60 / 235
対立→■■■→再演
―― 【心励起/仇多羅急行】 ――⑤
しおりを挟む
「……で、ユノ、アナタが最後、ね」
そして、ほんの一息、呆れて小さくため息を吐いたわたし達の視線は、消失していくリョウガのことを助けようともせずに、ただ座席の陰に隠れていたユノへと向かう。
「い、いや、来ないで……、く、来るなよ、オレは……」
「あら、アナタも男の子だったの?」……も?
口調がブレブレやないか。というか、そんな恐ろしい魔物みたいに言わないでよ。まるでわたし達の方が悪者じゃない。だれがなんと言おうとこの物語の主役はわたし……のはず。
「だって、こんなことになるなんて思わなかったんだ、女神は簡単なクエストだって言ってたんだ。ただこの列車を壊せばいいんだって」
おいおいおいおい、そんなに簡単に殺されてたまるか。
「み、見逃してくれ、オレの力は “不死神賜死(あじゃらか・もくれん・てけれっつのぱー)”、自分と対象がただ死ななくなるだけなんだ、何の力もないんだ!」
いや、それ、めちゃくちゃ強いじゃん。実質不死身じゃん。それで無能気取りって欲張り過ぎでは?
「オレはただ美少女になりたかっただけなんだよ」
「ま! わかるわよ、その気持ち!」……わたしにはちょっとわからないけど。
「アナタ、それで美少女になったつもりかしら? ワタシにはちょっと、その、ごめんなさいね、せっかく生まれ変わったっていうのに美少女なんて影も形も見当たらないわ?」
ラフィーナには珍しく、歯切れ悪く、おずおずと、ちょっとだけ申し訳なさそうに。う、うん、確かにユノがかわいいのは見た目だけで中身はホントにイヤなヤツだもんね。
「戦いなんてホントはしたくない、オレはただ……」
「でも、アナタ、アタシのかわいい乗客に魔法陣を向けていたじゃないの」
「それに、リョウガやアヴァリスは異能の他に、すてーたすまっくす? っていうのを与えられていたわ。アナタは?」
「う、そ、それは……」
「ねえ、わたしやあなたがどんな力を持っているかは関係ないの。わたしは、その力をどう振るうかだけが問題なんだと思うよ」
ただ、くだらない承認欲求を満たすだけの悲しき怪物のためだけに、わたしの物語をめちゃくちゃにして、登場人物を簡単に殺そうとする。そんなのは、この世界でちゃんと生きているわたし達からしたらたまったもんじゃない。ただただ迷惑この上なく、この世界にとっての害悪でしかない。
「ク、クソッ、こ、この世界はオレ達が好きにしていい世界じゃなかったのかよ!」
もはやヤケクソの様相で叫ぶ。ユノは魔法陣を全身に纏いながら、わたしへと、いや、【心励起/仇多羅急行】へと向かっていく。しまった、【心励起/仇多羅急行】が戦っているところは見ていない、戦うことなんて出来ないのかも!
「悪質な乗客は乗車拒否よ!」
ばちこんッと強烈なビンタが炸裂! 首が吹き飛んでしまうんじゃないかっていうほどの衝撃に、すてーたすまっくすなはずのユノの身体がきりもみ回転で灰色都市が乱立する車両に突っ込んでいく。「あ……」なんとなく察した。
「素敵なレディを目指すアナタには見込みがあるかもしれないわ。時間はたっぷりあげるからその街でゆっくり自分を見つめ直しなさい」
【心励起/仇多羅急行】がそう言うと、ぴしゃりと車両の扉が閉まり、ゆっくりと立ち上がろうとしていたユノが魔法陣ごと静止する。そう、まるで、時間が止まってしまったかのように。
動く気配はない、そうだ、この感じはあの動かない乗客と一緒だ。
「他人の力でお手軽に連れて来てもらっておいてそんな都合のいい話があってたまるか。自分が好き勝手したいなら、そういう世界を創ることね」
こんな言葉が固まったままのユノに聞こえているかなんてわからない。でも、なんとなくこれだけは言っておきたかった。他力本願はわたしだってそうなんだけど、うん、自戒の念も込めつつ、ね。
ーー ーー
そして、ほんの一息、呆れて小さくため息を吐いたわたし達の視線は、消失していくリョウガのことを助けようともせずに、ただ座席の陰に隠れていたユノへと向かう。
「い、いや、来ないで……、く、来るなよ、オレは……」
「あら、アナタも男の子だったの?」……も?
口調がブレブレやないか。というか、そんな恐ろしい魔物みたいに言わないでよ。まるでわたし達の方が悪者じゃない。だれがなんと言おうとこの物語の主役はわたし……のはず。
「だって、こんなことになるなんて思わなかったんだ、女神は簡単なクエストだって言ってたんだ。ただこの列車を壊せばいいんだって」
おいおいおいおい、そんなに簡単に殺されてたまるか。
「み、見逃してくれ、オレの力は “不死神賜死(あじゃらか・もくれん・てけれっつのぱー)”、自分と対象がただ死ななくなるだけなんだ、何の力もないんだ!」
いや、それ、めちゃくちゃ強いじゃん。実質不死身じゃん。それで無能気取りって欲張り過ぎでは?
「オレはただ美少女になりたかっただけなんだよ」
「ま! わかるわよ、その気持ち!」……わたしにはちょっとわからないけど。
「アナタ、それで美少女になったつもりかしら? ワタシにはちょっと、その、ごめんなさいね、せっかく生まれ変わったっていうのに美少女なんて影も形も見当たらないわ?」
ラフィーナには珍しく、歯切れ悪く、おずおずと、ちょっとだけ申し訳なさそうに。う、うん、確かにユノがかわいいのは見た目だけで中身はホントにイヤなヤツだもんね。
「戦いなんてホントはしたくない、オレはただ……」
「でも、アナタ、アタシのかわいい乗客に魔法陣を向けていたじゃないの」
「それに、リョウガやアヴァリスは異能の他に、すてーたすまっくす? っていうのを与えられていたわ。アナタは?」
「う、そ、それは……」
「ねえ、わたしやあなたがどんな力を持っているかは関係ないの。わたしは、その力をどう振るうかだけが問題なんだと思うよ」
ただ、くだらない承認欲求を満たすだけの悲しき怪物のためだけに、わたしの物語をめちゃくちゃにして、登場人物を簡単に殺そうとする。そんなのは、この世界でちゃんと生きているわたし達からしたらたまったもんじゃない。ただただ迷惑この上なく、この世界にとっての害悪でしかない。
「ク、クソッ、こ、この世界はオレ達が好きにしていい世界じゃなかったのかよ!」
もはやヤケクソの様相で叫ぶ。ユノは魔法陣を全身に纏いながら、わたしへと、いや、【心励起/仇多羅急行】へと向かっていく。しまった、【心励起/仇多羅急行】が戦っているところは見ていない、戦うことなんて出来ないのかも!
「悪質な乗客は乗車拒否よ!」
ばちこんッと強烈なビンタが炸裂! 首が吹き飛んでしまうんじゃないかっていうほどの衝撃に、すてーたすまっくすなはずのユノの身体がきりもみ回転で灰色都市が乱立する車両に突っ込んでいく。「あ……」なんとなく察した。
「素敵なレディを目指すアナタには見込みがあるかもしれないわ。時間はたっぷりあげるからその街でゆっくり自分を見つめ直しなさい」
【心励起/仇多羅急行】がそう言うと、ぴしゃりと車両の扉が閉まり、ゆっくりと立ち上がろうとしていたユノが魔法陣ごと静止する。そう、まるで、時間が止まってしまったかのように。
動く気配はない、そうだ、この感じはあの動かない乗客と一緒だ。
「他人の力でお手軽に連れて来てもらっておいてそんな都合のいい話があってたまるか。自分が好き勝手したいなら、そういう世界を創ることね」
こんな言葉が固まったままのユノに聞こえているかなんてわからない。でも、なんとなくこれだけは言っておきたかった。他力本願はわたしだってそうなんだけど、うん、自戒の念も込めつつ、ね。
ーー ーー
0
あなたにおすすめの小説
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
神の加護を受けて異世界に
モンド
ファンタジー
親に言われるまま学校や塾に通い、卒業後は親の進める親族の会社に入り、上司や親の進める相手と見合いし、結婚。
その後馬車馬のように働き、特別好きな事をした覚えもないまま定年を迎えようとしている主人公、あとわずか数日の会社員生活でふと、何かに誘われるように会社を無断で休み、海の見える高台にある、神社に立ち寄った。
そこで野良犬に噛み殺されそうになっていた狐を助けたがその際、野良犬に喉笛を噛み切られその命を終えてしまうがその時、神社から不思議な光が放たれ新たな世界に生まれ変わる、そこでは自分の意思で何もかもしなければ生きてはいけない厳しい世界しかし、生きているという実感に震える主人公が、力強く生きるながら信仰と奇跡にに導かれて神に至る物語。
オバちゃんだからこそ ~45歳の異世界珍道中~
鉄 主水
ファンタジー
子育ても一段落した40過ぎの訳あり主婦、里子。
そんなオバちゃん主人公が、突然……異世界へ――。
そこで里子を待ち構えていたのは……今まで見たことのない奇抜な珍獣であった。
「何がどうして、なぜこうなった! でも……せっかくの異世界だ! 思いっ切り楽しんじゃうぞ!」
オバちゃんパワーとオタクパワーを武器に、オバちゃんは我が道を行く!
ラブはないけど……笑いあり、涙ありの異世界ドタバタ珍道中。
いざ……はじまり、はじまり……。
※この作品は、エブリスタ様、小説家になろう様でも投稿しています。
神様の忘れ物
mizuno sei
ファンタジー
仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。
わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる