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対立→■■■→再演
ーー■■■異世■■生勇者 ――②
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すると、わたし達の会話を静かに聞いていた、こっちはお城で見た貴族が着ていたような豪華な金の刺繍が施された青い服装の少年が、さらりと長めの金髪を掻き上げながら、
「ちょっとした手違いでこことは違う世界で死んで、女神様によってチート能力とステータスを与えられてこの世界に生まれ変わった最強の勇者なんですよ」
と、丁寧な口調で教えてくれた。その表情は常に笑顔で、いや、まるで取り繕うような笑みを顔面に貼り付けているようで、その細い目が本当はどんな感情を映しているのかすらわからない。
「最強って」少女が嘲り、でも、否定はせず。
「勇者! まあ、アナタ達がそうなのね!」
悔しいけど前半はホントに全くさっぱり何言ってるのかわからなかった。だけど、その言葉だけはわかった。ケヴィンが憧れた伝説の存在、わたしなんかよりもずっと大事だった長年の夢の象徴。それが目の前にいるなんて!
すると、今までそっぽを向いていた黒髪の少年はそんなわたしの反応に気分を良くしたのか、わたしの身体を上から下へとじろじろ眺めまわしてから、ニヤリと口角を上げる。え、なんか今のちょっとイヤだった。
「おい、お前、俺達と一緒に来い」
少年は剣を持っていない方の左手を伸ばす。あ! 握手だ!
わたしは初めて覚えた挨拶がもう一度できるのが嬉しくてつい、なんか突然突拍子もないことを言い出した少年に向かって、床にぺたんとへたり込んだまま右手を伸ばす。あ、相手は左手だ、これじゃ握手できないじゃない。
すると、少年はわたしの右手をぐいっと乱暴に引き掴んでわたしを立たせてくれた。そういえば、もう側面の穴は塞がっていたんだけど、立ち上がるタイミングを逃したままだった。
「え? あ、ありがとう。わたしの名前は……」
「俺の名前は、神々廻 龍牙(ししば りょうが)だ」
「え、よろしくね。えっと、わたしの」
「はあ? 私も名乗るの? 面倒くさ、どうせコイツも……ま、いっか、ユノよ、よろしくね」
「う、うん、よろしく。わたしは」
「僕は、アヴァリス・リヒト・シュヴァルツォルド・ゲレヒティヒカイト。こう見えても、ゲレヒティヒカイト伯爵家の時期後継者なんだよ」
「アヴァリスさあ、そんなこと言ってもこんな一般人が理解できるわけないでしょ」
「あ、わ、わたしは……キ、キティ、ただのキティよ。よろしく、勇者さま」
そういえばエルルカに言われてたっけ。初対面の人にはあまり真名を教えない方が良いって。というか、なんか馬鹿にされそうだし教えたくない。
「俺達は先頭車両に向かう。ついて来い、キティ」
「え、う、うん」
わたしはただ挨拶の握手をしただけなのに、なんだか勝手に彼らに従う感じになっていた。釈然としない。ま、わたしも先頭に用があるから別にいいんだけど。
それに、どんなに気が合わなくても誰だって一緒ならなんとなく心強いし。
そんな小さめスケールの打算を画策するわたしの様子など気にも留めていないのだろう、誘っておいて彼らはときおり激しく揺れる車内を何事もないかのようにすたすた進む。
「ちょっとした手違いでこことは違う世界で死んで、女神様によってチート能力とステータスを与えられてこの世界に生まれ変わった最強の勇者なんですよ」
と、丁寧な口調で教えてくれた。その表情は常に笑顔で、いや、まるで取り繕うような笑みを顔面に貼り付けているようで、その細い目が本当はどんな感情を映しているのかすらわからない。
「最強って」少女が嘲り、でも、否定はせず。
「勇者! まあ、アナタ達がそうなのね!」
悔しいけど前半はホントに全くさっぱり何言ってるのかわからなかった。だけど、その言葉だけはわかった。ケヴィンが憧れた伝説の存在、わたしなんかよりもずっと大事だった長年の夢の象徴。それが目の前にいるなんて!
すると、今までそっぽを向いていた黒髪の少年はそんなわたしの反応に気分を良くしたのか、わたしの身体を上から下へとじろじろ眺めまわしてから、ニヤリと口角を上げる。え、なんか今のちょっとイヤだった。
「おい、お前、俺達と一緒に来い」
少年は剣を持っていない方の左手を伸ばす。あ! 握手だ!
わたしは初めて覚えた挨拶がもう一度できるのが嬉しくてつい、なんか突然突拍子もないことを言い出した少年に向かって、床にぺたんとへたり込んだまま右手を伸ばす。あ、相手は左手だ、これじゃ握手できないじゃない。
すると、少年はわたしの右手をぐいっと乱暴に引き掴んでわたしを立たせてくれた。そういえば、もう側面の穴は塞がっていたんだけど、立ち上がるタイミングを逃したままだった。
「え? あ、ありがとう。わたしの名前は……」
「俺の名前は、神々廻 龍牙(ししば りょうが)だ」
「え、よろしくね。えっと、わたしの」
「はあ? 私も名乗るの? 面倒くさ、どうせコイツも……ま、いっか、ユノよ、よろしくね」
「う、うん、よろしく。わたしは」
「僕は、アヴァリス・リヒト・シュヴァルツォルド・ゲレヒティヒカイト。こう見えても、ゲレヒティヒカイト伯爵家の時期後継者なんだよ」
「アヴァリスさあ、そんなこと言ってもこんな一般人が理解できるわけないでしょ」
「あ、わ、わたしは……キ、キティ、ただのキティよ。よろしく、勇者さま」
そういえばエルルカに言われてたっけ。初対面の人にはあまり真名を教えない方が良いって。というか、なんか馬鹿にされそうだし教えたくない。
「俺達は先頭車両に向かう。ついて来い、キティ」
「え、う、うん」
わたしはただ挨拶の握手をしただけなのに、なんだか勝手に彼らに従う感じになっていた。釈然としない。ま、わたしも先頭に用があるから別にいいんだけど。
それに、どんなに気が合わなくても誰だって一緒ならなんとなく心強いし。
そんな小さめスケールの打算を画策するわたしの様子など気にも留めていないのだろう、誘っておいて彼らはときおり激しく揺れる車内を何事もないかのようにすたすた進む。
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