悪役令嬢、冒険者になる 【完結】

あくの

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第一章

王都までの途中で

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 「な……」

エドは完全にぼられたと思っていたのがマドレーヌは掘り出し物を見つけていたわけで。エドはこの少女の儚げな見た目と裏腹なたくましさを感じ取った。

「その形式のマジックバッグは持ち主と結びつくの。持ち主の血が契約の証ね。これは初期型だから契約の解除は出来ないけど、持ち主が死んだらさっきみたいな状態、古びた皮のポシェットになってしまうの」

「そんな高価なもの……」

マジックバッグは庶民が気軽に買えるような値段の鞄ではなかった。

「二つで銅貨50枚、よ?」

マドレーヌはあっけらかんとしている。

「本かったら楽に持って帰れるとおもうんだけど?」

あくまでマドレーヌはお気楽だ。そしてエドは思う。確かにこの鞄があれば村に帰る時に十分な物を持って帰れると思った。鞄が自分の支配下になったとたん、この鞄はやや大型で中型の馬車一つ分の荷物が入る、とわかったのだ。

「……ありがとうございます」

エドは通訳の支払いとしては過分に貰いすぎたと思っている。が、今を逃すとこんなものは手に入らないのだという惜しさもあり逡巡したのち受け入れたのだ。

「あの店主はこの鞄の価値が判らなかった。だから銅貨10枚のものを銅貨50枚で売れて得をしたと思ってるし、我々は鞄の価値を見抜いてマジックバッグを手に入れた。取引、取引」

エドは疑問を口にした。

「マドレーヌ嬢、……えらく世慣れてますね?」

「ああ、私子供の頃に1年間、冒険者として暮らしたから。正確には冒険者集団ギルドの子供として、だね。だからこの国の貨幣価値もだいたい予測がついてきた。我が国の硬貨はこの国の硬貨よりかなり大きいのも分かった」

そう、金の粒に変えた時に、預かった金貨、銀貨ともこの国の貨幣より大きかったのだ。

「その上で預けた硬貨は金、銀共に含有量が高いの。それを鑑みてもあなたが使った両替商人はとても真面目な仕事をしたと思う」

マドレーヌの判断は正しい。エドが使ったのは普通の『銀行』であった。ただ、窓口が村の出身者だった、ということだ。街の出身者だったら2割は手数料取られたな、とエドは思ったが口にはしなかった。そして村の人間を褒められたようで少しくすぐったかった。


 翌朝、宿の女将が昼ご飯にお弁当を作ってくれる。『普段は御者の人にこれ、売ってるんだけど……』言いながら馬車の乗り場まで着いてきて、それを渡しながら『村の子だからちょっと面倒みてやって』と伝えていた。
 今日は馬車はあまり混んでおらず、結構好きに座れた。途中の休憩地、ここは冒険者も利用する草原の中にぽつんとある休憩ポイントであった。

「昼飯はここで取るよ。少し体伸ばしたりするといい」

御者はなにくれとなく気を配ってくれる。エドは御者と話している。あの女将は村の子が乗る時はいつも弁当をタダでくれる、と。他の宿でも己の村の出身者がくるとそう言う事があるので毎日お昼がタダになる時期もあるぞ、などと他愛のない事を話す。
 ふとみるとマドレーヌがいない。エドが立ち上がると草原の草の中にマドレーヌがいた。

「ばっか、なにやってんだ」

と思ったらマドレーヌは手に短弓を持って立っていた。弓が発射された、と思ったら草原角ウサギを倒していた。兎を手に広場に戻った瞬間に一人の少年がマドレーヌに近づいた。

「あんた、冒険者?」

「残念ながら違うわね」

少年はたどたどしくはあるが大陸標準語で話しかけてきた。

「お願い、あるんだ」

マドレーヌは少し考えてエドを呼んだ。

「この子との間の通訳お願いできる?」

「もちろん」

少年は国の言葉で話しかけられあからさまにほっとしている。少年は、兎を売って欲しいということだった。冒険者ギルドの昇級試験で草原角ウサギを取りに来たものの最期の一匹が狩れずにもう4日ここいいるそうだ。結局銅貨25枚を次の街に着いたら払うという事で話をつける。

「兎はお金と引き換えね」

マドレーヌはそう言った。

「凍れ」

魔術の呪文を唱え兎を凍らせて、自分の足元に兎を置いた。


お盆休みに入りましたので23日まで更新頻度減るかも。できるだけ毎日更新したいです。
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