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第一章 脱出速度――Escape velocity
3日目
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「軌道歩兵隊に入隊して生きて帰れるとは思うな!」
軌道歩兵部隊の新兵の訓練基地で、教官のジム・キャロット軍曹が吠える。
200人の新兵はここで、地獄の11週間を過ごし、冷酷な殺人マシンに作り変えられる。
支給されたドッグタグは、生ぬるい基本的人権との決別の証だ。
彼らはこれから文字通り犬扱いされ、ブートキャンプを終える頃には、ひ弱だったリクルートも両親ですら目を疑うようなマルボロマンになるのだ。
「このオレ様が貴様らひょっとこの根性を叩き直してくれるわ~!」
キャロット軍曹は例年と同様、整列した新兵に凄んでみせたが、新兵の中に笑っているバカがいるのに気づいた。
「ぷぷぷ“ひょっとこ”やて。ひよっこやろ。あの筋肉、ぜったい頭悪いで、なあメガーネ・・・」
隣の気弱そうな新兵と肩を組みながら、金髪の若者が軍曹の言い間違いに爆笑していた。
――ライトだった。
「そこでしゃべっているの誰だ~~!!?」
軍曹が怒鳴る。
「メガーネ、人の話はちゃんと聞かんと・・・」
ライトはメガーネ二等兵に全てを託した。
キャロットは生意気な地球野郎の前に歩み寄ってきた。
「お前か、地球から来たっていう小僧は・・・」
「なんやねん・・・」
キャロットはまるでアンクルサムのように、ライトに指を突き立ててわめき散らした。
「おまえら地球人はなんの苦労もせず、住みよい星でムクムク暮らしやがって!
誰が太陽系を守ってやってると思ってんだ!」
――ぬくぬくやろ・・・
この人、言い間違いがひどい。
ライトはちょっと彼を心配になった。
「いいかオレは地球が大嫌いだ!お前もどうせ甘ちゃんなんだろ?え?」
そう言うと軍曹は、後ろの下士官たちの方を振り返り
「チオルコフスカヤ!」
と、ミグを呼んだ。
「は」
ハイネックのトレーニングウェアを着たミグが一歩歩み寄る。
「お前がコイツの世話係をやれ!ここのしきたりを一から教えてやるのだ!」
――えっ・・・
ミグはとても嫌な気持ちになった。コイツとはできるだけ関わりたくない・・・
「いやそれはちょっと・・・」
と、ミグが自信なさげに下を向くと、軍曹がミグに顔を近づけ「やれ!!」と一喝した。
階級が一つ下のミグは「アイアイサー!」と大きな声で答えるしかなかった。
その様子を見て当のライトはあくびをしていた。
もう飽きてしまったらしい。
確かに彼は軍曹の手にはあまりそうだ・・・
☆
男たちで賑わう兵舎の食堂で昼食をとりながら、ミグはライトに、キャロットの言う“ここのしきたり”を教えることにした。
「いいか、ここは階級が絶対の軍隊なんだ。キミみたいなタイプはいろいろと苦労することになるぞ・・・」
「ふ~ん・・・で例えばどーゆーこと?」
ライトは特製カレーをほおばりながら尋ねた。
完全にリラックスしている。
「それは・・・その・・・ええと・・・」
引っ込み思案で口数の少ないミグは、人にものを教えるのが得意なタイプではない。
だが上官のキャロットの命令となったら、従わないわけには行かない。
彼女の気は重かった。
キャロットは大声と暴力に屈服しなさそうな新兵をいつも他の下士官に押し付ける。
もちろん筋トレが生きがいのキャロット軍曹に格闘で勝てる新兵などほとんどいないが、万が一、新兵たちの前でキャロットが敗北したら、それこそ訓練教官として示しがつかなくなってしまう。
そうなったら彼はおしまいだ。
新兵はつけあがりどうにもならなくなる。
だからキャロットは慎重に慎重を重ねて、ライトのような人間からさりげなく距離を置く。
まあ、ひとことでいえば・・・面倒くさいのだ。
「なに~!?キサマピーマンが食えねえだと~!?」
二人のテーブルのそばでキャロットが再び怒鳴った。
「あいつは食事中もやかましいなあ」
と、カレーに福神漬けを追加しながらライト。
キャロットに目をつけられたのは、あのメガーネだった。
彼のような気弱な新兵がキャロットは大好きだ。
いくらいじめても、この手の臆病者は決して反逆しないからである。
ミグはこういうことが起こると、すぐに下を向いて見て見ぬふりをする。
あの新兵はかわいそうだが、この手の面倒事に巻き込まれるのはうんざりなのだ。
メガーネは震えながら
「好物だから後でまとめて食べようとしたんです」
と、苦しい言い訳をした。
「見えすいたウソをつくんじゃねえ!」
メガーネのテーブルを叩きつけ、キャロットは下士官にお仕置き用電気棒を持ってくるように命じた。
好き嫌いがある者は電気ショックを受ける――
それが“ここのしきたり”だった。
野菜に負ける者は病気に負ける。
病気に負ける者は戦争に負ける。
キャロットに言わせれば、そういうことらしい。
「わかったかライト、ここがどういう場所か・・・」
そう言ってミグが顔を上げて、向かいのライトの席を見ると、さっきまでそこに座っていたはずのライトの姿はなかった。
☆
電気棒を持ってメガーネに、にじりよるキャロットは、サディスティックな笑みを浮かべていた。
こういう弱い者をいたぶるのが大好きな人間はたまにいる。
そしてほとんどの人間はこういう人物から距離を置く。
だから彼の暴挙は誰にも止められない。
誰にも止められないままキャロットはいじめを繰り返す。
そしてそれは次第にエスカレートしていき、とうとう1ピーマンにつき0、1mAの電気ショックが与えられるようになった。
キャロットに目をつけられたものは運がなかったと諦めるしかない。
なぜなら――ここにはキャロットを止める者などひとりもいないからだ。
いや・・・いた。
「やめろや。ピーマンくらいええやんけ。あんたは電気工学を知らへんようやけど、人間はたった50mAの電流で死んじまうんや。だからそういういたずらはあまり感心せえへんな。」
「またてめえか!」
と、キャロット。
会話の相手はもちろん、あのいけすかない地球野郎だった。
「お前なあ・・・そんなことやって何が楽しいねん。ちゃんとみんなで仲良くせいや」
ミグはギョッとした。
――この男はすごい。
本物だ。
普通この状況でキャロットには近づいていかない。
ライトにとってみれば、兵舎の誰もが恐れるキャロットは、せいぜいガタイのいいガキ大将ってところなのだろう。
確かに軍曹の精神年齢は小学生がいいところだ。
「黙れ小僧、規則を守らぬものは罰を受ける!キサマの星のような自由平等だとかいう甘っちょろい考えなどここにはないのだ!肝に銘じておけい!」
キャロットは強引に自分の行為を正当化しようとした。
「ふ~ん・・・」
そう言うとライトは、キャロット軍曹のテーブルに乗った皿を手にとった。
「そう言ってるお前かてカレーのにんじん残してるやんけ・・・」
キャロットがにわかにうろたえた。
――キャロットがうろたえた・・・!?うそでしょ?
「これはええんか・・・?」
――今まで多くの人間が言いたくても言えなかったことを、彼はあっさり指摘した・・・!
ミグの心臓は、自分でもその高鳴りがはっきりとわかるほどに拍動していた。
「い、いや、その、これは、わたしの好物だから後でまとめて・・・」
――言い訳してる・・・!
その隙にさりげなくキャロットから電気棒を奪い取ると、ライトは「規則を守らぬものは罰やなあ」と、電気棒でキャロットの尻をつついた。
「ちんぎゃああああああああ」
その瞬間キャロットが飛び上がった。この電気ショックは0.3mAのそれじゃない・・・!
電撃を受けてのけぞるキャロットを見て、ライトは爆笑していた。
この兵舎で最もラディカルなサディストは、キャロット軍曹ではなかった。
あいつだった。
☆
――さすがにこれはやりすぎだ!まずい・・・!
ミグは反射的に席を立った。
「何事だ!」
ホイッスルを吹きながら、他の下士官たちが騒動の現場に近づいてきた。
キャロットは怒鳴った。
「あ・・・あの野郎を捕まえろ~!」
下士官に命令するキャロットのポンパドールの金髪は、いつの間にかダークブラウンのアフロヘアになっていた。
ライトは、下士官に追いかけられながらも
「野菜残したら電気ショックの罰ゲームちゃうんか~!話が違うやんけ~!」
と、喚いている。
――えらいことになった・・・
足の速いライトはそのまま食堂の奥のキッチンに入り、カレーがたっぷり入った寸胴鍋におたまを突っ込み、なんと追いかけてくる下士官に熱々のカレーをかけだした。
「あちち!」
「や・・・やめなさい!」
ミグは我が目を疑った。
いつもの食堂が阿鼻叫喚のカオスとなっている。
満面の笑みでカレーをかけ続けるライト。
――めちゃくちゃだ・・・!
気づいたときにはミグはカレーの寸胴を両手に持ち、その寸胴でライトの頭を思い切り殴りつけていた。
強烈な一発をくらってライトはのびた。
ミグの素早い対処に下士官たちの動きは一瞬止まった。
カレーがぶちまけられた戦場に、アフロのキャロットがやってきて、ミグに怒鳴った。
「チオルコフスカヤてめえ・・・」
彼女がすべきことは決まっていた。
「こっ、この男は、本日が入隊初日な上に、とんでもない馬鹿でして・・・
それに軍曹殿もご存知でしょうが、彼は地球人です。
地球人は冥王星人に比べて情緒的に未熟であります・・・!
我々のような優秀な民族が、劣等な地球人の言動にムキになることはありません。
彼らは動物と同じなのです・・・動物を裁く法律など我が星にありますでしょうか?
この責任は私が取ります・・・ですから、どうか・・・どうかお許しを・・・!」
ミグは自分でもびっくりするくらい、次から次へと言葉を繰り出した。
キャロットの差別感情を逆手にとる点など、まるでやり手の弁護士のようだった。
「ほう・・・じゃあ“飼い主”のお前が、代わりにぶん殴られるってか・・・」
ミグは覚悟した。
男に殴られるのは実は割と慣れている。
10分ほど心を殺せばなんてことはない――
キャロットが腕を振り上げた。
「かくかくご~!」
その時、とっさに別の下士官がキャロットを止めた。
ミグと同期のヴォルコフ伍長だった。
「軍曹殿・・・!」
「なんだ!?}
怒りのおさまらないキャロットに伍長は何かを耳打ちした。
キャロットは部下の忠告に従って、あっさり制裁を取りやめた。
どうやら内心誰かが止めてくれるのを待っていたらしい。
いくらキャロットでも女性を殴るのは気が引けたようだ。
だがライトの行動にあまりに腹が立って、引くに引けなくなり腕を振り上げてしまったのだ。
「・・・その動物をよくしつけておけよ!」
そう言うと、キャロットは下士官たちを引き連れ立ち去っていった。
――助かった・・・
彼女の氷の心臓はまだ早鐘を打っていた。
こんな感覚は幼い頃以来だった。
そして、息を整えながら、のびているライトに目をやった。
ミグはため息をついた。
――まるで子どもだ・・・
☆
冥王星は夕暮れを迎えていた。
昼の部の訓練が終わりライトは、教育係のミグとぶらぶら基地の敷地を散歩していた。
遠くの滑走路では、演習用のスペースプレーンが離陸を始めている。
「お前は本当にバカだな」
ミグはライトに静かに言った。
「え?」
「上官に逆らうなんてどうかしてるぞ・・・」
「あれはどう考えてもあのおっさんのが悪いやろ~
たかがピーマン残したくらいで電気ショックって・・・」
「わかってないようだな。軍隊では階級が全てだ。
上官の命令は絶対なんだぞ・・・?」
「どんな不条理なことでもか?」
「そうだ、それが組織というもの・・・」
ミグは自分に言い聞かせるように言った。
不条理かどうか、道徳的に正しいか間違っているかを、兵士は判断する必要はないし、その権利もない。我々は常に上官の命令に服従していればいいのだ。
「ぶっちゃけ、お前らあいつが怖いから言いなりになってるんちゃうんか」
「えっ?」
スペースプレーンが二人の頭上を勢いよく通り過ぎていく。
ミグは言葉に詰まった。
そんなこと今まで考えたこともなかったが、確かにライトの言うとおりだった。
――私は任務の最中、ハーシェルの命令に、ろくに従っていない。
だが、それは隊長の指揮能力に問題があるからであって・・・いや・・・それはいいわけだ。
詭弁だ。
ハーシェルとキャロットの何が違うのか・・・軍のルールに従えば何も違わないはずだ。
私は情けないことに、人を見て態度を変えていた。
それは結局、面倒なことから目を背けていただけなのだ。
ライトの言葉は、ミグの心を大きく動揺させたが、当の本人はそんなこと全く気付かず
「あ~あ、もう飽きたわこんな星」とのびをして、
「オレお前んち帰るから、残りの訓練の出席適当にごまかしといて」
と、勝手に基地から出て行ってしまった。
我に返ったミグは、無断早退者を慌てて追いかけた。
☆
仕事帰りのホワイトカラーで賑わう『ふぉんぶらうん』は、冥王星でも人気の和風バーだ。
まあ、居酒屋とも言う。
ミグは珍しく同僚の天体物理学者のデニスと外飲みをしていた。
「――ったくあいつはバカでバカで・・・」
ミグはデニスにライトの愚痴を吐いていた。
デニスは困った顔で微笑みながら、彼女の話を黙って聞いている。
デニスはカウンセラーなどではない。
だから愚痴の内容などは半分は聞き流している。
そうではなく、愚痴を言うミグそのものが、彼女にとっては面白いのだ。
ミグがみずから自分を店に誘うのは初めてだし、彼女から愚痴など一言も聞いたことがなかった。
――ミグにもこんな感情があるんだ。
デニスの心は、そんな好奇心で満たされていた。
「で、今、彼はどうしているの?」
と、デニスはアボガドを箸でつまみながら尋ねた。
「ああ・・・私の屋敷でライトなんたら号を修理しているよ。
正直あれを直してとっとと地球へ帰って欲しい・・・」
上からの命令で、ライトは、教育係のミグの屋敷に居候をすることが決まった。
もちろんミグは女性で独身であったが、軍の上層部はそんなことはまったく考慮しない。
あの男の宇宙船が落ちたのはお前の屋敷だ。ならお前が面倒を見ろ。以上。そんな調子だ。
「もし私に恋人がいたらどうするつもりだったんだ・・・」
シュバルツシルトの黒を飲みながらミグ。
その言葉を聞いて、既婚の科学者は
「恋人いるの?」
と、目を爛々と輝かせた。
「いや、いないけど・・・」
10年前に貿易商の恋人に逃げられてから、ミグの恋愛遍歴は更新されていない。
男は自分よりも全てにおいて劣る女が好きだ。
収入も、能力も、身長も・・・
だから、こんなデカくて筋肉質な軍人女を好きになってくれる男なんかいないのだ。
一方のデニスは美形のデザイナーとあっさりゴールイン。今では可愛い双子の子がいる。
「ああ、ビールが減ってるわね、ごめんごめん・・・!」
ミグの表情に気づき、デニスが慌てて彼女のグラスに黒ビールを注いだ。
デニスは、人前で人間的な弱さを見せるミグが見られて、とっても嬉しいようだった。
☆
「あなた変わったわ・・・」
と、デニスはしみじみ言った。
「そうか?」
「ライトくんが来る前までは機械のように無表情だったのに、人間の感情が芽生えたというか・・・」
「人をアンドロイドのように言わないように・・・」
「彼はきっと、とっても人間的な人なのね。」
デニスは突拍子もないことを言った。
――ライトが人間的?? デニス、メガネを拭いたほうがいいぞ。
「・・・秩序は乱すし、どっちかというと人でなしだよ。」
ミグは首を振った。
「そうかしら。私は好きだなあ。あの子。
正直言うとね、うちの旦那に似てるんだ。
普段はノーテンキだけど、ひとつのことに夢中で取り組めて、なんだかんだで必ず私の味方でいてくれる・・・助けてくれる。」
――あなたの旦那自慢されてもなあ・・・
それに、そもそもライトが私の味方になったことなんてないぞ。
さてはデニス・・・たった中ジョッキ2杯で酔っ払ってるな。
「独身の私には理解できん世界だよ」
ミグはグラスを傾けた。
「ねえ、あなたは結婚しないの?」
「私にそんな女性的魅力があると思う?」
「あ、あると思うけど・・・」
――なんで自信なさげに言うんだよ。
「それに・・・今日一緒に呑んで思ったけれど、あなたってとっても面白い人よ?
だからもっと喋ったほうがいいと思うわ。」
「“面白い”ね・・・」
「自信持ちなさいよミグ。
あなたは美人だし、私が男性だったら、きっとあなたみたいな女性と結婚したと思うな。」
「私はごめんだ・・・君を選ぶよ。」
デニスは笑った。
「ミグ・・・忘れてるみたいだけど、最初は誰だってひとりで生まれてくるのよ?」
そう言うと、デニスは腕時計を見てバッグを手に取った。
「あ、いけない、そろそろ帰らないと。
マイケルはうちのチビちゃんたちを寝かしつけるのがうまくないの。アダムのお気に入りが魔法少女ラディカルくれはちゃん、イヴがエネルギアロケットなのに、いつも間違えるのよ。」
「あ、長々とごめんね・・・」
ミグは慌てて立ち上がり、伝票を取った。
「いいの、気にしないで。今夜はすっごい楽しかったわ。また誘ってちょうだい。
ライトくんの近況報告もよろしく。じゃ、おやすみなさい。」
「ああ・・・」
デニスを店の外まで送ると、ミグの心はゆっくりと冷えていった。
孤独を愛する家酒主義者のミグだったが、デニスとのひと時は新鮮で楽しかった。
正直なところ、もっと彼女と喋りたかったが、アダム君とイヴちゃんのママを独り占めするわけにはいかない・・・
――彼女には家に帰りを待ってくれる家族がいるんだな・・・と、小さくなっていくデニスの後ろ姿を眺めながらミグは思った。
そして気づいた。
――そういえば私の家にも家族が増えたんだっけ。
ミグはため息をついた。
やっぱ一人がいいや・・・
軌道歩兵部隊の新兵の訓練基地で、教官のジム・キャロット軍曹が吠える。
200人の新兵はここで、地獄の11週間を過ごし、冷酷な殺人マシンに作り変えられる。
支給されたドッグタグは、生ぬるい基本的人権との決別の証だ。
彼らはこれから文字通り犬扱いされ、ブートキャンプを終える頃には、ひ弱だったリクルートも両親ですら目を疑うようなマルボロマンになるのだ。
「このオレ様が貴様らひょっとこの根性を叩き直してくれるわ~!」
キャロット軍曹は例年と同様、整列した新兵に凄んでみせたが、新兵の中に笑っているバカがいるのに気づいた。
「ぷぷぷ“ひょっとこ”やて。ひよっこやろ。あの筋肉、ぜったい頭悪いで、なあメガーネ・・・」
隣の気弱そうな新兵と肩を組みながら、金髪の若者が軍曹の言い間違いに爆笑していた。
――ライトだった。
「そこでしゃべっているの誰だ~~!!?」
軍曹が怒鳴る。
「メガーネ、人の話はちゃんと聞かんと・・・」
ライトはメガーネ二等兵に全てを託した。
キャロットは生意気な地球野郎の前に歩み寄ってきた。
「お前か、地球から来たっていう小僧は・・・」
「なんやねん・・・」
キャロットはまるでアンクルサムのように、ライトに指を突き立ててわめき散らした。
「おまえら地球人はなんの苦労もせず、住みよい星でムクムク暮らしやがって!
誰が太陽系を守ってやってると思ってんだ!」
――ぬくぬくやろ・・・
この人、言い間違いがひどい。
ライトはちょっと彼を心配になった。
「いいかオレは地球が大嫌いだ!お前もどうせ甘ちゃんなんだろ?え?」
そう言うと軍曹は、後ろの下士官たちの方を振り返り
「チオルコフスカヤ!」
と、ミグを呼んだ。
「は」
ハイネックのトレーニングウェアを着たミグが一歩歩み寄る。
「お前がコイツの世話係をやれ!ここのしきたりを一から教えてやるのだ!」
――えっ・・・
ミグはとても嫌な気持ちになった。コイツとはできるだけ関わりたくない・・・
「いやそれはちょっと・・・」
と、ミグが自信なさげに下を向くと、軍曹がミグに顔を近づけ「やれ!!」と一喝した。
階級が一つ下のミグは「アイアイサー!」と大きな声で答えるしかなかった。
その様子を見て当のライトはあくびをしていた。
もう飽きてしまったらしい。
確かに彼は軍曹の手にはあまりそうだ・・・
☆
男たちで賑わう兵舎の食堂で昼食をとりながら、ミグはライトに、キャロットの言う“ここのしきたり”を教えることにした。
「いいか、ここは階級が絶対の軍隊なんだ。キミみたいなタイプはいろいろと苦労することになるぞ・・・」
「ふ~ん・・・で例えばどーゆーこと?」
ライトは特製カレーをほおばりながら尋ねた。
完全にリラックスしている。
「それは・・・その・・・ええと・・・」
引っ込み思案で口数の少ないミグは、人にものを教えるのが得意なタイプではない。
だが上官のキャロットの命令となったら、従わないわけには行かない。
彼女の気は重かった。
キャロットは大声と暴力に屈服しなさそうな新兵をいつも他の下士官に押し付ける。
もちろん筋トレが生きがいのキャロット軍曹に格闘で勝てる新兵などほとんどいないが、万が一、新兵たちの前でキャロットが敗北したら、それこそ訓練教官として示しがつかなくなってしまう。
そうなったら彼はおしまいだ。
新兵はつけあがりどうにもならなくなる。
だからキャロットは慎重に慎重を重ねて、ライトのような人間からさりげなく距離を置く。
まあ、ひとことでいえば・・・面倒くさいのだ。
「なに~!?キサマピーマンが食えねえだと~!?」
二人のテーブルのそばでキャロットが再び怒鳴った。
「あいつは食事中もやかましいなあ」
と、カレーに福神漬けを追加しながらライト。
キャロットに目をつけられたのは、あのメガーネだった。
彼のような気弱な新兵がキャロットは大好きだ。
いくらいじめても、この手の臆病者は決して反逆しないからである。
ミグはこういうことが起こると、すぐに下を向いて見て見ぬふりをする。
あの新兵はかわいそうだが、この手の面倒事に巻き込まれるのはうんざりなのだ。
メガーネは震えながら
「好物だから後でまとめて食べようとしたんです」
と、苦しい言い訳をした。
「見えすいたウソをつくんじゃねえ!」
メガーネのテーブルを叩きつけ、キャロットは下士官にお仕置き用電気棒を持ってくるように命じた。
好き嫌いがある者は電気ショックを受ける――
それが“ここのしきたり”だった。
野菜に負ける者は病気に負ける。
病気に負ける者は戦争に負ける。
キャロットに言わせれば、そういうことらしい。
「わかったかライト、ここがどういう場所か・・・」
そう言ってミグが顔を上げて、向かいのライトの席を見ると、さっきまでそこに座っていたはずのライトの姿はなかった。
☆
電気棒を持ってメガーネに、にじりよるキャロットは、サディスティックな笑みを浮かべていた。
こういう弱い者をいたぶるのが大好きな人間はたまにいる。
そしてほとんどの人間はこういう人物から距離を置く。
だから彼の暴挙は誰にも止められない。
誰にも止められないままキャロットはいじめを繰り返す。
そしてそれは次第にエスカレートしていき、とうとう1ピーマンにつき0、1mAの電気ショックが与えられるようになった。
キャロットに目をつけられたものは運がなかったと諦めるしかない。
なぜなら――ここにはキャロットを止める者などひとりもいないからだ。
いや・・・いた。
「やめろや。ピーマンくらいええやんけ。あんたは電気工学を知らへんようやけど、人間はたった50mAの電流で死んじまうんや。だからそういういたずらはあまり感心せえへんな。」
「またてめえか!」
と、キャロット。
会話の相手はもちろん、あのいけすかない地球野郎だった。
「お前なあ・・・そんなことやって何が楽しいねん。ちゃんとみんなで仲良くせいや」
ミグはギョッとした。
――この男はすごい。
本物だ。
普通この状況でキャロットには近づいていかない。
ライトにとってみれば、兵舎の誰もが恐れるキャロットは、せいぜいガタイのいいガキ大将ってところなのだろう。
確かに軍曹の精神年齢は小学生がいいところだ。
「黙れ小僧、規則を守らぬものは罰を受ける!キサマの星のような自由平等だとかいう甘っちょろい考えなどここにはないのだ!肝に銘じておけい!」
キャロットは強引に自分の行為を正当化しようとした。
「ふ~ん・・・」
そう言うとライトは、キャロット軍曹のテーブルに乗った皿を手にとった。
「そう言ってるお前かてカレーのにんじん残してるやんけ・・・」
キャロットがにわかにうろたえた。
――キャロットがうろたえた・・・!?うそでしょ?
「これはええんか・・・?」
――今まで多くの人間が言いたくても言えなかったことを、彼はあっさり指摘した・・・!
ミグの心臓は、自分でもその高鳴りがはっきりとわかるほどに拍動していた。
「い、いや、その、これは、わたしの好物だから後でまとめて・・・」
――言い訳してる・・・!
その隙にさりげなくキャロットから電気棒を奪い取ると、ライトは「規則を守らぬものは罰やなあ」と、電気棒でキャロットの尻をつついた。
「ちんぎゃああああああああ」
その瞬間キャロットが飛び上がった。この電気ショックは0.3mAのそれじゃない・・・!
電撃を受けてのけぞるキャロットを見て、ライトは爆笑していた。
この兵舎で最もラディカルなサディストは、キャロット軍曹ではなかった。
あいつだった。
☆
――さすがにこれはやりすぎだ!まずい・・・!
ミグは反射的に席を立った。
「何事だ!」
ホイッスルを吹きながら、他の下士官たちが騒動の現場に近づいてきた。
キャロットは怒鳴った。
「あ・・・あの野郎を捕まえろ~!」
下士官に命令するキャロットのポンパドールの金髪は、いつの間にかダークブラウンのアフロヘアになっていた。
ライトは、下士官に追いかけられながらも
「野菜残したら電気ショックの罰ゲームちゃうんか~!話が違うやんけ~!」
と、喚いている。
――えらいことになった・・・
足の速いライトはそのまま食堂の奥のキッチンに入り、カレーがたっぷり入った寸胴鍋におたまを突っ込み、なんと追いかけてくる下士官に熱々のカレーをかけだした。
「あちち!」
「や・・・やめなさい!」
ミグは我が目を疑った。
いつもの食堂が阿鼻叫喚のカオスとなっている。
満面の笑みでカレーをかけ続けるライト。
――めちゃくちゃだ・・・!
気づいたときにはミグはカレーの寸胴を両手に持ち、その寸胴でライトの頭を思い切り殴りつけていた。
強烈な一発をくらってライトはのびた。
ミグの素早い対処に下士官たちの動きは一瞬止まった。
カレーがぶちまけられた戦場に、アフロのキャロットがやってきて、ミグに怒鳴った。
「チオルコフスカヤてめえ・・・」
彼女がすべきことは決まっていた。
「こっ、この男は、本日が入隊初日な上に、とんでもない馬鹿でして・・・
それに軍曹殿もご存知でしょうが、彼は地球人です。
地球人は冥王星人に比べて情緒的に未熟であります・・・!
我々のような優秀な民族が、劣等な地球人の言動にムキになることはありません。
彼らは動物と同じなのです・・・動物を裁く法律など我が星にありますでしょうか?
この責任は私が取ります・・・ですから、どうか・・・どうかお許しを・・・!」
ミグは自分でもびっくりするくらい、次から次へと言葉を繰り出した。
キャロットの差別感情を逆手にとる点など、まるでやり手の弁護士のようだった。
「ほう・・・じゃあ“飼い主”のお前が、代わりにぶん殴られるってか・・・」
ミグは覚悟した。
男に殴られるのは実は割と慣れている。
10分ほど心を殺せばなんてことはない――
キャロットが腕を振り上げた。
「かくかくご~!」
その時、とっさに別の下士官がキャロットを止めた。
ミグと同期のヴォルコフ伍長だった。
「軍曹殿・・・!」
「なんだ!?}
怒りのおさまらないキャロットに伍長は何かを耳打ちした。
キャロットは部下の忠告に従って、あっさり制裁を取りやめた。
どうやら内心誰かが止めてくれるのを待っていたらしい。
いくらキャロットでも女性を殴るのは気が引けたようだ。
だがライトの行動にあまりに腹が立って、引くに引けなくなり腕を振り上げてしまったのだ。
「・・・その動物をよくしつけておけよ!」
そう言うと、キャロットは下士官たちを引き連れ立ち去っていった。
――助かった・・・
彼女の氷の心臓はまだ早鐘を打っていた。
こんな感覚は幼い頃以来だった。
そして、息を整えながら、のびているライトに目をやった。
ミグはため息をついた。
――まるで子どもだ・・・
☆
冥王星は夕暮れを迎えていた。
昼の部の訓練が終わりライトは、教育係のミグとぶらぶら基地の敷地を散歩していた。
遠くの滑走路では、演習用のスペースプレーンが離陸を始めている。
「お前は本当にバカだな」
ミグはライトに静かに言った。
「え?」
「上官に逆らうなんてどうかしてるぞ・・・」
「あれはどう考えてもあのおっさんのが悪いやろ~
たかがピーマン残したくらいで電気ショックって・・・」
「わかってないようだな。軍隊では階級が全てだ。
上官の命令は絶対なんだぞ・・・?」
「どんな不条理なことでもか?」
「そうだ、それが組織というもの・・・」
ミグは自分に言い聞かせるように言った。
不条理かどうか、道徳的に正しいか間違っているかを、兵士は判断する必要はないし、その権利もない。我々は常に上官の命令に服従していればいいのだ。
「ぶっちゃけ、お前らあいつが怖いから言いなりになってるんちゃうんか」
「えっ?」
スペースプレーンが二人の頭上を勢いよく通り過ぎていく。
ミグは言葉に詰まった。
そんなこと今まで考えたこともなかったが、確かにライトの言うとおりだった。
――私は任務の最中、ハーシェルの命令に、ろくに従っていない。
だが、それは隊長の指揮能力に問題があるからであって・・・いや・・・それはいいわけだ。
詭弁だ。
ハーシェルとキャロットの何が違うのか・・・軍のルールに従えば何も違わないはずだ。
私は情けないことに、人を見て態度を変えていた。
それは結局、面倒なことから目を背けていただけなのだ。
ライトの言葉は、ミグの心を大きく動揺させたが、当の本人はそんなこと全く気付かず
「あ~あ、もう飽きたわこんな星」とのびをして、
「オレお前んち帰るから、残りの訓練の出席適当にごまかしといて」
と、勝手に基地から出て行ってしまった。
我に返ったミグは、無断早退者を慌てて追いかけた。
☆
仕事帰りのホワイトカラーで賑わう『ふぉんぶらうん』は、冥王星でも人気の和風バーだ。
まあ、居酒屋とも言う。
ミグは珍しく同僚の天体物理学者のデニスと外飲みをしていた。
「――ったくあいつはバカでバカで・・・」
ミグはデニスにライトの愚痴を吐いていた。
デニスは困った顔で微笑みながら、彼女の話を黙って聞いている。
デニスはカウンセラーなどではない。
だから愚痴の内容などは半分は聞き流している。
そうではなく、愚痴を言うミグそのものが、彼女にとっては面白いのだ。
ミグがみずから自分を店に誘うのは初めてだし、彼女から愚痴など一言も聞いたことがなかった。
――ミグにもこんな感情があるんだ。
デニスの心は、そんな好奇心で満たされていた。
「で、今、彼はどうしているの?」
と、デニスはアボガドを箸でつまみながら尋ねた。
「ああ・・・私の屋敷でライトなんたら号を修理しているよ。
正直あれを直してとっとと地球へ帰って欲しい・・・」
上からの命令で、ライトは、教育係のミグの屋敷に居候をすることが決まった。
もちろんミグは女性で独身であったが、軍の上層部はそんなことはまったく考慮しない。
あの男の宇宙船が落ちたのはお前の屋敷だ。ならお前が面倒を見ろ。以上。そんな調子だ。
「もし私に恋人がいたらどうするつもりだったんだ・・・」
シュバルツシルトの黒を飲みながらミグ。
その言葉を聞いて、既婚の科学者は
「恋人いるの?」
と、目を爛々と輝かせた。
「いや、いないけど・・・」
10年前に貿易商の恋人に逃げられてから、ミグの恋愛遍歴は更新されていない。
男は自分よりも全てにおいて劣る女が好きだ。
収入も、能力も、身長も・・・
だから、こんなデカくて筋肉質な軍人女を好きになってくれる男なんかいないのだ。
一方のデニスは美形のデザイナーとあっさりゴールイン。今では可愛い双子の子がいる。
「ああ、ビールが減ってるわね、ごめんごめん・・・!」
ミグの表情に気づき、デニスが慌てて彼女のグラスに黒ビールを注いだ。
デニスは、人前で人間的な弱さを見せるミグが見られて、とっても嬉しいようだった。
☆
「あなた変わったわ・・・」
と、デニスはしみじみ言った。
「そうか?」
「ライトくんが来る前までは機械のように無表情だったのに、人間の感情が芽生えたというか・・・」
「人をアンドロイドのように言わないように・・・」
「彼はきっと、とっても人間的な人なのね。」
デニスは突拍子もないことを言った。
――ライトが人間的?? デニス、メガネを拭いたほうがいいぞ。
「・・・秩序は乱すし、どっちかというと人でなしだよ。」
ミグは首を振った。
「そうかしら。私は好きだなあ。あの子。
正直言うとね、うちの旦那に似てるんだ。
普段はノーテンキだけど、ひとつのことに夢中で取り組めて、なんだかんだで必ず私の味方でいてくれる・・・助けてくれる。」
――あなたの旦那自慢されてもなあ・・・
それに、そもそもライトが私の味方になったことなんてないぞ。
さてはデニス・・・たった中ジョッキ2杯で酔っ払ってるな。
「独身の私には理解できん世界だよ」
ミグはグラスを傾けた。
「ねえ、あなたは結婚しないの?」
「私にそんな女性的魅力があると思う?」
「あ、あると思うけど・・・」
――なんで自信なさげに言うんだよ。
「それに・・・今日一緒に呑んで思ったけれど、あなたってとっても面白い人よ?
だからもっと喋ったほうがいいと思うわ。」
「“面白い”ね・・・」
「自信持ちなさいよミグ。
あなたは美人だし、私が男性だったら、きっとあなたみたいな女性と結婚したと思うな。」
「私はごめんだ・・・君を選ぶよ。」
デニスは笑った。
「ミグ・・・忘れてるみたいだけど、最初は誰だってひとりで生まれてくるのよ?」
そう言うと、デニスは腕時計を見てバッグを手に取った。
「あ、いけない、そろそろ帰らないと。
マイケルはうちのチビちゃんたちを寝かしつけるのがうまくないの。アダムのお気に入りが魔法少女ラディカルくれはちゃん、イヴがエネルギアロケットなのに、いつも間違えるのよ。」
「あ、長々とごめんね・・・」
ミグは慌てて立ち上がり、伝票を取った。
「いいの、気にしないで。今夜はすっごい楽しかったわ。また誘ってちょうだい。
ライトくんの近況報告もよろしく。じゃ、おやすみなさい。」
「ああ・・・」
デニスを店の外まで送ると、ミグの心はゆっくりと冷えていった。
孤独を愛する家酒主義者のミグだったが、デニスとのひと時は新鮮で楽しかった。
正直なところ、もっと彼女と喋りたかったが、アダム君とイヴちゃんのママを独り占めするわけにはいかない・・・
――彼女には家に帰りを待ってくれる家族がいるんだな・・・と、小さくなっていくデニスの後ろ姿を眺めながらミグは思った。
そして気づいた。
――そういえば私の家にも家族が増えたんだっけ。
ミグはため息をついた。
やっぱ一人がいいや・・・
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