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対立→■■■→再演
―― ■ 【心励起/仇多羅急行】 ――①
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「ちょっと! アナタ達、アタシのために争わないで!」
その甲高く野太い声は、緊張感にぴんっと張りつめたこの空気をぷつりと断ち切ってくれた。さて、ここからこの最低最悪の状態が好転してくれるのだろうか。
前の車両から、ビシッと紺色の制服を着た体格の良い男性がなんかくねくねした動きで慌てて走り寄る。きっとこの列車の車掌さんだ。なんか期待していたのと違う。口調どうした。
「おや、ようやくラスボスのお出ましですか? いや、こんな半端なところで出てくるんですから、せいぜい中ボスくらいですかね」
「え、何アレ、オネエじゃん、キモ」
「車掌さん、逃げて!」
車掌さんの一番近くにいるユノが振り返りざまに両手をかざし攻撃魔法射出、稲妻と炎と氷が同時に車掌さんへと迫り狂う。
わたしとの戦闘より車掌さんを倒す方がいいとでも判断したのか、アヴァリスは標的をその車掌さんへと変える。一際大きな魔法陣の展開、そこに潜りこむアヴァリス。おいおい、まさに変幻自在じゃねえか!
「アナタ、全然エレガントじゃないわね、」
「え……?」
わたしのすぐ隣に車掌さんがいた。
動いた気配はなかった。まるで、はじめからそこにいたかのように、ごく自然と、そのふたつに割れたたくましい顎に大きな指を添えて、優雅ですらある佇まいで小さなわたしを品定めするように見つめていた。なんかリョウガとは違ってイヤな感じはないけど、……え、何すか?
「アタシ、アナタのことずっと見ていたの。レディがあんな風に動き回るなら、ちゃんとした服装をしなさい、」
ユノもアヴァリスも車掌さんの瞬間移動の理屈がわかっていないのか、問答無用で自身を攻撃してきた転生者に構わずに、なぜかわたしをお説教している車掌さんを訝しげに見つめている。
「おパンティも履いていないなんて、なんてはしたない子かしら」
「にゃッ!?」
不可解な現象に静まり返っていた車内に野太い声が響き渡る。
「にゃ、にゃに、にゃにを言って……」
やめて、みんなの前でそんなに大きな声で言わないで!「ハッ、痴女かよ、そそるぜ」にやりとするリョウガ。ほら、こういうヤツがいるから!
「そうね、そのかわいいワンピース、【不浄遺棄地域】からもらったんでしょ? あの子は女の子のそういうの知らなさそうだものね」
「え? アナタ、もしかして……」
「うん、わかったわ、アタシが素敵なランジェリーをプレゼントしちゃう!」
「え、あ、ありがとう……?」
手渡されたのは小さな紙切れ。良くわからないまま、きょとんとしながらそれを持っていると、車掌さんは何かの工具を取り出して、この紙切れの一片をぱちんと切り取る。
「安心して、眠ったりはしないから」
「う、うん?」
制服の上からでもわかるムキムキの筋肉質でガタイのいい、ビシッと制帽を被ったスキンヘッドの男性のばちこんッとかわいいウィンク。よく見たらまつ毛長い。
「チケット・ゥ・ライド。これであなたもレディの仲間入りよ」
すると、紙切れはしゅるりと消え去り、キュッとわたしの腰辺りに確かな安定感と安心感。おそるおそるワンピースをたぐり上げて見てみると、薄いレースで出来たフリフリの下着がわたしの大事なところに収まっていた。
「はしたないわ、やめなさい!」
「す、すいません!」
「ところで、もしかしてアナタが……」
「あら、ごめんなさいね、自己紹介をしてなかったわ。そ、アタシがこの時を駆ける列車、――世界を流れるもの、【心励起/仇多羅急行】よ、よろしくね、かわいいお嬢さん」
「うん、わたしは【透明幻想・錯綜少女基底】、アナタと同じ“始源拾弐機関”なの、よろしくね」
「いやん、“始源拾弐機関”もずいぶんとかわいくなっちゃって! 【倫理狂い】とは大違いね!」
よくわからないけど、かわいいって言われたら、ま、まあ、悪い気はしないかな。
「そうか、テメエがラスボスなら話は早え」
改めて剣を構えなおすリョウガ。そうだ、まだ和やかに話せるほど状況は好転していない。まだ、何も解決していないんだ。
「ここにいるひとに手出しはさせないわ」
絶体絶命のこの状況、なんだったら転生者の標的である【心励起/仇多羅急行】が現れてしまったことで、余計にやりづらくなってしまったかもしれない。だって、伝承によれば彼……彼女は争いなんて好きじゃない。
わたしは、【心励起/仇多羅急行】を庇うように一歩前へ。わたしの小さな身体じゃあ、体格のいい彼女の盾にすらなれないかもしれない。それに、まだとっても怖い。だけど、それでも、わたしがここで退いちゃいけない。
「あらま、こんなかわいい子がアタシの騎士になってくれるなんてカンゲキしちゃう!」
【心励起/仇多羅急行】の大きな身体は残念ながらわたしからほとんどはみ出ている。まったくもって防御力ゼロ。
「でも、この列車はアタシなの、アナタだって大切な乗客。守るのはアタシのお仕事よ」
それでも、彼女はそれが嬉しかったのか、わたしの前にずいっと歩み出る。でも、その制服をぱっちぱちにしている筋肉質な足はもう、きっと転生者達から見てもわかると思われるほどにガクガクと震えていた。
【心励起/仇多羅急行】のその力強い言葉が完全に強がりなのは一目瞭然で。
この列車は【心励起/仇多羅急行】そのものだし、さっきの不可解な瞬間移動を駆使すれば、彼女だって十分戦えるかもしれない。筋肉ムキムキのナイスバルクだし。
でも、やっぱり彼女は争いなんてしたくないんだ。
その甲高く野太い声は、緊張感にぴんっと張りつめたこの空気をぷつりと断ち切ってくれた。さて、ここからこの最低最悪の状態が好転してくれるのだろうか。
前の車両から、ビシッと紺色の制服を着た体格の良い男性がなんかくねくねした動きで慌てて走り寄る。きっとこの列車の車掌さんだ。なんか期待していたのと違う。口調どうした。
「おや、ようやくラスボスのお出ましですか? いや、こんな半端なところで出てくるんですから、せいぜい中ボスくらいですかね」
「え、何アレ、オネエじゃん、キモ」
「車掌さん、逃げて!」
車掌さんの一番近くにいるユノが振り返りざまに両手をかざし攻撃魔法射出、稲妻と炎と氷が同時に車掌さんへと迫り狂う。
わたしとの戦闘より車掌さんを倒す方がいいとでも判断したのか、アヴァリスは標的をその車掌さんへと変える。一際大きな魔法陣の展開、そこに潜りこむアヴァリス。おいおい、まさに変幻自在じゃねえか!
「アナタ、全然エレガントじゃないわね、」
「え……?」
わたしのすぐ隣に車掌さんがいた。
動いた気配はなかった。まるで、はじめからそこにいたかのように、ごく自然と、そのふたつに割れたたくましい顎に大きな指を添えて、優雅ですらある佇まいで小さなわたしを品定めするように見つめていた。なんかリョウガとは違ってイヤな感じはないけど、……え、何すか?
「アタシ、アナタのことずっと見ていたの。レディがあんな風に動き回るなら、ちゃんとした服装をしなさい、」
ユノもアヴァリスも車掌さんの瞬間移動の理屈がわかっていないのか、問答無用で自身を攻撃してきた転生者に構わずに、なぜかわたしをお説教している車掌さんを訝しげに見つめている。
「おパンティも履いていないなんて、なんてはしたない子かしら」
「にゃッ!?」
不可解な現象に静まり返っていた車内に野太い声が響き渡る。
「にゃ、にゃに、にゃにを言って……」
やめて、みんなの前でそんなに大きな声で言わないで!「ハッ、痴女かよ、そそるぜ」にやりとするリョウガ。ほら、こういうヤツがいるから!
「そうね、そのかわいいワンピース、【不浄遺棄地域】からもらったんでしょ? あの子は女の子のそういうの知らなさそうだものね」
「え? アナタ、もしかして……」
「うん、わかったわ、アタシが素敵なランジェリーをプレゼントしちゃう!」
「え、あ、ありがとう……?」
手渡されたのは小さな紙切れ。良くわからないまま、きょとんとしながらそれを持っていると、車掌さんは何かの工具を取り出して、この紙切れの一片をぱちんと切り取る。
「安心して、眠ったりはしないから」
「う、うん?」
制服の上からでもわかるムキムキの筋肉質でガタイのいい、ビシッと制帽を被ったスキンヘッドの男性のばちこんッとかわいいウィンク。よく見たらまつ毛長い。
「チケット・ゥ・ライド。これであなたもレディの仲間入りよ」
すると、紙切れはしゅるりと消え去り、キュッとわたしの腰辺りに確かな安定感と安心感。おそるおそるワンピースをたぐり上げて見てみると、薄いレースで出来たフリフリの下着がわたしの大事なところに収まっていた。
「はしたないわ、やめなさい!」
「す、すいません!」
「ところで、もしかしてアナタが……」
「あら、ごめんなさいね、自己紹介をしてなかったわ。そ、アタシがこの時を駆ける列車、――世界を流れるもの、【心励起/仇多羅急行】よ、よろしくね、かわいいお嬢さん」
「うん、わたしは【透明幻想・錯綜少女基底】、アナタと同じ“始源拾弐機関”なの、よろしくね」
「いやん、“始源拾弐機関”もずいぶんとかわいくなっちゃって! 【倫理狂い】とは大違いね!」
よくわからないけど、かわいいって言われたら、ま、まあ、悪い気はしないかな。
「そうか、テメエがラスボスなら話は早え」
改めて剣を構えなおすリョウガ。そうだ、まだ和やかに話せるほど状況は好転していない。まだ、何も解決していないんだ。
「ここにいるひとに手出しはさせないわ」
絶体絶命のこの状況、なんだったら転生者の標的である【心励起/仇多羅急行】が現れてしまったことで、余計にやりづらくなってしまったかもしれない。だって、伝承によれば彼……彼女は争いなんて好きじゃない。
わたしは、【心励起/仇多羅急行】を庇うように一歩前へ。わたしの小さな身体じゃあ、体格のいい彼女の盾にすらなれないかもしれない。それに、まだとっても怖い。だけど、それでも、わたしがここで退いちゃいけない。
「あらま、こんなかわいい子がアタシの騎士になってくれるなんてカンゲキしちゃう!」
【心励起/仇多羅急行】の大きな身体は残念ながらわたしからほとんどはみ出ている。まったくもって防御力ゼロ。
「でも、この列車はアタシなの、アナタだって大切な乗客。守るのはアタシのお仕事よ」
それでも、彼女はそれが嬉しかったのか、わたしの前にずいっと歩み出る。でも、その制服をぱっちぱちにしている筋肉質な足はもう、きっと転生者達から見てもわかると思われるほどにガクガクと震えていた。
【心励起/仇多羅急行】のその力強い言葉が完全に強がりなのは一目瞭然で。
この列車は【心励起/仇多羅急行】そのものだし、さっきの不可解な瞬間移動を駆使すれば、彼女だって十分戦えるかもしれない。筋肉ムキムキのナイスバルクだし。
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