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karon

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海を望んで

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 呉羽は海岸沿いを歩いていた。
 砂に書いた愛の言葉さざ波が消していくそんな古い恋歌があったなと、思いながら。
 しかしこの町に砂浜はなかった。
 きっちりコンクリートで覆われた海岸をカモメが飛び交っている。
 漁船の上で何やら忙しく働いている漁師さん。そんなところにこんな暇つぶしがいてごめんなさいと謝りたくなる。
「さて、ご飯にしよう」
 そう言って、気力を奮い立たせる。
 そしてつい条件反射でポケットを探る。ポケットのスマホが鳴るはずがない。スマホの電源はとっくに落としている。
 自分を知っている人に会いたくなかったのだ。そして、自分を知っている誰かとも話をする気にもなれなかった。
 呉羽は肩までの髪を後ろに撫でつけた。
 髪をショートカットにしようと思ったがギリギリで思いとどまった。そこまで捨てられた女感を出すのは自分が惨めすぎた。 
 ふと視線を上げると、坂の上の自動車が視界に入った。
「どうしてあんなところに止めているんだろう」
 黒々とした大型車が止まっている、路上駐車だがもともと車通りの少ない場所でそれほど迷惑ではないが、なんでよりによって坂の上に止めるんだろう。
 そう思ったが呉羽の知ったことではないと苦笑して商店街のさびれた食堂に向かった。

 その食堂はラーメンからオムライス、ハンバーグから親子丼と和洋中すべてを網羅するメニューを誇っていた。
 いわゆる何でも屋というやつだ。
 呉羽は稲荷蕎麦を頼んだ。ちょっと温かいものが食べたかったのだ。
 暇つぶしに散歩をしたが、本当に見て歩くものは何もない。小さな町なので一二時間も歩けば見るべきものはすべ見てしまうのだ。
 海はそれなりに奇麗だったが、残念ながらこの町からは海に夕日が沈む光景は見れないらしい。
 さすがに海の馬鹿野郎と叫ぶベタな展開は避けたかった。
「食べたら、ホテルに戻ろう」
 ネット環境は整っているが、呉羽はパソコンを持ってきていなかった。
 スマホに電源を入れる気にもならない。
 ホテルの前まで来たとき、さっき坂の上に泊まっていた自動車がいつの間にか自分の目の前にいたのに気が付いた。
 大柄な男が車から降りてきて懐から銃を抜いた。
 あまりの非現実感に呉羽は反応できなかった。
 そのまま呉羽は横倒しになった。
 撃たれた。一瞬そう錯覚した。
 しかし呉羽の腕を引いて地面に引き倒した男と目が合い自分の錯覚に気が付いた。
 そして、缶コーヒーを看護と相手の頭に投擲した。
 外しようもない至近距離だったが、ものすごい音がした。
 そして自分のスマホを取り出し、とっさに相手の自動車を撮影した。
 慌てて、自動車がUターンをしてその場を後にする。
 呉羽はその場に座り込んだまま一連の事柄を見ていた。
「大丈夫ですか」
 呉羽は声をかけてきた相手を見た。
 灰色の男だ。灰色の服で、背後のオーラも何となく灰色だと思う。その男の雰囲気がすべて灰色。
「何だったんだろう」
 呆けたようにつぶやいた。
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