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2章 華栄の君に告ぐ
その7 舞踏会
しおりを挟む美しい音楽が響いており、色とりどりの花のように美しい装いをした令嬢と、いつもよりか幾分凛々しく見える令息が会場に集まっている。
今日は学園の舞踏会だ。
ある者は食事を楽しみ、ある者は話に花を咲かせ、ある者は舞踏に興じている、というように普段の夜会とは違い、各々の自由に楽しんでいるようだ。
プラナも瞳と同じ群青のドレスを着て舞踏会に参加していた。
(いつもならロベルト様の側に居なければいけないのだけれど、流石に学園の舞踏会は自由ね…)
普段の「未来の王妃様」という立ち位置から離れて舞踏会を楽しむのもなかなか悪くなかった、というか楽しい。
(…っと、そろそろアリアを探さなきゃ!)
プレッシャーのない舞踊会の新鮮さに心を躍らせてふらふらと歩き回っていたが、アリアが帰ってしまったりしては困るのだ。
アリアは何処かとあたりを見回す。
ところが、アリアの姿が見つからない。
(えええ!?もういないの!?まだ始まって1時間位じゃない!……ん?)
カーテンがゆらりと揺れた。
よく見ると誰かのドレスとピンクがかった赤毛が見えた。
アリアがまだ会場にいることにほっとしつつ声をかける。
「こんなに隅の方で何をしてらっしゃるの?」
アリアが驚いて肩を跳ねる。
「ぁ…プラナ様…」
アリアは目を泳がせている。
これまでの態度を鑑みるに気が弱いのだろう。それにきっと人見知り…というか、あまり人と関わるのが得意ではないのだろう。
「えへへ…私の家、普通のお家だから、ドレスなんて無くて、あんまり綺麗じゃなくて…」
アリアがはにかみ笑いで言う。
確かに、ほかの令嬢のように何重にもフリルが重なっていたり、キラキラと光る宝石が散りばめられたりしていない。
よく言えばシンプル、悪く言えば地味なドレスだ。
「そんなことないわ、とても似合っているわ」
(…あれ?地味なドレスが似合うって褒め言葉になってないんじゃ?)
疑問が浮かんだが、本当にアリアのドレスは似合っている。
桜色のドレスはアリアの持つ雰囲気と合わさり、清純な花の精霊のようにも見える。
「そうですか?そう言っていただけて嬉しいです」
アリアはそう言って微笑んだ。
(そもそも、顔も可愛いのよね…)
プラナは美人と形容されることが常だったが、アリアは可愛いと形容されるタイプだろう。
丸くて大きな目、長い睫毛、少し下がった眉それにさくらんぼのように紅くぷるりと潤った唇、柔和な笑顔。
(可愛い…)
マジマジとアリアを見つめているとアリアが困ったような顔をした。
「あの…?何か御用でしたか?」
その言葉で我に帰る。
「…ゲームの件」
短く伝え、バルコニーを見やる。
バルコニーには誰も居ないようで、秘密の話をするには丁度いいだろう。
「…それで、このゲームの概要が知りたいんだけど」
「あ~!そうなんです!ずっと伝えたかったんですけど、なかなかタイミングがなくて」
アリアはにこにこしながらゲームの内容を語ってくれた。
「話を纏めると、アリアが主人公で、私は悪役令嬢、ロベルト、ユリウス、レオン、ジニア、セリム、それに緑の髪のニゲラ・フリージア、ピンク色の髪をしているストック・ローズリップが攻略対象なのね?」
思ったよりも攻略対象が多い。乙女ゲームとはこんなものなのかなどと思いながらアリアに確かめる。
「そうです!その、プラナは全ルート共通の悪役で…」
(とんでもない女じゃねーか!!)
我がことながら頭が痛い。
なぜ庶民というだけでいじめられるのか。
「悪役令嬢のプラナは庶民が同じ学校にいることが気に食わなくて追い出そうといじめをする、と」
「はい…」
なぜかアリアは申し訳なさそうにしている。
話している相手と同姓同名、どころか顔と立場まで一緒となれば糾弾しているような気持ちにもなるのだろうか。
そこでふと思いつく。
「ねぇアリア、貴女の推し、というか、今気になっている人はいるの?」
軽口のつもりだった。ただの好奇心だった。
アリアは目を伏せて絞り出すような声で答えた。
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