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後編
part11「黒色に輝くフルート」
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「ごめんって、なにがさ」
れにゃがスンと返事をする。
本当は突然の謝罪に、心を大きく乱されてしまっていた。でも、今は何とか表情に出ないように、ひたすらに彼から目を逸らした。
「ずっと、れにゃさんをやきもきさせてたと思う。ずっと、あいまいな返事しかしてなかったから」
「だから、なにがさ」
「ひかりさんのこと」
れにゃは黙って唇を噛む。
日枯 は、その反応を見越していたのだろう。淡々と言葉を重ねていった。
「先週、ひかりさんと会った」
「ひかり先輩と?」
思わず声が裏返ってしまった。そんなれにゃを見ても日枯 は決して笑わない
。
「ひかりさんにマンドリン部のこと話した」
「フルート、辞めちゃうことも?」
「そのことなんだけど」
日枯 が一拍分、呼吸を置いた。
「ひかり先輩の使っていたフルート、僕が引き継ぐことにした」
「え?」
思わず、れにゃは顔を上げてしまう。
その瞬間、日枯 と目が合ってしまう。
彼の黄色の目は花火に照らされて、どこか優しげに揺らいで見えた。
「あの黒いフルートを? 日枯 君が?」
「うん」
日枯 は少し恥ずかしそうに、夏空の中の光に目を泳がせる。
「ひかり先輩のフルート。大切に使わせていただくことになって、ひかりさんの代わりに、色々挑戦してみることにした」
そうなんだ。
シンプルな言葉と裏腹に、思わず頬が綻んでしまっただろうか。
彼の言葉に本当は、とても、すごく、心が救われた気がした。
今の今まで、ぼんやりとした言葉しか並べなかったくせに、いきなり明確な言葉を使う。
だから、日枯 はいつもずるい。
「なんだかさ、日枯 君って、合わせ鏡みたいだよね」
「合わせ鏡?」
「うん、鏡。ひかりさんと正反対の存在で、鏡で映したかのように、正反対の道を歩いている」
「不思議なことを言うんだね」
「そんなに不思議じゃないよ。ずっと思ってたこと。音色も音楽へのアプローチも、ひかりさんとは正反対。まるで、合わせ鏡で移したかのような、そんなフルート奏者」
「それって、褒め言葉? 合わせ鏡のフルート奏者」
「少なくとも、私の中では褒めたつもりだけど」
日枯 の音色は、ひかりのそれとは全く違う。
でも、それが間違っているとは思わなかったし、なにより、彼の音色もれにゃはとても好きだった。
「そっか。れにゃさんが言うなら、言葉どおりに受け取るよ」
日枯 は「これからも頑張るよ」と真っ直ぐにに誓った。
「まあ、好きなようにやれば、いいんじゃない? 誰かの死も、理不尽な炎も、太陽さえも枯らしてしまったこの世界で自由に生きてさ。今度こそ、中学の時にやり残したこと、片っ端から潰してきなよ」
日枯 君は大丈夫。きっと、大丈夫。
れにゃは顔を上げて、今度こそ日枯 の目を見つめる。
ありがとう。
日枯 の目は、優しく笑っていた。やっと普通の高校生みたいに、ぱっと明るく、煌めいて。
れにゃがスンと返事をする。
本当は突然の謝罪に、心を大きく乱されてしまっていた。でも、今は何とか表情に出ないように、ひたすらに彼から目を逸らした。
「ずっと、れにゃさんをやきもきさせてたと思う。ずっと、あいまいな返事しかしてなかったから」
「だから、なにがさ」
「ひかりさんのこと」
れにゃは黙って唇を噛む。
日枯 は、その反応を見越していたのだろう。淡々と言葉を重ねていった。
「先週、ひかりさんと会った」
「ひかり先輩と?」
思わず声が裏返ってしまった。そんなれにゃを見ても日枯 は決して笑わない
。
「ひかりさんにマンドリン部のこと話した」
「フルート、辞めちゃうことも?」
「そのことなんだけど」
日枯 が一拍分、呼吸を置いた。
「ひかり先輩の使っていたフルート、僕が引き継ぐことにした」
「え?」
思わず、れにゃは顔を上げてしまう。
その瞬間、日枯 と目が合ってしまう。
彼の黄色の目は花火に照らされて、どこか優しげに揺らいで見えた。
「あの黒いフルートを? 日枯 君が?」
「うん」
日枯 は少し恥ずかしそうに、夏空の中の光に目を泳がせる。
「ひかり先輩のフルート。大切に使わせていただくことになって、ひかりさんの代わりに、色々挑戦してみることにした」
そうなんだ。
シンプルな言葉と裏腹に、思わず頬が綻んでしまっただろうか。
彼の言葉に本当は、とても、すごく、心が救われた気がした。
今の今まで、ぼんやりとした言葉しか並べなかったくせに、いきなり明確な言葉を使う。
だから、日枯 はいつもずるい。
「なんだかさ、日枯 君って、合わせ鏡みたいだよね」
「合わせ鏡?」
「うん、鏡。ひかりさんと正反対の存在で、鏡で映したかのように、正反対の道を歩いている」
「不思議なことを言うんだね」
「そんなに不思議じゃないよ。ずっと思ってたこと。音色も音楽へのアプローチも、ひかりさんとは正反対。まるで、合わせ鏡で移したかのような、そんなフルート奏者」
「それって、褒め言葉? 合わせ鏡のフルート奏者」
「少なくとも、私の中では褒めたつもりだけど」
日枯 の音色は、ひかりのそれとは全く違う。
でも、それが間違っているとは思わなかったし、なにより、彼の音色もれにゃはとても好きだった。
「そっか。れにゃさんが言うなら、言葉どおりに受け取るよ」
日枯 は「これからも頑張るよ」と真っ直ぐにに誓った。
「まあ、好きなようにやれば、いいんじゃない? 誰かの死も、理不尽な炎も、太陽さえも枯らしてしまったこの世界で自由に生きてさ。今度こそ、中学の時にやり残したこと、片っ端から潰してきなよ」
日枯 君は大丈夫。きっと、大丈夫。
れにゃは顔を上げて、今度こそ日枯 の目を見つめる。
ありがとう。
日枯 の目は、優しく笑っていた。やっと普通の高校生みたいに、ぱっと明るく、煌めいて。
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