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起《承》転結
ーー 少年と赤い竜~それから60年後~ ーー③
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「――ふう、久々にこの姿になったぜ」
ドラゴンとなったアズの声は地を揺らす咆哮そのもので、アズが何か言う度にわたし達は急いで耳を塞がなければいけなかった。
アズの荘厳たるその姿は周りにいるドラゴンとは明らかに違っていた。
まず、とても大きい。
周りにいる他のドラゴンだってわたしの身体なんて簡単に丸呑みにできてしまうほどの巨体なのに、それらが小さな子ドラゴンみたいに思えるほど、アズの身体はさらに巨大だった。
その巨体をまるで宝石のように硬そうな分厚い赤鱗がびっしりと覆う。その鱗の一枚一枚がわたしの顔なんかよりもずっと大きくて、そして、それらは霧掛かった弱い陽光の中ですらきらきら煌めいていた。
アズの身体に刻まれていた紋様がこの紅き竜の鱗にもうっすらと光り輝いていて、鼓動とともに脈動するその輝きは神々しささえ感じられる。
ばさり、たった一度身体を伸ばすように軽く羽を広げただけなのに、大きな紅い翼がわたし達の頭上の空を暗く覆い隠し、吹き荒れる旋風を巻き起こす。木々は大きくしなり、周りにいる同族でさえ不安げな雄叫びを上げている。
金色に輝く猛禽の眼、ちらちらと炎が漏れる巨大な顎、そこに連なる一本一本が柱の如き鋭い乱杭歯。
どう考えても、災害の類、いや、その顕現かもしれない、自然の力そのものたる雄姿。その中心地にいたわたし達が吹き飛ばされなかったのは、ただの奇跡。
亜人態でもなかなかパンチあったけど、確かにアズのこの姿は初見じゃ怖気付く。間違いなくダッシュで逃げ出す。
「ねえ、アズさんってすごいドラゴンさんなの?」エルルカ、なぜか小声。
「わしにも良くわからんが、魔王の側近だったようじゃな」
「それ、すごいドラゴンさんじゃん!」
直、死にかけて、風ですっかりぼさぼさになってしまった髪なんて気にする余裕もなく。エルルカもチャームポイントかつ生命線でもあるメガネが吹き飛んだみたいだけど、こちらも硬直して動けず。
「ところでどうして魔王になんて会いたいんだ? もう平和な世の中だ、魔王討伐なんて時代遅れだろ?」
「そんなのじゃないよ、たぶん勝てないし。わたしは自分のことを知りたいだけなの。わたしは自分の名前しか知らないし、その名前の意味もわからない。魔王ならそのヒントを知ってるかもしれなくて」
矢継ぎ早にそう訴えかけるわたしを、アズはじっと見つめていた。大きな金色の瞳だけが、この紅き竜こそがアズだとわかる唯一の特徴だった。ドラゴンに変身したアズの表情はわたしにはわからない。
だけど、本能的な獰猛さの中にわずかに垣間見える理知的な色。それが、その昔おじいちゃんとの出会いによって得たものなのかまでは計り知れないけど、そうだったら素敵だな。
「そうか、アタシにとっては何百もある名前なんてどうでもいいけどよ、お前にとっては意味があるみてえだな、【透明幻想・錯綜少女基底】」
「長いからキティでいいわ、ただのキティ」
「ハッ、ただの! キティ! あのクソ生意気なお姫さまみてえだな!」
アズの大きな口からボッと炎が漏れる、きっと、ニヤリと笑ったのだろうか。たったそれだけで、肌寒かった山頂の気温が少し上昇したような気がした。
「え、もしかしてラフィーナに会ったの!? あの、ふわふわ金髪メルヘンお姫さまのラフィーナに!?」
「ん? ああ、特徴的に確実にソイツだ。会ったぜ、それどころか急に襲い掛かってきやがった。クソむかつくがなんとか引き分けた」
「ラフィーナ、何してんの!?」
ドラゴンに挑むお姫さまがいてたまるもんですか! しかもこんなすごいドラゴンさんのアズと引き分けって! 好戦的すぎる!
情報量が、情報量が多い。ツッコミどころがありすぎて、ますますラフィーナという人物像がわからなくなってくる。まあ、人物像といっても、きっと、初めてあの白い空間で出会った時のあのままのお姫さまなんだろうけど。……まあ、でも、元気そうでなにより…………か、かなぁ……?
「ねえ、アズ、ラフィーナがどこに向かうとかって何か言ってなかった?」
「いや、知らんな。対話するまでもなく、クロスカウンターでお互いに訳わからんところまでぶっ飛ばされたからな」
「ずいぶんと壮絶な引き分けね!?」
ーーBeware the Jabberwock, my son!
The jaws that bite, the claws that catch!
Beware the Jubjub bird, and shun
The frumious Bandersnatch!
ドラゴンとなったアズの声は地を揺らす咆哮そのもので、アズが何か言う度にわたし達は急いで耳を塞がなければいけなかった。
アズの荘厳たるその姿は周りにいるドラゴンとは明らかに違っていた。
まず、とても大きい。
周りにいる他のドラゴンだってわたしの身体なんて簡単に丸呑みにできてしまうほどの巨体なのに、それらが小さな子ドラゴンみたいに思えるほど、アズの身体はさらに巨大だった。
その巨体をまるで宝石のように硬そうな分厚い赤鱗がびっしりと覆う。その鱗の一枚一枚がわたしの顔なんかよりもずっと大きくて、そして、それらは霧掛かった弱い陽光の中ですらきらきら煌めいていた。
アズの身体に刻まれていた紋様がこの紅き竜の鱗にもうっすらと光り輝いていて、鼓動とともに脈動するその輝きは神々しささえ感じられる。
ばさり、たった一度身体を伸ばすように軽く羽を広げただけなのに、大きな紅い翼がわたし達の頭上の空を暗く覆い隠し、吹き荒れる旋風を巻き起こす。木々は大きくしなり、周りにいる同族でさえ不安げな雄叫びを上げている。
金色に輝く猛禽の眼、ちらちらと炎が漏れる巨大な顎、そこに連なる一本一本が柱の如き鋭い乱杭歯。
どう考えても、災害の類、いや、その顕現かもしれない、自然の力そのものたる雄姿。その中心地にいたわたし達が吹き飛ばされなかったのは、ただの奇跡。
亜人態でもなかなかパンチあったけど、確かにアズのこの姿は初見じゃ怖気付く。間違いなくダッシュで逃げ出す。
「ねえ、アズさんってすごいドラゴンさんなの?」エルルカ、なぜか小声。
「わしにも良くわからんが、魔王の側近だったようじゃな」
「それ、すごいドラゴンさんじゃん!」
直、死にかけて、風ですっかりぼさぼさになってしまった髪なんて気にする余裕もなく。エルルカもチャームポイントかつ生命線でもあるメガネが吹き飛んだみたいだけど、こちらも硬直して動けず。
「ところでどうして魔王になんて会いたいんだ? もう平和な世の中だ、魔王討伐なんて時代遅れだろ?」
「そんなのじゃないよ、たぶん勝てないし。わたしは自分のことを知りたいだけなの。わたしは自分の名前しか知らないし、その名前の意味もわからない。魔王ならそのヒントを知ってるかもしれなくて」
矢継ぎ早にそう訴えかけるわたしを、アズはじっと見つめていた。大きな金色の瞳だけが、この紅き竜こそがアズだとわかる唯一の特徴だった。ドラゴンに変身したアズの表情はわたしにはわからない。
だけど、本能的な獰猛さの中にわずかに垣間見える理知的な色。それが、その昔おじいちゃんとの出会いによって得たものなのかまでは計り知れないけど、そうだったら素敵だな。
「そうか、アタシにとっては何百もある名前なんてどうでもいいけどよ、お前にとっては意味があるみてえだな、【透明幻想・錯綜少女基底】」
「長いからキティでいいわ、ただのキティ」
「ハッ、ただの! キティ! あのクソ生意気なお姫さまみてえだな!」
アズの大きな口からボッと炎が漏れる、きっと、ニヤリと笑ったのだろうか。たったそれだけで、肌寒かった山頂の気温が少し上昇したような気がした。
「え、もしかしてラフィーナに会ったの!? あの、ふわふわ金髪メルヘンお姫さまのラフィーナに!?」
「ん? ああ、特徴的に確実にソイツだ。会ったぜ、それどころか急に襲い掛かってきやがった。クソむかつくがなんとか引き分けた」
「ラフィーナ、何してんの!?」
ドラゴンに挑むお姫さまがいてたまるもんですか! しかもこんなすごいドラゴンさんのアズと引き分けって! 好戦的すぎる!
情報量が、情報量が多い。ツッコミどころがありすぎて、ますますラフィーナという人物像がわからなくなってくる。まあ、人物像といっても、きっと、初めてあの白い空間で出会った時のあのままのお姫さまなんだろうけど。……まあ、でも、元気そうでなにより…………か、かなぁ……?
「ねえ、アズ、ラフィーナがどこに向かうとかって何か言ってなかった?」
「いや、知らんな。対話するまでもなく、クロスカウンターでお互いに訳わからんところまでぶっ飛ばされたからな」
「ずいぶんと壮絶な引き分けね!?」
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