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破滅
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マティルダの前を人影が通りかかる。かつて見たことのあるその顔にマティルダの視線はくぎ付けになった。
マディソンは黙ってマティルダを見ていた。
「見つけました、あの時見た男があちらに」
そう言って通りの向こうを指さす。そこにいたのは見覚えのない中肉中背の性別不明の人物だった。
すっぽりとフードのついた上着をかぶり、目深にかぶったフードから特徴のない顔がのぞく。
あまりに特徴がなさ過ぎて男か女かも判別がつかない。
「あの時見たというのはこの顔ですか?」
マディソンがそう聞いた。
いったい何を言っているのかさっぱりわからない、こんなあり得ないほど特徴がない顔を見たのは生まれて初めてだ。
フードを着た人物がそっと向こう側を指さした。思わずマティルダはその方向を見る。
見上げるほどに背の高い人物の後ろ姿が見えた。顔は見えないが着ている服と神でおそらく同一人物だと確信した。
道の奥まった、その場所に男は静かにたたずんでいる。そして彼はゆっくりと振り返った。
ぞっとするほど端正なその顔をマティルダはつくづくと眺める。
淡い金色の髪が夜の中でもうっすらと浮かび上がる。夜の暗さをものともせずその端正な面差しははっきりと見えた。
「間違いありません、私が見たのは彼です」
「間違いないのですね」
マディソンがそう尋ねるとマティルダは力強く頷いた。あまりに自分の中に没頭していたマティルダはマディソンがフードをつけた人物に目配せしたのに気が付かなかった。
その男は自分の顔を撫で始めた。そしてその顔を領の手で覆う。そして手を下げたとき顔のあった場所にはただがらんどうだけがあった。
「これはオートマタ、最低限の動きだけを組み込んだそれだけの代物」
フードをつけた人物はそうかすれた声で言った。
そしてオートマタの手の中から一枚の仮面を受け取る。
「これ、なんに見える?」
そう言ってその仮面を差し出した。粗削りなかろうじて顔の形をしているとしか見えない仮面を。
「この仮面には術がかけられている。この仮面を見たものは最も好ましい顔をこの仮面に投影するというものだが、当然人によってその顔は違う。この仮面はもともと私の父親のものでしたが、父が最後に残した父の魔力を宿した魔石で動かすことができました。もうなくなりましたが」
「あんた、誰よ」
「闇夜鷹です、ただしあなたが知る先代ではなく当代の」
マティルダが初めて聞く事実に耳を疑った。
「そのまま名前を使っているから知らないもんもいたみたいだな、先代の闇夜鷹は数年前に死亡している。今は実子が二代目を務めている」
マディソンは軽く眉を上げた。
「先代の闇夜鷹を目撃なんかできるわけないんだよ、死んでいるんだから、どうしてそんな嘘をついたのか説明してもらおうか?」
「私はただその仮面が」
「言っておきますが、仮面を奪い取っても貴女には使えませんよ、お客様一人一人に合わせて作っておりますので、他の人が使用することはできないようになっております」
「仮面が外れなくて」
「殺して奪い取ろうとしたのか?」
マティルダの顔がどんどん虚ろになった。
マルテネスが仮面をつけるのを見たなのに仮面は外れなかった。まるでマティルダを拒むように。
「はめるのも外すのも本人以外はできないようになっています」
「その割に死体を調べているときあっさり外れたが?」
「魔力切れを起こしたのでしょう」
外れないようにする魔力な無くなれば仮面は取れると闇夜鷹は答えた。
「あの仮面は表情を三つしか浮かべることができないのです、今の技術では仮面を動かすことはできても多彩な表情を作ることは不可能なのです、マルテネスはそれをそれ以外の技術で克服した、それは彼女以外にできないこと、彼女の才能です、貴女にそれができますか?」
マティルダはゆっくりと膝をついた。
「後はお任せします。それでは仕事はこれで終わりです」
闇夜鷹は仮面を外す。フェアリスの顔に戻った。そして自分の持っていた仮面をオートマタにはめ込んだ。
「顔なしでは目立つもので」
マディソンはマティルダの腕をつかんで軽く腕を振って別れの挨拶とした。
マディソンは黙ってマティルダを見ていた。
「見つけました、あの時見た男があちらに」
そう言って通りの向こうを指さす。そこにいたのは見覚えのない中肉中背の性別不明の人物だった。
すっぽりとフードのついた上着をかぶり、目深にかぶったフードから特徴のない顔がのぞく。
あまりに特徴がなさ過ぎて男か女かも判別がつかない。
「あの時見たというのはこの顔ですか?」
マディソンがそう聞いた。
いったい何を言っているのかさっぱりわからない、こんなあり得ないほど特徴がない顔を見たのは生まれて初めてだ。
フードを着た人物がそっと向こう側を指さした。思わずマティルダはその方向を見る。
見上げるほどに背の高い人物の後ろ姿が見えた。顔は見えないが着ている服と神でおそらく同一人物だと確信した。
道の奥まった、その場所に男は静かにたたずんでいる。そして彼はゆっくりと振り返った。
ぞっとするほど端正なその顔をマティルダはつくづくと眺める。
淡い金色の髪が夜の中でもうっすらと浮かび上がる。夜の暗さをものともせずその端正な面差しははっきりと見えた。
「間違いありません、私が見たのは彼です」
「間違いないのですね」
マディソンがそう尋ねるとマティルダは力強く頷いた。あまりに自分の中に没頭していたマティルダはマディソンがフードをつけた人物に目配せしたのに気が付かなかった。
その男は自分の顔を撫で始めた。そしてその顔を領の手で覆う。そして手を下げたとき顔のあった場所にはただがらんどうだけがあった。
「これはオートマタ、最低限の動きだけを組み込んだそれだけの代物」
フードをつけた人物はそうかすれた声で言った。
そしてオートマタの手の中から一枚の仮面を受け取る。
「これ、なんに見える?」
そう言ってその仮面を差し出した。粗削りなかろうじて顔の形をしているとしか見えない仮面を。
「この仮面には術がかけられている。この仮面を見たものは最も好ましい顔をこの仮面に投影するというものだが、当然人によってその顔は違う。この仮面はもともと私の父親のものでしたが、父が最後に残した父の魔力を宿した魔石で動かすことができました。もうなくなりましたが」
「あんた、誰よ」
「闇夜鷹です、ただしあなたが知る先代ではなく当代の」
マティルダが初めて聞く事実に耳を疑った。
「そのまま名前を使っているから知らないもんもいたみたいだな、先代の闇夜鷹は数年前に死亡している。今は実子が二代目を務めている」
マディソンは軽く眉を上げた。
「先代の闇夜鷹を目撃なんかできるわけないんだよ、死んでいるんだから、どうしてそんな嘘をついたのか説明してもらおうか?」
「私はただその仮面が」
「言っておきますが、仮面を奪い取っても貴女には使えませんよ、お客様一人一人に合わせて作っておりますので、他の人が使用することはできないようになっております」
「仮面が外れなくて」
「殺して奪い取ろうとしたのか?」
マティルダの顔がどんどん虚ろになった。
マルテネスが仮面をつけるのを見たなのに仮面は外れなかった。まるでマティルダを拒むように。
「はめるのも外すのも本人以外はできないようになっています」
「その割に死体を調べているときあっさり外れたが?」
「魔力切れを起こしたのでしょう」
外れないようにする魔力な無くなれば仮面は取れると闇夜鷹は答えた。
「あの仮面は表情を三つしか浮かべることができないのです、今の技術では仮面を動かすことはできても多彩な表情を作ることは不可能なのです、マルテネスはそれをそれ以外の技術で克服した、それは彼女以外にできないこと、彼女の才能です、貴女にそれができますか?」
マティルダはゆっくりと膝をついた。
「後はお任せします。それでは仕事はこれで終わりです」
闇夜鷹は仮面を外す。フェアリスの顔に戻った。そして自分の持っていた仮面をオートマタにはめ込んだ。
「顔なしでは目立つもので」
マディソンはマティルダの腕をつかんで軽く腕を振って別れの挨拶とした。
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