それは語られなかっただけ

karon

文字の大きさ
14 / 14

それでも語り継がれた

しおりを挟む
 俺はコホンと咳払いをした。

「行っておくけど、天武天皇の血筋がたたられているというのはそのあと数十年語り継がれてきたんだぞ」

「そなの?」

「天武天皇の血を引く最後の天皇である称徳天皇の死後、即位したのが天智天皇の孫にあたる光仁天皇だ。その次が桓武天皇。ここで、天武の祟られ話をこの時代の人間が信じていた証拠がある。光仁天皇に井上皇后がいた。そしてその皇后は皇子を産んでいる。普通ならこの皇子が即位するしかし即位したのは朝鮮半島から来た妾腹の皇子、それが桓武天皇だったりする」

「あれ、そういえば井上皇后って聞いたことあるわ、確か怨霊十選に出てくるはず」

 オカルトマニアの本領をようやく発揮した。

「そう、冤罪着せられて自殺に追い込まれた。この人天武天皇の子孫なんだよ」

「まさか、それで?」

 俺はほうじ茶を飲み干した。

「とんでもない話だろ、皇族皇后の産んだ子供であっても天武の血を引く皇子を即位させない。それくらいなら半島出身の女の子供を即位させるって」

「それはまた」

 それほどまでに当時は怨霊はリアルな存在だった」

 俺はそう言って太郎に目をやった。こいつみたいに遊びでどうこうできる存在じゃなかったんだぞと。

「それで、本命の真犯人は誰なんだよ」

 すべてを始めた張本人は誰かと尋ねる。

「真犯人か。この場合主犯だな。これは最初からわかっているだろう」

 俺はそうして絵を指さした。

「入鹿の首が飛びついたのは誰だ」

 御簾にかじりついた入鹿の首。

「皇極天皇?」

この絵を見て、入鹿と皇極天皇ができていたとか言う馬鹿がいたらしいが。源義経の鍬形にかじりついている生首の絵を見て恋愛関係を想像する馬鹿がいたそうだがとんでもない。

 これは告発。すべての惨劇の幕を引いた人間を指示している。

「彼女こそ、主犯だ」

「天皇になったのは彼女自身と彼女の弟と息子たち、最も得をしたのが彼女だ」

 俺はこの絵に描かれたただ一人の女を見た。

「漢皇子は用明天皇の曾孫ではない、誰の息子だったか、大化の改新で、韓人が入鹿を殺したと古人大兄皇子は叫んだそうだ。韓人は誰だ?」

「この場合、鎌足?」

「その可能性もある。だが、韓人と漢皇子が呼ばれていたとしたら?」

 太郎は首をかしげた。

「皇極天皇と韓人の間にできたのが漢皇子だったとしたら?」

「それ、自由恋愛じゃないよな」

「蘇我氏に差し出された可能性もあるな」

「ひどくね?」

「だからこそ、復讐に走ったんじゃねえの」

 そう、蘇我氏も復讐されるだけのことはしているのだ。彦人大兄皇子にも、その子孫にも。

「それに、厩戸皇子、まあ暫定的に言うけど、この人が即位できなかったのは推古天皇がやたら長生きしてしまったからだろ、つまり蘇我系皇子を即位させるために皇極天皇に長生きしてもらいたくなかったとしたら、皇極天皇の命は推古天皇より明らかに軽いだろうしな」

 太郎はうなる。

「山背大兄皇子と古人大兄皇子、どちらが即位するかという争いが起きたとき皇極天皇の健康状態は特に悪かったわけじゃないし、退位って、最初の例が皇極天皇なんだぜ」

 大化の改新では彼女は傍観者だということになっている、そう歴史に記されている。

 だが、地方では、長野県の善光寺では皇極天皇は地獄にいるという。

 長野県あたりは当時地の果てだと言われていた。だから、やっと言えたのだと思う。天皇家の力の及ばぬところでやっということができた。彼女が主犯だと。

「日本書紀は記されてから百年以上皇族しか読むことのできない書物だったらしい、ほかの貴族に読ませるようになったのは平安時代後半になってから、たぶん、すべてを知っている人間が死に絶えるのを待っていたんだろう。言うまでもないが、当時は周知の事実だったんだ」

「そういえば紫式部って、日本書紀の局って呼ばれてたな、それくらいか」

「まあ、それでも子供にそっと家の中だけで語り継がれていたんだろう」

 俺は絵の中の入鹿の首を撫でた。

しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

大好きな幼なじみが超イケメンの彼女になったので諦めたって話

家紋武範
青春
大好きな幼なじみの奈都(なつ)。 高校に入ったら告白してラブラブカップルになる予定だったのに、超イケメンのサッカー部の柊斗(シュート)の彼女になっちまった。 全く勝ち目がないこの恋。 潔く諦めることにした。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

私の優しいお父さん

有箱
ミステリー
昔、何かがあって、目の見えなくなった私。そんな私を、お父さんは守ってくれる。 少し過保護だと思うこともあるけれど、全部、私の為なんだって。 昔、私に何があったんだろう。 お母さんは、どうしちゃったんだろう。 お父さんは教えてくれない。でも、それも私の為だって言う。 いつか、思い出す日が来るのかな。 思い出したら、私はどうなっちゃうのかな。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

処理中です...