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karon

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呉羽の疑問

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「ご無事ですか、大貫さん」
 最近見慣れてしまった銀縁眼鏡の男が立っていた。
 顔のつくりがあっさりしているので、会えて銀縁眼鏡で特徴をつけてみましたという風だ。
 本体が眼鏡という漫画キャラがいるが、ほぼそのまんまと言えよう。
 佐藤和夫、聞いた話では単なる平凡な公務員。しかしそれが本当か確かめたことはない。確かめようと思ったこともないが、妙に得体のしれない男だ。
 二人はともに入院着のままだ。
「何かされましたか?」
 呉羽は左腕の肘の内側をそっと見せた。小さな赤い点。
 おそらく何かを注射された後だろう。しかし、薬物を注射されたにしては体調にあまり異変はない。
 軽く目を細めてその点を見ていたが。小さく肩をすくめた。
「まあいいでしょう、すでに街中では感染が広がっている。今更一人ぐらい増えたところでどうってこともない」
 それだけ言うと。呉羽の手を引いた。
「脱出してください、病院の敷地外に出ればたぶん大丈夫です」
 すでにゆかりとその知り合いの看護師も病院の敷地外に出ているはずだ。
 適当な上着でも羽織れば入院着でも外に出歩いていても違和感はないだろう。
 呉羽は戸惑いつつ部屋から出た。
「体調は?」
「特に何も」 
 呉羽はそして戸惑うようにあたりを見回す。
「いったい何が起きているんでしょう」
「今はそれどころではありません、とにかくここから離れてください」
 佐藤はそう言って、あたりを伺うように視線を動かした。
「この町はいったいどうなっているのかしら」
「いえ、ごく普通の田舎町ですよ、普段は」
 最後の言葉が妙に引っかかったがそれ以上呉羽は尋ねるのをやめた。
 どうせ無駄だと思ったせいもある。
 この男は呉羽の言い分など聞いてなどくれないだろうし、最初から質問に答えるつもりもないようだ。
 この階は異様に人が少なかった。一回があれだけごった返していたことを考えるとかなり異常だ。
 窓から見た景色でおそらく三階か四階あたりだろうと見当をつけていた呉羽は階下に降りる階段に向かうとき異様に緊張した。
 ここで見咎められたら終わる。額にうっすらと汗がにじんでいた。
 しかし佐藤はむしろ平然とした顔でさっさと階段を下りていく。
 呉羽はそのあとをついていきながら、漸く人通りのある二階にたどり着いた。
 そこで佐藤が軽くよろめく。
「大丈夫ですか?」
 そう言ってとった手が妙に暖かい。
「あの、もしかしてあなたが病人なんじゃないですか?」
 佐藤は軽く首を振った。
「大したことはありません、これくらいなら仕事に支障は出ないギリギリというところですね」
 明らかに仕事を休んでいいくらいの発熱だと呉羽は思ったが佐藤は取り合わない。
 いや、それ以前に佐藤の仕事って何だ。
 忙しそうに行きかう看護士、その視界にできるだけはいらないように佐藤はしゃんとした姿勢を取り続けた。
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