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夏のイベント3
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野外コンサートは近づかないと演奏が聞こえにくいので最前列が特等席だった。大広間の天井は音を増幅する効果があったようだ。
そのためか巨大なホルンのような楽器で鳴らされる音も空に抜けていく。
アメリアとキャロルは椅子席を確保したが、使用人たちはさすがにそこまでできず籍の後方の立見席にいる。
最初の音が聞こえ始めたら私語厳禁と決まっているので二人は無言で楽団を見ていた。
楽団の前で動いているものがあった。
私語厳禁なので、アメリアはキャロルの肩をったいてそれを指さした。
それは一人の少年、それなりにいい服を着ている少年が楽団の前を行ったり来たりしている。
いい服を着ているということはいい家の生まれで厳しいしつけを受けているということに他ならないというのがこの世界の常識だ。
これが小汚い服を着た貧しげな少年だったらさっさとつまみ出されただろう。しかし良さそうな服を着ているので周囲も困惑している。
「あれ」
それだけ言ってキャロルは口をつぐむ。
みなまで言わなくてもわかる、あの上着は紫がかかった紺色だ。
この世界では身分による服飾規定がある特定の型や色はある程度の身分のものしか着てはいけないという。そして紫がかかった紺色は公爵家以上の人間しか着ていけないことになっている。
つまりそういう身分のお坊ちゃまか、それとも頭のおかしい自殺願望もちかはわからないが、うかつに触ることはできないということだ。
そして、いきなり客席の間を人を押しのけつつ昇ってきた。
「あれ、昨日の」
不意にアメリアは思い出した。昨日のずっこけ少年じゃないのと。
そして少年は振り返ると嬉しそうにアメリアに近寄ってきた。
「あの、昨日はどうも」
「いや、それは後で、演奏が終わってからですよ」
頼むから黙っていてほしい、そして知り合いだと思われたくない。
そして周囲を見回す、たぶん仮にも公爵家以上の家なら付き添いの一人もついてきているはずだ。
「付き添いは」
それらしいのは見つからないので訊いてみた。
「おいてきました、鬱陶しいので」
少年は朗らかに答えた。その口調に一瞬たりともためらいはなかった。
どこの世間知らずだ? アメリアは心底呆れた。
「だって、母上はいろいろ忙しいし、父上はお爺様の御機嫌取りでずっと王宮に行ってるし、僕はラディア宮でずっと一人なんですよ」
そう言って少年は口をとがらせる。マナー違反を見る周囲の目が痛い。
ラディア宮の名を聞いてアメリアは血の気が引いた。こいつ王太子の息子だ。
王太子と、第二第三王子はそれぞれ離宮をもらって生活している。
ラディア宮は王太子の自宅だ。ついでにカデンツゥ離宮が第二王子でデルファイ離宮が第三王子の自宅だった。
王位継承者、馬鹿しかいねえ。アメリアは思わず頭を抱えた。
隣ではキャロルが頭痛をこらえるようにこめかみをもんでいる。
「あのう」
二人の常識的な反応も少年には不審なのだろう怪訝そうな顔をして二人を見ている。
頼むからあっちに行ってくれと心から二人は祈った。
そのためか巨大なホルンのような楽器で鳴らされる音も空に抜けていく。
アメリアとキャロルは椅子席を確保したが、使用人たちはさすがにそこまでできず籍の後方の立見席にいる。
最初の音が聞こえ始めたら私語厳禁と決まっているので二人は無言で楽団を見ていた。
楽団の前で動いているものがあった。
私語厳禁なので、アメリアはキャロルの肩をったいてそれを指さした。
それは一人の少年、それなりにいい服を着ている少年が楽団の前を行ったり来たりしている。
いい服を着ているということはいい家の生まれで厳しいしつけを受けているということに他ならないというのがこの世界の常識だ。
これが小汚い服を着た貧しげな少年だったらさっさとつまみ出されただろう。しかし良さそうな服を着ているので周囲も困惑している。
「あれ」
それだけ言ってキャロルは口をつぐむ。
みなまで言わなくてもわかる、あの上着は紫がかかった紺色だ。
この世界では身分による服飾規定がある特定の型や色はある程度の身分のものしか着てはいけないという。そして紫がかかった紺色は公爵家以上の人間しか着ていけないことになっている。
つまりそういう身分のお坊ちゃまか、それとも頭のおかしい自殺願望もちかはわからないが、うかつに触ることはできないということだ。
そして、いきなり客席の間を人を押しのけつつ昇ってきた。
「あれ、昨日の」
不意にアメリアは思い出した。昨日のずっこけ少年じゃないのと。
そして少年は振り返ると嬉しそうにアメリアに近寄ってきた。
「あの、昨日はどうも」
「いや、それは後で、演奏が終わってからですよ」
頼むから黙っていてほしい、そして知り合いだと思われたくない。
そして周囲を見回す、たぶん仮にも公爵家以上の家なら付き添いの一人もついてきているはずだ。
「付き添いは」
それらしいのは見つからないので訊いてみた。
「おいてきました、鬱陶しいので」
少年は朗らかに答えた。その口調に一瞬たりともためらいはなかった。
どこの世間知らずだ? アメリアは心底呆れた。
「だって、母上はいろいろ忙しいし、父上はお爺様の御機嫌取りでずっと王宮に行ってるし、僕はラディア宮でずっと一人なんですよ」
そう言って少年は口をとがらせる。マナー違反を見る周囲の目が痛い。
ラディア宮の名を聞いてアメリアは血の気が引いた。こいつ王太子の息子だ。
王太子と、第二第三王子はそれぞれ離宮をもらって生活している。
ラディア宮は王太子の自宅だ。ついでにカデンツゥ離宮が第二王子でデルファイ離宮が第三王子の自宅だった。
王位継承者、馬鹿しかいねえ。アメリアは思わず頭を抱えた。
隣ではキャロルが頭痛をこらえるようにこめかみをもんでいる。
「あのう」
二人の常識的な反応も少年には不審なのだろう怪訝そうな顔をして二人を見ている。
頼むからあっちに行ってくれと心から二人は祈った。
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