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先代
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先代の闇夜鷹は芸能界という世界に特化した呪具屋だった。
呪具屋というものは転生者という概念ができる前からある数少ない職業だが、それゆえ呪具屋をやる人間は保守的な人間が多かった。
芸能界の始まりから暗闇鷹はその興行にかかわることが多かった。
転生者のもたらした音楽や演劇は、この世界の芸術といいう概念を吹き飛ばした。
もともと音楽はあった、しかしそれはあくまで個人で楽しむ室内楽が大勢を占めていた。
初期の素朴な舞台ですら、免疫のないこの世界の人間は熱狂した。
彼の作る呪具による光のパフォーマンス。様々な仕掛けは観客を仰天させ、また感動させた。
この国の興行収入が飛びぬけて高いのも彼の功績といわれる。
そして、呪具屋、暗闇鷹は芸能界の発展とともに、順調に業績を積み、結構な資産をため込んでいたはずだ。
闇夜鷹の呪具を駆使した舞台は評判を呼び、舞台を持つ興行主はすべて闇夜鷹と契約を結びたがった。
時代の寵児とは、まさしく彼のことだった。
しかしそうした人間にありがちだが、奇癖の持ち主としても知られていた。
極端に排他的な性格をしていたらしく、仕事関係以外では友人と呼べる人間は一人もいなかった。
また常に精巧な仮面をつけ、決して素顔を見せることはなかった。
その仮面は絶世というべき美貌の顔をし、またしゃべったりするとききちんと唇や顎が動いたためそれを仮面と気づく人間はわずかだった。
芸能界という世界にかかわろうとする呪具屋もほとんどいなかったため、彼は転生者ではないかといわれていたが、結局それも定かではない状態で彼はこの世を去った。
彼の魂が、かつて転生者のやってきたという異世界に飛んだのか、それともこの世界にとどまっているのかは定かではない。
かつてマディソンは初代の闇夜鷹に会ったことがあった。
「伝説の歌姫イレーヌ・マデアって知っているか?」
もう二十年近く前のことだ。
「聞いたことがあるような気がします」
目の前の若手にはおそらく子供の頃のことだろう。
「実際凄い歌い手だったんだよ、だが残念なことに声量がなかった。室内楽ならともかく大舞台で歌えるような歌手じゃなかった」
その彼女を売り出したのが闇夜鷹だった。
彼は清涼のなさを補うための増幅装置を作り上げ、彼女の歌を観客席の隅々まで届かせた。単純な増幅装置は既にあったが、声の再現力に難があった、その欠点を完ぺきに克服していた。
実力は確かだったイレーヌは一気にスターダムに上り詰めた。
数年後、恋愛関係のもつれで殺害されるまでは。
その調査過程で闇夜鷹を取り調べたのがマディソンだった。
すぐに痴情沙汰と分かり、数回の取り調べだけでそれ以来会うこともなかったのだが。
「その娘の顧客がな、因縁だな」
元々芸能界は巨額の金が動くようになってから、その手のトラブルは尽きないものだ。
「まあ、仕方ないさ」
そんなことを思い出しながら、マディソンはかつての養女のなれの果てのことを考えていた。
呪具屋というものは転生者という概念ができる前からある数少ない職業だが、それゆえ呪具屋をやる人間は保守的な人間が多かった。
芸能界の始まりから暗闇鷹はその興行にかかわることが多かった。
転生者のもたらした音楽や演劇は、この世界の芸術といいう概念を吹き飛ばした。
もともと音楽はあった、しかしそれはあくまで個人で楽しむ室内楽が大勢を占めていた。
初期の素朴な舞台ですら、免疫のないこの世界の人間は熱狂した。
彼の作る呪具による光のパフォーマンス。様々な仕掛けは観客を仰天させ、また感動させた。
この国の興行収入が飛びぬけて高いのも彼の功績といわれる。
そして、呪具屋、暗闇鷹は芸能界の発展とともに、順調に業績を積み、結構な資産をため込んでいたはずだ。
闇夜鷹の呪具を駆使した舞台は評判を呼び、舞台を持つ興行主はすべて闇夜鷹と契約を結びたがった。
時代の寵児とは、まさしく彼のことだった。
しかしそうした人間にありがちだが、奇癖の持ち主としても知られていた。
極端に排他的な性格をしていたらしく、仕事関係以外では友人と呼べる人間は一人もいなかった。
また常に精巧な仮面をつけ、決して素顔を見せることはなかった。
その仮面は絶世というべき美貌の顔をし、またしゃべったりするとききちんと唇や顎が動いたためそれを仮面と気づく人間はわずかだった。
芸能界という世界にかかわろうとする呪具屋もほとんどいなかったため、彼は転生者ではないかといわれていたが、結局それも定かではない状態で彼はこの世を去った。
彼の魂が、かつて転生者のやってきたという異世界に飛んだのか、それともこの世界にとどまっているのかは定かではない。
かつてマディソンは初代の闇夜鷹に会ったことがあった。
「伝説の歌姫イレーヌ・マデアって知っているか?」
もう二十年近く前のことだ。
「聞いたことがあるような気がします」
目の前の若手にはおそらく子供の頃のことだろう。
「実際凄い歌い手だったんだよ、だが残念なことに声量がなかった。室内楽ならともかく大舞台で歌えるような歌手じゃなかった」
その彼女を売り出したのが闇夜鷹だった。
彼は清涼のなさを補うための増幅装置を作り上げ、彼女の歌を観客席の隅々まで届かせた。単純な増幅装置は既にあったが、声の再現力に難があった、その欠点を完ぺきに克服していた。
実力は確かだったイレーヌは一気にスターダムに上り詰めた。
数年後、恋愛関係のもつれで殺害されるまでは。
その調査過程で闇夜鷹を取り調べたのがマディソンだった。
すぐに痴情沙汰と分かり、数回の取り調べだけでそれ以来会うこともなかったのだが。
「その娘の顧客がな、因縁だな」
元々芸能界は巨額の金が動くようになってから、その手のトラブルは尽きないものだ。
「まあ、仕方ないさ」
そんなことを思い出しながら、マディソンはかつての養女のなれの果てのことを考えていた。
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