この世界はわたしが創ったんだから、わたしが主人公ってことでいいんだよね!? ~異世界神話創世少女 vs 錯誤世界秩序機能~

儀仗空論・紙一重

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起《承》転結

ーー異世界仲直りーー③

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「ふん、キティ、お前らの相手は後だ」

 しかしながら、最強装備のケヴィンはわたし達のことなんて眼中にはなく。

 改めて、真の敵、明確な、そう、見た目からわかりやすいラスボスへと向き直る。……う、うん、わかってる、傍目から見たら確かにわたしはただの下っ端ですよーだ!

「魔王、アヴァルギリオン! オレ達は故郷を滅ぼし、そして、この世界を再び混沌に陥れようとする貴様を倒しに来た勇者だ!」

 ケヴィンは、【不浄遺棄地域】の周りに散らばる無数の武器の残骸を忌々しげに睨み付ける。しまった、まさか、魔王の封印が解かれた、とでも思っているのかしら。最悪のタイミングで来ちゃったよ。

「ほう、珍しいな、真っ当な理由での来訪者は」

「魔王様、こんな奴らとっとと殺っちまってくださいよ」

 アズがなんか三下みたいなこと言っとるんだが? なんか呑気な雰囲気なんだよな、この2人。強者の余裕ってか。

「――然し、我に世界を統べる力なぞ無き故に」

 それはあまりにも残酷に、淡々としていて。静寂に響き渡る。ケヴィン達はおろか、思わずわたし達まで【不浄遺棄地域】の貌のない貌を見上げてしまう。

「は?」

「貴殿らは魔が何処より来るかご存知であるか?」

「貴様は何を……」

「闇とは、選択されずに消え失せたものを幾不可説不可説転と内包せし不明瞭の光源なり。そして、魔界とは非選択世界の無意識的集合態に然り」

 一体、この中の何人が【不浄遺棄地域】のこの説明がわかるだろうか。少なくともわたしにはさっぱりわからない。この中で一番博識だと思われるおじいちゃんやエルルカでさえギリギリで首を傾げている。

「つまり、魔、とは、我が一側面である混沌の絶えず収束し拡散する暗黒の中心地より這い出ずる不浄なりし不定形の理性なき泡沫なり」

 ……つまり、つまり、どういうことだってばよ? なるほどね、完全に把握した、何もわからないってことをね。

「然して、魔物とは光あるところより生じる闇より這い出でて生じるもの。我はもはや魔を統べることは無き故に」

「ああ、確かに、アタシらが魔王様に直接指図されたことってねえな」

 きっと、アズは元々この世界にいたんだろう。そういうこの世界由来の魔物、幻想種もいる。

 でも、例えば、人間やエルフなんかの小規模な村や旅人を無秩序に襲ったりする理性のない魔物なんかは、“存在しない世界”の亀裂である【不浄遺棄地域】から滲み出してきたものなんだ……と推測されます。詳細はわたしにはわかりかねます。

「オレは、伝説の勇者、アルスと同じように神の加護を授かった。そして、魔王を倒せ、という使命も」

 そして、魔王の話なんてほとんど聞いちゃいなかったのだろう、ケヴィンにいたっては勇ましく剣を振りかざすだけで、全く理解しようとも思っていないみたいだった。

 神様ったらいまさら魔王討伐なんて時代遅れじゃない? もう何千年も昔に勇者が倒したんじゃないの? それを今こんな最悪なタイミングでけしかける? しかも、ケヴィンを選んじゃうなんて(わたしにとって)最悪よ。

 しかし、全世界共通の絶対悪、標的であるはずの魔王、【不浄遺棄地域】はふと沈黙、動かなくなってしまった。ここで押し黙っちゃうのはまずいって。わたしのそわそわと連動……はしていないか、【不浄遺棄地域】の奥の黒い孔だけが不気味にゆらゆらと蠢いている。

「ふむ、神への叛乱者、アルスはかつて“始源拾弐機関”としての我が本質に気付いた唯一の人物だ、」

「な……」ケヴィンは絶句する。

「そして、生涯唯一の我が友である」

 ようやく発したのは、衝撃の事実。そして、虚無じみた沼底から響くような無機質な音声のはずなのに、わたしにはどこか郷愁が感じられたのは気のせいかな。

「かつて、アルスと我は盟約を交わした、世界を人間の手に、と。そして、我は依然として此処に座し、アルスは世界に平和をもたらした勇者として後世に讃えられた、と聞く」

 誰しもが知っている勇者の伝説には裏があった。わたしはこの物語をよく知らない。だけど、そういえば、おじいちゃんも言ってったっけ、人間は、短命で忘れやすく、主観的で自分勝手だ、って。片方の話だけじゃ真実は見えてこないんだ。

 それにしても、おじいちゃんとアズといい、勇者と魔王といい、みんな気になる物語を持ってるじゃないか!

「黙りなさい! 神に仇なす全世界の害悪の根源、魔王、アヴァルギリオン、貴方のおっしゃっていることは全て勇者を惑わせるための妄言です!」

 ふわり、魔王城でも一際暗いこの部屋に高く舞い上がりながら、なんだか心なしかうっすらと全身が光り輝いている翼の生えた女性が高らかに宣う。魔王のことボロクソに言うじゃん。

「神の御使いとして天界より舞い降りてこの者の加護を承るわたくし、天上位階第弐百伍拾漆位の天使、神の贄たる者、ピスクエルが断言致します!」

 天界、そんなのもあるのか。魔界もあるんだし、そういうもんか。

 なんちゃらかんちゃらでなんちゃらかんちゃらの天使、ピスクエルは……ん? なんだか、見覚えがあるようなないような…………気のせいか?
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