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十四章 フェッチ
四
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さて、フェッチから帝国での婚約破棄騒動の解決を依頼されたノーイであったが、遅々として進んでいない。というのも、フェッチからもらった書状を手に聞き込みを繰り返せども、今回の騒動に直結するような証言が得られないからだ。
フェッチは不審な婚約破棄だと言っていたが、表向きには性格の不一致だの貴族的な力関係の変化からだの、当たり障りのない理由がつけられている。まぁ、皇帝の二十七子だったか、彼が婚約破棄した家については皇帝の暗殺未遂という罪が遡って科されたため例外となるが。
とはいえ、ほとんどが公的には問題のない婚約解消とされているのだ。そして、ノーイが聞き込みを行えどそれ以上の情報が出てこない。恐らく、というかほぼ確実に、情報が統制されている。これは情報を得るために、一人や二人、喰らってもいいのでは……? と一瞬だけ頭をよぎったが、想定される結果が嫌過ぎて実行には移せていなかった。
だが、一つだけ。侯爵家の侍女に聞き込みをした際に気になる証言があった。本命は侯爵家の令嬢本人だったのだが、彼女は婚約解消、否、婚約破棄されたことで心を痛めて臥せっていると言われて面会を拒否されたのだ。しかしはいそうですかと帰るのも癪だったため、適当に話しかけたのがその侍女だったのだが。
「あのお方は……お嬢様に婚約破棄を宣言された時、とても、怯えておられました」
侍女はそう言って、身を震わせた。あのお方というのはこの侯爵家の令嬢の婚約者だった男のことだろう。しかし、婚約破棄された側が怖がるならともかく、した側が怯えていたとはどういうことだろうか。
「ノーイ様、進捗どうです?」
「駄目です」
と、考えていたらひょこりと諸悪の根源、フェッチが現れた。ノーイの影からだ。こいつ本当にモンスターってこと隠す気あんのか? と半眼になったが、そもそも今は夜中、場所は人気も月明かりもない路地裏である。遠くから酒場の喧騒が聞こえてくるが、それだけだ。
「どうして?」
「あのなぁ……確かにこれは便利に使わせてもらってるけどよ、そもそも相手に話す気が全然なかったら意味ねぇんだよ」
ひらひらと振って見せたのはフェッチからもらった書状。そこにはノーイの名前と、皇帝ソロモンはこの男に今回の婚約解消騒動について調査するように命じているのでこの男の言葉に従うようにという文面が書かれている。ソロモンの筆跡を真似たそれは、清々しいまでの偽造書類であるが、用意したのは皇帝の右腕である。広義では正しい書類であった。
「困ります」
「奇遇だなオレも困ってんだよ……」
「元公爵令嬢との面会も取りつけてきたのに」
「ちょいちょい有能なの腹立つな……」
元公爵令嬢とは件の、第二十七子とやらに婚約破棄された令嬢のことだろう。ノーイは頭をぼりぼりと掻いて、それからやっぱり腹が立っていたのでフェッチに回し蹴りをしてみたが、ぬるりと影に沈まれて回避された。ので、影の中でぎゅっとしてやったらフェッチの悲鳴が上がった。
フェッチは不審な婚約破棄だと言っていたが、表向きには性格の不一致だの貴族的な力関係の変化からだの、当たり障りのない理由がつけられている。まぁ、皇帝の二十七子だったか、彼が婚約破棄した家については皇帝の暗殺未遂という罪が遡って科されたため例外となるが。
とはいえ、ほとんどが公的には問題のない婚約解消とされているのだ。そして、ノーイが聞き込みを行えどそれ以上の情報が出てこない。恐らく、というかほぼ確実に、情報が統制されている。これは情報を得るために、一人や二人、喰らってもいいのでは……? と一瞬だけ頭をよぎったが、想定される結果が嫌過ぎて実行には移せていなかった。
だが、一つだけ。侯爵家の侍女に聞き込みをした際に気になる証言があった。本命は侯爵家の令嬢本人だったのだが、彼女は婚約解消、否、婚約破棄されたことで心を痛めて臥せっていると言われて面会を拒否されたのだ。しかしはいそうですかと帰るのも癪だったため、適当に話しかけたのがその侍女だったのだが。
「あのお方は……お嬢様に婚約破棄を宣言された時、とても、怯えておられました」
侍女はそう言って、身を震わせた。あのお方というのはこの侯爵家の令嬢の婚約者だった男のことだろう。しかし、婚約破棄された側が怖がるならともかく、した側が怯えていたとはどういうことだろうか。
「ノーイ様、進捗どうです?」
「駄目です」
と、考えていたらひょこりと諸悪の根源、フェッチが現れた。ノーイの影からだ。こいつ本当にモンスターってこと隠す気あんのか? と半眼になったが、そもそも今は夜中、場所は人気も月明かりもない路地裏である。遠くから酒場の喧騒が聞こえてくるが、それだけだ。
「どうして?」
「あのなぁ……確かにこれは便利に使わせてもらってるけどよ、そもそも相手に話す気が全然なかったら意味ねぇんだよ」
ひらひらと振って見せたのはフェッチからもらった書状。そこにはノーイの名前と、皇帝ソロモンはこの男に今回の婚約解消騒動について調査するように命じているのでこの男の言葉に従うようにという文面が書かれている。ソロモンの筆跡を真似たそれは、清々しいまでの偽造書類であるが、用意したのは皇帝の右腕である。広義では正しい書類であった。
「困ります」
「奇遇だなオレも困ってんだよ……」
「元公爵令嬢との面会も取りつけてきたのに」
「ちょいちょい有能なの腹立つな……」
元公爵令嬢とは件の、第二十七子とやらに婚約破棄された令嬢のことだろう。ノーイは頭をぼりぼりと掻いて、それからやっぱり腹が立っていたのでフェッチに回し蹴りをしてみたが、ぬるりと影に沈まれて回避された。ので、影の中でぎゅっとしてやったらフェッチの悲鳴が上がった。
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