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海が綺麗ですね。

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 走り続けてどれ程経っただろうか、けれどそんな事はどうでもいい。
 今はとにかくアイツから離れたかった。

 「はぁ……はぁ…。」
 
 どこかも分からずに腰を下ろす。

 (疲れた…このまま寝たい…。)

 しかし、そんな事が許される筈なく、左右から大勢の足音が聞こえてきた。

 「よぉ~、サシマ、久しぶりだな~。」

 右方向から金属バットを持ったリーダーらしき男が喋り出した

 「………誰だ。」
 「っ…この野郎!忘れてやがったか!
 俺は一ヶ月前、お前に腕を折られた立石たていしだよ!!」

 立石……そんな奴に覚えはないが、誰かの腕を折った記憶は薄っすらある
恐らく、一ヶ月前に学園を夜のうちに抜け、街に出た時にやったのだろう

 そこで思い出した。

 「あー、お前あん時の……。」
 「やっと思い出したか!」
 「あん時、腰抜かして端っこでチビってた奴だろ。」
 「!!!」

 俺はあの夜、コイツは今同様絡んできて、自分の仲間が俺一人に倒されているのにビビり、腰を抜かして端っこで小便を漏らしていたのだ。

 全員を片付け終わった後にコイツの前に行くと、助けてくれと意味の分からない事を言っていたので腕を折った。

 「お前らがここの生徒だとは思わなかった、随分老け顔だな。」

 本当は留年でもしているF組だろうと検討はついていたが、わざと挑発するような言葉を選んだ。

 「っ!ふざけんな!喧嘩売ってんのか!!」
 「なんだよ、事実だろ?どうせ1年かそこら留年してんだろ?」
 「うるせぇ黙れ!!!おいお前ら!やるぞ!!」

 それを合図に一気に襲いかかって来る、あの夜より人数が増えている事には気付いているが、別にどうってこと無い。

 それに

 (体を動かしてると、何も考えなくてすむ…。)















************





 「はあ…。」

 どれくらい経ったか、とにかく殴って蹴って締めて倒してを繰り返しているうちに、またしても残ったのはリーダーらしき男だけだった。

 「ひっ!ちょ、ちょっと待ってくれ、わ、悪気はなかったんだ、ただその…ストレスが溜まってたって言うか…。」

 男の右腕に手をかける。

 「どうでもいい。」

 ボキッ

 その頃には、男の名前など覚えては居なかった。


 気絶した奴らを放って立ち去ろうとしたら

 「おい。」

 後ろから声をかけられた。

 「お前、コイツら放っていくつもりか。」

 そこには、似合わない白衣を着た、あご髭が少し生えている眼鏡を掛けた煙草を咥えたおっさんだった

 「………なんか言えよ。」

 痺れを切らしたのか、眉間にシワを寄せそう言った

 「すんません。」
 「いや別に謝ってほしいとかじゃなくて……あー、もういいや、それよりコイツら運ぶの手伝ってくれ。」
 「?、どこに…あっ……。」

 よく見ると、おっさんが出てきた場所は保健室と書いてあった。

 「お前…気付かずにやってたのか。」
 「………。」

 なんとなく恥ずかしくなり、顔を背ける。

 「まぁいい、ほら、サッサとやるぞ。」
 「…はい。」

 そして、俺は何故か自分でボコボコにした奴らを保健室に運んだ。

 

 その後、全員運び終わって、保健室を黙って出ていこうとした。

 「おい、待て。」

 再び呼び止められる。

 「何か。」
 「何かじゃねぇよ、お前も怪我してんだろう、こっち座れ。」
 「いえ、慣れてるんで大丈夫です。」

 実際怪我には慣れている、自室に戻れば救急箱があった筈だ

 「それじゃあ」

 しかし、おっさんは素早く扉の前まで来ると、道を塞いだ

 「……退いて下さい。」
 「断る、大人しく治療を受けろ。」
 「…………そもそも、アンタ保険医じゃないだろ?」
 「なんだ、知ってたのか。」

 そう、このおっさんは保険医ではない、にも関わらず我が物顔で保健室にいる。

 「まぁ、そんな事は気にすんな、俺は井伊端いいばだ、覚えとけよ。」
 「そこを退いてくれたら覚えてるかもな。」
 「おい、敬語が抜けてんぞ。」
 「敬語は敬う相手には使うもんだろ?」
 「クソガキめ…とにかく、その傷だらけの顔治すぞ。」

 そう言って、俺の腕を掴む

 「っ!触んな!!」
 「!!」

 掴まれた腕を思いっきり振り払う。

 (ああ駄目だ、いつもならこんなに動揺しないのに。)

 那ノ原とあんな話をしたせいだ。

 「………。」

 無言のまま、保健室を出た。

 今度は、声をかけられる事はなかった。























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