悪役令嬢、冒険者になる 【完結】

あくの

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幕間

正妃と側妃と 3

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 セイラ妃は何も言わず座っている。が、その実。側妃宮にかけている、祝福と豊穣の結界のチェックをしていた。この宮の中は清浄に保たれていて、数多いる王子や姫の護りも兼ねている。

 ここに結界をはったのは、セイラだがこの宮の中庭にある銀色の葉の樹の存在が肝であった。そこに住まう、王の守護者がみえる事、が王太子を決めるのだ。陛下もアルマン王子も最初の友達、がその守護者だったのだ。
 セイラ妃はその守護者が見え、そして意思疎通ができた。ミシェル妃もソフィア妃もそこになにかいる、と感じることは出来るらしい。
 この守護者が正妃がこの一帯に立ち入る事を拒否しているのでセイラ妃が修道院で覚えた豊穣と清浄の結界を張ったのだ。
 そして正妃はそれを自分の横にいる『聖女』の手柄だと喧伝した。それも国中に張ったと話を大きくした。セイラ妃に陛下は言った。君が張ったのだと言おうと。セイラ妃と守護者は拒絶した。『国中にこの結界を広げるには何年もかかるし結界の中に入れてはいけない邪悪を入れる事にもなる。側妃宮のような環境は先ず作れない。邪悪がいればそこから結界は解ける。そんなことも判らんか?』

エクトル陛下はしゅん、とする。幼い時からの友人に叱られたからだ。

『エクトルよ。良い事を国にしたいのはわかるし、それはエクトルの良いところだ。だがな出来る事と出来ない事をちゃんと理解しろ。……幸い今の時代は責めてくるような国は北だけだし、北は代々強い。だからこそ、エクトル、北の家を大事にしろよ』

銀の樹の守護者は飽きたのかふっと消えた。これも十年前後前の話だった。

 アルマンが飛ばされた後にセイラ妃と陛下は定期的に守護者にアルマンの生死を訊ねた。守護者の答えは南東の遠い遠いところにいる気配は感じると答えるがそれ以上が全く判らなかった。南東の遠国は交流もなく探す伝手も無かった。そう、秘密裡に探していたので冒険者ギルドを使う事も出来なかったのだ。

 そして今、辺境伯たちを取りまとめるグランサニュー公爵、前王の双子の弟から遊びに来いと各側妃と陛下に招待状が来た。グランサニュー公爵は守護者も見えていたし、魔力も前王以上だったのだがさっさと臣籍に降りた。守護者にすら『あいつに王族が勤まるわけなかろう』と言われ苛烈ですぐ火のつく性格だったので公爵はさっさと遠方の彼と相性の良い王領の一つを賜って、グランサニュー領として公爵に収まった。彼はその地に鉱山を見つけあっという間に領地を豊かにした。岩の多い、農地には向かない土地だったが公爵はコランダム結晶の鉱脈とダイヤモンドの鉱脈を見つけたのだ。
 グランサニュー公は都度都度その地に側妃を招き、雪遊びや水遊びをしていた。公爵の屋敷は湖のほとりにあり、子供たちを遊ばせるのにも丁度よかったのだ。そして公爵は銀の樹の小枝を挿し木にし、もう一本の銀の樹を小さな樹ではあるが生育させている。守護者はこの樹にも出てくることが出来る。ので、グランサニュー公爵邸は側妃宮と同じ結界で守られている。この数年、側妃たちの集まりが無かったのは前ベルティエ公爵から正式な抗議があったからだ。『正妃を仲間外れにするな』と。公爵は完全にへそを曲げて陛下達とも連絡を取らなくなり、表向きは静かに過ごしていた。
 北の侯爵を筆頭とする辺境伯が公爵を訪れ、偶に魔獣狩りに連れ出し毒気を抜いている事を陛下は知らなかった。公爵曰く『俺のスケジュールをあやつらに知らせてやる必要なんかないもんね』と。
 各辺境家にも銀の樹は挿し木されているがまだ守護者が飛ぶには小さかった。公爵邸の銀の樹が良く育ったのは公爵夫人の魔力のおかげだった。俗にいう緑の親指の強化版、というべき能力を持っていたからだ。貴族としてはあまり歓迎去れない能力、庭師に適した力と下に見られている能力だった。
 王弟だったころに集まった同年代の女子達の中で彼女だけが銀の樹に気が付いた。王子宮からはてっぺんの枝と葉っぱが少しみえるだけだったのだがその場所に人と思しき影が立っているのがみえたのだ。
 彼女は茶色の髪に緑の目、ドレスも茶系の地味な装いの少女だった。姉の引き立て役として一緒に来ていたらしい。

『……見えてる?』

王弟殿下に話しかけられて驚いたので反射的に正直に答えた。

『人がいらっしゃるようですが……』

そうやって二人は知り合い、幼いころからの『友人』として過ごし、公爵が27、奥方が24で結婚した。この国では女性は18、男性は22くらいまでが適齢期と思われている。口の悪い貴族たちの一部は『変人同士お似合いだ』と言っていた。
 その奥方主催の御茶会とおしゃべりのお誘いをいう形を取っていた。陛下への招待状は来てもいいが、正妃と恋人をおいてこい。うちの領地に黒魔術の気配を持ち込むなとはっきりと書かれていた。
 今、陛下の恋人と呼ばれているのは副メイド長で、正妃の手がそこまで回っているのかと陛下は溜息をつくばかりだった。


 魔獣狩りを終わらせて辺境伯達とベルティエ公爵はグランサニュー公爵邸に一足早く集まっている。銀の樹の横にテーブルを設え辺境伯とグランサニュー公爵、ベルティエ公爵は座っている。
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