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対立→■■■→再演
―― 異世界転生勇者■――④■■■■■■
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「女神様は車内には招かざる乗客がいるって言っていました。気をつけてくださいね、キティちゃん」
アヴァリスはその不穏な発言とは裏腹に、とても気軽な口調で、そして、やっぱり依然として笑顔を絶やさずに。……それにしても、たぶん招かざる乗客はわたし達の方なんじゃないかな、とは口には出さず。「う、うん、ありがとう、アヴァリス」
そうして、それ以降わたし達は会話らしい会話もあまりせず淡々と無人の客車を進む。
それでも、前に進んでいるはずなのに先頭がどこにあるのかわからなくて、さっぱりたどり着く気がしない。焦燥と疲労がじりじりとわたし達を苛んでいくのを感じる。どこか不安なのはわたしだけじゃないはず。
「何なんだよ、この列車」
先頭を進むリョウガはそう吐き捨てるようにそう言うと、近くの座席をイライラと蹴る。「キャッ!?」わたしは小さく悲鳴を上げてしまったけど、他のふたりはリョウガのこんな乱暴な行いなどもう慣れてしまっているのだろうか、ただうんざりとため息を吐き出しただけだった。
「……きっともうすぐですよ、確実に進んではいるんですから」
アヴァリスはそう言ってるけど、変わらないはずの彼の表情もなんだか疲れて暗く見えた。
がらがらとリョウガが無造作に次の車両への扉を開ける。たまに蹴り飛ばす。次の車両へと向かう。揺れる無人の車内を進み、また次の扉を開ける……。さっきからずっとこの作業の繰り返し繰り返し繰り返し……
もう何度目の光景だろうか、まるで、デジャヴ。
変わらない風景にさすがのわたしもうんざりしてきた頃、次の車両に変化があった。
なんと! 乗客がいた! で、でも……
後ろからだと頭しか見えないけど、みんな一様に微動だにもせず背筋を伸ばし前を向いて座っていた。列車は依然として激しく揺れているはずなのに。
「げ、なんか不気味」ユノがぼそりと呟く。
後ろの車両から来たわたし達からは乗客たちの表情を窺うことはできなかった。だけど、ちょっと進めば、彼らは年齢も性別も種族も出で立ちもみんなバラバラだってわかって、彼らの中にはまだ小さな赤ちゃんを抱いている女性さえもいた。もちろんその赤ちゃんも動かない。
もしかしたら、乗車した時代すら違うのかも。だけど、彼らには一切の動きはなく彫像のように動かなかった。でも、それでも、きっと彼らにも人生が、物語があるんだと、そんな気がした。
「こいつらが敵か?」
「うーん、この列車に乗っているなんて怪しいですね」
「っていうか、面倒クサいしさっさと殺っちゃおうよ」
「えッ!?」短絡的すぎない!?
ぶらぶらと通路を歩き、時々動かない乗客の顔をつまらなさそうに覗き込んでいた彼らは、次の車両への扉の前まで到着するとおもむろに武器を構え始める。
リョウガは肩に担いでいた黒い剣を、ユノは伸ばした両手の先に紫色に輝く魔法陣を展開、アヴァリスはどこからともなく大小様々な剣を取り出す取り出す取り出す。
今のところ無害、リョウガがこの扉を開ければ次の車両だ。わたし達の進行には何の支障もない。それが、どうしてただの乗客が敵だという結論に至ったの!?
「ね、ねえ、待って、彼らは何もしてないよ!?」
最後尾にいたわたしは反射的に彼らの前に立ちふさがる。
「どいてください、キティさん。女神様が言っていたんです、この列車には敵がいるって」
「違うわ、少なくとも彼らは敵じゃないわ!」
「関係ねえ、とにかく邪魔になりそうな奴はぶっ殺しておく、どけ」
「この人達はただの乗客よ、関係ないわ!」
「っていうか、こんなキモいやつら敵でいいっしょ。ちょっとムカついてたし憂さ晴らしにちょうどいいしね」
「そんな……、命を何だと思っているの!?」
彼らは違う世界からやって来て、そして、わたしの物語をめちゃくちゃにしようとしている。
一体何者なのよ、転生者って、女神様って。
「うぜえな、お前。お前はただ何も考えずに腰振ってればいいんだよ」
リョウガが何を言っているのか意味がわからないけど、にやり、その笑みが今はとても気持ち悪くて下卑て見えたから、きっとろくでもないことを言われたんだと思う。
そして、それでも、彼らが何も考えていないのはよーくわかった。
彼らは、女神様とやらに与えてもらっただけの力に心酔しちゃって、周りの状況を見ようともせず、自分達で考えようともせず、ただその力を振るいたくて仕方がない。
そんなのが勇者、それは絶対にありえない。
これじゃあ、ただの子どもじゃない。
「アナタ達、元の世界でもそんなにわがままだったの?」
アヴァリスはその不穏な発言とは裏腹に、とても気軽な口調で、そして、やっぱり依然として笑顔を絶やさずに。……それにしても、たぶん招かざる乗客はわたし達の方なんじゃないかな、とは口には出さず。「う、うん、ありがとう、アヴァリス」
そうして、それ以降わたし達は会話らしい会話もあまりせず淡々と無人の客車を進む。
それでも、前に進んでいるはずなのに先頭がどこにあるのかわからなくて、さっぱりたどり着く気がしない。焦燥と疲労がじりじりとわたし達を苛んでいくのを感じる。どこか不安なのはわたしだけじゃないはず。
「何なんだよ、この列車」
先頭を進むリョウガはそう吐き捨てるようにそう言うと、近くの座席をイライラと蹴る。「キャッ!?」わたしは小さく悲鳴を上げてしまったけど、他のふたりはリョウガのこんな乱暴な行いなどもう慣れてしまっているのだろうか、ただうんざりとため息を吐き出しただけだった。
「……きっともうすぐですよ、確実に進んではいるんですから」
アヴァリスはそう言ってるけど、変わらないはずの彼の表情もなんだか疲れて暗く見えた。
がらがらとリョウガが無造作に次の車両への扉を開ける。たまに蹴り飛ばす。次の車両へと向かう。揺れる無人の車内を進み、また次の扉を開ける……。さっきからずっとこの作業の繰り返し繰り返し繰り返し……
もう何度目の光景だろうか、まるで、デジャヴ。
変わらない風景にさすがのわたしもうんざりしてきた頃、次の車両に変化があった。
なんと! 乗客がいた! で、でも……
後ろからだと頭しか見えないけど、みんな一様に微動だにもせず背筋を伸ばし前を向いて座っていた。列車は依然として激しく揺れているはずなのに。
「げ、なんか不気味」ユノがぼそりと呟く。
後ろの車両から来たわたし達からは乗客たちの表情を窺うことはできなかった。だけど、ちょっと進めば、彼らは年齢も性別も種族も出で立ちもみんなバラバラだってわかって、彼らの中にはまだ小さな赤ちゃんを抱いている女性さえもいた。もちろんその赤ちゃんも動かない。
もしかしたら、乗車した時代すら違うのかも。だけど、彼らには一切の動きはなく彫像のように動かなかった。でも、それでも、きっと彼らにも人生が、物語があるんだと、そんな気がした。
「こいつらが敵か?」
「うーん、この列車に乗っているなんて怪しいですね」
「っていうか、面倒クサいしさっさと殺っちゃおうよ」
「えッ!?」短絡的すぎない!?
ぶらぶらと通路を歩き、時々動かない乗客の顔をつまらなさそうに覗き込んでいた彼らは、次の車両への扉の前まで到着するとおもむろに武器を構え始める。
リョウガは肩に担いでいた黒い剣を、ユノは伸ばした両手の先に紫色に輝く魔法陣を展開、アヴァリスはどこからともなく大小様々な剣を取り出す取り出す取り出す。
今のところ無害、リョウガがこの扉を開ければ次の車両だ。わたし達の進行には何の支障もない。それが、どうしてただの乗客が敵だという結論に至ったの!?
「ね、ねえ、待って、彼らは何もしてないよ!?」
最後尾にいたわたしは反射的に彼らの前に立ちふさがる。
「どいてください、キティさん。女神様が言っていたんです、この列車には敵がいるって」
「違うわ、少なくとも彼らは敵じゃないわ!」
「関係ねえ、とにかく邪魔になりそうな奴はぶっ殺しておく、どけ」
「この人達はただの乗客よ、関係ないわ!」
「っていうか、こんなキモいやつら敵でいいっしょ。ちょっとムカついてたし憂さ晴らしにちょうどいいしね」
「そんな……、命を何だと思っているの!?」
彼らは違う世界からやって来て、そして、わたしの物語をめちゃくちゃにしようとしている。
一体何者なのよ、転生者って、女神様って。
「うぜえな、お前。お前はただ何も考えずに腰振ってればいいんだよ」
リョウガが何を言っているのか意味がわからないけど、にやり、その笑みが今はとても気持ち悪くて下卑て見えたから、きっとろくでもないことを言われたんだと思う。
そして、それでも、彼らが何も考えていないのはよーくわかった。
彼らは、女神様とやらに与えてもらっただけの力に心酔しちゃって、周りの状況を見ようともせず、自分達で考えようともせず、ただその力を振るいたくて仕方がない。
そんなのが勇者、それは絶対にありえない。
これじゃあ、ただの子どもじゃない。
「アナタ達、元の世界でもそんなにわがままだったの?」
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