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愚者の核爆弾
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とある町があった、リアス式海岸で周囲を山に遮られ交通の便はすこぶる悪い。
大昔は船で物資や人の出入りをしていたそんな町だ。
かつてあった鉄道も過疎による赤字で廃線となり、山の中を縫うようにある大回りの道路が唯一の交通手段だった。
彼はそんな町の資料を手に、相手の出方を待った。
「つまり、細菌兵器の実験にうってつけの町というわけだ」
はあ、とため息をついて、彼は銀縁眼鏡を直した。
「それ、確かな話ですか?」
細菌兵器の歴史は古い。
実は鉄砲より古いかもしれない。
コッホが細菌を発見する前からあるのだ。
どうやってそれを使ったのかというと、伝染病にり患している人間を敵地に送り付けたり、伝染病患者が使用した衣類などを貧しい人に寄付する形で送りつけたりしたそうだ。
新大陸へとフロンティアしていくさなかそうした伝染病付きの衣類は盛んに利用され、南米のいくつもの部族が滅んだという。
そのお返しが梅毒で、多数の死者を世界に広げた。
まあ、病気がうつるという事実を理解した瞬間から細菌兵器はこの世に誕生したといっても過言ではないかもしれない。
「しかし、そんなもの手に負えると思っているんですかねえ」
はっきり言って、頭の悪い集団だ。細菌兵器はそんな連中に扱えるものではない。
「ワクチンがあるからな、実行犯と一緒にある施設の中だ」
「つまり犯人とワクチン同時に確保ですか」
「その通り、物資の移動などに使う人員はこちらですでにすり替えている」
小さい町とはいえ、当然食料や日々の日用品はトラックで運び込まれる、その輸送の人員はすでにすり替え済みだという。小さいといってもそれほど小さくなく、学校があるのは助かる。
近くに学校がなく、そのため別の町にバスなどで通うようなことがあったとすればそこから広がり収拾がつかなくなる。
「問題は職場が遠い方ですねえ」
大人なら自動車通勤もある。
「ちょっと交通事故にあってもらった、保証はちゃんとしてある」
「おい……」
「多数の人間の命がかかっている、多少の犠牲はやむを得ない」
目の前の恰幅のいい相手を前に思わず目を細めた。
「すでに最近はばらまかれているとみていい。最初は風邪に似た症状だが、最近そうした患者が明らかに増えている」
「感染って、もしかして空気感染ですか?」
痛み始めたこめかみをもみながら彼は尋ねる。
「その通りだが」
「対策は?」
ハイっと渡されたのはマスク徳用一箱分。
「ご存じですか、マスクでウィルスや細菌を避けようとするのは漁網で砂埃を防ごうとするようなものなんですよ」
「そうなのかね?」
「ほかにないのですか」
「もちろんあるとも、佐藤和夫君」
目の前の男はそう言って更なる資料を差し出した。
大昔は船で物資や人の出入りをしていたそんな町だ。
かつてあった鉄道も過疎による赤字で廃線となり、山の中を縫うようにある大回りの道路が唯一の交通手段だった。
彼はそんな町の資料を手に、相手の出方を待った。
「つまり、細菌兵器の実験にうってつけの町というわけだ」
はあ、とため息をついて、彼は銀縁眼鏡を直した。
「それ、確かな話ですか?」
細菌兵器の歴史は古い。
実は鉄砲より古いかもしれない。
コッホが細菌を発見する前からあるのだ。
どうやってそれを使ったのかというと、伝染病にり患している人間を敵地に送り付けたり、伝染病患者が使用した衣類などを貧しい人に寄付する形で送りつけたりしたそうだ。
新大陸へとフロンティアしていくさなかそうした伝染病付きの衣類は盛んに利用され、南米のいくつもの部族が滅んだという。
そのお返しが梅毒で、多数の死者を世界に広げた。
まあ、病気がうつるという事実を理解した瞬間から細菌兵器はこの世に誕生したといっても過言ではないかもしれない。
「しかし、そんなもの手に負えると思っているんですかねえ」
はっきり言って、頭の悪い集団だ。細菌兵器はそんな連中に扱えるものではない。
「ワクチンがあるからな、実行犯と一緒にある施設の中だ」
「つまり犯人とワクチン同時に確保ですか」
「その通り、物資の移動などに使う人員はこちらですでにすり替えている」
小さい町とはいえ、当然食料や日々の日用品はトラックで運び込まれる、その輸送の人員はすでにすり替え済みだという。小さいといってもそれほど小さくなく、学校があるのは助かる。
近くに学校がなく、そのため別の町にバスなどで通うようなことがあったとすればそこから広がり収拾がつかなくなる。
「問題は職場が遠い方ですねえ」
大人なら自動車通勤もある。
「ちょっと交通事故にあってもらった、保証はちゃんとしてある」
「おい……」
「多数の人間の命がかかっている、多少の犠牲はやむを得ない」
目の前の恰幅のいい相手を前に思わず目を細めた。
「すでに最近はばらまかれているとみていい。最初は風邪に似た症状だが、最近そうした患者が明らかに増えている」
「感染って、もしかして空気感染ですか?」
痛み始めたこめかみをもみながら彼は尋ねる。
「その通りだが」
「対策は?」
ハイっと渡されたのはマスク徳用一箱分。
「ご存じですか、マスクでウィルスや細菌を避けようとするのは漁網で砂埃を防ごうとするようなものなんですよ」
「そうなのかね?」
「ほかにないのですか」
「もちろんあるとも、佐藤和夫君」
目の前の男はそう言って更なる資料を差し出した。
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