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右手を懐に突っ込んで何やら手紙のようなものを取り出した十夜が俺に向かって言った。
「朔よ、今週の末に集まりがあるのだが付き添ってはもらえないだろうか。どこで聞きつけたのか知らぬが、みなが朔を見たいと言うのだ」
「えぇ……」
長いこと引きこもってた人間にいきなりハードル高すぎるだろそれ。
「心配しなくても集まるのは人間ではない。神だ」
嫌なら無理にとは言わない、と十夜は言った。
でも、神様の集まりなんてちょっと見てみたい気持ちもあってつい「ちょっとだけなら行ってもいいかなー」って言ってしまったらすごく嬉しそうな顔されたから後に引けなくなってしまった。
何だかんだで、集まりの夜になってしまった。
今日はパーっと飛んでくんじゃなくって徒歩。
この間十夜が一人で出かけたのは全国の神様が集まる年一の集会。
今回はご近所の親しい神様達の気楽な飲み会なんだって。
黒さんが先導する提灯の明かりだけが頼りの真っ暗な道を十夜に手を繋がれて歩く。
あの日を思い出してしんみりしてしているうちに提灯の並ぶ明るい通りに出て宴会の会場に着いた。
料亭みたいな感じのなんとか楼って書いてる看板と提灯で囲まれた古めかしい立派な建物の中に入っていく。周りも通りに沿って提灯のお店が並ぶ。時代劇で見た吉原みたい。
思ったほど化け物みたいな人はいなくてそれでもじろじろ見るわけにも行かず十夜の後を俯いて歩く。
怖かったら黙って十夜の後ろに隠れてればいいし、途中で帰ってもいいと言われたからそうすることにした。
きっと誰とも目を合わせられないで終わると思う。
いつもの着物より袖が長くて白っぽい着物と青みがかった濃い灰色の袴で髪も後ろで結んでとても立派に見える。
俺も綺麗な色味の着物と袴を着付けてもらって髪もきちんと櫛を通して後ろに流して目元に紅まで差されてしまった。
神様たちによる会合は思ってたよりライトな感じの飲み会だった。
部屋いっぱいの神様が飲んだり食べたり喋って歌って、一度だけ参加したブラックの会社の飲み会とそう変わらない雰囲気だ。
俺たちが着いた頃にはすでにみんな出来上がってた。広い板間の部屋にそれぞれの神様の前に膳が置かれていた。
十夜は近くの神様に声をかけたくらいで俺を連れて隅の方に座り込む。正座、と思ったけどやめてやっぱりあぐら。葬式が終わった後の大惨事を思い出すと俺は二度と正座なんてしないほうがいいと思う。
すぐにやってきた女中さんが二人分の膳を目の前に置いてくれた。
神様たちは別に難しい話をするわけでもなくただ集まって酒飲んでくだ巻いてるだけ。
狐の面を被った神様っぽい人の隣に白い長い髪の女の子がいる。赤い肌のデカい人の肩に掌サイズの小鳥が乗ってたりするのも、綺麗な男の人と女傑っぽい人とかどっちが神様で伴侶なんだろうか。
その間を忙しなくたすき掛けの女中さんが新しい膳を運んだり、徳利を追加して回る。
伴侶を連れた神様はどこか自慢げでどの組み合わせもぴったりと寄り添って仲がよさそうだ。
十夜の隣に張り付いてる俺も仲がよさそうに見えるんだろうか。
神様たちのこのシステムなんなんだろう。ファーストレディ的な?
隣の神様と話しながらちびちびお酒を飲む十夜の隣で小さな串焼きみたいな何かをかじりながらこっそり周りを見渡していた。甘辛いタレの、貝かな?これ美味しい。
「十夜、それがお前の伴侶かえ」
急に近くで声が聞こえてビクッとして串を落としてしまった。
「見せておくれ」
「どれ、ほう……」
十夜の後ろで縮こまってる俺を囲んで覗き込まれてるけど俺は顔を上げられない。挨拶したほうがいいの?
できる限り小さくなってたらくるりとこちらを向いた十夜の腕が背中に回って俺を抱き込んだのがわかった。
「まだ伴侶ではありません。このように恥ずかしがり屋なのです。どうかそっとしておいてやってください。すぐ怯えて隠れてしまいますのであまり連れては来れぬのです」
十夜が俺の背中を撫でて髪に口付ける。
「なんと、いじらしいこと」
「なるほど、十夜殿がなかなか見せてくれぬのはそのようなわけがあったのですな」
俺の周りから気配が消えてざわめきが遠ざかっていった。神様って物分かりいいな。
「朔、帰るか?」
見上げたら心配そうな十夜の顔。
俺は高速で頷いた。
いくらなんでももう少し耐えろ俺、と思うものの時々刺さる物珍しげな視線が痛い。悪気はないんだろうけど注目されることに慣れてない俺には苦痛でしかない。
長い廊下を歩いて階段を降り広い玄関まで十夜さんが連れてきてくれたら黒さんが待って居た。
十夜とお店の人に見送られて黒さんについて歩いた。
道中、黒さんに色々話しかけられたけどなんて聞かれたのかもなんて答えたのかも覚えてない。
ただ提灯の灯がゆらゆらするのをぼんやりみてたらそんなに歩いてもないのにいつのまにか屋敷についてた。
吾郎さんが迎えに出てくれて心配そうな顔で手を取って、楓さんと紅葉さんが風呂までついてってくれた。一人で入れるって入ってたけど溺れてないかが心配みたいでたまに覗きにきてた。
ろくに食べられなかったと言ったら鯛の入った雑炊を出してくれた。
染みる。
腹が膨れた俺は十夜の帰りも待たずに寝てしまった。
十夜は昼過ぎに帰って来た。先に帰っててよかった。泊まりとか無理。
「朔よ、今週の末に集まりがあるのだが付き添ってはもらえないだろうか。どこで聞きつけたのか知らぬが、みなが朔を見たいと言うのだ」
「えぇ……」
長いこと引きこもってた人間にいきなりハードル高すぎるだろそれ。
「心配しなくても集まるのは人間ではない。神だ」
嫌なら無理にとは言わない、と十夜は言った。
でも、神様の集まりなんてちょっと見てみたい気持ちもあってつい「ちょっとだけなら行ってもいいかなー」って言ってしまったらすごく嬉しそうな顔されたから後に引けなくなってしまった。
何だかんだで、集まりの夜になってしまった。
今日はパーっと飛んでくんじゃなくって徒歩。
この間十夜が一人で出かけたのは全国の神様が集まる年一の集会。
今回はご近所の親しい神様達の気楽な飲み会なんだって。
黒さんが先導する提灯の明かりだけが頼りの真っ暗な道を十夜に手を繋がれて歩く。
あの日を思い出してしんみりしてしているうちに提灯の並ぶ明るい通りに出て宴会の会場に着いた。
料亭みたいな感じのなんとか楼って書いてる看板と提灯で囲まれた古めかしい立派な建物の中に入っていく。周りも通りに沿って提灯のお店が並ぶ。時代劇で見た吉原みたい。
思ったほど化け物みたいな人はいなくてそれでもじろじろ見るわけにも行かず十夜の後を俯いて歩く。
怖かったら黙って十夜の後ろに隠れてればいいし、途中で帰ってもいいと言われたからそうすることにした。
きっと誰とも目を合わせられないで終わると思う。
いつもの着物より袖が長くて白っぽい着物と青みがかった濃い灰色の袴で髪も後ろで結んでとても立派に見える。
俺も綺麗な色味の着物と袴を着付けてもらって髪もきちんと櫛を通して後ろに流して目元に紅まで差されてしまった。
神様たちによる会合は思ってたよりライトな感じの飲み会だった。
部屋いっぱいの神様が飲んだり食べたり喋って歌って、一度だけ参加したブラックの会社の飲み会とそう変わらない雰囲気だ。
俺たちが着いた頃にはすでにみんな出来上がってた。広い板間の部屋にそれぞれの神様の前に膳が置かれていた。
十夜は近くの神様に声をかけたくらいで俺を連れて隅の方に座り込む。正座、と思ったけどやめてやっぱりあぐら。葬式が終わった後の大惨事を思い出すと俺は二度と正座なんてしないほうがいいと思う。
すぐにやってきた女中さんが二人分の膳を目の前に置いてくれた。
神様たちは別に難しい話をするわけでもなくただ集まって酒飲んでくだ巻いてるだけ。
狐の面を被った神様っぽい人の隣に白い長い髪の女の子がいる。赤い肌のデカい人の肩に掌サイズの小鳥が乗ってたりするのも、綺麗な男の人と女傑っぽい人とかどっちが神様で伴侶なんだろうか。
その間を忙しなくたすき掛けの女中さんが新しい膳を運んだり、徳利を追加して回る。
伴侶を連れた神様はどこか自慢げでどの組み合わせもぴったりと寄り添って仲がよさそうだ。
十夜の隣に張り付いてる俺も仲がよさそうに見えるんだろうか。
神様たちのこのシステムなんなんだろう。ファーストレディ的な?
隣の神様と話しながらちびちびお酒を飲む十夜の隣で小さな串焼きみたいな何かをかじりながらこっそり周りを見渡していた。甘辛いタレの、貝かな?これ美味しい。
「十夜、それがお前の伴侶かえ」
急に近くで声が聞こえてビクッとして串を落としてしまった。
「見せておくれ」
「どれ、ほう……」
十夜の後ろで縮こまってる俺を囲んで覗き込まれてるけど俺は顔を上げられない。挨拶したほうがいいの?
できる限り小さくなってたらくるりとこちらを向いた十夜の腕が背中に回って俺を抱き込んだのがわかった。
「まだ伴侶ではありません。このように恥ずかしがり屋なのです。どうかそっとしておいてやってください。すぐ怯えて隠れてしまいますのであまり連れては来れぬのです」
十夜が俺の背中を撫でて髪に口付ける。
「なんと、いじらしいこと」
「なるほど、十夜殿がなかなか見せてくれぬのはそのようなわけがあったのですな」
俺の周りから気配が消えてざわめきが遠ざかっていった。神様って物分かりいいな。
「朔、帰るか?」
見上げたら心配そうな十夜の顔。
俺は高速で頷いた。
いくらなんでももう少し耐えろ俺、と思うものの時々刺さる物珍しげな視線が痛い。悪気はないんだろうけど注目されることに慣れてない俺には苦痛でしかない。
長い廊下を歩いて階段を降り広い玄関まで十夜さんが連れてきてくれたら黒さんが待って居た。
十夜とお店の人に見送られて黒さんについて歩いた。
道中、黒さんに色々話しかけられたけどなんて聞かれたのかもなんて答えたのかも覚えてない。
ただ提灯の灯がゆらゆらするのをぼんやりみてたらそんなに歩いてもないのにいつのまにか屋敷についてた。
吾郎さんが迎えに出てくれて心配そうな顔で手を取って、楓さんと紅葉さんが風呂までついてってくれた。一人で入れるって入ってたけど溺れてないかが心配みたいでたまに覗きにきてた。
ろくに食べられなかったと言ったら鯛の入った雑炊を出してくれた。
染みる。
腹が膨れた俺は十夜の帰りも待たずに寝てしまった。
十夜は昼過ぎに帰って来た。先に帰っててよかった。泊まりとか無理。
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