呪具屋闇夜鷹

karon

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嫉妬

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 夜の闇の中一人の男が歩いていく。
 すらりと伸びた手足が目立つ細身の身体。それを体にぴったりとした黒い絹の衣装に包んでいた。
 よるということで人通りはまばらだが誰もがその男の顔を見て感嘆のため息を漏らした。
 それは一言で表せば美しい。それ以外の言葉はなかった。
 ゆったりとした足取りで歩くその男を誰もが振り返った。
 それらをしり目に男はただまっすぐに進む。
 一人の女がその男の果ををしばらく凝視していた。
 男の美しさに撃たれたわけではない、その表情は恐怖に彩られていた。
 そしてふらふらとよどみなく歩く男の後ろをついて歩きだした。
 しばらく呆けた表情を浮かべていた女は徐々にその表情を引き締めそして固い決意を表す色に染まった。
 男は徐々にその歩調を速めていく。その後を追う女は急ぎ足になるがそれでも二人の距離は離れていく。
 息を切らして女は走り出したが、男の姿は徐々に小さくなっていった。

 女、マティルダはいつの間にか見慣れた場所に来ていたことに気づいた。以前来たアパート、かつて知人が住んでいた場所だ。
 マティルダはそのアパートの窓を見上げていた。
 今はどこの明かりもついていない。一つの灯りはかつての住人が無くなったため、後は殺人事件が起きたために十人が物騒だと引っ越してしまったのだ。
 だからその場に立っているのはマティルダ一人だった。
 マティルダは柔らかい薄茶の髪を撫でつけた。
 目立つ色ではない、その容貌も美しい範疇に入るが際立った美貌とは言えない。
 いつも目立たない地味な小鳥と呼ばれていた。
 それでもあのマルティネスがいた。あの醜い女優が。
 道化芝居しかできない決して表に出られない女優。それがマルティネスだった。
 あの顔は化粧でカバーできる範囲を大きく超えている。だから見下していられた。
 マルティネスには卓越した表現力があった、しかしあの顔はシリアスな芝居には向かない、そのため常にコメディ俳優に徹するしかなくだからマティルダも安心してみていられた。
 そしてアリアンが現れた。
 美貌と実力を兼ね備えた新進気鋭の女優として。
 ずっと妬んでいた。そしてアリアンがあの闇夜鷹の顧客だと聞いて気持ちがはじけた。
 闇夜鷹の手を借りれば、それはありとあらゆる芸能界の人間にとって夢だ。
 たとえその先に破滅が待っていたとしてもその甘い夢に浮かされる人間は後を絶たない。
 闇夜鷹。
 ただ闇夜鷹の力を借りただけで。
 自分のほうが優れているのかもしれないのに。どうして闇夜鷹は自分を見てくれないのか。
 思わずそう呟いた。
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