれってとっても許されざる罪では?」
「……オレに殺されたいとか?」
「ワタシ、生きてたいです、ごめんなさい」
すっ……と据わったノーイの視線に負けて謝罪したフェッチ。しかし心は折れ切っていないようで、目線だけはノーイを責め立てている。コイツ根性あるなとは思ったが煩わしいことは確かだし、このままつきまとわれればまた要らぬ誤解を呼ぶこととなる。だもので、ノーイは深々と溜め息をついて肩を落とした。
「その、オレなら速やかに解決できる問題って何だよ」
「概要をまとめたものがこちらとなります」
「最初からオレになすりつける気満々だった?」
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