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白紙→描写
ーー D.D.D 《 》 ーー
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ラフィーナがわたしの言葉を、彷徨い、沈んでいく思考回廊を遮った。一番初めに聞いた音、言葉、問いかけ。ラフィーナが真っ直ぐにわたしを見つめている。まるで物語の核心をついているかのように。
「わたしは、わたしは……」
だから。だから、わたしはその透き通るサファイアブルーの瞳に射すくめられて。
物語も文字すらも綴られていなかったはずの世界で、ふわり、何かがわたしの頬をなでる。「え……?」無色透明、くすんで真白なだけのわたしの髪すら動かせないほどの。
それが、やさしい風だってわたしはすぐに気付けなかった。何もない世界に、風。
「どう、して……」
「それはアナタしか知らないの。だって、ここはきっとアナタが彩るべきページなのだもの」
ラフィーナは微笑むだけ。無邪気に。無垢に。そして、無知に。
「だって考えてもみなさいな。どんなに大きな本棚のどこにだって真っ白な本なんてありはしないでしょう?」
「 」わたしはさっきみたいにラフィーナに問いかけたくて、でも、
突風、「っ!」わたしに迫る。硬直。驚愕に見開いて、反射的に目を閉じる。
そのまま数刻。……何も起き、ない……?
おそるおそる目を開ける。
「あら、お久しぶりね、どこかのだれかさん? ついさっきぶりか――し――――ら?」
ラフィーナの悪戯っぽい声。が、離れて……?
わたしもラフィーナも一歩も動いてなんかいない。それなのに、「まあ! なんてことかしら!」ラフィーナの声、遠くから、楽しげに。わたし達の間の距離が伸長する。氷の上を滑るようにわたし達が急速に離れていく。よろめいて、不意に伸ばした手はラフィーナを掴めない。支えもなくそのまま倒れ
足元、突然の消失。顔面激突しない違和感。ふわり、浮遊。そして、一瞬後、無重力に墜ちる。
息もできない墜落! かろうじて見開いた視界! わたしを吹き飛ばす風!
世界が、ああ、あの何もなかったはずの世界がどんどん変わっていく。めまぐるしく!
こんな劇的な世界創造なんて望んでなかったはずなのに。
それでも、この胸の高鳴りは、昂揚は。
墜ちていく、浮上していく。みるみるうちに離れていくラフィーナに向かって懸命に手を伸ばす。でも、もうすでにラフィーナは遙か彼方で、
「まあ! これがアナタの物語なのね! なんて素敵なのかしら、世界を創る物語だなんて!」
ラフィーナはとても楽しそうにそう叫びながら、両手を広げて、わたしの方なんて見向きもしていない。
ラフィーナはただひたすら青く澄んだ空を、世界の拡大をその小さな身体いっぱいに受け止めていた。金色の長い髪が暴風と陽光を浴びてキラキラ煌めいている。
スカートが盛大にはためいているのなんて気にしちゃいない。わたしのことなんてこれっぽっちも気にしちゃいない。
わたしは今、こんなにも大ピンチなのに!
眼下には色彩が、大地の緑と海の青、それといろんな、いろんな色が。ぐんぐん近づいている。そう、近づいている!
この世界には重力があって、わたしは明確に落下していて。そして、助かるためのものを何も持ち合わせていない!
「ラ、ラフィーナ! た、助け……」
わたしの声は拡大を続ける世界に阻まれて、今や遙か彼方でじたばたとはしゃいでいるラフィーナに届かない。ああ、わたしの声はあまりにもちっぽけだ。
息苦しくなってぐるんと無理矢理体勢を変えて上空を見てみる。ばさばさと翻る白髪がわたしの耳の横で恨めしそうに空をわたしを叩いている。不意の陽光に目が眩んだ。
わたしと空の間を、翼を持った生き物の群れのシルエットが優雅に飛んでいる。鳥なのかドラゴンなのか、大小さえも分からない。
世界が形成されていく。わたしたち以外の生命が確かに今を生きて、そして、謳歌している。
わたし達はやっぱり無色透明などこかに囚われていたんじゃないかと思えるほどに、世界は矮小なだけのわたし達を差し置いてどこまでも奔放に拡がっていて。それが、なんだか息苦しくて、うれしくて。
わたしの存在がどんどん小さくなっていく。世界がどんどん大きくなっていく。
その感覚に、無感覚に、戸惑いながら、混乱しながら。
今は何も考えられない。
それでも、わたしは、息もできない墜落の中で。
くすんでいたはずの瞳が世界の色彩を浴びて虹色に輝き始める。
そして、まるで、永い永い微睡みから無理やり叩き起こされたみたいに、まるで、胸の真ん中にぽっかりと空いた穴が急速に満たされていくように、唐突に思い出したんだ。
わたしは何であるのかを。
わたしが綴るべき世界を。
わたしの存在定義を。
「わたしは、わたしは……」
だから。だから、わたしはその透き通るサファイアブルーの瞳に射すくめられて。
物語も文字すらも綴られていなかったはずの世界で、ふわり、何かがわたしの頬をなでる。「え……?」無色透明、くすんで真白なだけのわたしの髪すら動かせないほどの。
それが、やさしい風だってわたしはすぐに気付けなかった。何もない世界に、風。
「どう、して……」
「それはアナタしか知らないの。だって、ここはきっとアナタが彩るべきページなのだもの」
ラフィーナは微笑むだけ。無邪気に。無垢に。そして、無知に。
「だって考えてもみなさいな。どんなに大きな本棚のどこにだって真っ白な本なんてありはしないでしょう?」
「 」わたしはさっきみたいにラフィーナに問いかけたくて、でも、
突風、「っ!」わたしに迫る。硬直。驚愕に見開いて、反射的に目を閉じる。
そのまま数刻。……何も起き、ない……?
おそるおそる目を開ける。
「あら、お久しぶりね、どこかのだれかさん? ついさっきぶりか――し――――ら?」
ラフィーナの悪戯っぽい声。が、離れて……?
わたしもラフィーナも一歩も動いてなんかいない。それなのに、「まあ! なんてことかしら!」ラフィーナの声、遠くから、楽しげに。わたし達の間の距離が伸長する。氷の上を滑るようにわたし達が急速に離れていく。よろめいて、不意に伸ばした手はラフィーナを掴めない。支えもなくそのまま倒れ
足元、突然の消失。顔面激突しない違和感。ふわり、浮遊。そして、一瞬後、無重力に墜ちる。
息もできない墜落! かろうじて見開いた視界! わたしを吹き飛ばす風!
世界が、ああ、あの何もなかったはずの世界がどんどん変わっていく。めまぐるしく!
こんな劇的な世界創造なんて望んでなかったはずなのに。
それでも、この胸の高鳴りは、昂揚は。
墜ちていく、浮上していく。みるみるうちに離れていくラフィーナに向かって懸命に手を伸ばす。でも、もうすでにラフィーナは遙か彼方で、
「まあ! これがアナタの物語なのね! なんて素敵なのかしら、世界を創る物語だなんて!」
ラフィーナはとても楽しそうにそう叫びながら、両手を広げて、わたしの方なんて見向きもしていない。
ラフィーナはただひたすら青く澄んだ空を、世界の拡大をその小さな身体いっぱいに受け止めていた。金色の長い髪が暴風と陽光を浴びてキラキラ煌めいている。
スカートが盛大にはためいているのなんて気にしちゃいない。わたしのことなんてこれっぽっちも気にしちゃいない。
わたしは今、こんなにも大ピンチなのに!
眼下には色彩が、大地の緑と海の青、それといろんな、いろんな色が。ぐんぐん近づいている。そう、近づいている!
この世界には重力があって、わたしは明確に落下していて。そして、助かるためのものを何も持ち合わせていない!
「ラ、ラフィーナ! た、助け……」
わたしの声は拡大を続ける世界に阻まれて、今や遙か彼方でじたばたとはしゃいでいるラフィーナに届かない。ああ、わたしの声はあまりにもちっぽけだ。
息苦しくなってぐるんと無理矢理体勢を変えて上空を見てみる。ばさばさと翻る白髪がわたしの耳の横で恨めしそうに空をわたしを叩いている。不意の陽光に目が眩んだ。
わたしと空の間を、翼を持った生き物の群れのシルエットが優雅に飛んでいる。鳥なのかドラゴンなのか、大小さえも分からない。
世界が形成されていく。わたしたち以外の生命が確かに今を生きて、そして、謳歌している。
わたし達はやっぱり無色透明などこかに囚われていたんじゃないかと思えるほどに、世界は矮小なだけのわたし達を差し置いてどこまでも奔放に拡がっていて。それが、なんだか息苦しくて、うれしくて。
わたしの存在がどんどん小さくなっていく。世界がどんどん大きくなっていく。
その感覚に、無感覚に、戸惑いながら、混乱しながら。
今は何も考えられない。
それでも、わたしは、息もできない墜落の中で。
くすんでいたはずの瞳が世界の色彩を浴びて虹色に輝き始める。
そして、まるで、永い永い微睡みから無理やり叩き起こされたみたいに、まるで、胸の真ん中にぽっかりと空いた穴が急速に満たされていくように、唐突に思い出したんだ。
わたしは何であるのかを。
わたしが綴るべき世界を。
わたしの存在定義を。
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