悪役令嬢はヒロインと関わりたくない【完結】

あくの

文字の大きさ
57 / 65

引き取り手のない……

しおりを挟む
 フーシェ家の事で正妃様には軛が付き以前ほど辣腕を振るう事が出来なくなりました。その浮いた権力は伯父様と父様に集まって。二人とも逃げ回ってたんですけど……陛下がこの二人を自分の側近扱いしだしまして。学生時代からの側近だったエリク様のお父上以外の学生時代からの側近が軒並み妾妃様と関係があったとかむにゃむにゃでいないタイミングでしたし。ま、妥当な所でした。



 そして兄様主催のお茶会と称した私の見合いパーティが開かれました。誰の手を取る気もなかったんですが……ディオン団長から比較的真面目な申し込みがお茶会後、正式な手続きを経て我が家にありました。私にとっては晴天の霹靂です。

「可愛い義妹予定からの強い推薦もありましたしね」

二人きりの四阿でのお茶会でそう告げられました。

「私のどこがいいのですか?」

「ブランシュ嬢の中にブランシュ嬢じゃない誰かがいるのが見えてね」

ディオン様は不思議な瞳の色になる。少し緑掛かった金に近い茶色、という感じ。

「好奇心がそそられる。今まで中に誰かが居るのが見えたことはあるけど……アニエス嬢とかね」

あぁ、彼女転生者だものね。

「私の奥にもそんな状態の『なにか』があります。貴方やアニエス嬢ほど明確なものではないのですが……」

ここで急に話が変わった。

「ローランの物語のいくつかに私の中の何かが反応しました。灰をかぶった姫の話や長靴をはく猫の話、獣の頭の領主と美しい娘の話、千匹の毛皮と月のドレス、星のドレスの話、……初めて読むはずなのに懐かしかったのです」

えっと……あれ、せいぜいティーン向けで書いてなかったっけ?

「で、そんなときにアニエス嬢と貴女を見て多分中にいるのは『人』だと思ってます」

円を描くように話が戻った。

「何故そんなティーンが読むような本までよんでおられるのですか?」

趣味読書なのかしら?

「あ、……ただのローワン好きです」

とにっこりディオン様は笑う。ローワン、貴男が知ってる人ですよと私は言いたくなった。いわないけど。

「あのシリーズは画家の絵も楽しいですよね。長靴の猫の絵の方の猫が可愛くて」

「ブランシュ嬢もローワンがお好きで?」

「好きです。物語を読むのが大好きなので」

「ローワンでは何がおすきですか?」

私は初期の重めの騎士譚を上げた。

「いいですねぇ。私はダルタニヤン卿の冒険が好きですね。スカッと爽快ですし。友人の三銃士がまた良い」

しばらくそんな話をつづける。ディオン様はローワンの話は饒舌に話す。他の話はあまり得意ではないらしい。



 「偶にお話しに来たりお茶に誘ったりしてもよろしいですか?」

悪い人じゃなさそうだし。

「ええ。まずはお話するところから始めましょう。それが婚約につながるかどうかはわかりませんが私、ディオン様の事知りませんから」

私がじっと見るとディオン様はちょっと困った表情だ。

「昔からエリクの話に出てきてた方なので一方的に知り合いのようなつもりになってました。そうですね、私の事を知った上で判断はブランシュ嬢に委ねます。まずは名乗りを上げさせていただきます」

そのくらいなら、彼と話のは嫌ではないし。



 正式に北の大国からお断りされたアルベルト様は正妃様と陛下から1年の猶予をもぎ取りました。1年間、冒険者として働き一定の成績を上げられたら王籍から離脱せず王籍の末席でどこかの令嬢を娶る、この国には残る、という事を賭けたらしい。冒険者としてものにならなかったらつまり1年でD級を抜けられなかったら王籍を抜け、正妃様の親戚の男爵に養子に行きその男爵領の領主として生きる、という事になったらしい。
 シリル様がしばらく殿下に着いて少なくともまともな依頼が受けられるE級まで指導兼護衛をするという。シリル様はざっと書いた草稿を見せてくれた。

『一新米冒険者の日常』

という小説の原案だった。元王子の冒険者が何もわからないところから成長する話だそうで……。

「取材も兼ねてる、という事ですか?」

「もちろん」

私の質問に毒の無い本当の笑顔でシリル様は答えた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

竜帝に捨てられ病気で死んで転生したのに、生まれ変わっても竜帝に気に入られそうです

みゅー
恋愛
シーディは前世の記憶を持っていた。前世では奉公に出された家で竜帝に気に入られ寵姫となるが、竜帝は豪族と婚約すると噂され同時にシーディの部屋へ通うことが減っていった。そんな時に病気になり、シーディは後宮を出ると一人寂しく息を引き取った。 時は流れ、シーディはある村外れの貧しいながらも優しい両親の元に生まれ変わっていた。そんなある日村に竜帝が訪れ、竜帝に見つかるがシーディの生まれ変わりだと気づかれずにすむ。 数日後、運命の乙女を探すためにの同じ年、同じ日に生まれた数人の乙女たちが後宮に召集され、シーディも後宮に呼ばれてしまう。 自分が運命の乙女ではないとわかっているシーディは、とにかく何事もなく村へ帰ることだけを目標に過ごすが……。 はたして本当にシーディは運命の乙女ではないのか、今度の人生で幸せをつかむことができるのか。 短編:竜帝の花嫁 誰にも愛されずに死んだと思ってたのに、生まれ変わったら溺愛されてました を長編にしたものです。

転生ヒロインは不倫が嫌いなので地道な道を選らぶ

karon
ファンタジー
デビュタントドレスを見た瞬間アメリアはかつて好きだった乙女ゲーム「薔薇の言の葉」の世界に転生したことを悟った。 しかし、攻略対象に張り付いた自分より身分の高い悪役令嬢と戦う危険性を考え、攻略対象完全無視でモブとくっつくことを決心、しかし、アメリアの思惑は思わぬ方向に横滑りし。

ストーカー婚約者でしたが、転生者だったので経歴を身綺麗にしておく

犬野きらり
恋愛
リディア・ガルドニ(14)、本日誕生日で転生者として気付きました。私がつい先程までやっていた行動…それは、自分の婚約者に対して重い愛ではなく、ストーカー行為。 「絶対駄目ーー」 と前世の私が気づかせてくれ、そもそも何故こんな男にこだわっていたのかと目が覚めました。 何の物語かも乙女ゲームの中の人になったのかもわかりませんが、私の黒歴史は証拠隠滅、慰謝料ガッポリ、新たな出会い新たな人生に進みます。 募集 婿入り希望者 対象外は、嫡男、後継者、王族 目指せハッピーエンド(?)!! 全23話で完結です。 この作品を気に留めて下さりありがとうございます。感謝を込めて、その後(直後)2話追加しました。25話になりました。

悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。

槙村まき
恋愛
 スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。  それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。  挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。  そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……! 第二章以降は、11時と23時に更新予定です。 他サイトにも掲載しています。 よろしくお願いします。 25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。

転生したら悪役令嬢だった婚約者様の溺愛に気づいたようですが、実は私も無関心でした

ハリネズミの肉球
恋愛
気づけば私は、“悪役令嬢”として断罪寸前――しかも、乙女ゲームのクライマックス目前!? 容赦ないヒロインと取り巻きたちに追いつめられ、開き直った私はこう言い放った。 「……まぁ、別に婚約者様にも未練ないし?」 ところが。 ずっと私に冷たかった“婚約者様”こと第一王子アレクシスが、まさかの豹変。 無関心だったはずの彼が、なぜか私にだけやたらと優しい。甘い。距離が近い……って、え、なにこれ、溺愛モード突入!?今さらどういうつもり!? でも、よく考えたら―― 私だって最初からアレクシスに興味なんてなかったんですけど?(ほんとに) お互いに「どうでもいい」と思っていたはずの関係が、“転生”という非常識な出来事をきっかけに、静かに、でも確実に動き始める。 これは、すれ違いと誤解の果てに生まれる、ちょっとズレたふたりの再恋(?)物語。 じれじれで不器用な“無自覚すれ違いラブ”、ここに開幕――! 本作は、アルファポリス様、小説家になろう様、カクヨム様にて掲載させていただいております。 アイデア提供者:ゆう(YuFidi) URL:https://note.com/yufidi88/n/n8caa44812464

取り巻き令嬢Aは覚醒いたしましたので

モンドール
恋愛
揶揄うような微笑みで少女を見つめる貴公子。それに向き合うのは、可憐さの中に少々気の強さを秘めた美少女。 貴公子の周りに集う取り巻きの令嬢たち。 ──まるでロマンス小説のワンシーンのようだわ。 ……え、もしかして、わたくしはかませ犬にもなれない取り巻き!? 公爵令嬢アリシアは、初恋の人の取り巻きA卒業を決意した。 (『小説家になろう』にも同一名義で投稿しています。)

[完結]私、物語りを改竄します。だって、女神様が全否定するんだもん

紅月
恋愛
病気で死んだけど、生まれ変わる前に号泣する女神様に会った。 何やらゲームのパッケージを見て泣きながら怒っている。 「こんなの私の世界で起こるなんて認めない」 あらすじを読んでいた私に向かって女神様は激おこです。 乙女ゲームはやった事ないけど、この悪役令嬢って書かれている女の子に対してのシナリオ、悲惨だ。 どのストーリーを辿っても処刑一択。 ならば私がこの子になってゲームのシナリオ、改ざんすると女神様に言うと号泣していた女神様が全属性の魔力と女神様の加護をくれる、と商談成立。 私は悪役令嬢、アデリーン・アドラー公爵令嬢としてサレイス王国で新しい家族と共に暮らす事になった。

処理中です...