80日間宇宙一周

田代剛大

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第二章 希望の海――Sea of hope

15日目②

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私はこの星で最も価値のある財宝を封印することに決めた。

それは死と静寂が支配する海溝の深淵から持ち出すには、あまりにも美しすぎた。

いや、そもそもこの財宝は、どこかへ持ち出せるようなものではなかったのだ。

真の財宝の価値とは、金銭的に測れるものではない。

今後、たくさんの財宝を手に入れても、ここで私が見た光景を凌ぐことはないだろう。

                                   ――『海賊青ヒゲの冒険』第21章



王宮の執務室では、ピカールとナイアドがチェスをさしていた。

遠くからビッグベンの鐘の音が響く。

時計塔の針は、夜の零時を指していた。

「日が変わってしまいましたよ。まったく強情な人たちだ」

ピカールが首を振った。

気丈な女王は言った。

「あなたがたの主砲のエネルギーを増幅するのに、あの鉱物が必要だと聞いて、あっさり私たちが教えると思いますか?
それに・・・地球を滅ぼしても楽園は訪れませんわ」

ピカールは顎に手を当ててチェス盤を見つめ続けた。

「・・・らちがあきませんな」

するとストライカーが執務室に入って来た。

「隕石の場所は“海の墓場”と言われる、秘密の海域だ」

「この女が吐きました。命乞いしながらペラペラと」

ストライカーの後ろのテロリストが報告した。

見ると、テロリストはデスピナのこめかみに銃を突きつけていた。

ピカールは笑った。

「くっくっく・・・で、その海の墓場とは?」

「どこだ?」

テロリストは足を怪我した、美人だが頭の悪そうな女に聞いた。

「あ、あたしは知らない・・・本当よ!
海の墓場は、宇宙海賊の秘密のたまり場なのよ」

女の話では、海王政府は反海賊法(※2)を出し、海賊たちが停泊する港をしらみつぶしに一つずつ検挙していったが、それでも、この表面積の9割が海の星では、島の数は天文学的な数にのぼり、その全て取り締まるのは不可能なのだという。

ストライカーはつぶやいた。

「ということは、その場所は海賊しか知らないってことか・・・
あんまりあの連中とは関わりたくないんだけどなあ」

ピカールも同感のようだ。

「ちょっと面倒なことになりましたね」

「ああ。それに宇宙を放浪している海賊どもを探し出すのも厄介だ」

「話したんだから、私は返してよ!」

デスピナは叫んだ。

ストライカーは口の軽い女に吐き捨てた。

「返すかよ馬鹿。地下牢に戻せ」

「あそこのベッドは固くていや~!枕の高さもあってないし!」

「うるせえとっとと歩け!」

テロリストが甘やかされて育った大人を、執務室から連れ出した。

デスピナを見送ると、ストライカーはチェスの手を考えるピカールに声をかけた。

「どうするよ、先生」

ピカールはチェスの対戦相手に質問をぶつけた

「ふむ・・・女王陛下。
私にはむしろ、隕石によって破壊し尽くされたこの星が、20年間も国体を保てたのが不思議でならないのですがね。かつては“鋼の女性”と呼ばれたあなたのことだ。一体どんなウルトラCを使ったのですか?」

「政治の世界にそんな魔法はありません」

「そうですか。ならばゆっくり考えてみることにしましょう」

そう言うと、ピカールは相手のクイーンの前にビショップを動かした。

「チェックメイト」

「私にわざと捨て駒を取らせたのね・・・」

ピカールは目を細めた。

※2:海賊だけでなく、海賊に、物資の補給や海賊船の傾船修理などの支援を試みた民間人も、海賊同様、厳重に取り締まるという法律。



夜が明けた。

海上のリンドバーグ号は朝日を浴びて、黄金色に輝いていた。

ミグがハッチを開き甲板に出ると、ルヴェリエがすでに起きて、洗濯物を干していた。

「おはようございます」

と、ルヴェリエが挨拶をした。

背伸びをしながら、ミグのYシャツをロープにかけている。

「あ、おはようございます。ゆっくりお休みになれましたか?」

と、ミグ。

「おかげさまで・・・」

――しかし、歳の割になんて気が利く子なんだろう・・・

彼女が感心して物干しロープを見ると、彼が干した洗濯物は、全てロープの低い位置にかけられて密集していた。

それを見て、ミグがかすかに微笑んだ。

「洗濯ならわたくしがやります、どうか殿下は・・・」

「じゃ、ふたりでやりましょう」

ルヴェリエも笑った。



二人で選択物を干しながら、少しのあいだ沈黙が続いた。

「あの・・・ひとつ聞いてもよろしいでしょうか?」

タイミングを見計らってミグが会話を切り出した。

「ええ・・・ですが、もうその敬語は勘弁してくださいよ」

ルヴェリエが苦笑いをした。

「しかし・・・わたくし、その・・・柔らかい言葉遣いが・・・苦手でして・・・」

ミグが洗濯物を高い場所に干しながら、ルヴェリエから目をそらした。

おどおどするミグに、ルヴェリエは意を決して言った。

「ようし、ライトさんに教えてもらった最終手段だ。
伍長よ。これは命令である」

ミグは思った。

――ライトのやつ、余計なことを・・・

「・・・・・・。ごほん、失礼。
海王星に衝突した隕石のことを聞きたいんだけど・・・いいかな?」

ミグはたどたどしい言葉遣いで、ルヴェリエに率直に質問をした。

ルヴェリエは微笑んだ。

「はい」

「海王星人は、隕石のことをどう思っているのかな・・・」

するとルヴェリエは真剣な顔になって、一言こう言った。

「憎んでいますよ」

「・・・そうだよね・・・」

ミグがうつむいた。

再び沈黙。

吊るされた洗濯物が海風ではためく。

「でも・・・僕は正直わからないんです」

ミグは顔を上げてルヴェリエの方を向いた。

「当時のこと。生まれていませんでしたから。
僕は昔の海王星を知らない。だから、衝突を目の当たりにした人たちの心の苦しみを、本当に理解することはできません」

ミグは黙って少年の言葉に耳を傾けた。

「皇太子の兄は、かつては明るく前向きな性格だったそうですが、隕石によってすっかり変わってしまいました。
いや兄だけじゃない。母も大臣たちも・・・保身にきゅうきゅうとしていて、民のことまで思いやれる余裕がないんです。自分たちの心を壊さないようにするので精一杯だから」

「ルヴェリエ王子・・・」

――この子はこんなに小さいのに、大人をよく見ている・・・

それに家族と離れ離れになっても、泣き言一つ言わない。

私が両親を亡くしたのは、ちょうどこのルヴェリエ王子くらいの頃だったなあ・・・

私には彼の気持ちがよくわかる。

私もそうやって悲しみをずっと押し殺していたから・・・

でも本当は、とても寂しかった。誰かに甘えたかった・・・

「ずっと思っていた。僕はこの星のために何ができるんだろうって・・・」

ミグは優しく微笑んで、ルヴェリエを励ました。

「できますよ。王子はお若い。辛い過去がないからこそ前向きにやれることがある」

「ミグさんは・・・?」

「私は・・・」

ミグは一瞬言葉に詰まった。

そして自分に言い聞かせるように、答えた。

「私は・・・自分の過去に決着をつけるために、この星にやってきたのかもしれない」

「自分の過去・・・?」

「ずっと見て見ぬふりをしていて・・・時には自暴自棄にもなったけれど・・・私はもう過去からは逃げない。諦めない」

朝日を浴びたミグは、少年にはひときわ美しく見えた。

「ミグさん・・・」

心の奥に強い意志を秘めた女性――

ミグの雰囲気は、どこか懐かしく、安らぎを感じた。



「オーイこっちきてみ~。なんか見えたで~」

尾翼の上に乗ったライトが、二人に呼びかけた。

「どうした?」

ライトが尾翼からミグに双眼鏡を放り投げると、海の向こうを指さした。

「あっちね」

ミグが双眼鏡で、ライトが指さす方向を見ると水平線に島のような影が見えた。

「あれは?」

島というよりは、軍の潜水艦が燃料を補給するような洋上基地にも見える。

「見せてもらっていいですか?」

と、ルヴェリエ。

「ええ、どうぞ」

ミグがルヴェリエに双眼鏡を渡した。

ルヴェリエはその正体に心当たりがあるらしい。

そして嬉しそうに大きな声で言った。

「海上キャラバンだ・・・!」

「海上キャラバン?」

と、ミグが聞き返す。

ライトがロープをつたって、垂直尾翼からするすると降りてきた。

「え?あれ島ちゃうんか?」

「ええ、行商の船をたくさんくくりつけて、人工島のようになっているんです」

「へ~面白そうやなあ。行ってみるか」

ライトがそう言うと、ルヴェリエが目を輝かせた。

「本当ですか!?一度行ってみたかったんです・・・!わあ~」

「よしおっちゃんがなんでも買ったる」

「悪いですよ・・・」

「子どものうちは甘えておくものだよ」

と、ミグ。

「わあい、やった~!」

ルヴェリエは嬉しそうにはしゃいで、12歳の子どもに戻った。



海上キャラバンは、まるでベネチアのようになっていた。

もやわれた船と船の隙間は、複雑な水路になっていてゴンドラが行き交っている。

ライトはマストをたたんで、リンドバーグ号を海上キャラバンのドッグに停泊させた。

船を降りてキャラバン内を歩く一行。

いや正確には、ここも船の上なのだ。

ただ、船上とは思えないほど広く、小さな街が成り立っているだけで。

街には水耕栽培で大きくなった街路樹すら生えている。

「は~まるで街やなあ」

アルザス風の木骨建築を見上げながらライトがつぶやいた。

メルヘンとは一切無縁なライトも、この街には心を奪われたらしい。

「まるで妖精の国に迷い込んだみたいだね」

と、ミグ。

「いや~大したもんや」

ライトは腕を組んで頷いた。

「これはティンバーフレーミングって言って相当頑丈なやつや。
嵐に備えとるんやな。合理的にできとる」

「君は同じものを見ても、目の付け所が違うんだね・・・」

ミグは、ライトはどこまでも技術屋なんだと、ため息をついた。

――彼は一体どんな子供だったのだろう。

クリスマスのサンタクロースなども信じていなかったのだろうか。

私は中学生の頃まで信じていたのに・・・

すると、ルヴェリエがバザーの方へ駆け出した。
「あ、王子・・・」

ルヴェリエは背が低いので、人ごみに紛れてしまったら見つけられない。

ミグが慌てて追いかけた。

ミグがルヴェリエを見つけると、少年はバザーに並ぶ屋台の一つを指差していた。

「これはなんですか?空の雲をちぎったみたいですけど・・・綺麗だなあ」

ライトがルヴェリエに説明した。

「ああ、わたあめや。つまりはキャンディーやな」

「え?あれは食べ物なんですか!?」

驚くルヴェリエ。

「甘くてうまいで~食ってみたいか?」

「はい・・・!」

ライトは屋台の店主に声をかけた。

「おっちゃん、この綿菓子いくらや」

おっちゃんは愛想よく言った。

「毎度!22ポンドだね」

「高っ!!」

予想額の10倍を言われてライトが脊髄反射的に口走った。

「なにしろ輸入品だからね」

「食料も全部輸入しているのか・・・?」

と、ミグ。

「まあモノによるな。砂糖が高いんだよ」

ルヴェリエが気を使った。

「あ・・・じゃあいいです・・・」

「遠慮するなて!おやじ、三つくれ」

ライトは腹をくくった。

「70ポンドです」

「高くなっとるやんけ!」

「嗜好品には特別税が加算されるんだよ」

「やっぱりいいです・・・」

と、ルヴェリエ。

「わ~ったナンボでもはろうてやるわ!」

ライトは100ポンド札を、釣りはいらねえよと店主に握らせた。

三人はコットンキャンディーを食べながら屋台の間を歩いた。

ルヴェリエは初めて食べる甘い雲を幸せそうにほおばった。

「おいし~でも溶けてあっという間ですね」

「そうか、じゃオレのもやるわ」

ライトは自分の綿菓子を彼に渡した。

「あ、じゃあ私のも」

と、ミグ。

「え・・・?」

「食っとけ食っとけ」

二人のわたあめを手に取り、ルヴェリエはつぶやいた。

「これってとっとけないんでしょうか?・・・こんな綺麗なお菓子があるなんて母さんに見せてやりたいなあ・・・」

二人の大人は無言になった。

「王子、手をつなごうか」

ミグが少年に手を差し出した。

「え・・・?」

「今は楽しもうよ、ね?」



「お頭、いました」

海賊の一人がりんご飴を舐めながら、キャプテン・ロジャーに報告した。

バザーの客に紛れて、あの宇宙海賊が三人を見つけ出していたのだ。

「でかした」

ロジャーは、三人を見つけた海賊に

「これで遊んでこい」

と、特別ボーナスをポケットマネーで出した。

「やった~!」

実は、この移動式の街――海上キャラバンは裏で海賊が取り仕切っていたのだ。

海賊たちが収奪した物品も、このマーケットで他の商品と一緒に金に変えてしまえば、もう足はつかない。

また、複数の船が集まってキャラバンが構成されているのも、万が一当局に摘発されそうになっても、もやいを解いて四方八方に分散して逃げ出せるからだ。

取締官が現場にたどり着いた時には、取り締まるべき街はすでに存在しない。

しかし自ら我々の寄港地に飛び込んでくるとは、運のない奴――

ロジャーは早速“ビジネス”に取り掛かることにした。



バザーには、なんでも売っていた。

お菓子といった食料品の他に、食器や生活雑貨、絵画やアンティーク、花に、衣服、香水・・・

三人はアクセサリーショップで足を止めていた。

「ミグさん、このネックレス似合いますよ」

ルヴェリエがパールのネックレスをミグの方へ掲げた。

「え?本当?ちょっと私には可愛すぎやしないかなあ・・・」

そう言いながらも、ミグは嬉しそうだった。

「綺麗ですって、ね?ライトさん」

「う~ん、オレはお前にはこの宝石のブローチが似合う気がするけどなあ」

ライトが選んだのは大きなアクアマリンのブローチだった。

おそらくイミテーションだろう。

「それはさすがにミグさんの歳じゃ厳しいですって・・・」

ルヴェリエがそう言いかけると、途中ではっと言葉を止めた。

12歳の少年がミグの方を振り返ると、今年で31歳の彼女はショックを受けていた。

ライトは笑った。

「ミグそんな泣くなよ、子どもが言ったことやないか~」

「泣いてないよばか・・・!」



「じゃあ飯でも食ってくか!」

ライトは食事のできるところを探した。

ミグはまだちょっと凹んでいた。

ルヴェリエは、うっかり口が滑ったことをまだ反省していた。

三人は街外れのレストランに入った。

ドアを開けると、鈴の涼しげな音が鳴り、店の奥からエプロンをつけたごついおじさんが出てきた。

頭皮は薄く、ヒゲは濃いが、接近してくるにつれ、なぜか厚化粧をしていることがわかった。

ライトは、嫌な予感がした。

――看板にはレストランって書いてあったよな。オカマバーじゃなくて・・・

オカマのマスター・・・というか“ママ”は笑顔で三人の前に小走りで寄ってきた。

「いらっしゃ~い!な・ん・に・ん?」

あんな笑顔されたら、今更「店を間違えた」と、出ていくこともできない。

「三人。禁煙席で」

と、ライトは腹を決めた。

まあ、ルヴェリエにとっては、いい社会勉強になるかもしれない。

トラウマになるかもしれないが。

「あら~ご家族~?僕、いいわね~」

ママがルヴェリエに接近した。

「いや・・・家族ってわけやないんやけど・・・」

「はい、家族です」

と、ルヴェリエは頷いた。

ミグが微笑んだ。

三人をテーブルに案内すると、ママはメニューを開いてこちらに渡した。

「今日のおすすめはBランチね。安心で美味しい魚介類が地球から入ったわよん」

「地球・・・?」

と、ミグ。

「ええ。昔はシーフードと言ったら海王星だったんだけどね。
ご存知のとおり、海産物の価格が高騰しちゃったのよ。
牡蠣なんて末端価格が10000ポンドよ?きっとロイヤルファミリーくらいしか食べられないわ」

ミグがルヴェリエの方を向くと、ルヴェリエは気まずそうに目をそらせた。

価格のことなど気にせず、牡蠣をたらふく食べていた女性を彼は知っていたのだ。

「でも地球の魚介類もそう悪くないわ。
口当たりは海王星に比べてけっこうあっさりしていて、なによりヘルシーなの。
ソテーして白ワインソースて食べるのが地球風。トマトと一緒にパスタに絡めてもいいわね」

「ほ~イタリアンやな」

ライトが嬉しそうに言った。

「あら兄さん地球の方?」

「そうや」

すると、ママはライトの体をペタペタ触りながら、頬を赤らめた。

「やだ~♡ちょっといい体してるじゃな~い!」

「なんやねんな・・・」

迷惑そうなライト。

「あたしも地球に行ったことあるのよ~。そこで料理の修業して、この星に戻って店を構えたの。
兄さんとは何か、星のつながりのようなものがあるのかも・・・」

ママは胸に手を当てて上目遣いでこちらも見つめている。

「あるかい。どういうことやねん・・・じゃあBランチを三つでええか?」

「はい」

と、ルヴェリエ。

「異議なし」

ミグも頷いてメニューを閉じた。

「Bランチ3ね!じゃ、ちょっと待っててね。兄さん愛してる!」

ママはライトに投げキッスをすると、いそいそと調理場へ戻っていった。

「モテモテだなライト・・・」

両手で頬杖をついてミグ。

ママのノリに戸惑うライトが面白いようだ。

「なにニヤついてんねん。めっちゃオカマやないかい」



ママがテーブルに料理を運んできた。

「おまたせ~」

「これが地球の料理・・・」

皿に乗った舌平目のムニエルとシーフードパスタを見てミグ。

「すっごい美味しそうですね!」

ルヴェリエがミグの方を向いて笑った。

「あ・り・が・と♪
兄さんのにはいろいろサービスしておいたから・・・ウフ」

「やめろや気色悪い」

だが、確かにママの料理は見た目、香りからして本格的だった。

これでわたあめと同じ値段とは、価格設定も良心的だ。

一体どういうルートで食材を仕入れているのだろう。

ルヴェリエが早速料理を口に運んだ。

「うわ~本当に美味しい!味付けが海王星とだいぶ違うんですね」

「オリーブオイルやからな・・・」

ライトが向かいの席のミグを見ると、食事を止めて彼女は窓の外をぼーっと見つめていた。

「どうしたミグ?口に合わんか・・・」

「なあ・・・外のあれって・・・」

ミグがライトの後ろの窓を指さした。

後ろを振り返るライト。

すると窓の外で、海賊船のクレーンに愛機リンドバーグ号が引きずられていく様子が見えた。

「!!あ!!オレの船!!」

そう言うと、ライトは席を立って店を飛び出した。

海賊船の甲板で海賊船船長ロジャーが笑っていた。

「は~はっは!今度海賊に喧嘩を売る時はよ~く考えな~!!」

ほかの海賊たちも、笑って手を振っている。中には舌を出して自分の尻を叩いている者もいる。

低次元な挑発だが、無性に腹が立つ。

「あばあばあばよ~!ヒャッハ――!!」

海賊船は、クレーンのウィンチを巻き上げてリンドバーグ号を船内に格納すると、波止場をそそくさと出航していった。

ライトは店内に戻って、悔しそうにテーブルを叩いた。

「あいつらオレらの船を盗んで行きよった~~!!」

「やっぱり・・・!!」

と、ミグ。

「どうしましょう!?」

ルヴェリエが席を立った。

「決まってるやろ、あいつら追いかけて奪い返すんや!」

「しかし、追いかけるといっても一体何で・・・」

ミグが困惑した口調で言った。

自分たちの船を持ってかれてしまったのだから。

「あら、あたしの配達用の飛空艇なら店の裏にあるわよ」

ママがあっさりと言った。

「マジで!?ママ、貸してくれへんか!?」

「お安い御用よ、じゃあチューして♡」

ママは世にも恐ろしい取引を持ちかけた。

「えええ!?」

顔を青ざめるライト。

「ライト、もう一刻の猶予もないぞ!」

「ライトさん、ここは心を殺してください!」

ミグとルヴェリエは、ライトがオカマとキスをする前提で話を進めていた。

ライトは観念して

「わ~った!どこにすりゃいいんや、ほっぺか!?」

と、ママに聞いた。

ママは恥じらいながらこう言った。

「・・・左乳首」



ライトにフライパンで殴られてピクピクしているママを残し、三人はレストランの裏の飛空艇に乗り込んだ。

「ついていけへんわ。追っかけるで~!」

ライトは飛空艇のイグニッションキーをひねった。

けたたましくエンジンが起動し、翼についた4つのプロペラが回転し、飛空艇は離陸を始めた。

「さすが海王星人、飛空艇は生活の必需品なんやな」

と、ライト。

「あの人大丈夫でしょうか・・・」

下のレストランを眺めてルヴェリエ。

ミグはこの騒ぎで、地球の料理がほとんど食べれなかったことを、悔やんでいた。



キャプテン・ロジャーの海賊船は、波を切って進んでいた。

蒼穹を写す水面は、形が壊れて白く泡立った。

「ギャハハハハいただいたぜ~!」

「あいつら今頃半泣きだろうよ!」

彼らは、とうとうお目当てのリンドバーグ号を奪って、すこぶる気分が良かった。

これで連中も、海賊を敵に回すことが、どれだけ愚かなことかわかったに違いない。

「この船、どこら辺で売りさばくんすか?」

と、新人海賊がボスに尋ねた。

「土星あたりかなあ・・・いま景気いいらしいし」

と、ロジャーがどのブラックマーケットに流すかを考えていると、ブリッジがにわかに慌ただしくなった。

「お頭レーダー反応です!後方から飛空艇が追ってきます!」

「なんだと!?」

ロジャーは、船外の様子をブリッジ中央のマルチスクリーンに表示させた。

見ると、さっきの連中が、機体の側面に電話番号がペイントされた、レストランの宅配用飛空艇に乗ってコチラを追いかけてくる。

「しつこいやつらだ・・・撃墜しろ!」

「アイアイサー!」



ライトたちが乗った飛空艇は、猛スピードで海賊船に追いつこうとしていた。

「この船、けっこう性能いいですね」

と、ルヴェリエ。

「せやな」

レストランのデリバリーサービスも、時間との戦いなのだろう。

水平線の彼方にあった海賊船は、どんどん大きくなり、今ではその姿をはっきりと見せていた。

ライトは操縦桿を切って、飛空挺を海賊船の母艦の側面に回りこませた。

すると母艦の装甲が動き出し、大砲が出てくるのが確認できた。

「撃ってくるぞ!」

と、ヘッドセットをつけながらミグ。

ルヴェリエは、コックピットのフレームに取り付けられた操作盤に気づいた。

「このスイッチは?」

その時、爆発音と共に発射された海賊船の砲丸が、飛空挺の機体をかすめた。

衝撃波で飛空艇のコックピットは大きく揺れ、バランスを崩したルヴェリエは操作盤のスイッチにぶつかった。

すると、飛空艇の底部がパカっと開き、先が丸い――手を抜いたバルーンアートのような形のミサイルが発射された。

ミサイルは自動追尾型で、ひゅるひゅると海賊船の方へ飛んで行くと、あたりが一瞬光に包まれ、その後、ものすごい爆音が襲ってきた。

海賊船の方を見ると、側砲の一つが煙を上げてへし折れている。

ライトが怒鳴った。

「!!王子、何をした!?」

「え、いや、その・・・」

慌てるルヴェリエ。

「ライト、この船は武装船みたいだぞ・・・!」

と、ミグ。

あのママは、一体どういうところに配達に行っているのだろうか。

ライトはニヤリと笑った。「よっしゃ、あいつらにお見舞いしたれ!」



ミサイルと機銃でレストランの飛空艇は、海賊船の母艦を攻撃しだした。

巨大な母艦クラーケン号は的がデカく、次々に破壊されていく。

それに対して海賊船の砲撃は、飛空艇が小さくすばしこいために、なかなか当たらない。

ロジャーはいらだった。

「あんな小さい船相手になに手こずっている!」

砲弾を装填しながら、海賊たちが叫んだ。

「さーせん!」

「ダメか!?勝てそうもないのか!?どうなんだ!?」

「それは・・・」

下を向く海賊たち。

「はっきりしろ!」

「アイサー勝てません!」

するとロジャーは操舵手に怒鳴った。

「よっしゃ逃げるぞ!!」

「イーエー!!」

海賊たちは応戦をあっさり諦めた。

逃走を図る海賊船内の通信無線に、向こうの飛空艇が割り込んだ。

「コラお前ら~オレたちの船を返さんか~い!」

ブリッジに関西弁が響いた。

「やなこった!こっちも商売なんだよ!」

と、ロジャー。

「お前ら~いい加減にせえへんとマジで地獄見せたるで~!」

「え、それはやめて・・・」



ライトは、飛空挺を海賊船の船体ギリギリまで接近させ(こうなると海賊は、ターゲットが近すぎて大砲で飛空挺を撃ち落とすことができなくなる)、そのままクラーケン号のカタパルトに、機体を荒々しく滑り込ませた。

甲板の海賊たちは、こちらに突っ込んでくる飛空艇から、慌てて逃げていった。

ライトは飛空艇から飛び出すと、海賊たちに向かってスパナを振り回した。

「オラア海賊ども~!お礼参りじゃ~~!!」

海賊たちは、ライトの迫力に一瞬気圧されたが、すぐに三人を取り囲みだした。

「ええい、ひるむな!数じゃこっちが勝ってるんだ、お前らは飛んで火にいる夏祭りよ・・・!」

するとミグが爆弾のようなものを取り出し、冷静につぶやいた。

「それはどうかな?これを船内で発火させてみろ。私も死ぬがお前らともども道連れだぞ」

「ひいいいい!この人本気だ、怖いよ・・・!」

海賊が怯えだした。

船内では火気は厳禁なのだ。

船室ではタバコすら吸っていない。

燃料に火が付いたら、お宝ともどもドカンだからだ。

ライトが叫んだ。

「責任者はどいつや!」

「ぶ、ブリッジにいます・・・!」

「じゃ、案内せい!」

三人はブリッジに続く通路を通された。

海賊たちに聞こえないようにルヴェリエがミグに囁いた。

「それ・・・なんなんです?」

「わからない。あのママの電気ひげ剃りだと思う」



海賊船艦橋にライトたちが乗り込んでくる。

ブリッジがざわめいた。

ライトは、その中央に座る、黒いあごひげの大柄の男の前に立った。

見るからにカリブの海賊といった風情だ。

「あんたが宇宙海賊ロジャーか!」

と、ライト。

「え・・・?ちがうよ?」

ロジャーは自らがかぶる大きな帽子を取って、となりの部下の頭にかぶせ、目をそらせた。

「部下に言ってオレらの船を返させろ!」

ライトはその帽子を再びロジャーの頭に乗せた。

「まあまあ落ち着けって。これにはふか~い事情があるんだよ」

ロジャーが苦笑いをしながら言った。

「なんやな」

ライトは、まだ目を吊り上げている。

「まあ座れって・・・」

そう言うと、ロジャーは立ち上がって来客に椅子を出し、部下たちのほうをむいた。

「おい、この人たちにつめた~い飲みもんでも出してやれ!」

「へ、へい・・・!」

海賊たちは、海図や計算機を作戦台として使われていた机から落とし、その上からテーブルクロスを敷いた。そして食器や燭台を乗せ、あっという間にブリッジに応接間を作り出した。

ロジャーが手を叩くと、ブリッジに楽団がやってきて、軽いチューニングのあと、クラシックの演奏をはじめた。

「そうやって丸め込もうったってそうはいかんからな」

と、ライト。

「違うって・・・」

ロジャーはライトのグラスにワインを注いだ。

「とりあえず話を聞いてみましょうよ」

ライトの隣の席でルヴェリエが言った。

ライトは、まだ大人の汚さを知らない少年に忠告した。

「ええかルヴェリエ。こいつら海賊っていうのは、宇宙で最も油断ならんやっちゃ。
絶対気を許すんやないぞ」

ルヴェリエが頷いた。

彼らは『海賊青ヒゲの冒険』とは違う。

狡猾で残虐な現実の海賊なのだ。



5分後――

「ギャハハハハあんた気が合うなあ!」

酒に酔ったライトは、ロジャーと肩を組んで大爆笑していた。

「おめーこそ気に入ったぜ!この船に乗り込むたあ海賊以上に血の気が多いぜ!!」

ミグはため息をついた。

「あのバカ・・・」

「すっかり友達になってますね・・・」

と、ルヴェリエ。

「おい、おまえらもメシ食ったらどうや!?こいつらの料理超ウマイで!」

「食べるわけ無いだろ・・・」

と、ミグ。

「おいおい、変なもんなんて入れちゃいねえよ!」

ロジャーが本場のバイキング料理をさらによそった。

「ほら、僕もどうだ?」

美味しそうな香りが漂う。

ミグはルヴェリエを海賊たちから遠ざけた。

「この子に近づくんじゃない・・・」

とはいえ、ミグは海上キャラバンのレストランでほとんど食事をとっていなかった。

お腹がなる。

「ほら腹減ってるんだろう?お姉さん!」

ロジャーが皿を差し出す。

「ほっといてくれ・・・」

しかしお腹がなるのが止められない。

「美人なお姉さん!」

ロジャーがしつこく料理を勧める。

「・・・そういう見え透いたお世辞はやめてくれないか」

ミグがため息をついた。

「いや、ミグさんは美人ですよ」

と、ルヴェリエ。

「ですよね?ライトさん」

「ん?聞いてなかった」

ライトは夢中で料理をほおばっていた。

「じゃ、じゃあ一口だけ・・・」

ミグは皿を受け取った。

そして、

「まずは、私が安全かどうかを確かめますね」

と、ルヴェリエに言うと、料理を口に入れた。

――げ、美味しい。

海王星の料理は味付けが質素で、正直あまり美味しくないとずっと思っていた。

話が違うじゃないか。ならず者が作った料理にすら負けて、ミグはちょっと悔しくなった。

ナプキンで口を拭いて、ミグはルヴェリエに頷いた。

「王子、問題ないようです」

ミグがそう言うと、ルヴェリエは海賊料理に手を伸ばした。

「じゃ、いただきます」

「ちびっこにはデザートもあるよ」

コック帽をかぶった海賊が、手の込んだデコレーションが施されたケーキを運んできた。

――くそ、あんなのどうやって作るんだよ・・・

ミグはケーキから目をそらし、眉間にシワを寄せて、ロジャーに詰め寄った。

「で、なぜ人の宇宙船を掠奪するんだ?まだ話してもらってないぞ」

「それはだな、海王星のためにやってるんだって」

どこかバツが悪そうにロジャーが言った。

「海王星のため・・・?」

ルヴェリエがケーキを食べるのをやめて、顔を上げた。

「人のものを勝手に奪うことが、なぜ海王星のためになるんですか?」

すると、陽気なポルカを引いていた楽団が、突然コードを変調させ、お涙頂戴の短調の曲を弾きだした。

「あんたらも20年前にこの星に隕石が衝突したのは知ってるだろ?」と、ロジャー。

「ああ」

ドラムスティックのフライドチキンをかじりながらライト。

「実は・・・あの隕石の処理をしたのが、オレたち海賊だったんだよ」

「え・・・?」

ルヴェリエの表情が変わった。



「ほら、衝突直後は海王星はさ、治安もへったくれもなくて、もう混乱の極みだったんだ。
政府も軍も、衝突地点には恐れをなして近づきもしなかったし」

ミグは思った。

それだけ災害の規模が甚大だったに違いない。

――私の両親が命を捨てても止められなかった隕石・・・

「でも誰かがやらなきゃいけなかったから、オレたちがクレーターの上から大量の土砂をかけて放射線を防いだんだ。あれでも放射線は1万分の1にまで減ったんだよ?」

ロジャーがちょっと得意げに言った。

――私の両親の、いわば後始末を、彼ら海賊が引き受けたというのか・・・

ミグはやりきれない気持ちになった。

「ふ~ん、でもお前らがタダで、そんなよいおこないするはずないやろ。どうせたんまりギャラをふんだくったんちゃうんか」

鶏の大腿骨を振ってライトがつぶやいた。

そう、彼らはボランティアではない。

手段を選ばない営利主義者――海賊なのだ。

「まあね・・・」

と、ロジャー。

「でもよ、その作業のおかげで、オレたちの半数は重い病気や障害を抱えている。十分ギャラに見合った仕事はしたと思うぜ」

確かに周りを見ると、海賊たちのほとんどが、腕や脚のどこかを失っていた。

海賊の一人が、笑って義手を振った。

そのフックは、どんなに動機が不純でも、彼らが実際にこの星のために命をかけたことを、明確に証明していた。

チオルコフスキー家は、彼らに借りを作っていたのだ。

ルヴェリエも、ミグと同じことを感じたらしい。

「王家が海賊に面倒な仕事を押し付けていたなんて・・・そういう時、真っ先に国民のために命をかけるのが貴族の義務なんじゃないですか?」

すると、意外なことにロジャーは王族をフォローした。

「あくまで理想はそうだがな・・・誰かの為に自分の身をなげうつのは、なかなか出来ることじゃないんだぜ」

正しい行ないを思いつく人は、実は割とたくさんいる。

しかし――それを実際に行なうとなると、話は別だ。

私たちには、ひとつの苦々しい事実がつきまとう。

リスクを全く引き受けずに、正しい行いをすることは不可能だということだ。

「でも・・・」

ルヴェリエは納得がいかないようだった。

正義を成し遂げるためには強い意志と覚悟、そして犠牲心が必要だが、彼らの場合は――

ミグはルヴェリエを優しくなでた。

少年の気持ちはわかる。

「最後まで聞いてみよう・・・で、なぜ我々の船を盗んだ?」

「やっぱそこ行く?」

と、ロジャー。

「それはその・・・中古の宇宙船を集めて他の星に売るんだよ。
おたくらの船さ、なかなかいいロケットエンジン積んでいるじゃない?
あれは金になるなあって・・・」

「なんやねん、やっぱり金か!しょうもないやっちゃなあ・・・」

ライトが呆れた。

「オレたちには金がいるんだよ。それも外貨が」

「お前らええ加減にせえよ。一体いくら金があれば気が済むんや。国でも買うつもりか」

そう言うと、ロジャーが笑った。

「がははは!国を買うか!確かにそうかもしれんな」

「真面目に答えてください!」ルヴェリエが大きな声を出した。

子どもに怒られた海賊は、咳払いをしたあと、正直に答えた。

「それで海王星の支援物資を買っているのさ。何年もずうっとね・・・」

「・・・なんやと?」

「オレたちが、命懸けで事故処理をして、獲得した最大のギャラはそれさ。
まだわかりませんか?ルヴェリエ・ネプトゥヌス殿下」

「なんで僕の名を・・・」

「そのコンパスです」

ロジャーがルヴェリエの上着からのぞくコンパスを指さした。

「え・・・?」

ルヴェリエがコンパスを見ると、その針は目の前のロジャーをまっすぐ指していた。



トライデント城の王立図書館では、ピカールとテロリストたちが何かの書類を探していた。

「ここから逃げたのか・・・」

ナッシュ・ストライカーが、本棚の隠し扉を見て言った。

「遅かれ早かれこうなることを予期していたのでしょう」

と、ピカール。

「それよりも例の記録は見つかりましたか?」

「なにしろこの広さだからな・・・」

「20年前の公文書を当たれば、手がかりくらいはあるはずです」

「閣下」

一人のテロリストが書庫から書類の束を持って来た。

「小惑星の落下地点がわかったか?」

と、ストライカー。

「いえ・・・しかし興味深い記録が・・・」

ピカールが老眼鏡をかけて、受け取った書類に目を通した。

「拝見」

そして「くっくっく」と笑い出した。

「面白いもんでも見つけたか、先生」

「なるほど・・・海王星の財政のからくりが解けましたよ」

「どういうことだ?」

ピカールはストライカーに一枚の書類を渡した。

「ご覧なさい」

ストライカーも、それが何なのかをすぐに理解した。

「これは・・・私掠行為許可証・・・!」

「あの女王なかなかの悪党のようだ。
しかしこれで海王国政府と海賊がつながっていることがわかった」

「ああ、海賊の居所を聞き出せるな」

「さっそくお願いします」



ピカールたちが、王立図書館で私掠行為許可証を発見していた時、海賊船のブリッジでも、王室と海賊のつながりが、船長である彼によって明らかにされようとしていた。

「もしかして僕が探していたのは・・・この人?」

ルヴェリエは動揺を隠しきれない様子だった。

「はじめまして殿下。お会い出来て光栄です。
私はロジャー・クラージュ」

ロジャーがかしこまった。

「でも、なぜエガリテ隊長はあなたを訪ねろと・・・」

「エガリテは、私が近衛隊の隊長をやっていた頃の親友です。
そのコンパスは、私が兵士の職を辞めた時にあいつに渡したものです・・・」

ルヴェリエはコンパスを裏返した。

シャチの紋章が刻印されている。

「では、あなたが・・・海王星の救世主・・・?」

ミグは話の筋が見えたようだ。

「そうか・・・海王星の逼迫した財政では、国民全てに十分な生活物資は供給できなかった。
だから海賊を使って超法規的な手段で物資を集めさせた・・・私掠行為を許可して」

海賊と私掠船は、同じ海の略奪者でも、大きく異なる点がある。

海賊が無政府主義者のふきだまりなら、私掠船には政府というパトロンがいるのだ。

私掠船は政府の密命を受けて、他の国の船を襲う。

海王政府が、海賊を取り締まれなかったのは当然だ。

彼らの存在は秘密裏に公認されていたのである。

「すべては海王星のためです」

と、ロジャー。

「僕らの星は、あなたがた海賊によって養われていたってことですか・・・!」

ルヴェリエが席から立ち上がった。

「え、い、いや、その・・・」

ロジャーが涙目の王子を見て慌てた。

「まあ、結果的には、そう言えたり・・・言えなかったり・・・」

ロジャーが奥歯にものが挟まったような煮え切らない態度でいると、とうとうルヴェリエはブリッジを飛び出し、甲板のほうに駆けていった。

「あ、坊ちゃん!」

海賊の一人がルヴェリエを呼び止めようとした。

「ほっといてやれ!」

と、ロジャー。

「・・・ショックやったやろうなあ」

ライトがつぶやいた。

「オレなんかに会わなかったほうが、よかったのかもな」

「そんなことないって・・・あいつは体はちっこいけれど強いから」

ライトはロジャーのグラスにワインを注いだ。

「今日はオレのおごりや。飲もう飲もう」

「何がおごりだかよくわからねえが、すまねえな、ライト」

ライトとロジャーは、カチンとグラスをぶつけワインを飲んだ。

「・・・あの子のことは、随分前から知ってたんか?」

「海賊になってからも、何度かは王宮に行ったからな・・・だが・・・その時は、まだ赤ん坊だった・・・いつの間にかあんなに大きくなって・・・」

「あんたらを蹴散らした」

「ああ、オレが思ったとおりだ・・・賢く優しい子に育った」

すると、ルヴェリエが出て行った扉を黙って見つめていたミグが席を立った。
「どうした?」

と。ライト。

「いや・・・洗面所に・・・」



ミグが外に出ると、ルヴェリエは甲板の縁に座って、ぼんやりと海を眺めていた。

空はいつの間にか日が傾いていた。

風はひんやりと冷たい。

ミグが額に手をかざし、夕日に目をすがめると、不思議なトサカを持つ海鳥たちが物憂げな鳴き声を上げて、どこかの陸地を目指して飛んで行った。

彼らはどこへ帰って行くのだろう・・・

「いいかな・・・となり」

ミグが王子の横で腰を下ろした。

しばらく無言の時間が続いた。

彼女は冥王星の出来事を思い出していた。

屋根の上でライトと一緒に空を見つめたとき、彼は落ち込む自分を優しく励ましてくれた。

あの時のライトのように、ミグは彼を励ましたかったが、なんて声をかけていいのか分からない。

だが、この子の気持ちは、誰よりもわかる。

なぜならミグも、自分の両親の不始末である――小惑星の処理を、海賊たちが命がけで行なったという事実に、大きなショックを受けているからだ。

この問題は人ごとではない。だからこそルヴェリエの力になりたかった。

「確かに海賊を憎む気持ちはわかる・・・」

ミグが口を開いた。

「海賊が憎いんじゃないんです」

膝を抱えたルヴェリエは首を振った。

「僕ら王族がこんな汚いことをしていたなんて・・・」



ルヴェリエは、ほとほと自分を含めた上流階級が嫌になっていた。

国民が不公平な階級社会を容認しているのは、支配階級に社会の安定と維持を委託しているからだ。

これは軍隊と一緒で、掛け捨ての保険ということだ。

だからこそ上流階級は、国家が危機に陥った時には、すべてを犠牲にして事態の収拾に当たらなければならない。

その昔、まだルヴェリエの先祖が馬に乗って戦っていた頃――王や貴族は、兵を率いて最前線で戦い、そして部下よりも先に命を落とした。

それが、生まれた時から、すでに地位も富もある者の務めだった。

だが百年戦争で、農民を積極的に兵に登用してからというものの、上流階級は戦場で最も死なないポジションについた。

ポーンは替えがきいても、司令官はそうはいかない――

武器は、ランスからロングボウ、ハンドカノン、マスケット銃とどんどん進歩し、機関銃が導入されてからは、自分が殺す相手の顔も見ずに苛烈な攻撃を行なえるようになった。

戦争はどんどん卑怯に、残酷になり、騎士道精神はかび臭い過去の遺物となった。

そして、現代――王族は、取り締まるべき、海の犯罪組織と手を組み、誰もが目を背けたい不愉快な事実を封印した。

堕ちるところまで堕ちたと言っていい。

隕石が衝突した被災地に、いったい何人の王族が足を運んだというのか?

トライデント城で働いている人間の、誰ひとりとして、手足を失ったり、病気になっていないことからも、答えは明白だった。

いい面の皮だ・・・



「きっとお母さんも、国民を救うために必死だったんだと思うよ」

ミグは、ルヴェリエを傷つけまいと、時間をかけて言葉を選び、優しい口調で話した。

「でも・・・何の罪もない他の星の人々を襲って、物資を集めさせていたなんて・・・」

彼の圧倒的な哀しさの前に、ミグは返す言葉がなかった。

どうすればいいか分からない。

するとルヴェリエがミグにしがみついて泣き出した。

ミグは一瞬動揺したが、やがて黙って少年を抱きしめた。

――私もデニスのように順調に人生を歩んでいたら、これくらいの子がいてもおかしくなかったんだなあ・・・

ルヴェリエの背中をなでながら、ミグは思った。

――もし自分に子どもができたら、この子みたいな子が欲しいなあ・・・

しばらくすると、ルヴェリエが涙を拭いて顔を上げた。

「すいません・・・こんなみっともないところを見せちゃって・・・」

「気にしないでいいよ・・・」

「あの・・・このことは・・・」

「だいじょうぶ。誰にも言わないよ」

ミグが微笑んだ。

「・・・さて・・・キャプテン・ロジャーがリンドバーグ号を返してくれるそうだ。
いつでも出発できる」

「それで僕はどこへ行けばいいんですか・・・?
僕の目的地はここだったんですよ」

「それなら・・・次の目的地を見つければいいんじゃないかな」

ルヴェリエが赤い目でミグを見つめた。

「とにかく、私たちは準備が整い次第、行くよ・・・」

ミグが立ち上がった。

「ミグさんたちは・・・?」

「ノーチラス号を倒します・・・海王星を救わなくては・・・」

「なんで海王星人でもないミグさんがそこまでするんですか?」

「王子と約束したじゃないですか」

「で、でも・・・」

「それに・・・前にも言ったけれど・・・私は過去に決着を付けなければいけないんだ。
海王星をこんな状況にしたのは、私の責任でもあるから・・・」

「え・・・?」

ミグは勇気を出して、覚悟を決めた。

「あなたに打ち明けるのがずっと怖かった・・・
でもここで別れるのなら、勇気を出して告白します」

ミグはルヴェリエをまっすぐに見つめて、真実を告げた。

「私の名はミグ・チオルコフスカヤ。
冥王星の軍人。
海王星の隕石衝突を止められなかったチオルコフスキー将軍の娘です。
そして・・・テロリストのノーチラス号強奪に手を貸してしまった・・・」

「ミグさんが・・・」

「私には償いきれないほどの罪がある。
その罪を少しでも償いたいから、私は戦う・・・」



東の海の最も東に、その小さな港町――モラモラはあった。

空はすっかり暗くなり、港町で唯一の酒場は周囲にほのかな明かりを灯していた。

「キャプテンドレイク?知らねえな?」

ジョッキにビールを注ぐ店主がぶっきらぼうに答えた。

「なにせ、この店はキャプテンだらけだ。あいつもキャプテン、そいつもキャプテン・・・
わかるか?ここは漁師町なんだよ。あんたみたいな上品な紳士が背広来てくるようなところじゃねえんだ」

すると突然散弾銃を構え、店の奥に怒鳴った。

「てめえら!喧嘩なら店の外でやりやがれ!」

「そうですか・・・」

ピカールが店主に笑顔で礼を言うと、カウンターで飲んでいた若いカップルがピカールに声をかけた。

「それってジョニー・ドレイクのことじゃない?」

「ああ、あの爺さんか。それならあそこの席で呑んでるぜ」

カップルはバルコニーを指差した。

ピカールはにんまりと笑った。



海岸が見えるバルコニーで、アロハシャツを着た老人は他の客に絡んでいた。

「ふ~ん・・・で、じいさんが偉大な船乗りって証拠はあるのか?」

「わしはな、あの海の魔物クラーケンを倒したんじゃ。
正真正銘の化物じゃ。やつは海の中のように空を泳ぐんじゃ」

「じゃあ空の魔物じゃねえか・・・」

「それにな、やつはお前さんの漁船を30隻並べたくらい巨大じゃったぞ。
こ~んなにでかい!」

老人は両腕を広げた。

「それであんたの船は一体どこにあるんだ?桟橋には見えねえが・・・」

「それが情けないことに、手形の不渡りで差し押さえられてしまったんじゃ・・・」

「そりゃ残念だ。手形詐欺にはくれぐれも気をつけるよ」

老人の話にうんざりした他の客は席を立ち、店の中に入っていった。

「待て!わしの話は本当じゃ!だからビール代をおごってくれたっていいじゃないか!」

「そういう話は老人ホームで言いな」

「まったくなんて連中じゃ!海王星の海の男もおちたもんじゃ・・・」

老人がブツブツ文句を言っていると、老人のテーブルにピカールが椅子を持ってきて座った。

「相席よろしいですか?」

「なんじゃお前さんは。わしは海の男としか話さん。帰ってくれ」つっけんどんに老人。

「ビールをおごらせてください」

「聞こう」



「海の墓場・・・?あすこは海賊たちの聖域じゃぞ」

ジョッキを傾けながら老人は答えた。

「ええ・・・この星の生き字引であるあなたなら、場所を知っていると思いましてね・・・」

「20年ほど前、隕石が落ちた時に行ったきりじゃ。あの海域の正確な座標は覚えとらん」

「なぜ?」

「必要がないからだよ。あんなところ、もう二度とごめんじゃ。
あすこは、もともとローレライ・・・“魔の三角海域”と呼ばれていたところで、数々の船が沈没しておった。
あの海域に入ると、特殊な電磁場によって計器は全て狂ってしまう。
コンパスもGPSもなにからなにまでじゃ」

「そこに行くために何か手段はないでしょうかね」

「ないな。残念じゃが」

そう言うと、老人は空になったジョッキに目をやった。

「ああ、失礼・・・」

ピカールは店員を呼び止めた。

「こちらさんにビールをもう一杯。私は・・・水で結構です」

老人は目を細めて話を続けた。

「まあ手段がないわけじゃない。例えば、ジャイロコンパスならコマの回転運動を利用するわけだから、電磁場の中でも方角を見誤ることはないぞ」

二杯目のジョッキを受け取る老人。

ピカールの前には氷水が置かれた。

「だが・・・なにしに行くつもりじゃ。あんたの歳じゃ墓場に入るのはまだ早いじゃろう」

「実は、あの海域に落ちた隕石が欲しいのです」

「隕石じゃと?あんた、あれをサルベージする(海底から引き上げる)つもりかね」

「ええ」

「なるほど、読めたぞ。おたく学者じゃろう。学術調査か。そんな気がしておった。
だが、それは難しいぞ。相当腕のいいサルベージ船を雇うことじゃな」

「紹介して頂けませんかね?」

老人は笑った。

「たかが石ころのために命をかけるバカがどこにいるかね!
わしが知る限りそれは一人しかおらんよ!」

「ほう・・・それは誰です?」

老人は二杯目のビールを飲み干すと、再び空のジョッキに目をやった。

「いい加減にしろジジイ。それ以上は体に毒だ」
ナッシュ・ストライカーが老人のこめかみに銃を突きつけた。
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