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対立→■■■→再演
―― 砂漠の大蛇のおはなし ――②
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わたし達は無愛想だけど優しい遊牧民と別れて、こうして無人どころか、何も無い駅でひたすら列車の到着を待つ。
時刻表なんてあるはずもない、いつ来るかなんてわからない、来ないかもしれない。来るのは今日じゃなくて明日、もしかしたら1年先、10年先、なんてこともありえる。
もしかしたら、駅はここじゃないかもしれない、何も目印はないのだ、わたし達はただ砂漠のど真ん中で待ちぼうけを食っているだけかもしれない。
どれくらいここにいただろう、長い時間じゃないはずだ、灼熱に焦がされながら、でも、まだわたし達は干からびても、爆発もしていない。
「来た……」
いつの間にやら遠くの小高い砂丘に座り込んで俯いていたおじいちゃんがふと顔を上げた。
「おい、来たぞ、キティ、エルルカ!」
どこからともなく、砂嵐とは違う、大地そのものを揺らす身体の奥に響くような轟音が近づいてくる。
蜃気楼の中をゆらゆらしている不確かな輪郭が、だんだんとはっきりしてくる。じっと目を凝らす必要もなく。
なるほど、無秩序に蛇行疾走するその姿は、ああ、確かに大蛇に見えなくもない。
それは、まぎれもなく、線路もないのに砂漠を超特急で走り続ける巨大な列車。
流線型のフォルムが砂を巻き上げながら疾駆する。よく見ればその車体には繊細な金細工がびっしりと施されていて、灼熱の太陽にギラギラ輝いていた。そして、一番前の豪奢な機関車が豪華絢爛な客車や貨物車を大量に連結している。そこに本当に乗客や貨物が積んであるのかはわからない。そもそも、超猛スピードだけどこの列車、止まるの?
線路すらない、駅もない。止まりもしない。この列車に常識なんて通じない。
なら、あの列車に乗車する方法は……
砂色の衣装をばさりと脱ぎ捨てる。日差しが白い肌を焦がす。ぬるり、ワンピースを変形させて漆黒の魔剣を具現。そう、この魔剣は出力と形状を調整可能なはずだ。
「ねえ、キティさん、一体どうするつもり!?」
「え、どうするって……」
言いかけて、わたし達のすぐ真横をあっという間に過ぎ去っていこうとする列車に、鉤状にした魔剣を引っ掛けて無理矢理飛び乗る。
どうするって、無賃乗車しかないじゃん!
「エルルカ! おじいちゃん! わたしたちはここでお別れね! 自分勝手でごめんなさい! またどこかできっとお会いしましょう!」
最高速度のお別れの挨拶。名残惜しさを感じる時間さえなく、2人へと手を伸ばす余裕すらない。エルルカが何か叫んでいるのも聞こえやしない。何もかもを列車の轟音がかき消してしまった。
必死に列車にしがみつきながら振り返ると、もう立ち尽くすふたりの姿は点になっていて、そして、すぐに猛烈な砂嵐の中に消えてしまった。
凄まじい向かい風と猛烈な振動、漆黒のワンピースをねちゃりと列車の壁へとへばりつかせながら、なんとかドアを開ける。全く平穏無事じゃなく、むしろ不穏とともに列車へと乗車することができた。死ぬかと思った。感傷に浸る余裕すらなかった。
転がるように列車内に飛び込む。
車内は、外の慌ただしさが嘘みたいに閑散としていた。それでも、右に左に上に下に無秩序に蛇行する猛烈な振動だけは止みそうになかったけど。
きっと本体は一番先頭の列車だよね。ここが何両目かはさっぱりだけど、とにかく前に進めばいいんだよね。
この車両はきっと客車で、だけど、綺麗で座り心地よさそうなどの座席にも乗客の気配は少しも感じられなかった。まあ、そもそもこの列車に乗れる人がいるのかどうか。
無人の車両を不安に苛まれながらも進んでいく。列車に乗ったのはこれが初めてだけど、
そこにいるべきはずの場所に誰もいない、っていう心細さは初めてでもなんとなくわかった。
そういえば、独りぼっち、っていう状況も初めてだ。友達がそばにいてくれるってなんて心強いんだ、と再認識。
時刻表なんてあるはずもない、いつ来るかなんてわからない、来ないかもしれない。来るのは今日じゃなくて明日、もしかしたら1年先、10年先、なんてこともありえる。
もしかしたら、駅はここじゃないかもしれない、何も目印はないのだ、わたし達はただ砂漠のど真ん中で待ちぼうけを食っているだけかもしれない。
どれくらいここにいただろう、長い時間じゃないはずだ、灼熱に焦がされながら、でも、まだわたし達は干からびても、爆発もしていない。
「来た……」
いつの間にやら遠くの小高い砂丘に座り込んで俯いていたおじいちゃんがふと顔を上げた。
「おい、来たぞ、キティ、エルルカ!」
どこからともなく、砂嵐とは違う、大地そのものを揺らす身体の奥に響くような轟音が近づいてくる。
蜃気楼の中をゆらゆらしている不確かな輪郭が、だんだんとはっきりしてくる。じっと目を凝らす必要もなく。
なるほど、無秩序に蛇行疾走するその姿は、ああ、確かに大蛇に見えなくもない。
それは、まぎれもなく、線路もないのに砂漠を超特急で走り続ける巨大な列車。
流線型のフォルムが砂を巻き上げながら疾駆する。よく見ればその車体には繊細な金細工がびっしりと施されていて、灼熱の太陽にギラギラ輝いていた。そして、一番前の豪奢な機関車が豪華絢爛な客車や貨物車を大量に連結している。そこに本当に乗客や貨物が積んであるのかはわからない。そもそも、超猛スピードだけどこの列車、止まるの?
線路すらない、駅もない。止まりもしない。この列車に常識なんて通じない。
なら、あの列車に乗車する方法は……
砂色の衣装をばさりと脱ぎ捨てる。日差しが白い肌を焦がす。ぬるり、ワンピースを変形させて漆黒の魔剣を具現。そう、この魔剣は出力と形状を調整可能なはずだ。
「ねえ、キティさん、一体どうするつもり!?」
「え、どうするって……」
言いかけて、わたし達のすぐ真横をあっという間に過ぎ去っていこうとする列車に、鉤状にした魔剣を引っ掛けて無理矢理飛び乗る。
どうするって、無賃乗車しかないじゃん!
「エルルカ! おじいちゃん! わたしたちはここでお別れね! 自分勝手でごめんなさい! またどこかできっとお会いしましょう!」
最高速度のお別れの挨拶。名残惜しさを感じる時間さえなく、2人へと手を伸ばす余裕すらない。エルルカが何か叫んでいるのも聞こえやしない。何もかもを列車の轟音がかき消してしまった。
必死に列車にしがみつきながら振り返ると、もう立ち尽くすふたりの姿は点になっていて、そして、すぐに猛烈な砂嵐の中に消えてしまった。
凄まじい向かい風と猛烈な振動、漆黒のワンピースをねちゃりと列車の壁へとへばりつかせながら、なんとかドアを開ける。全く平穏無事じゃなく、むしろ不穏とともに列車へと乗車することができた。死ぬかと思った。感傷に浸る余裕すらなかった。
転がるように列車内に飛び込む。
車内は、外の慌ただしさが嘘みたいに閑散としていた。それでも、右に左に上に下に無秩序に蛇行する猛烈な振動だけは止みそうになかったけど。
きっと本体は一番先頭の列車だよね。ここが何両目かはさっぱりだけど、とにかく前に進めばいいんだよね。
この車両はきっと客車で、だけど、綺麗で座り心地よさそうなどの座席にも乗客の気配は少しも感じられなかった。まあ、そもそもこの列車に乗れる人がいるのかどうか。
無人の車両を不安に苛まれながらも進んでいく。列車に乗ったのはこれが初めてだけど、
そこにいるべきはずの場所に誰もいない、っていう心細さは初めてでもなんとなくわかった。
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