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2章 華栄の君に告ぐ
入学式
しおりを挟む時は流れプラナ・スターチスこと私は14歳になっていた。この国では14歳を迎えた貴族の子女は王立フロウル学園へ入学することになっている。
今日はその入学式の日であった。
馬車に揺られて学園へ向かう。学園へは馬車で40分ほどである。馬車はカタカタと揺れ、学園へ向かっていた。途中に同級生となるのだろう令嬢、令息の乗った馬車とすれ違う。夜会で見たことのある家紋だ。
(…あれ?)
ふと同じ制服を着ているにも関わらず、馬車に乗らずに歩いている少女が目に入った。
この国では珍しいピンクがかった赤毛の少女だ。夜会でもそんな髪色をした家も令嬢も見たことがなかった。
「ちょっと馬車を止めて頂戴」
御者にそう言って馬車を降りて少女に近づいた。
「貴女、なぜ歩いていらっしゃるの?」
そう少女に話しかける。すると少女は驚いたような顔をした。
「プラナ…?」
そう少女が呟く。まるで古い友人に会ったかのような態度に驚き、慌てて脳内で思考を巡らせる。
(誰?どこであったの?公爵令嬢を呼び捨てにするなんて…相当良い家柄の令嬢?)
そんなことを必死に考えていると少女がハッとしたように答える。
「申し訳ございません!親しくも無いのに…私はアリア・シーネリアと申します!私の家は貧しく馬車を持っていないので、歩いて学園へ向かっておりました!」
(馬車がないような貴族が王都にいるものなの?)
そんなことを疑問に思う。王都には国政に密接に関わるような有力貴族しかいないはずだ。辺境の貴族は、学園内の寮を利用するため今日学園外ですれ違うのはそれなりに権力を持った有力貴族であるはずなのだ。
「…ここからはまだ距離がありますから私の馬車に乗っていきませんこと?」
そう言って微笑む。学園への入学が許されたということは少なくとも素性の怪しい人物ではないということだ。それならば未来の王妃としても丁寧な対応をした方がいい。
「えっ…プラナ様が?」
少女はさらに驚いたような顔をする。今度は敬称をつけるのを忘れなかったらしい。
「よろしいんですか?」
遠慮がちに少女がいう。
「もちろん」
そう言って少女に微笑みかけ、馬車に乗り込むと少女も馬車に乗り込んだ。少女は戸惑いの浮かんだ表情をしていたが、
「今日から同じ学園に通うんですもの、遠慮しないでちょうだい」
と言って笑いかけると
「お気遣いありがとうございます。今日からよろしくお願いします」
と言って微笑んだのだった。
「ーー有意義な学園生活であることを願う」
そう言って私の婚約者でありこの国の第一王子でもあるロベルト・コリウスは新入生挨拶を終える。
5歳の頃から綺麗な顔立ちをしていたが、現在では身長も伸び「白馬の王子様」の絵のように美しい少年となっていた。
(さすが王子…かっこいいなぁ…)
資金が欲しいが為に婚約者となったため今でも恋愛感情を抱くことはなかったが、その美しさには感動を覚える。もちろんプラナも美しさは変わらず成長を遂げているが、やはり自分よりも他人の美に感動するものなのだ。
社交界でも2人はお似合いのカップルと持て囃されている。金の髪の王子と、対をなすような白銀の髪を持った麗しき令嬢は社交界の華であった。
王子が壇上から降りてくる。その姿に多くの令嬢が見惚れている。
(ん?)
その中に1人他の令嬢とは違った表情をしている女子生徒を見つけた。アリアだ。ぽうっと頬を染めたかと思えば俯いて何かを呟いたり、そうかと思えばキョロキョロと周りを見渡して青ざめたり、百面相をしている。はっきり言って挙動不審だ。
(何を見て青ざめたの?)
そんな疑問が浮かびアリアの視線を追う。その視線の先には男子生徒がいた。アリアは数人の男子生徒を交互に見ては青ざめているらしい。
(あれは…)
彼らの名前を思い出す。
1人目 ロベルト・コリウス
この国の第一王子であり私の婚約者。
金色の髪に翡翠色の目の少年。
幼い頃から優秀な成績を残しており人望も厚く、将来を期待されている。
2人目 ユリウス・クローバー
宰相の息子。
菫色の髪にルビーのように赤い目をした少年。
大人しく謙虚であるが優秀で将来父のように優秀な宰相になると予想されている。
3人目 レオン・サントリナ
伯爵家の四男。
水色の髪に灰色の目をした少年。
伯爵のくらいではあるが祖母が隣国の姫であったため権力が強く、伯爵家の中で最も有力。レオン本人は女顔ではあるが日上に整った顔をしており、家格も相まりよくモテる。
4人目ジニア・シャガール
侯爵家の次男。
赤い髪に金の瞳をした少年。
シャガール家は代々騎士をしておりシャガールも武術に長けているという。
5人目セリム・ブバルディア
ブバルディア伯爵家の1人息子。
白髪の少年で左目にモノクルをかけている。瞳の色は右が鮮やかな青で左目は薄い水色をしている。肌も抜けるように白い。身体が弱いらしくパーティーでは殆ど見ることはなかった。
父は研究者、母は医者であり、本人も実験好きだと聞く。仲良くなれそう。
アリアの視線を追って誰を見ているのかを思い出す。
(あれ…誰だろう…)
知らない顔に困惑する。パーティーで見たことがないと言うことは家格が低く、辺境からやってきた令息なのだろう。
1人は深緑の髪を1つに結んでブラウンの瞳をした少年で、もう1人はふわふわしたピンク色の巻毛に赤い目をした少年だった。
そこでふと不安げな顔をした理由に思い至る。
(確かに人間離れしたカラーリングよね!)
アリアがながめていた人物はこの国でも滅多に見ない独特な髪や目をしていた。前世で日本のオタク文化を知っていたからこそ
(この世界ではそういうもんなのね)
と受け入れていたがパーティーに出席したことがないのなら物珍しいものに戸惑うのにも合点がいく。
…この推理は全くの的外れなのだが、この時のプラナには知る由もなかった。
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