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展望と夢
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父親に新企画のプレゼンを朝食の時間に詰め込み気味にやった後、アメリアは図書館に向かうことをマリーに伝えた。
背後を振り返ると、なぜか父親が胃を押さえている。
今日の料理別に濃厚すぎはしなかったわよね、などと考えながら外出着に着替える。
髪を梳き軽く化粧をする。
前世を思い出してしまうとこういう仰々しいのが面倒くさい。
部屋着と外出着がいちいち違うとか、化粧をしなければならないとか。
軽く紅を引いた唇を引き締める。
ふんわりとしたレースの花で覆われた帽子をかぶりアメリアは馬車に乗った。
馬車は帰りには使わず、街をひやかして歩くつもりだ。
むろんマリー監視の下、あまり怪しげな界隈に近づくことはできないが、ウインドウショッピングを兼ねた敵情視察には十分だ。
図書館で地図に関係のある場所を探す。
さすがにこの辺りに女性の姿はない。女性は軽めの小説か詩集を集めた場所に集中する。
そんな場所にいるアメリアに毛がんそうな顔をする少数派の男性もいるが、あえて無視する。
ブラウン領は割と北寄りの場所にあった。
小麦ができるのがギリギリってところか。などと考えつつ次に手に取ったのは統計。
農作物や技術産業の地域別統計をまとめたものだ。
とりあえず十年ほど見ておくことにする。
ブラウン領のある北部は羊毛がよく取れるらしい。羊も動物、寒いほうが毛がもさもさになる。毛織物やフェルトを多く産出しているらしい。
ここに何を参入させるかとアメリアは軽く拳を顎に当てて考えた。
やっぱりニットだろうか。この世界レース編みはあるのに何故かニットは存在しない。
棒針編みはできるが、かぎ針編みが主流だ。
とりあえず、ちょっと太めの毛織の糸で何か見本制作して、それから考えるか。
とりあえず、婚約期間だ、とりあえず一年くらい猶予はあるので、さてどうやって話を切り出すか。
アメリアはそんなことを考えながら、他のめぼしい産業がないか調べていた。
「忙しそうね」
アメリアはいきなり声を掛けられギクッと肩を震わせた。
そこに立っていたのはキャロルだった。
「ある意味、賢い生き方ね」
キャロルは単刀直入に切り出した。
「何のことかしら」
「いいえ、もしかして、貴女も声が聞こえるのかもしれないと思ったのよ」
「声?」
キャロルは小さく声を潜めた。
「エクストラ公爵令嬢を倒せと声が聞こえるの」
だらだらと冷や汗を背中に流しながらアメリアは必死に冷静を装いつつ相手の話すに任せた。
「そんなことできるわけないでしょう、公爵令嬢を敵に回せば一族郎党皆殺しもありうるわ、だけど、声は聞こえ続けるの」
アメリアはまさかと思いつつ、もしかしたら自分と同じなのかもしれないが、はっきり記憶を取り戻していないのかもしれないと判断した。
死ぬ数日前のことをはっきりと思いだしたらちょっとえぐい。
後頭部を打ち付けた一瞬しか思い出していないが、もし重傷を負ってゆっくりと死んでいったという可能性を考えるとおぞけを振るう。
「それは、夢よ、振り回されちゃダメ」
そっとキャロルの肩に手を置いた。
背後を振り返ると、なぜか父親が胃を押さえている。
今日の料理別に濃厚すぎはしなかったわよね、などと考えながら外出着に着替える。
髪を梳き軽く化粧をする。
前世を思い出してしまうとこういう仰々しいのが面倒くさい。
部屋着と外出着がいちいち違うとか、化粧をしなければならないとか。
軽く紅を引いた唇を引き締める。
ふんわりとしたレースの花で覆われた帽子をかぶりアメリアは馬車に乗った。
馬車は帰りには使わず、街をひやかして歩くつもりだ。
むろんマリー監視の下、あまり怪しげな界隈に近づくことはできないが、ウインドウショッピングを兼ねた敵情視察には十分だ。
図書館で地図に関係のある場所を探す。
さすがにこの辺りに女性の姿はない。女性は軽めの小説か詩集を集めた場所に集中する。
そんな場所にいるアメリアに毛がんそうな顔をする少数派の男性もいるが、あえて無視する。
ブラウン領は割と北寄りの場所にあった。
小麦ができるのがギリギリってところか。などと考えつつ次に手に取ったのは統計。
農作物や技術産業の地域別統計をまとめたものだ。
とりあえず十年ほど見ておくことにする。
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ここに何を参入させるかとアメリアは軽く拳を顎に当てて考えた。
やっぱりニットだろうか。この世界レース編みはあるのに何故かニットは存在しない。
棒針編みはできるが、かぎ針編みが主流だ。
とりあえず、ちょっと太めの毛織の糸で何か見本制作して、それから考えるか。
とりあえず、婚約期間だ、とりあえず一年くらい猶予はあるので、さてどうやって話を切り出すか。
アメリアはそんなことを考えながら、他のめぼしい産業がないか調べていた。
「忙しそうね」
アメリアはいきなり声を掛けられギクッと肩を震わせた。
そこに立っていたのはキャロルだった。
「ある意味、賢い生き方ね」
キャロルは単刀直入に切り出した。
「何のことかしら」
「いいえ、もしかして、貴女も声が聞こえるのかもしれないと思ったのよ」
「声?」
キャロルは小さく声を潜めた。
「エクストラ公爵令嬢を倒せと声が聞こえるの」
だらだらと冷や汗を背中に流しながらアメリアは必死に冷静を装いつつ相手の話すに任せた。
「そんなことできるわけないでしょう、公爵令嬢を敵に回せば一族郎党皆殺しもありうるわ、だけど、声は聞こえ続けるの」
アメリアはまさかと思いつつ、もしかしたら自分と同じなのかもしれないが、はっきり記憶を取り戻していないのかもしれないと判断した。
死ぬ数日前のことをはっきりと思いだしたらちょっとえぐい。
後頭部を打ち付けた一瞬しか思い出していないが、もし重傷を負ってゆっくりと死んでいったという可能性を考えるとおぞけを振るう。
「それは、夢よ、振り回されちゃダメ」
そっとキャロルの肩に手を置いた。
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