この世界はわたしが創ったんだから、わたしが主人公ってことでいいんだよね!? ~異世界神話創世少女 vs 錯誤世界秩序機能~

儀仗空論・紙一重

文字の大きさ
32 / 235
起《承》転結

ーー 少年と赤い竜~それから60年後~  ーー②

しおりを挟む

 あまりの威圧感に指一本も動かせないわたしとエルルカに対し、

「見ての通りアズはドラゴンだ、今は亜人態に変身しておるがな」

「おう、よろしくな。アタシは、アズライグ・ゴックス。まあ、名前なんてどうでもいい、アズ、とでも呼んでくれ。アタシはここでこいつらの世話をしてるんだ」

 おじいちゃんは至極落ち着いておられている。わたし達は迫り狂う圧倒的な情報量と恐怖で許容限界をあっさり超えている。ドラゴン? 亜人態? 変身? もう何もわからない。

「この姿の方が楽なんだよな。ちっさいのはアタシの姿を見るとビビっちまうからな、ま、これでもビビるやつはビビるけど」

「ち、ちっさいの?」エルルカ、知りたがりの性分は忘れられず。

「ハッ、お前ら人間のこと、だ……ん?」

 すると、エルルカの背中に隠れて恐れおののいていたわたしをまじまじと見つめ、いや、睨み付けるアズ。

「お前、なんだ? ホントに人間か?」

 急激にアズの声音が変わる。警戒と敵対。

 腰に両手を当てて上半身だけを屈ませて、ぐいッと顔を近づけるアズ。ぎろりと動く細い瞳孔、金色に爛々と輝く猛獣の瞳が、わたしの虹色に輝く瞳を見つめる。灼熱の吐息がわたしにかかって、ぴくりとも出来ず。

 もはや捕食者と獲物の様相。

「匂いが違う、」ぺろり、とてもとても長い舌がわたしの頬を舐める。ざらざらしてて熱い。「味も違う」

 生きた心地がしない。がしっとわたしの顎を掴む右手、むにっとほっぺに喰いこむ長い爪があまりにも鋭くて今すぐにでも引き裂かれそう。ドドッドドドドドラゴンめっちゃ怖い!

「それに、人間はこんなに冷たくない。けど、天使でも悪魔でもないな、喰ったらわかるか?」歯が! 歯が!

「ひ、ひいぃ」へ、変な声出た。

「やめんか、アズ。この嬢ちゃんはわしの友達じゃぞ」

「ああ?」

「わ、わ、わわわたしの名前は【透明幻想・錯綜少女基底】。人間かどうかはわたしにも良くわからなくて、わたしが一体全体何者なのかを探してるの」必死に。

「自分探しの旅か」……なんかその言い方イヤ!

 アズはようやくわたしの頭を無事に解放してくれた。ち、ちぎれてないよね。

「坊やのダチじゃあ喰うわけにはいかねえな、じゃあ、そっちのメガネがアタシのエサか?」ぺろり、舌なめずり。

「ひ、ひえぇ」エルルカも変な声出てる。

「こっちはエルルカ、わしの孫じゃ、喰ったら許さんぞ」

「孫!? お前に孫!?」

「人間の時間の進みはお前らよりずっと早いぞ。60年も経てばわしにだって妻を娶り子供に孫も出来るんじゃよ」

「あのかわいかった純情少年に孫がいるってのはマジで信じられんが、うーん、確かにヨボヨボに老けこんじまってるもんな」

 この頑固おじいちゃんがかわいかった!? その話もとても気になります!

「ふん、わしの事なんぞどうでもいい、なあ、アズ、ドラゴンを何匹か貸してくれんか。わしらを魔王のところまで連れて行ってほしいのじゃが」

「おう、いいぞ」

「「いいの!?」」

 思った以上にあっさりと了承してくれたんですけど。事情も聞かず二つ返事、豪胆でさっぱりしてる! あ、いや、なんかめちゃくちゃ強そうなドラゴンだし恐れ知らずってことかも。

「魔王のところか! ハハッ、いいね! イッシュ坊やの頼みなら断れねえよな!」

「なんじゃ、アズが直々に連れて行ってくれるのか? 人間は乗せない主義じゃなかったか?」

「ああ? アタシとあんたの仲じゃないか。あんたとその孫、それに友達なら特別さ」

 人間とドラゴン、きっと相容れないはずだったこのふたりに一体どんな物語があったのだろうか。

 ふたりを見ていると、きっとどちらも教えてくれないだろうな、って思うんだよね。

 だって、それはたったふたりだけのささやかな物語だと思うから。

「一度は魔王に仕えた我が身、今は坊やに助けられしこの命、再び会いまみえる日が来ようとはな! ハッ、無駄に長生きもしてみるもんだな!」

 すると、アズはニヤリと大きく口角を上げ、その鋭い乱杭歯を盛大に覗かせる。

 唐突に、アズの身体が軋む、歪む。

 身体中の刺青が黄金に輝く。変貌は身体の至るところから。その口は大きく裂け、その牙がさらに大きく。

 身体には紅い鱗が生えて不自然に膨張し、わたしの身体なんかよりさらに巨大に。

 その膨張はすらりとしていたはずの両腕から両足、そして、全身に至り、そのあまりの重量に耐えきれずに地面を激しく揺らしながら四つん這いになる。

 あまりにも唐突で異様なアズの変身にわたしとエルルカは驚きながらそれを見守るしかできない。

 ちらりと隣のおじいちゃんを見てみると、まあ、相変わらずの仏頂面だったんだけど、なぜかとても嬉しそうな愛おしそうな表情にも見えた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

神の加護を受けて異世界に

モンド
ファンタジー
親に言われるまま学校や塾に通い、卒業後は親の進める親族の会社に入り、上司や親の進める相手と見合いし、結婚。 その後馬車馬のように働き、特別好きな事をした覚えもないまま定年を迎えようとしている主人公、あとわずか数日の会社員生活でふと、何かに誘われるように会社を無断で休み、海の見える高台にある、神社に立ち寄った。 そこで野良犬に噛み殺されそうになっていた狐を助けたがその際、野良犬に喉笛を噛み切られその命を終えてしまうがその時、神社から不思議な光が放たれ新たな世界に生まれ変わる、そこでは自分の意思で何もかもしなければ生きてはいけない厳しい世界しかし、生きているという実感に震える主人公が、力強く生きるながら信仰と奇跡にに導かれて神に至る物語。

オバちゃんだからこそ ~45歳の異世界珍道中~

鉄 主水
ファンタジー
子育ても一段落した40過ぎの訳あり主婦、里子。 そんなオバちゃん主人公が、突然……異世界へ――。 そこで里子を待ち構えていたのは……今まで見たことのない奇抜な珍獣であった。  「何がどうして、なぜこうなった! でも……せっかくの異世界だ! 思いっ切り楽しんじゃうぞ!」 オバちゃんパワーとオタクパワーを武器に、オバちゃんは我が道を行く! ラブはないけど……笑いあり、涙ありの異世界ドタバタ珍道中。 いざ……はじまり、はじまり……。 ※この作品は、エブリスタ様、小説家になろう様でも投稿しています。

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

処理中です...