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対立→■■■→再演
―― 【心励起/仇多羅急行】 ――⑥
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さ、これでようやく、本編スタートね。
こんな無様な戦闘シーンはわたしの物語には必要ない、余計なエピソードはせっかくの物語のテーマをブレブレにしちゃうから。……あ、いや、まだテーマもへったくれもないけど。
「そういえば、この列車の機関車はどこなの?」
「あら、それは、ヒ・ミ・ツ。アタシの一番大事なトコロなんだから」
わお、なんかセンシティブ。つまり、どんなに歩いたところで、決して先頭車両にはたどり着けなかったってことね。まあ、目的は【心励起/仇多羅急行】に会うことだったから、もう機関室に向かう必要はないんだけど。それにしたってこんなにフランクに会えちゃうなんて思わなかったもん。
「でも、アタシと乗客を助けてくれたお礼に特別車両へ案内しちゃう」
次の車両へと案内されるわたしとラフィーナ。【心励起/仇多羅急行】が扉を開ける様子はあたかもわたし達がV.I.Pであるかのようになんとなく恭しい。おお、今までこんな扱いされたことなんてないからちょっと嬉しいぞ。
「さ、どうぞ、アタシの特別なお客さん」
「お、おお!!」
「まあ、素敵! まるでお城みたい!」
柔らかな暖色の灯りを車内に照らすのは、無数の豪華なシャンデリア。ふかふかのソファみたいな座席に木製のテーブルが高級感を演出している。「さ、どうぞ、入ってちょうだい」
この雰囲気に圧倒されてたじろいでしまうわたしとは対照的に、正真正銘生粋のお姫様なのであろう、【心励起/仇多羅急行】によってひかれた座席に、優雅に腰かけるラフィーナ。普段の破天荒な行動からは想像できないそのエレガントさが、育ちの良さをそこはかとなく醸し出す。うーん、ギャップ萌え。
「ねえ、ラフィーナ、この世界はわたしが創ったって言ってたよね」
「ええ、そうよ、だってあそこには真っ白なページしかなかったじゃない」
いつの間にかテーブルの上に置かれていた紅茶を飲みながら。マナーなんてさっぱり知らないので、ラフィーナを見様見真似で。「そんなに気にしなくても平気よ」「う、うん」
「で、でも、この世界を見てみてよ、ラフィーナ。ちょっと前にわたしが創ったにしては上手くできすぎじゃないかしら? それに……」
わたしは隣に座っている【心励起/仇多羅急行】をちらりと見上げる。そう、それに、“始源拾弐機関”みたいな、わたしには到底計り知れないような存在もいる。い、いや、どうやら、こんなちっぽけな子どもでしかないわたしもその一員らしいんだけどね。
「ねえ、わたし、【心励起/仇多羅急行】に訊きたいことがあるの」
「あら、なんでもきいてちょうだい」
「あのね、信じられないと思うけど、この世界はわたしが創ったの、ほんのちょっと前に。季節だって一度も回っていないの。それなのに、この世界には大きな古い木がいくつもあって、それに、何千年も前の物語だってあるの。一番新しいわたしが創ったのに、わたしより古いものがたくさんあるの。もしかして、この世界はわたしが創ったものではないのかしら? わたしはただ白いページからただ墜ちてきただけなのかしら?」
こんな出来損ないのおとぎ話を一体だれが信じてくれるだろうか。彼女だって同じ“始源拾弐機関”なのに、突拍子のない物語なのは【心励起/仇多羅急行】だってそうなのに。なんとなくそう考えてしまったら、まくし立てるように思わず早口になってしまう。
わたしのいいようもない不安を感じ取ってくれたのか、【心励起/仇多羅急行】はその圧倒的な包容力と筋肉でわたしの小さな身体をぎゅっと抱きしめる。持っていたティーカップが割れる音はしなかった。
心音は聞こえない、体温も感じない。それでも、なんだかとても安心する。
それは、きっと【心励起/仇多羅急行】がひとじゃないとか、生きているものではないとか、そういうのじゃなくて、わたしを思ってくれている【心励起/仇多羅急行】の抱擁だからこその安心感だった。
「確かにこの世界はとても古くて、アナタは最新の“始源拾弐機関”。それなのにアナタがこの世界を創った、なんて言われても不安になるわよね」
【心励起/仇多羅急行】はまるで爆弾が暴発してしまわないように、ゆっくりとわたしを解放する。大丈夫、もう落ち着いた。
「うふふ、時間っていうのはね、常にその場に留まってはいられないの。測定位置によって不可逆的かつ流動的になって、それでいて点在的なのよ。過去、未来、現在、いつもアナタのそばにいるようで、そこにはもういない。まるで名も知れないロマンチストのようにね」
ちょっと後半何言ってるかわからなかったけど、とにかく、時間ってすごい! ってことよね。え、そ、そうよね? にこにこ笑顔のまま静止してしまったラフィーナも、この様子じゃきっとわかっていない。
「その物に、人に、建物に、国に、神話には必ず過去があるの。それがいつ創られたかは関係ないわ、そこに存在するかぎり、確かに歴史があって、それはたとえ忘れ去られたとしても未来まで存在するのよ、ロマンチックよねえ」
そこにどんなロマンが感じられるのかわたしにはいまいちピンと来ない。もしかしたら、おじいちゃんやエルルカなら、悠久の時のロマンチシズムに浸れるのかもしれない。
「だから、アナタがこの世界を創った、というのならきっとそうなのよ。素敵じゃないの、そんな機能」
【心励起/仇多羅急行】の口調はなんだか紅茶の茶葉のお話をしてるみたいに他愛もなくて、だからなのかな、そうは言われたってまだ実感なんて湧かないんだ。
この世界は、この物語はわたしが創造したんだって。そう、胸を張って言える日がいつかきっとやってくるといいな。
こんな無様な戦闘シーンはわたしの物語には必要ない、余計なエピソードはせっかくの物語のテーマをブレブレにしちゃうから。……あ、いや、まだテーマもへったくれもないけど。
「そういえば、この列車の機関車はどこなの?」
「あら、それは、ヒ・ミ・ツ。アタシの一番大事なトコロなんだから」
わお、なんかセンシティブ。つまり、どんなに歩いたところで、決して先頭車両にはたどり着けなかったってことね。まあ、目的は【心励起/仇多羅急行】に会うことだったから、もう機関室に向かう必要はないんだけど。それにしたってこんなにフランクに会えちゃうなんて思わなかったもん。
「でも、アタシと乗客を助けてくれたお礼に特別車両へ案内しちゃう」
次の車両へと案内されるわたしとラフィーナ。【心励起/仇多羅急行】が扉を開ける様子はあたかもわたし達がV.I.Pであるかのようになんとなく恭しい。おお、今までこんな扱いされたことなんてないからちょっと嬉しいぞ。
「さ、どうぞ、アタシの特別なお客さん」
「お、おお!!」
「まあ、素敵! まるでお城みたい!」
柔らかな暖色の灯りを車内に照らすのは、無数の豪華なシャンデリア。ふかふかのソファみたいな座席に木製のテーブルが高級感を演出している。「さ、どうぞ、入ってちょうだい」
この雰囲気に圧倒されてたじろいでしまうわたしとは対照的に、正真正銘生粋のお姫様なのであろう、【心励起/仇多羅急行】によってひかれた座席に、優雅に腰かけるラフィーナ。普段の破天荒な行動からは想像できないそのエレガントさが、育ちの良さをそこはかとなく醸し出す。うーん、ギャップ萌え。
「ねえ、ラフィーナ、この世界はわたしが創ったって言ってたよね」
「ええ、そうよ、だってあそこには真っ白なページしかなかったじゃない」
いつの間にかテーブルの上に置かれていた紅茶を飲みながら。マナーなんてさっぱり知らないので、ラフィーナを見様見真似で。「そんなに気にしなくても平気よ」「う、うん」
「で、でも、この世界を見てみてよ、ラフィーナ。ちょっと前にわたしが創ったにしては上手くできすぎじゃないかしら? それに……」
わたしは隣に座っている【心励起/仇多羅急行】をちらりと見上げる。そう、それに、“始源拾弐機関”みたいな、わたしには到底計り知れないような存在もいる。い、いや、どうやら、こんなちっぽけな子どもでしかないわたしもその一員らしいんだけどね。
「ねえ、わたし、【心励起/仇多羅急行】に訊きたいことがあるの」
「あら、なんでもきいてちょうだい」
「あのね、信じられないと思うけど、この世界はわたしが創ったの、ほんのちょっと前に。季節だって一度も回っていないの。それなのに、この世界には大きな古い木がいくつもあって、それに、何千年も前の物語だってあるの。一番新しいわたしが創ったのに、わたしより古いものがたくさんあるの。もしかして、この世界はわたしが創ったものではないのかしら? わたしはただ白いページからただ墜ちてきただけなのかしら?」
こんな出来損ないのおとぎ話を一体だれが信じてくれるだろうか。彼女だって同じ“始源拾弐機関”なのに、突拍子のない物語なのは【心励起/仇多羅急行】だってそうなのに。なんとなくそう考えてしまったら、まくし立てるように思わず早口になってしまう。
わたしのいいようもない不安を感じ取ってくれたのか、【心励起/仇多羅急行】はその圧倒的な包容力と筋肉でわたしの小さな身体をぎゅっと抱きしめる。持っていたティーカップが割れる音はしなかった。
心音は聞こえない、体温も感じない。それでも、なんだかとても安心する。
それは、きっと【心励起/仇多羅急行】がひとじゃないとか、生きているものではないとか、そういうのじゃなくて、わたしを思ってくれている【心励起/仇多羅急行】の抱擁だからこその安心感だった。
「確かにこの世界はとても古くて、アナタは最新の“始源拾弐機関”。それなのにアナタがこの世界を創った、なんて言われても不安になるわよね」
【心励起/仇多羅急行】はまるで爆弾が暴発してしまわないように、ゆっくりとわたしを解放する。大丈夫、もう落ち着いた。
「うふふ、時間っていうのはね、常にその場に留まってはいられないの。測定位置によって不可逆的かつ流動的になって、それでいて点在的なのよ。過去、未来、現在、いつもアナタのそばにいるようで、そこにはもういない。まるで名も知れないロマンチストのようにね」
ちょっと後半何言ってるかわからなかったけど、とにかく、時間ってすごい! ってことよね。え、そ、そうよね? にこにこ笑顔のまま静止してしまったラフィーナも、この様子じゃきっとわかっていない。
「その物に、人に、建物に、国に、神話には必ず過去があるの。それがいつ創られたかは関係ないわ、そこに存在するかぎり、確かに歴史があって、それはたとえ忘れ去られたとしても未来まで存在するのよ、ロマンチックよねえ」
そこにどんなロマンが感じられるのかわたしにはいまいちピンと来ない。もしかしたら、おじいちゃんやエルルカなら、悠久の時のロマンチシズムに浸れるのかもしれない。
「だから、アナタがこの世界を創った、というのならきっとそうなのよ。素敵じゃないの、そんな機能」
【心励起/仇多羅急行】の口調はなんだか紅茶の茶葉のお話をしてるみたいに他愛もなくて、だからなのかな、そうは言われたってまだ実感なんて湧かないんだ。
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