転生ヒロインは不倫が嫌いなので地道な道を選らぶ

karon

文字の大きさ
20 / 100

キャロルのマドレーヌ

しおりを挟む
 お茶と茶菓子をキッチンメイドが持ってきた。その際にキャロルをじろじろと見る。
 どうやら視察を命じられてきたようだ。しかしあからさまな視線を送るとはメイドとして失格だなとアメリアはメイドをさっさと立ち去れと視線で命じながらベッドわきに置いてある小テーブルに着いたキャロルに向かう。
 椅子とテーブルはもとからあったわけではなく、アメリアの部屋に招待という話を聞いて侍従がその場で走ってしまってある所定の場所から持ってきたものだ。
 ついでに言えば、来客があるときは常に家族で使いまわされている品でもある。
 ドライアプリコットをたっぷりと混ぜ込んだワイン風味のクッキーだった。
 白ワインに付け込んで柔らかくしたアプリコットをふんだんに使ってある。アガサ家ではお茶うけとして定期的にクッキーを領地から届けさせてある。本日はたまたまアプリコットクッキーだった。
 ポットにサーブしてあるお茶をお菓子に合わせてか、薄黄色のカップに注いでいく。
 キャロルの視線がクッキーに張り付いた。
 やはり食い意地は強い。アメリアはポットを置いてキャロルにどうぞと促した。
 キャロルはクッキーを割らずに一口で食べてしまった。
 そしてぽろぽろと涙を流した。
 思わずアメリアは引いた。
「クッキーだね」
 そう言ったままキャロルは涙を流し続ける。
「思い出した、こういうのプティットマドレーヌっていうんだ」
「いや、それクッキー」
 キャロルはどこか焦点の合わない目で首を横に振った。
「違うよ、プルースト効果だよ」
 どこかで聞いた響きにアメリアは眉をしかめる。
「紅茶に浸したマドレーヌを口に含んだとき幼いころの思い出がよみがえる。ずっとこれは冒頭だと思っていたけど、実は結構長い一巻の中央にあった」
 この世界にはようやくパウンドケーキがお目見えしたばかり、もちろんマドレーヌなどない。
 どうやらかつていた異世界の話をしているらしい。
「私ね、第二王子に付きまとわれているの」
 唐突な告白に思わず口に含んだ紅茶を噴出しそうになる。
「どういうこと?」
「わからないわ、何故だか私の行く先々に現れるの、だけど、私は必要最低限の言葉しか交わしていない、王子様にかかわるのは危険すぎる」
「まったく同意見だけど、理由はわかるの?」
「まさかシナリオの強制力が働いているってわけじゃないわね」
 キャロルは自分の身体を抱きしめて身震いする。
「私はフレッドに遭遇しそうになったわ、最終的に避けたけど」
 デビュタントの日の悪夢を思い出してちょっと背筋に冷たいものが走る。
「もし、ヘンリーに申し込まれたらどうしよう、断る選択肢はないわ、だけど断らなければ、おそらくエクストラの実家に、一族郎党殲滅させられるような気がしてならないの」
「多分それ、とはいえ、ヘンリーに下手なことは言えないしねえ」
 二人はそれぞれ腕を組んで考え込む。
「そういえば、何を思い出したの?」
「行きつけの喫茶店、たまに出てくるクッキーの味」
 キャロルはそう言って空を睨む。
「どうしてこうなったんだろう」
「私は定番の交通事故だけど、そういうのは覚えていないの?」
「皆目、ただ、もしかして、そのせい前日がすごく不快指数の高い日だったということは覚えているけど、もしかして、そのせいで睡眠中に心不全か熱中症?」
「睡眠中の急死じゃ覚えていないかも」
 まあ覚えていないに越したことはないので、アメリアは深く考えるなと忠告した。
「そうだ、窮鳥懐に入らずば猟師もそれを打たずって言葉を覚えている?」
 アメリアはそう言ってキャロルの肩に手を置いた。
「ヘンリーのことは好き?」
 キャロルは首を横に振った。
「なら、申し込まれたら即エクストラに密告すればいいのよ、そうすればエクストラの庇護下に入れる」
 キャロルの目が大きく見開かれる。
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された公爵令嬢は冤罪で地下牢へ、前世の記憶を思い出したので、スキル引きこもりを使って王子たちに復讐します!

山田 バルス
ファンタジー
王宮大広間は春の祝宴で黄金色に輝き、各地の貴族たちの笑い声と音楽で満ちていた。しかしその中心で、空気を切り裂くように響いたのは、第1王子アルベルトの声だった。 「ローゼ・フォン・エルンスト! おまえとの婚約は、今日をもって破棄する!」 周囲の視線が一斉にローゼに注がれ、彼女は凍りついた。「……は?」唇からもれる言葉は震え、理解できないまま広間のざわめきが広がっていく。幼い頃から王子の隣で育ち、未来の王妃として教育を受けてきたローゼ――その誇り高き公爵令嬢が、今まさに公開の場で突き放されたのだ。 アルベルトは勝ち誇る笑みを浮かべ、隣に立つ淡いピンク髪の少女ミーアを差し置き、「おれはこの天使を選ぶ」と宣言した。ミーアは目を潤ませ、か細い声で応じる。取り巻きの貴族たちも次々にローゼの罪を指摘し、アーサーやマッスルといった証人が証言を加えることで、非難の声は広間を震わせた。 ローゼは必死に抗う。「わたしは何もしていない……」だが、王子の視線と群衆の圧力の前に言葉は届かない。アルベルトは公然と彼女を罪人扱いし、地下牢への収監を命じる。近衛兵に両腕を拘束され、引きずられるローゼ。広間には王子を讃える喝采と、哀れむ視線だけが残った。 その孤立無援の絶望の中で、ローゼの胸にかすかな光がともる。それは前世の記憶――ブラック企業で心身をすり減らし、引きこもりとなった過去の記憶だった。地下牢という絶望的な空間が、彼女の心に小さな希望を芽生えさせる。 そして――スキル《引きこもり》が発動する兆しを見せた。絶望の牢獄は、ローゼにとって新たな力を得る場となる。《マイルーム》が呼び出され、誰にも侵入されない自分だけの聖域が生まれる。泣き崩れる心に、未来への決意が灯る。ここから、ローゼの再起と逆転の物語が始まるのだった。

侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!

珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。 3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。 高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。 これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!! 転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!

無能令嬢、『雑役係』として辺境送りされたけど、世界樹の加護を受けて規格外に成長する

タマ マコト
ファンタジー
名門エルフォルト家の長女クレアは、生まれつきの“虚弱体質”と誤解され、家族から無能扱いされ続けてきた。 社交界デビュー目前、突然「役立たず」と決めつけられ、王都で雑役係として働く名目で辺境へ追放される。 孤独と諦めを抱えたまま向かった辺境の村フィルナで、クレアは自分の体調がなぜか安定し、壊れた道具や荒れた土地が彼女の手に触れるだけで少しずつ息を吹き返す“奇妙な変化”に気づく。 そしてある夜、瘴気に満ちた森の奥から呼び寄せられるように、一人で足を踏み入れた彼女は、朽ちた“世界樹の分枝”と出会い、自分が世界樹の血を引く“末裔”であることを知る——。 追放されたはずの少女が、世界を動かす存在へ覚醒する始まりの物語。

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

婚約破棄のその場で転生前の記憶が戻り、悪役令嬢として反撃開始いたします

タマ マコト
ファンタジー
革命前夜の王国で、公爵令嬢レティシアは盛大な舞踏会の場で王太子アルマンから一方的に婚約を破棄され、社交界の嘲笑の的になる。その瞬間、彼女は“日本の歴史オタク女子大生”だった前世の記憶を思い出し、この国が数年後に血塗れの革命で滅びる未来を知ってしまう。 悪役令嬢として嫌われ、切り捨てられた自分の立場と、公爵家の権力・財力を「運命改変の武器」にすると決めたレティシアは、貧民街への支援や貴族の不正調査をひそかに始める。その過程で、冷静で改革派の第二王子シャルルと出会い、互いに利害と興味を抱きながら、“歴史に逆らう悪役令嬢”として静かな反撃をスタートさせていく。

ぼっちな幼女は異世界で愛し愛され幸せになりたい

珂里
ファンタジー
ある日、仲の良かった友達が突然いなくなってしまった。 本当に、急に、目の前から消えてしまった友達には、二度と会えなかった。 …………私も消えることができるかな。 私が消えても、きっと、誰も何とも思わない。 私は、邪魔な子だから。 私は、いらない子だから。 だからきっと、誰も悲しまない。 どこかに、私を必要としてくれる人がいないかな。 そんな人がいたら、絶対に側を離れないのに……。 異世界に迷い込んだ少女と、孤独な獣人の少年が徐々に心を通わせ成長していく物語。 ☆「神隠し令嬢は騎士様と幸せになりたいんです」と同じ世界です。 彩菜が神隠しに遭う時に、公園で一緒に遊んでいた「ゆうちゃん」こと優香の、もう一つの神隠し物語です。

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

巻き込まれて異世界召喚? よくわからないけど頑張ります。  〜JKヒロインにおばさん呼ばわりされたけど、28才はお姉さんです〜

トイダノリコ
ファンタジー
会社帰りにJKと一緒に異世界へ――!? 婚活のために「料理の基本」本を買った帰り道、28歳の篠原亜子は、通りすがりの女子高生・星野美咲とともに突然まぶしい光に包まれる。 気がつけばそこは、海と神殿の国〈アズーリア王国〉。 美咲は「聖乙女」として大歓迎される一方、亜子は「予定外に混ざった人」として放置されてしまう。 けれど世界意識(※神?)からのお詫びとして特殊能力を授かった。 食材や魔物の食用可否、毒の有無、調理法までわかるスキル――〈料理眼〉! 「よし、こうなったら食堂でも開いて生きていくしかない!」 港町の小さな店〈潮風亭〉を拠点に、亜子は料理修行と新生活をスタート。 気のいい夫婦、誠実な騎士、皮肉屋の魔法使い、王子様や留学生、眼帯の怪しい男……そして、彼女を慕う男爵令嬢など個性豊かな仲間たちに囲まれて、"聖乙女イベントの裏側”で、静かに、そしてたくましく人生を切り拓く異世界スローライフ開幕。 ――はい。静かに、ひっそり生きていこうと思っていたんです。私も.....(アコ談) *AIと一緒に書いています*

処理中です...