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十四章 フェッチ
三
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フェッチのこめかみに拳をめり込ませ、ぐーりぐーりと執拗かつ丁寧に捻りを入れたノーイである。本当に最初からオレへ仕事振る気満々だったんじゃねぇか、とは内心の愚痴である。
何せ、ざっと資料に目を通した結果やっぱり嫌だなと思って、一応上司の方にも聞かなきゃなぁと逃げようとしたら、そちらへの根回しは済んでいたのだ。私は忙しいから帝国での基盤作りも兼ねてやっておけ、とダンジョンの主直々に命令されたら仕方ない。
「んで……何、この婚約破棄騒動っつーのは」
そのような経緯で、フェッチと共に適当な部屋にこもって改めて資料を読み込んでいたノーイはそう言いつつ顔を上げた。フェッチはううんと唸り、言葉を選ぶ。思ったことをたらたら述べていたら高確率でいじめられると学んだからだ。
「帝国の、高位貴族の間で、流行ってます」
「流行るようなもんじゃねぇだろこんなもん」
「皇帝の第二十七子様も、公爵家の娘との婚約を、破棄しました」
「どっちにツッコミ入れるべき? 二十七番目の子ども? 公爵家への敵対行為?」
「皇帝には今の時点で、四十七人の子どもがいます」
「あー、その後の公爵家について教えて?」
「表向きは、婚約破棄をきっかけに、皇帝の暗殺を企てた罪によって、一族郎党処刑されました」
「想像と違う!! 表がそれなら裏は何だよ!?」
「まぁ……いくら皇帝側の否とはいえ額ずいて詫びよとか皇帝に言っちゃったら処断待ったなしでは? 公爵家はそもそもちょっと調子に乗ってた所はあったんですよ。だもので第二十七子様を婿として差し出すことで権力的な均衡を取りつつ身内として仲良くしようねって言ってたのにこの結果ですからね。確かに第二十七子様から婚約破棄したから本人が額ずいて詫びるのは想定の範囲内でしたしソロモン様もそのつもりで第二十七子様を連れて行ったんでしょうけどそこで皇帝本人に頭を下げさせようとしたのはまずいですよ。そもそも魔王様に額ずいて詫びよとか言えないじゃないですかあの人間もしかして死にたがっていたとか? そう思うくらいしかあの狂った言動の理由がわからないんですけいたたたた」
ぐーりぐーり、二回目。
「……流石に何も悪くなかったし、魔力多いし、唯一ソロモン様に変わらぬ恭順の意を示した令嬢は生き残ったんですけどね? 家名を剥奪されて宮廷で働く魔法使いの一人になってますけど。そんな感じで、他の所でも似たような感じで婚約破棄騒動が起きてるんですよ。真実の愛を見つけたとかお相手が自分の伴侶になるには不適格な行動を取ったとか。わっかんないんですよねぇ、大体の場合は婚約破棄された側に非はなくって、婚約破棄した側が有責なんですよ。誰がどう見てもそんな状況で、あんまりおかしいから調査しろっいたたたた」
三回目でフェッチが泣いたので一応手加減したノーイだが、書類の方が余程わかりやすくまとまっていたのでフェッチからの説明は諦めることにした。曰く、帝国貴族の間で不審な婚約破棄が複数回起きているとのこと。婚約破棄をした側もされた側も、帝国貴族であるというだけでその他の共通点はなし。友人関係があった者もいたが、そもそも貴族家の数自体が王国よりも格段に多いので、まぁあるだろうなという程度。
とはいえ、それで帝国が混乱しているかといえばそうでもなく、それは徹頭徹尾ソロモンが采配しているからだそうだ。婚約破棄した側には適切な罰を、された側には適切な補償を。魔法狂いではあれど、いや、魔法に狂っているからこそそれ以外の些事は完璧に解決して魔法の研究に注ぐ時間を確保しているのがソロモンという男なのだ。
が、起きた事象については完璧な対応ができるのだが、それ以外は全て家臣に放り投げるという悪癖があるのも事実。その悪癖の一端が、ノーイに引っかかってきたという訳らしい。
「オレ、外国からこっちに来たばっかりなんだけど、それでもこの完全に帝国内のいざこざっつーか揉め事を解決できると思われてる?」
「だって、ワタシが話を聞こうにも、「ソロモン様の右腕」だから……」
「あー……」
その状況には、不本意ながら大変覚えがあった。何せノーイ、いや、ヴォジャノーイは魔王軍の第二位だった。一体一軍、魔王に次ぐ恐怖と畏怖の対象。自分が声をかけただけで死にそうな顔をするモンスターを多々見たことがある。つまりは、そういうことなのだろう。
「仕方ねぇな……」
ならば、逆にこれまで無関係だった客人の方が、客観的に物事を見れるし話を聞き出すこともできるだろう。とはいえ、やりたいかやりたくないかで言えば圧倒的にやりたくないが。ノーイはぶつくさと文句を垂れつつ、書類の内容を頭に叩き込むのであった。
何せ、ざっと資料に目を通した結果やっぱり嫌だなと思って、一応上司の方にも聞かなきゃなぁと逃げようとしたら、そちらへの根回しは済んでいたのだ。私は忙しいから帝国での基盤作りも兼ねてやっておけ、とダンジョンの主直々に命令されたら仕方ない。
「んで……何、この婚約破棄騒動っつーのは」
そのような経緯で、フェッチと共に適当な部屋にこもって改めて資料を読み込んでいたノーイはそう言いつつ顔を上げた。フェッチはううんと唸り、言葉を選ぶ。思ったことをたらたら述べていたら高確率でいじめられると学んだからだ。
「帝国の、高位貴族の間で、流行ってます」
「流行るようなもんじゃねぇだろこんなもん」
「皇帝の第二十七子様も、公爵家の娘との婚約を、破棄しました」
「どっちにツッコミ入れるべき? 二十七番目の子ども? 公爵家への敵対行為?」
「皇帝には今の時点で、四十七人の子どもがいます」
「あー、その後の公爵家について教えて?」
「表向きは、婚約破棄をきっかけに、皇帝の暗殺を企てた罪によって、一族郎党処刑されました」
「想像と違う!! 表がそれなら裏は何だよ!?」
「まぁ……いくら皇帝側の否とはいえ額ずいて詫びよとか皇帝に言っちゃったら処断待ったなしでは? 公爵家はそもそもちょっと調子に乗ってた所はあったんですよ。だもので第二十七子様を婿として差し出すことで権力的な均衡を取りつつ身内として仲良くしようねって言ってたのにこの結果ですからね。確かに第二十七子様から婚約破棄したから本人が額ずいて詫びるのは想定の範囲内でしたしソロモン様もそのつもりで第二十七子様を連れて行ったんでしょうけどそこで皇帝本人に頭を下げさせようとしたのはまずいですよ。そもそも魔王様に額ずいて詫びよとか言えないじゃないですかあの人間もしかして死にたがっていたとか? そう思うくらいしかあの狂った言動の理由がわからないんですけいたたたた」
ぐーりぐーり、二回目。
「……流石に何も悪くなかったし、魔力多いし、唯一ソロモン様に変わらぬ恭順の意を示した令嬢は生き残ったんですけどね? 家名を剥奪されて宮廷で働く魔法使いの一人になってますけど。そんな感じで、他の所でも似たような感じで婚約破棄騒動が起きてるんですよ。真実の愛を見つけたとかお相手が自分の伴侶になるには不適格な行動を取ったとか。わっかんないんですよねぇ、大体の場合は婚約破棄された側に非はなくって、婚約破棄した側が有責なんですよ。誰がどう見てもそんな状況で、あんまりおかしいから調査しろっいたたたた」
三回目でフェッチが泣いたので一応手加減したノーイだが、書類の方が余程わかりやすくまとまっていたのでフェッチからの説明は諦めることにした。曰く、帝国貴族の間で不審な婚約破棄が複数回起きているとのこと。婚約破棄をした側もされた側も、帝国貴族であるというだけでその他の共通点はなし。友人関係があった者もいたが、そもそも貴族家の数自体が王国よりも格段に多いので、まぁあるだろうなという程度。
とはいえ、それで帝国が混乱しているかといえばそうでもなく、それは徹頭徹尾ソロモンが采配しているからだそうだ。婚約破棄した側には適切な罰を、された側には適切な補償を。魔法狂いではあれど、いや、魔法に狂っているからこそそれ以外の些事は完璧に解決して魔法の研究に注ぐ時間を確保しているのがソロモンという男なのだ。
が、起きた事象については完璧な対応ができるのだが、それ以外は全て家臣に放り投げるという悪癖があるのも事実。その悪癖の一端が、ノーイに引っかかってきたという訳らしい。
「オレ、外国からこっちに来たばっかりなんだけど、それでもこの完全に帝国内のいざこざっつーか揉め事を解決できると思われてる?」
「だって、ワタシが話を聞こうにも、「ソロモン様の右腕」だから……」
「あー……」
その状況には、不本意ながら大変覚えがあった。何せノーイ、いや、ヴォジャノーイは魔王軍の第二位だった。一体一軍、魔王に次ぐ恐怖と畏怖の対象。自分が声をかけただけで死にそうな顔をするモンスターを多々見たことがある。つまりは、そういうことなのだろう。
「仕方ねぇな……」
ならば、逆にこれまで無関係だった客人の方が、客観的に物事を見れるし話を聞き出すこともできるだろう。とはいえ、やりたいかやりたくないかで言えば圧倒的にやりたくないが。ノーイはぶつくさと文句を垂れつつ、書類の内容を頭に叩き込むのであった。
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