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マキシミリアン視点 暗部

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 僕はアンリに力なく笑いかけた。
 母亡き後、家に居場所はなく父は何を考えているのかもわからない。
 それでも母の無念を晴らせと家令のデルモントは僕を叱咤激励してくれた。
 定期的に食事に毒を盛られて、自室にはよく不法侵入されて持ち物をよくあらされる。
 それが誰の仕業であるかは明白なのだが。
 僕はグレイハウンド侯爵家を継ぐ身として、その暗部を知らなければならない。
 だからこそ父は僕を警戒するのかもしれない。
 僕が調べた調査結果はすべてアンリが預かっていてくれた。
 グレイハウンドの本邸にそれを置くなどという愚を犯すつもりはなかった。
「そういえば、ルナ嬢を話をしたそうだね」
 アンリが唐突に話を変えた。
 その名前を聞くとつい眉が寄ってしまう。
 あれほど人の話を聞かない少女だとは思わなかった。
「僕としては理性的に話をしていたつもりなんだが」
 ルナ嬢はあからさまな警戒の視線を僕に向けた。そして、あくまでデイビッドをかばう姿勢を崩さなかった。
『一番苦しんでいるのはあの人なの』
 聖女のような柔らかな笑みを浮かべあの弟を語る。
「何とかきちんと話そうとしたんだが、まるで何もわかっていないのはこっちの方だと言わんばかりの顔で一切を無視した」
「そうか、そりゃ荷が重いな」
 アンリはそう言った。
「それに比べればセレス嬢はまだ物分かりがいいように思えるな」
 セレス嬢は貴族の子女としての嗜みこそ金言と信じて疑わないタイプの淑女だ。
 だが、あの女性に悪気はない。貴族としての嗜みから外れるぐらいなら死んだほうがましと思い込んでいるだけで、それに沿う形にさえたどり着けばおそらくその激しい気性も鳴りを潜めるだろう。
 セレスはディアナと同じ顔をしているけれど、すぐに見分けがつくようになった。
 どこか表情に乏しさが目立つ。
「しかし、どうしてルナ嬢はあんな風になってしまったんだろう」
「寂しかったのかもしれないな、ディアナとセレス嬢があの家では主導権を発揮し、ルナ嬢はそれに従うという形だったそうだから」
 双子の姉に疎外感を感じることもあったのかもしれない。
 だからと言ってむざむざ不幸になる方に進むのを黙ってみていることはできない。
 あの継母のしていた所業を思えば。
 継母はグレイハウンド侯爵家をことごとく食い物にしており、その悪の成果を弟に譲ろうとしている。はっきり言って胸が悪くなるような所業だ。
「あの義母の所業を見る限り、ルナ嬢の気持ちは葬り去るしかない」
「だが、はっきりと断罪したら、グレイハウンド家の家名に傷がつく、君としても将来相続する家名にそんな傷は不要だろう」

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