7 / 17
死んだ歌姫
しおりを挟む
黒と白に彩られた殺風景な部屋に、その男はいた。
その顔は美貌であるという印象しかなかった。
殺人事件というショッキングな話題にも、張り付いたような笑みは崩れることもなかった。
「そうですか、彼女が」
この国で最も有名といわれる人気歌手が刺殺死体で発見された。その知らせは当時始まったばかりの新聞で大々的に発表され、各新聞社はその事件の後追いをするだけで記録的な販売数を達成した。
この一軒が新聞をこの国に定着させる一助となったわけだがそれは閑話休題というものだろう。
イレーヌは彼が見出した歌手だったはずだ、しかし彼は驚くでも嘆くでもなくただそうかとだけ答えた。
「イレーヌの交友関係などは」
「彼女とは全く仕事以外で話したことはありませんね」
興味もなさそうに彼は言った。あくまで仕事の上だけの関係だと言い放つ。
「貴方がイレーヌをデビューにまで導いたんでしょう」
「彼女は素材として面白かっただけですよ、ですが、それ以上の気持ちはありません」
なんだか生きた人間と話しているような気がしなかった。
終始穏やかな笑みを浮かべているその顔を見ても違和感で眩暈がした。
不意に背後で何かが落ちるような音がした。
そして小さく開いた扉の隙間から見える緑色の目。
「何をしている」
不意に笑みが消えた。扉を開けると、そこにいた小さな子供をつまみ上げる。
そして自動人形にその子供、おそらく着ている服からして女の子だろうけれど、を引き渡した。
「あ、さっきの子供は?」
「娘です」
その言葉にしばし呆けた。
目の前の男と娘という単語が結びつかなかった。
「結婚なさっていたんですか?」
この男が家庭を持っていた、それが衝撃だ。
「妻はいません、娘だけです」
死別したのか、それとも離婚したのか、おそらく死別だろう。まともな女ならこの男のところに子供を置いてなんか行かない。
「では、心当たりはないということで」
その時は、そのまま辞した。
イレーヌは、降ってわいた出世劇にのぼせ上り、いろいろと問題行動が多かったという噂は聞いていた。
調査すればそれは紛れもなく真実で、稼いだ巨額の金は、様々な馬鹿なことに費やされていた。
彼女は、おそらく今殺されなくても、遠からず自滅していただろう。そんな予感すら感じさせる彼女の行動だった。
生来の欠点のせいで、鳴かず飛ばずだった歌手が、いきなりその欠点を解消され、巨万の富をいきなり渡されたら、そう考えれば、歌手としての技量はともかくイレーヌは平凡な人間だったのだろう。
廊下を歩いていたら、さっきの自動人形を振り払った子供が廊下を走っていた。
あの子はどう育つのだろう。
思わず不憫なものを見る目で見てしまった。
その顔は美貌であるという印象しかなかった。
殺人事件というショッキングな話題にも、張り付いたような笑みは崩れることもなかった。
「そうですか、彼女が」
この国で最も有名といわれる人気歌手が刺殺死体で発見された。その知らせは当時始まったばかりの新聞で大々的に発表され、各新聞社はその事件の後追いをするだけで記録的な販売数を達成した。
この一軒が新聞をこの国に定着させる一助となったわけだがそれは閑話休題というものだろう。
イレーヌは彼が見出した歌手だったはずだ、しかし彼は驚くでも嘆くでもなくただそうかとだけ答えた。
「イレーヌの交友関係などは」
「彼女とは全く仕事以外で話したことはありませんね」
興味もなさそうに彼は言った。あくまで仕事の上だけの関係だと言い放つ。
「貴方がイレーヌをデビューにまで導いたんでしょう」
「彼女は素材として面白かっただけですよ、ですが、それ以上の気持ちはありません」
なんだか生きた人間と話しているような気がしなかった。
終始穏やかな笑みを浮かべているその顔を見ても違和感で眩暈がした。
不意に背後で何かが落ちるような音がした。
そして小さく開いた扉の隙間から見える緑色の目。
「何をしている」
不意に笑みが消えた。扉を開けると、そこにいた小さな子供をつまみ上げる。
そして自動人形にその子供、おそらく着ている服からして女の子だろうけれど、を引き渡した。
「あ、さっきの子供は?」
「娘です」
その言葉にしばし呆けた。
目の前の男と娘という単語が結びつかなかった。
「結婚なさっていたんですか?」
この男が家庭を持っていた、それが衝撃だ。
「妻はいません、娘だけです」
死別したのか、それとも離婚したのか、おそらく死別だろう。まともな女ならこの男のところに子供を置いてなんか行かない。
「では、心当たりはないということで」
その時は、そのまま辞した。
イレーヌは、降ってわいた出世劇にのぼせ上り、いろいろと問題行動が多かったという噂は聞いていた。
調査すればそれは紛れもなく真実で、稼いだ巨額の金は、様々な馬鹿なことに費やされていた。
彼女は、おそらく今殺されなくても、遠からず自滅していただろう。そんな予感すら感じさせる彼女の行動だった。
生来の欠点のせいで、鳴かず飛ばずだった歌手が、いきなりその欠点を解消され、巨万の富をいきなり渡されたら、そう考えれば、歌手としての技量はともかくイレーヌは平凡な人間だったのだろう。
廊下を歩いていたら、さっきの自動人形を振り払った子供が廊下を走っていた。
あの子はどう育つのだろう。
思わず不憫なものを見る目で見てしまった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
相続した畑で拾ったエルフがいつの間にか嫁になっていた件 ~魔法で快適!田舎で農業スローライフ~
ちくでん
ファンタジー
山科啓介28歳。祖父の畑を相続した彼は、脱サラして農業者になるためにとある田舎町にやってきた。
休耕地を畑に戻そうとして草刈りをしていたところで発見したのは、倒れた美少女エルフ。
啓介はそのエルフを家に連れ帰ったのだった。
異世界からこちらの世界に迷い込んだエルフの魔法使いと初心者農業者の主人公は、畑をおこして田舎に馴染んでいく。
これは生活を共にする二人が、やがて好き合うことになり、付き合ったり結婚したり作物を育てたり、日々を生活していくお話です。
【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております
紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。
二年後にはリリスと交代しなければならない。
そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。
普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる