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出会った男女
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呉羽はなんでこの男についていこうと思ったのかわからなかった。
確かに呉羽を救ってくれたけれど、ついさっき会ったばかりの男なのだ。
佐藤はいかにも真面目そうなサラリーマンに見えたが、人間ぱっと見ではわからないものだ。
「何か、心当たりはありますか?」
「いえ、それは警察にも話したんですけれど」
何もない、ただ一時期婚約していた男が急に音信不通になり、いきなり結婚しましたとウエディングドレスを着た女と並んでいる写真を送りつけてきたことはさすがに関係ないだろう。
事情を知っている友人は激怒し、訴えるべきだと主張したし、両親は親戚の伝手をたどって弁護士を紹介してくれた。
だけど、呉羽は仮にも恋人だった相手に対してどうしてこんな仕打ちができるのかと、発作的に家を飛び出し旅行に出てしまった。
家族には行き先を告げずただ旅行に行くとだけ言ってきた。
「ええと、佐藤さんですか、佐藤さんはなんでこちらに?」
「僕ですか、仕事で出張です。公務員もいろいろとね」
公務員も部署によるのだろうな。
「何もないような場所に見えたんですが、怖いことってあるんですねえ」
「そういえば過疎の進んでいる離島で麻薬を精製していたって話を聞いたことがありますよね、過疎だから平和とは限らないのが怖い」
そう言って立ち上がると、ポットでコーヒーを入れてくれた。
「インスタントですが」
さっき飲んだのは缶コーヒーでだいぶ甘かった。いかにも親身になってくれているという顔だった。
疑って悪かったろうか。呉羽はそう思ってうつむいた。
「そうだ、ちょっと連絡先を交換しませんか。こう見えても公務員です、困っている市民の味方ですよ」
そう言って佐藤は自分のスマホを取り出す。
そして、呉羽も自分のポケットのスマホに電源を入れた。
未読ラインがとんでもない数になっている。
件名、『早まらないで。』
早まるつもりなんかない、と思う。それを見なかったふりをして、ラインをつなぎ、番号も交換した。
とりあえず、ラインに『元気です』とだけ返信した。
うかつにやくざらしき男に拳銃を突き付けられたなどと返信したらどんな騒ぎになるか。
「あ、もしかして会社に確認するかしら」
呉羽はようやく頭が回ってきたのかそのことに矢っと思い至る。
「確認するために連絡先訊いたんじゃないですか」
佐藤がコーヒーをすすりながら答える。
「それもそうですよねえ」
かつての恋人にフラれて新しい出会いが、これが恋愛小説なら目の前の男は白皙の美青年でなおかつお金持ちということになるが、現実は三日後には忘れ去られるくらい影の薄い公務員だ。
ちょっと目立つ特徴と言えば少しばかり背が高いくらいだ。
「なにか?」
くすくす笑い出した呉羽を怪訝そうな顔をして佐藤は問いかけた。
確かに呉羽を救ってくれたけれど、ついさっき会ったばかりの男なのだ。
佐藤はいかにも真面目そうなサラリーマンに見えたが、人間ぱっと見ではわからないものだ。
「何か、心当たりはありますか?」
「いえ、それは警察にも話したんですけれど」
何もない、ただ一時期婚約していた男が急に音信不通になり、いきなり結婚しましたとウエディングドレスを着た女と並んでいる写真を送りつけてきたことはさすがに関係ないだろう。
事情を知っている友人は激怒し、訴えるべきだと主張したし、両親は親戚の伝手をたどって弁護士を紹介してくれた。
だけど、呉羽は仮にも恋人だった相手に対してどうしてこんな仕打ちができるのかと、発作的に家を飛び出し旅行に出てしまった。
家族には行き先を告げずただ旅行に行くとだけ言ってきた。
「ええと、佐藤さんですか、佐藤さんはなんでこちらに?」
「僕ですか、仕事で出張です。公務員もいろいろとね」
公務員も部署によるのだろうな。
「何もないような場所に見えたんですが、怖いことってあるんですねえ」
「そういえば過疎の進んでいる離島で麻薬を精製していたって話を聞いたことがありますよね、過疎だから平和とは限らないのが怖い」
そう言って立ち上がると、ポットでコーヒーを入れてくれた。
「インスタントですが」
さっき飲んだのは缶コーヒーでだいぶ甘かった。いかにも親身になってくれているという顔だった。
疑って悪かったろうか。呉羽はそう思ってうつむいた。
「そうだ、ちょっと連絡先を交換しませんか。こう見えても公務員です、困っている市民の味方ですよ」
そう言って佐藤は自分のスマホを取り出す。
そして、呉羽も自分のポケットのスマホに電源を入れた。
未読ラインがとんでもない数になっている。
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早まるつもりなんかない、と思う。それを見なかったふりをして、ラインをつなぎ、番号も交換した。
とりあえず、ラインに『元気です』とだけ返信した。
うかつにやくざらしき男に拳銃を突き付けられたなどと返信したらどんな騒ぎになるか。
「あ、もしかして会社に確認するかしら」
呉羽はようやく頭が回ってきたのかそのことに矢っと思い至る。
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佐藤がコーヒーをすすりながら答える。
「それもそうですよねえ」
かつての恋人にフラれて新しい出会いが、これが恋愛小説なら目の前の男は白皙の美青年でなおかつお金持ちということになるが、現実は三日後には忘れ去られるくらい影の薄い公務員だ。
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