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対立→■■■→再演
ーー■ ■■界転生勇者 ――■⑥ ■■
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わたしは魔剣の切っ先を真っ直ぐ転生者達に向ける。
「なんですか、そ」
アヴァリスが何か言おうとして、その前に大剣がぞわりと拡散して触手のようにうねる。
粘泥の潮流のように彼らを絡めとり、そのまま扉を突き破って次の車両へと押し込む。わたしも魔剣を前方に構えたまま次の車両へと飛び込み、扉を慌てて閉める。
「クソが」闇の濁流の中でもがきながら悪態を吐くリョウガ。
よし、不意打ちが決まった!
わたしは彼らを殺したいわけじゃない。わたしの物語はそんなのじゃない。
でも、彼らはそうじゃないみたいだ。
「チッ、なんだ、あの剣。俺の神剣とは違う」
「ちょっと油断しましたね」
「っていうか、キモすぎ」ユノはそれしか言えないのかい?
3人はゆっくりと立ち上がり、各々の武器を構えなおす。黒剣、魔法陣、無数の武器。
彼らとは車両の両端で対峙している。それでも彼らの異様ともいえるほどの歴然たる力量差は明白で。
嫌でもわからせられている。わたしはこの距離にいてなお、首元に刃を突きつけられている。
「今までの中ボスとは少し違いますね。それなら少し様子を見てみましょう」
アヴァリスはいつものゆったりとした調子を崩すことなく。意味不明なことを言うと両手を大きく横に広げる。その両手の先で、大きな魔法陣が展開。
そこから現れたのは大小様々な無数の剣の切っ先。
その照準はわたしだけではなく、後ろの車両にも向けられていて、
「ウソでしょ……」
そして、射出される。
たった1枚のドアを隔てただけの、わたしのすぐ後ろにいる乗客をも巻き込む無差別な攻撃。変わらない笑顔、一切の躊躇なく。「クソッ……」思わず悪態。
とっさに振るった魔剣の斬撃はアヴァリスが撃ち出す大小様々な剣の群れを一薙ぎで消し去る。そのままどろりと黒い粘泥がわたしとアヴァリス達を遮る。これでわたしの後ろに攻撃することはできないはず。魔剣はこの世界と不干渉だ。
そう、切るのではない、正確には、その不定の刃の軌跡は、【不浄遺棄地域】が司る虚数領域を開き、この世界に現存する物質を虚構へと呑み込む。だから、この攻撃は斬撃でもなければ、この魔剣はそもそも剣ですらないのだ。どこからどう見てもかわいいワンピースやろがい。
魔剣の斬撃は防御不能で不可避だし、切れないものなんて存在しない。漆黒はずぶずぶと、まるで空中に空いた底なし沼のように撃ち出される剣の乱舞をその剣身へと沈めていく。
「……僕の異能、“神の掌(オール・ウィズ・イン)”は、あらゆる物や魔法、生物も魔法陣の中に格納できるのですが、どうやら物理的にあの気持ち悪い剣には不利みたいですね」
「なら、テメエは下がって援護しろ!」
「うん、そうするよ」
リョウガが黒い剣を正面に構え、人間離れした凄まじい速度で突っ込んでくる。アヴァリスは優雅とすら思えるようなのんびりした動作でくるりとわたしに背を向けると、そんなリョウガと軽くハイタッチ。余裕だな、選手交代ってか?
「だまし討ちは任せたぞ」
「人聞きが悪いですね、隙を突いているんですよ」
他愛もない世間話のような会話にほんの少ーしだけ苛つきながら。わたしは少しでも後ろの車両との距離を空けようとして駆ける、リョウガの黒い剣を消し去ろうと魔剣を振るう。
「ッ!?」
「なんだ、俺の神剣は壊せねえのか?」
車両のほぼ真ん中での激突、ガギリ、不可解な、金属同士が擦れる耳障りな音ではない、それでも何か硬質な物がぶつかる音と衝撃。
どういうこと? リョウガの剣は確かにそこに実存しているはずなのに。
まさかの鍔迫り合いに、予想外のリョウガの膂力に、戦いなんてしたことがないわたしは弾かれる。また、車両の後方まで戻されてしまった。こんなにいきなり戦闘になってしまうなんて。
「ハッ、オレの異能は“神性概念兵装(イマジンコード)”。この剣は俺の想像の産物だ!」
ああ、なんだ、そんなことか。それならやることは決まってる。
崩れた体勢を立て直し、どろり、魔剣を構え不意に背後から気配、「ッ!」反射的に屈む。と、さっきまでわたしの頭があった場所には、魔法陣から伸びるアヴァリスの右腕だけがあった。その手には細剣を携えている。完全に殺す気で切りかかられた。
「おや、やっぱり魔物は勘が鋭いですね」
不敵に笑むアヴァリスの声はさっきリョウガと交代した場所と変わらず。魔法陣で乖離していた右腕がぬるりと元通りに戻る。なるほど、そんなこともできるのか、確かに不意打ちにはもってこいね。
それにしても、この状況は良くない。むしろ最悪だ。
近距離攻撃のリョウガと、変幻自在で隙を突いてくるアヴァリス、それに遠距離から魔法を放つユノ。……最強じゃないか!
一方のわたしには、なんでも切れる便利な魔剣が一振り。そして、わたしのすぐ後ろには依然として人質がいる。戦闘経験なんて皆無。この物語で戦闘描写なんてする気なかったのに!
もはや、対峙ですらない、絶対的優位な立場からだた弄ばれているだけにすぎない。この状況でじりじりと憔悴しているのはわたしだけ。
この状況を打開する術をわたしは持ち合わせていない、あるいはそこまで頭脳派じゃない。この物語の主人公兼作者であるわたしが、わたしより知識のある作戦なんて思いつくはずがない。露骨なメタフィクション構造はあんまり好きじゃない。
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「なんですか、そ」
アヴァリスが何か言おうとして、その前に大剣がぞわりと拡散して触手のようにうねる。
粘泥の潮流のように彼らを絡めとり、そのまま扉を突き破って次の車両へと押し込む。わたしも魔剣を前方に構えたまま次の車両へと飛び込み、扉を慌てて閉める。
「クソが」闇の濁流の中でもがきながら悪態を吐くリョウガ。
よし、不意打ちが決まった!
わたしは彼らを殺したいわけじゃない。わたしの物語はそんなのじゃない。
でも、彼らはそうじゃないみたいだ。
「チッ、なんだ、あの剣。俺の神剣とは違う」
「ちょっと油断しましたね」
「っていうか、キモすぎ」ユノはそれしか言えないのかい?
3人はゆっくりと立ち上がり、各々の武器を構えなおす。黒剣、魔法陣、無数の武器。
彼らとは車両の両端で対峙している。それでも彼らの異様ともいえるほどの歴然たる力量差は明白で。
嫌でもわからせられている。わたしはこの距離にいてなお、首元に刃を突きつけられている。
「今までの中ボスとは少し違いますね。それなら少し様子を見てみましょう」
アヴァリスはいつものゆったりとした調子を崩すことなく。意味不明なことを言うと両手を大きく横に広げる。その両手の先で、大きな魔法陣が展開。
そこから現れたのは大小様々な無数の剣の切っ先。
その照準はわたしだけではなく、後ろの車両にも向けられていて、
「ウソでしょ……」
そして、射出される。
たった1枚のドアを隔てただけの、わたしのすぐ後ろにいる乗客をも巻き込む無差別な攻撃。変わらない笑顔、一切の躊躇なく。「クソッ……」思わず悪態。
とっさに振るった魔剣の斬撃はアヴァリスが撃ち出す大小様々な剣の群れを一薙ぎで消し去る。そのままどろりと黒い粘泥がわたしとアヴァリス達を遮る。これでわたしの後ろに攻撃することはできないはず。魔剣はこの世界と不干渉だ。
そう、切るのではない、正確には、その不定の刃の軌跡は、【不浄遺棄地域】が司る虚数領域を開き、この世界に現存する物質を虚構へと呑み込む。だから、この攻撃は斬撃でもなければ、この魔剣はそもそも剣ですらないのだ。どこからどう見てもかわいいワンピースやろがい。
魔剣の斬撃は防御不能で不可避だし、切れないものなんて存在しない。漆黒はずぶずぶと、まるで空中に空いた底なし沼のように撃ち出される剣の乱舞をその剣身へと沈めていく。
「……僕の異能、“神の掌(オール・ウィズ・イン)”は、あらゆる物や魔法、生物も魔法陣の中に格納できるのですが、どうやら物理的にあの気持ち悪い剣には不利みたいですね」
「なら、テメエは下がって援護しろ!」
「うん、そうするよ」
リョウガが黒い剣を正面に構え、人間離れした凄まじい速度で突っ込んでくる。アヴァリスは優雅とすら思えるようなのんびりした動作でくるりとわたしに背を向けると、そんなリョウガと軽くハイタッチ。余裕だな、選手交代ってか?
「だまし討ちは任せたぞ」
「人聞きが悪いですね、隙を突いているんですよ」
他愛もない世間話のような会話にほんの少ーしだけ苛つきながら。わたしは少しでも後ろの車両との距離を空けようとして駆ける、リョウガの黒い剣を消し去ろうと魔剣を振るう。
「ッ!?」
「なんだ、俺の神剣は壊せねえのか?」
車両のほぼ真ん中での激突、ガギリ、不可解な、金属同士が擦れる耳障りな音ではない、それでも何か硬質な物がぶつかる音と衝撃。
どういうこと? リョウガの剣は確かにそこに実存しているはずなのに。
まさかの鍔迫り合いに、予想外のリョウガの膂力に、戦いなんてしたことがないわたしは弾かれる。また、車両の後方まで戻されてしまった。こんなにいきなり戦闘になってしまうなんて。
「ハッ、オレの異能は“神性概念兵装(イマジンコード)”。この剣は俺の想像の産物だ!」
ああ、なんだ、そんなことか。それならやることは決まってる。
崩れた体勢を立て直し、どろり、魔剣を構え不意に背後から気配、「ッ!」反射的に屈む。と、さっきまでわたしの頭があった場所には、魔法陣から伸びるアヴァリスの右腕だけがあった。その手には細剣を携えている。完全に殺す気で切りかかられた。
「おや、やっぱり魔物は勘が鋭いですね」
不敵に笑むアヴァリスの声はさっきリョウガと交代した場所と変わらず。魔法陣で乖離していた右腕がぬるりと元通りに戻る。なるほど、そんなこともできるのか、確かに不意打ちにはもってこいね。
それにしても、この状況は良くない。むしろ最悪だ。
近距離攻撃のリョウガと、変幻自在で隙を突いてくるアヴァリス、それに遠距離から魔法を放つユノ。……最強じゃないか!
一方のわたしには、なんでも切れる便利な魔剣が一振り。そして、わたしのすぐ後ろには依然として人質がいる。戦闘経験なんて皆無。この物語で戦闘描写なんてする気なかったのに!
もはや、対峙ですらない、絶対的優位な立場からだた弄ばれているだけにすぎない。この状況でじりじりと憔悴しているのはわたしだけ。
この状況を打開する術をわたしは持ち合わせていない、あるいはそこまで頭脳派じゃない。この物語の主人公兼作者であるわたしが、わたしより知識のある作戦なんて思いつくはずがない。露骨なメタフィクション構造はあんまり好きじゃない。
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