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第三章

マリアンヌ

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 「どうやって帰ってきたんですか」

エリクがにこっと笑う。

「転移の羊皮紙さえあれば魔法使えるからね」

「……羊皮紙はどうやって手に入れた?」

ジェラールが警戒心満載になっている。エリクはにこっと笑って答える。

「ああ、ドニ神官長、じゃなくてドニ神官がちらりと見てて覚えて作ってくれた。ちなみにアル殿下に渡したのはベルティエ公爵家の中庭に出る奴」

「それも前神官長が?」

「そうだよ。あの人、一瞬見ただけのものも記憶してるみたいだね」

ガランと大きな音が聞こえる。ぴくん、とマリアンヌが顔をあげる。マリアンヌの大きな目がキラキラ光っている。

「呼んでる……、あの人が私を呼んでる」

誰も音など聞こえていないのでエリクとルカ以外は驚いている。マリアンヌは定期的にぴくんぴくんと顔を上げる。マリアンヌの瞳の光り方が尋常じゃない。ルカとエリクが目を合わせる。

「マリアンヌ嬢」

エリクがマリアンヌにはっきりと言い渡す。マリアンヌもまっすぐ受けた。

「はい」

「君、アレンと寝たね?何度も何度も」

マリアンヌはじっと動かない。

「子供が出来てると、普通なら考えるんだけど……」

エリクが言った。

「腹の中にマリアンヌ嬢の魔力反応以外の反応がある」

ウージェーヌは頭を抱える。部屋で二人きりにしたことはなかったが何度か二人きりで魔の森の浅い部分での散歩は許したし庭も好きに歩かせた。

「ただし、……アレンの方もアランと同じ処置をされていたと思うので、その腹の中の反応は君の中に注ぎ込まれた精だとも考えられる。……月の物は順調なのかな?」

エリクのずけずけとした物言いに部屋の女性陣は少し顔を赤くしている。

「マリアンヌ、ちゃんと言いなさい。思ってる事も、やった事も」

「おはあさま」

マリアンヌが泣きそうな顔になった。

「いかなきゃならないの。あの人が呼んでるから。ねぇ、女なら判るでしょう、ロゼ、ロクサーヌ様」

マリアンヌがおかしい事は一目瞭然だった。使用人達もかなり怯えている。

「ロクサーヌ様だって今は好きな人と同じ家に住んでるんでしょう」

ロクサーヌはじっとマリアンヌを見て落ち着いて言う。

「ネイサンは結婚まで私に手を出さないよ。私が大事だから。未婚で手を出して子供を仕込むようなことはしない。……アレンもそういう男じゃないと思ってたんだけど」

「アレン様は優しかったわ。家の中でみそっかすだった私を優しく尊重してくれたから……、私があの方に捧げられるものを捧げただけ。早く赤ちゃんが欲しかったから毎日夜に部屋に来てくれたわ。寝る時間から太陽が出るまでの間中、抱いてくれたわ。一晩中入れててくれたの」

マドレーヌが目を逸らすほどマリアンヌの顔は淫靡であった。

「エリク、ルカ……中心は」

「マドレーヌ嬢に移ってるな、コレ」

そう言った時にはルカとエリクの聖属性の力でマリアンヌを結界で覆って仕舞った。結界の中で何かの力が抗っているようでばしん、どしん、と音がしている。

「これは……内側から壊すつもりだったか」

フロランは自分の中にあるマリアンヌへの嫌悪感がここ最近酷くなったのは、マリアンヌの中にあるマリアンヌ以外の力に反応していたのかと悟っていた。

「昨日、三月、月の物がないと相談を受けました」

薄い、黒いヴェール越しにマドレーヌの祖母の声がする。

「ああ、それは……中心が移るわけだ。多分マリアンヌの腹に居るのはあいつらが待ち望んだ穢れた存在、落ちた神だ。……アレンとアランは女性にそれを孕ませる為の存在として改造された節がある。当人たちに自覚はないようだけど。アレンの場合は判らないけどアランの場合は7つ位から乳母にそういう手ほどきをうけていたそうだ。アランを連れ出したアランの祖父たちが滞在したのは狼国でも悪魔崇拝疑惑の高い高位貴族の家だとか」

エリクは静かに静かに爆弾を皆の真ん中に据えた。
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