呪具屋闇夜鷹

karon

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二人で一人

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 嫌なことを思い出してしまった。
 マディソンはぶるりと体を震わせる。
 先代の闇夜鷹。彼は、芸能界という世界をよく知っていた。そしてあえて、気まぐれに人に栄光を与える。
 そしてその栄光が人を滅ぼしていく様を楽し気に観察していたのではないか。
 そんな気がした。
 あの張り付いたような笑みが不意にあの無表情な顔にすり替わる。
 フェアリスはどうしてあの課をの仮面をつけているのだろう。

「どうしたんですか?」
 声をかけられてマディソンは慌てて我に返る。
 思わず事件と関係あるような内容なことを考えていたのだ。
 マディソンは劇場に入っていった。
 この劇場はよく、アリアン・テッドが出演していた。
 事件は新聞で華々しく書きたてられた。『一人で二人の殺人』『驚くべき二重生活』などの見出しが踊る紙面を先を争って人々は買いあさっていた。
 劇場支配人は初老といってもいい年頃の上品な男性というやつだ。
 着ているものはすべて高級品。それも特に品のいい仕立てのものだ。
 撫でつけられた髪は一筋の乱れもなく。微かに香水の香りすらする。
「お話を伺っても」
 マディソンがそう言うと、支配人は小さくため息をついた。
「いや、彼女には騙されましたよ」
 なんだか悔しそうに唇をかむ。
「マルテネスもアリアンもこの劇場で仕事をしたことがあります、しかし二人が同一人物だとは全く気が付きませんでした」
「闇夜鷹の仮面の効果ですか」
「ええ、当代の技術もなかなかのものです、依頼人の要求に正確に応える。しかし、先代は、たまに依頼人の要求を超える成果を叩き出したこともある、それを考えればまだまだといわれています」
 二代目の辛いところだなとマディソンは密かにフェアリスに同情した。
「気づきませんでしたか?」
「ええ、まったく、芸の細かいところで、アリアンはマルテネスにはない癖を持っていたんです、髪をいじるという。おそらくアリアンとを演じる過程でそうしたんでしょうが、まったく才能だけは人一倍でしたね、過去形で言わなければならないのが残念です」
「では、アリアンと親しかったのは誰かわかりますか?」
「さほど、愛想よく誰とでも親しくしていた、それを考えれば、劇場スタッフ全員に話を聞かなければならないでしょうね」
「もとよりそのつもりです」
「ああ、そうなのですか、大変なお仕事ですね」
 支配人はため息をつく。
「そう言えば、マルテネスはよく二人で組んでいた女優がいましたよ、マティルダというんですが、彼女は知っていたんですかね」
『一人二役を知っていたと断言しているのは、仮面を作った暗闇鷹一人ですが、女優仲間にはほかの人間が聞き込みをしているはずです』
「また新聞で情報が出ますかねえ」
 捜査が進展しなければ、出る情報も入らない。新聞社の人間に警察関係者が尾行されている。どっちが捜査員かわからない。
「解決の情報が載っていてほしいものですな」
 そう言ってマディソンは、別の人間に聞き込みに行った。

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