6 / 81
第一章 脱出速度――Escape velocity
5日目
しおりを挟む
翌日の朝、ミグとライトは屋敷のそばの小高い丘に立っていた。
二人のそばには、徹夜の作業で修理されたライトフライヤー号があり、こうやって近くに立つとかなり大きいことがわかった。
何日にも及ぶ冒険をするライトフライヤー号には、コンパクトな居住スペースもあり、キャンピングカーのようにキッチンやトイレ、シャワーもついていた。
「さあ、いよいよ出発や」
ライトは愛機のタラップを降ろしながら言った。
「そ、そうだね・・・」
小さなバックを両手に下げてミグが気まずそうに、ライトを見つめる。
貨物用ハッチを開けて、ライトがミグの荷物を受け取ろうとすると、彼は首をかしげた。
「あら?あんた旅が初めてって言う割には荷物が少ないな。」
「え?」
ミグがドキっとする。
「普通旅慣れてないヤツって何持ってっていいかわからんから、荷物がかさばるもんなんやけど・・・まあ船の質量は少ないに越したことないから、ありがたいわ」
「あはは・・・た、旅の荷物なんて下着と石鹸だけでいいだろ?」
首に巻いたマフラーを指先でいじりながらミグは、彼から目をそらした。
「お前・・・」
ライトは怪訝な顔をした。
――まずい。なにか疑ってる・・・
「その歳で、すでに銭湯のおっさんの域に達するとは・・・」
「よ、余計なお世話だ、バカ・・・」
――あ、でも疑ってないみたいだ・・・
「さあ、狭い船やけど乗ってくれ。ここはあんたの家や」
ミグを機内に乗せると、ライトはハッチを閉めて、はしごを素早く上がり、居住フロアの上のコックピットに滑り込んだ。
ミグもライトに続いて、コックピットに向かったが、長身の彼女にはこの宇宙船は若干狭く、いろんな場所に頭をぶつけ、ものを落とした。
なんとかミグがコックピットの助手席に座ると、ライトは「どっちをどっちに刺すの?」と言う彼女にシートベルトを締めてやり、頭にかけたフライトゴーグルを下ろした。
「よっしゃあ!じゃあ冥王星に未練はないな!」
レバーを引っ張りエンジンを起動させる。
エンジンブロックからの小さな破裂音を合図に、煙を吹きながらプロペラが回転をはじめた。
徐々にプロペラの回転数が上がり、機体がゆっくりと動き出す。
ライトが叫んだ。
「離陸や~!」
そして――機体からプロペラが外れ、2枚のブレードは二人を乗せた機体を残して、竹とんぼのように空へ舞い上がっていった。
持ち上がりかけた機首は角度を落とし、ホイールは地面から一度も離れることなく、そのまま大地を掴み続けている。
――間。
「・・・すまん・・・地球行きはもう少し待ってくれるか?」
ライトは、前を見すえたままつぶやいた。
「構わないよ」
と、ミグは言った。
☆
同じ日に、ライトフライヤー号は計22回飛行を試みた。
しかし離陸直前になると、決まってプロペラが外れるアクシデントに見舞われたのである。
ライトは「おっかしいなあ・・・」とスパナで頭をかいた。
22回目のプロペラが地面に落下するのを双眼鏡で確認したライトは、飛距離を計測し「おっ新記録や」とのん気に笑った。
飛行実験はいつの間にかプロペラ飛ばしの大会になっていた。
陽は傾き、西の空からは二重惑星のカロンが、ほんのりと明るい灰色の光を放っている。
ミグは丘の上で両腕で膝を抱えながら腰を下ろし、
「趣旨が変わってないか・・・?」
と、声をかけた。
「まあドンマイや。しかしなんでプロペラが外れちまうんやろ・・・」
「そうだね・・・」
その原因は、となりで整備を手伝う相棒が、ライトの目を盗んで、点検終了間際にプロペラシャフト近くのネジを外しているからだった。
この簡単で、かつ安全に離陸をキャンセルできる裏工作は、昨日ピカール卿から伝授されたものである。
ライトはメカには強いが、人間の行動にはてんで無頓着で、まったくミグを疑わなかった。
ミグはホッとすると同時に、なんて鈍感な奴なんだ、と呆れた。
「きょ、今日はもう暗くなってきたし、続きは明日にしないか?私夕食作るから・・・」
ミグは立ち上がった。
「う~ん・・・」納得がいかないライト。
「風邪ひくぞ。さあ、ほら屋敷に帰ろう」
「せやな。腹減ったし。」
ミグはホッと息を吐いた。
――なんとか今日はうまくいった。
だが、さすがに何度もプロペラがはずれては、いくら鈍い彼でも、いずれ自分の細工に疑念を持つだろう。
明日は別の場所のネジを外してみるか。
二人のそばには、徹夜の作業で修理されたライトフライヤー号があり、こうやって近くに立つとかなり大きいことがわかった。
何日にも及ぶ冒険をするライトフライヤー号には、コンパクトな居住スペースもあり、キャンピングカーのようにキッチンやトイレ、シャワーもついていた。
「さあ、いよいよ出発や」
ライトは愛機のタラップを降ろしながら言った。
「そ、そうだね・・・」
小さなバックを両手に下げてミグが気まずそうに、ライトを見つめる。
貨物用ハッチを開けて、ライトがミグの荷物を受け取ろうとすると、彼は首をかしげた。
「あら?あんた旅が初めてって言う割には荷物が少ないな。」
「え?」
ミグがドキっとする。
「普通旅慣れてないヤツって何持ってっていいかわからんから、荷物がかさばるもんなんやけど・・・まあ船の質量は少ないに越したことないから、ありがたいわ」
「あはは・・・た、旅の荷物なんて下着と石鹸だけでいいだろ?」
首に巻いたマフラーを指先でいじりながらミグは、彼から目をそらした。
「お前・・・」
ライトは怪訝な顔をした。
――まずい。なにか疑ってる・・・
「その歳で、すでに銭湯のおっさんの域に達するとは・・・」
「よ、余計なお世話だ、バカ・・・」
――あ、でも疑ってないみたいだ・・・
「さあ、狭い船やけど乗ってくれ。ここはあんたの家や」
ミグを機内に乗せると、ライトはハッチを閉めて、はしごを素早く上がり、居住フロアの上のコックピットに滑り込んだ。
ミグもライトに続いて、コックピットに向かったが、長身の彼女にはこの宇宙船は若干狭く、いろんな場所に頭をぶつけ、ものを落とした。
なんとかミグがコックピットの助手席に座ると、ライトは「どっちをどっちに刺すの?」と言う彼女にシートベルトを締めてやり、頭にかけたフライトゴーグルを下ろした。
「よっしゃあ!じゃあ冥王星に未練はないな!」
レバーを引っ張りエンジンを起動させる。
エンジンブロックからの小さな破裂音を合図に、煙を吹きながらプロペラが回転をはじめた。
徐々にプロペラの回転数が上がり、機体がゆっくりと動き出す。
ライトが叫んだ。
「離陸や~!」
そして――機体からプロペラが外れ、2枚のブレードは二人を乗せた機体を残して、竹とんぼのように空へ舞い上がっていった。
持ち上がりかけた機首は角度を落とし、ホイールは地面から一度も離れることなく、そのまま大地を掴み続けている。
――間。
「・・・すまん・・・地球行きはもう少し待ってくれるか?」
ライトは、前を見すえたままつぶやいた。
「構わないよ」
と、ミグは言った。
☆
同じ日に、ライトフライヤー号は計22回飛行を試みた。
しかし離陸直前になると、決まってプロペラが外れるアクシデントに見舞われたのである。
ライトは「おっかしいなあ・・・」とスパナで頭をかいた。
22回目のプロペラが地面に落下するのを双眼鏡で確認したライトは、飛距離を計測し「おっ新記録や」とのん気に笑った。
飛行実験はいつの間にかプロペラ飛ばしの大会になっていた。
陽は傾き、西の空からは二重惑星のカロンが、ほんのりと明るい灰色の光を放っている。
ミグは丘の上で両腕で膝を抱えながら腰を下ろし、
「趣旨が変わってないか・・・?」
と、声をかけた。
「まあドンマイや。しかしなんでプロペラが外れちまうんやろ・・・」
「そうだね・・・」
その原因は、となりで整備を手伝う相棒が、ライトの目を盗んで、点検終了間際にプロペラシャフト近くのネジを外しているからだった。
この簡単で、かつ安全に離陸をキャンセルできる裏工作は、昨日ピカール卿から伝授されたものである。
ライトはメカには強いが、人間の行動にはてんで無頓着で、まったくミグを疑わなかった。
ミグはホッとすると同時に、なんて鈍感な奴なんだ、と呆れた。
「きょ、今日はもう暗くなってきたし、続きは明日にしないか?私夕食作るから・・・」
ミグは立ち上がった。
「う~ん・・・」納得がいかないライト。
「風邪ひくぞ。さあ、ほら屋敷に帰ろう」
「せやな。腹減ったし。」
ミグはホッと息を吐いた。
――なんとか今日はうまくいった。
だが、さすがに何度もプロペラがはずれては、いくら鈍い彼でも、いずれ自分の細工に疑念を持つだろう。
明日は別の場所のネジを外してみるか。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【大賞・完結】地味スキル《お片付け》は最強です!社畜OL、異世界でうっかり国を改革しちゃったら、騎士団長と皇帝陛下に溺愛されてるんですが!?
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞で大賞をいただきました】→【規約変更で書籍化&コミカライズ「確約」は取り消しになりました。】
佐藤美佳子(サトウ・ミカコ)、享年28歳。死因は、過労。連日の徹夜と休日出勤の果てに、ブラック企業のオフィスで静かに息を引き取った彼女が次に目覚めたのは、剣と魔法のファンタジー世界だった。
新たな生を受けたのは、田舎のしがない貧乏貴族の娘、ミカ・アシュフィールド、16歳。神様がくれた転生特典は、なんと《完璧なる整理整頓》という、とんでもなく地味なスキルだった。
「せめて回復魔法とかが良かった……」
戦闘にも生産にも役立たないスキルに落胆し、今度こそは静かに、穏やかに生きたいと願うミカ。しかし、そんな彼女のささやかな望みは、王家からの突然の徴収命令によって打ち砕かれる。
「特殊技能持ちは、王宮へ出仕せよ」
家族を守るため、どうせ役立たずと追い返されるだろうと高をくくって王都へ向かったミカに与えられた任務は、あまりにも無謀なものだった。
「この『開かずの倉庫』を、整理せよ」
そこは、数百年分の備品や資材が山と積まれ、あまりの混沌ぶりに探検隊が遭難したとまで噂される、王家最大の禁足地。
絶望的な光景を前に、ミカが覚悟を決めてスキルを発動した瞬間――世界は、彼女の「お片付け」が持つ真の力に震撼することになる。
これは、地味スキルでうっかり国のすべてを最適化してしまった元社畜令嬢が、カタブツな騎士団長や有能すぎる皇帝陛下にその価値を見出され、なぜか過保護に甘やかされてしまう、お仕事改革ファンタジー。
異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?
来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。
そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった!
亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。
「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」
「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」
おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。
現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。
お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、
美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
私と母のサバイバル
だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。
しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。
希望を諦めず森を進もう。
そう決意するシェリーに異変が起きた。
「私、別世界の前世があるみたい」
前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
サイレント・サブマリン ―虚構の海―
来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。
科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。
電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。
小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。
「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」
しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。
謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か——
そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。
記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える——
これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。
【全17話完結】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる