31 / 235
起《承》転結
ーー 少年と赤い竜~それから60年後~ ーー①
しおりを挟む
「おーい、アズ。久しぶりじゃのー。わしを覚えておるか?」
「おう! 誰かと思ったらイッシュ坊じゃないか! お前を忘れるわけなんてねえだろ!」
そこは、少し手を伸ばせば簡単に雲に触れてしまえそうな高い高い山の頂上。
普通の人は決して立ち入らない。
そのせいで、まともな道らしきものはほとんどなくて、わたし達は辛うじて木々や大きな岩をどけただけの獣道を進む。そんな悪路だから馬車も村に置いてきた。お馬さん達が心なしかホッとしているように見えたのは気のせいということにしておこう。
近くの村で聞いた話だと、この竜髑髏砕き山とかいう心底物騒な名前の山はこの世界で唯一人を食べないドラゴンが棲まう山なんだとか。そんなことよりネーミングセンスどこいったよ。
でも、そうは言ったって誰だっておっかないドラゴンになんて会いたくない。だから、ほとんど誰もこの山には登らないって。
こんなに標高が高いと息が出来ないんじゃないかと思ったけど、上まで来たら急に呼吸が楽になった。
「この辺りはあやつの領域内じゃからの、わしらみたいな人間の依頼人が来た時のために魔法で空気を調整してくれているんじゃ」
めっちゃいい人じゃん。
でも、どうして誰も近づかないような場所なんかにそんなことするのかと思ったら、どうやら、ここのドラゴンに用事がある人もいるらしくて、
「時々おるんじゃよ、ドラゴンで旅をするような見栄っ張りの大馬鹿者が」ウソでしょ。
わたしは思わず空を仰ぎ見る。山頂付近の冷たく澄んだ空気がわたしの吐息で白くなる。そう、その陽光と吐息に霞む視界の先には――
遠くからでもはっきりとわかる刺々しいシルエットが上空を飛んでいる。優雅ですらあるその飛行に恐れながらも、それでも、その絶大な頂点捕食者につい見とれてしまう。
太古より自然の魔力の具現として恐怖と畏敬の念を込めて崇められた、爬虫類の赤い鱗に覆われた翼と角を持つ最強の幻想種。
すごい、これがドラゴン。
「それにしても、ずいぶんと老けちまったみてえだけど元気にしてたかい?」
「60年ぶりじゃ、人間は老けるもんだ」
そして、へとへとのわたし達を出迎えてくれた彼女が、あれら天空の赤き竜達を統べるドラゴン使い。
ふたりはまるでつい先日会っていたかのような、60年なんて長い歳月を感じさせないフランクな挨拶を交わす。それでも、ふたりの姿を見ただけじゃあ、とても友達同士だなんて思えないほど、ふたりはあまりにも対照的だった。
彼女はパッと見は人間の姿をしていたけど、たぶん人間じゃない。少なくともいい人には見えない。
見た目はエルルカと同じくらいの年齢に見える……けど?
燃え盛るような赤いロングヘアーに、煌々と輝く金色の瞳。笑っているけどどこか気圧されるような迫力があるその豪胆な笑顔にはギザギザの乱杭歯。
隠すつもりもないのだろう露出度かなり高めのぴたりとした服装から惜しげもなく見えるすらりと筋肉質な肢体。というか、露出度高めっていうか、ほとんど水着か下着くらい布面積なんですけど。なんだ、わたし以外の登場人物は胸が大きくなければいけない、っていう縛りでもあるんか?
健康的な褐色の肌には金色の不思議な紋様があって、それが全身を覆っている。うっすら光ってる?
そして、頭の横から生えた2本の大きな角。背中から赤い鱗が覆う翼膜。お尻から伸びている、これも鱗に覆われた爬虫類のような尻尾。よく見たら耳も人間のよりずっと長く尖っている。
どこをどう見ても普通の人間の特徴とは一線を画してる。
そんな見た目からして恐ろしい存在が、何の変哲もないおじいちゃんなんかととっても親しげに話している。なんだったら、大きな尻尾がとっても嬉しそうにぶんぶんしている。
「おう! 誰かと思ったらイッシュ坊じゃないか! お前を忘れるわけなんてねえだろ!」
そこは、少し手を伸ばせば簡単に雲に触れてしまえそうな高い高い山の頂上。
普通の人は決して立ち入らない。
そのせいで、まともな道らしきものはほとんどなくて、わたし達は辛うじて木々や大きな岩をどけただけの獣道を進む。そんな悪路だから馬車も村に置いてきた。お馬さん達が心なしかホッとしているように見えたのは気のせいということにしておこう。
近くの村で聞いた話だと、この竜髑髏砕き山とかいう心底物騒な名前の山はこの世界で唯一人を食べないドラゴンが棲まう山なんだとか。そんなことよりネーミングセンスどこいったよ。
でも、そうは言ったって誰だっておっかないドラゴンになんて会いたくない。だから、ほとんど誰もこの山には登らないって。
こんなに標高が高いと息が出来ないんじゃないかと思ったけど、上まで来たら急に呼吸が楽になった。
「この辺りはあやつの領域内じゃからの、わしらみたいな人間の依頼人が来た時のために魔法で空気を調整してくれているんじゃ」
めっちゃいい人じゃん。
でも、どうして誰も近づかないような場所なんかにそんなことするのかと思ったら、どうやら、ここのドラゴンに用事がある人もいるらしくて、
「時々おるんじゃよ、ドラゴンで旅をするような見栄っ張りの大馬鹿者が」ウソでしょ。
わたしは思わず空を仰ぎ見る。山頂付近の冷たく澄んだ空気がわたしの吐息で白くなる。そう、その陽光と吐息に霞む視界の先には――
遠くからでもはっきりとわかる刺々しいシルエットが上空を飛んでいる。優雅ですらあるその飛行に恐れながらも、それでも、その絶大な頂点捕食者につい見とれてしまう。
太古より自然の魔力の具現として恐怖と畏敬の念を込めて崇められた、爬虫類の赤い鱗に覆われた翼と角を持つ最強の幻想種。
すごい、これがドラゴン。
「それにしても、ずいぶんと老けちまったみてえだけど元気にしてたかい?」
「60年ぶりじゃ、人間は老けるもんだ」
そして、へとへとのわたし達を出迎えてくれた彼女が、あれら天空の赤き竜達を統べるドラゴン使い。
ふたりはまるでつい先日会っていたかのような、60年なんて長い歳月を感じさせないフランクな挨拶を交わす。それでも、ふたりの姿を見ただけじゃあ、とても友達同士だなんて思えないほど、ふたりはあまりにも対照的だった。
彼女はパッと見は人間の姿をしていたけど、たぶん人間じゃない。少なくともいい人には見えない。
見た目はエルルカと同じくらいの年齢に見える……けど?
燃え盛るような赤いロングヘアーに、煌々と輝く金色の瞳。笑っているけどどこか気圧されるような迫力があるその豪胆な笑顔にはギザギザの乱杭歯。
隠すつもりもないのだろう露出度かなり高めのぴたりとした服装から惜しげもなく見えるすらりと筋肉質な肢体。というか、露出度高めっていうか、ほとんど水着か下着くらい布面積なんですけど。なんだ、わたし以外の登場人物は胸が大きくなければいけない、っていう縛りでもあるんか?
健康的な褐色の肌には金色の不思議な紋様があって、それが全身を覆っている。うっすら光ってる?
そして、頭の横から生えた2本の大きな角。背中から赤い鱗が覆う翼膜。お尻から伸びている、これも鱗に覆われた爬虫類のような尻尾。よく見たら耳も人間のよりずっと長く尖っている。
どこをどう見ても普通の人間の特徴とは一線を画してる。
そんな見た目からして恐ろしい存在が、何の変哲もないおじいちゃんなんかととっても親しげに話している。なんだったら、大きな尻尾がとっても嬉しそうにぶんぶんしている。
0
あなたにおすすめの小説
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
幼女と執事が異世界で
天界
ファンタジー
宝くじを握り締めオレは死んだ。
当選金額は約3億。だがオレが死んだのは神の過失だった!
謝罪と称して3億分の贈り物を貰って転生したら異世界!?
おまけで貰った執事と共に異世界を満喫することを決めるオレ。
オレの人生はまだ始まったばかりだ!
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します
桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる
積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!
ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。
悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。
知識スキルで異世界らいふ
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる