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キャロルのマドレーヌ
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お茶と茶菓子をキッチンメイドが持ってきた。その際にキャロルをじろじろと見る。
どうやら視察を命じられてきたようだ。しかしあからさまな視線を送るとはメイドとして失格だなとアメリアはメイドをさっさと立ち去れと視線で命じながらベッドわきに置いてある小テーブルに着いたキャロルに向かう。
椅子とテーブルはもとからあったわけではなく、アメリアの部屋に招待という話を聞いて侍従がその場で走ってしまってある所定の場所から持ってきたものだ。
ついでに言えば、来客があるときは常に家族で使いまわされている品でもある。
ドライアプリコットをたっぷりと混ぜ込んだワイン風味のクッキーだった。
白ワインに付け込んで柔らかくしたアプリコットをふんだんに使ってある。アガサ家ではお茶うけとして定期的にクッキーを領地から届けさせてある。本日はたまたまアプリコットクッキーだった。
ポットにサーブしてあるお茶をお菓子に合わせてか、薄黄色のカップに注いでいく。
キャロルの視線がクッキーに張り付いた。
やはり食い意地は強い。アメリアはポットを置いてキャロルにどうぞと促した。
キャロルはクッキーを割らずに一口で食べてしまった。
そしてぽろぽろと涙を流した。
思わずアメリアは引いた。
「クッキーだね」
そう言ったままキャロルは涙を流し続ける。
「思い出した、こういうのプティットマドレーヌっていうんだ」
「いや、それクッキー」
キャロルはどこか焦点の合わない目で首を横に振った。
「違うよ、プルースト効果だよ」
どこかで聞いた響きにアメリアは眉をしかめる。
「紅茶に浸したマドレーヌを口に含んだとき幼いころの思い出がよみがえる。ずっとこれは冒頭だと思っていたけど、実は結構長い一巻の中央にあった」
この世界にはようやくパウンドケーキがお目見えしたばかり、もちろんマドレーヌなどない。
どうやらかつていた異世界の話をしているらしい。
「私ね、第二王子に付きまとわれているの」
唐突な告白に思わず口に含んだ紅茶を噴出しそうになる。
「どういうこと?」
「わからないわ、何故だか私の行く先々に現れるの、だけど、私は必要最低限の言葉しか交わしていない、王子様にかかわるのは危険すぎる」
「まったく同意見だけど、理由はわかるの?」
「まさかシナリオの強制力が働いているってわけじゃないわね」
キャロルは自分の身体を抱きしめて身震いする。
「私はフレッドに遭遇しそうになったわ、最終的に避けたけど」
デビュタントの日の悪夢を思い出してちょっと背筋に冷たいものが走る。
「もし、ヘンリーに申し込まれたらどうしよう、断る選択肢はないわ、だけど断らなければ、おそらくエクストラの実家に、一族郎党殲滅させられるような気がしてならないの」
「多分それ、とはいえ、ヘンリーに下手なことは言えないしねえ」
二人はそれぞれ腕を組んで考え込む。
「そういえば、何を思い出したの?」
「行きつけの喫茶店、たまに出てくるクッキーの味」
キャロルはそう言って空を睨む。
「どうしてこうなったんだろう」
「私は定番の交通事故だけど、そういうのは覚えていないの?」
「皆目、ただ、もしかして、そのせい前日がすごく不快指数の高い日だったということは覚えているけど、もしかして、そのせいで睡眠中に心不全か熱中症?」
「睡眠中の急死じゃ覚えていないかも」
まあ覚えていないに越したことはないので、アメリアは深く考えるなと忠告した。
「そうだ、窮鳥懐に入らずば猟師もそれを打たずって言葉を覚えている?」
アメリアはそう言ってキャロルの肩に手を置いた。
「ヘンリーのことは好き?」
キャロルは首を横に振った。
「なら、申し込まれたら即エクストラに密告すればいいのよ、そうすればエクストラの庇護下に入れる」
キャロルの目が大きく見開かれる。
どうやら視察を命じられてきたようだ。しかしあからさまな視線を送るとはメイドとして失格だなとアメリアはメイドをさっさと立ち去れと視線で命じながらベッドわきに置いてある小テーブルに着いたキャロルに向かう。
椅子とテーブルはもとからあったわけではなく、アメリアの部屋に招待という話を聞いて侍従がその場で走ってしまってある所定の場所から持ってきたものだ。
ついでに言えば、来客があるときは常に家族で使いまわされている品でもある。
ドライアプリコットをたっぷりと混ぜ込んだワイン風味のクッキーだった。
白ワインに付け込んで柔らかくしたアプリコットをふんだんに使ってある。アガサ家ではお茶うけとして定期的にクッキーを領地から届けさせてある。本日はたまたまアプリコットクッキーだった。
ポットにサーブしてあるお茶をお菓子に合わせてか、薄黄色のカップに注いでいく。
キャロルの視線がクッキーに張り付いた。
やはり食い意地は強い。アメリアはポットを置いてキャロルにどうぞと促した。
キャロルはクッキーを割らずに一口で食べてしまった。
そしてぽろぽろと涙を流した。
思わずアメリアは引いた。
「クッキーだね」
そう言ったままキャロルは涙を流し続ける。
「思い出した、こういうのプティットマドレーヌっていうんだ」
「いや、それクッキー」
キャロルはどこか焦点の合わない目で首を横に振った。
「違うよ、プルースト効果だよ」
どこかで聞いた響きにアメリアは眉をしかめる。
「紅茶に浸したマドレーヌを口に含んだとき幼いころの思い出がよみがえる。ずっとこれは冒頭だと思っていたけど、実は結構長い一巻の中央にあった」
この世界にはようやくパウンドケーキがお目見えしたばかり、もちろんマドレーヌなどない。
どうやらかつていた異世界の話をしているらしい。
「私ね、第二王子に付きまとわれているの」
唐突な告白に思わず口に含んだ紅茶を噴出しそうになる。
「どういうこと?」
「わからないわ、何故だか私の行く先々に現れるの、だけど、私は必要最低限の言葉しか交わしていない、王子様にかかわるのは危険すぎる」
「まったく同意見だけど、理由はわかるの?」
「まさかシナリオの強制力が働いているってわけじゃないわね」
キャロルは自分の身体を抱きしめて身震いする。
「私はフレッドに遭遇しそうになったわ、最終的に避けたけど」
デビュタントの日の悪夢を思い出してちょっと背筋に冷たいものが走る。
「もし、ヘンリーに申し込まれたらどうしよう、断る選択肢はないわ、だけど断らなければ、おそらくエクストラの実家に、一族郎党殲滅させられるような気がしてならないの」
「多分それ、とはいえ、ヘンリーに下手なことは言えないしねえ」
二人はそれぞれ腕を組んで考え込む。
「そういえば、何を思い出したの?」
「行きつけの喫茶店、たまに出てくるクッキーの味」
キャロルはそう言って空を睨む。
「どうしてこうなったんだろう」
「私は定番の交通事故だけど、そういうのは覚えていないの?」
「皆目、ただ、もしかして、そのせい前日がすごく不快指数の高い日だったということは覚えているけど、もしかして、そのせいで睡眠中に心不全か熱中症?」
「睡眠中の急死じゃ覚えていないかも」
まあ覚えていないに越したことはないので、アメリアは深く考えるなと忠告した。
「そうだ、窮鳥懐に入らずば猟師もそれを打たずって言葉を覚えている?」
アメリアはそう言ってキャロルの肩に手を置いた。
「ヘンリーのことは好き?」
キャロルは首を横に振った。
「なら、申し込まれたら即エクストラに密告すればいいのよ、そうすればエクストラの庇護下に入れる」
キャロルの目が大きく見開かれる。
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