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起《承》転結
ーー 【不浄遺棄地域】 ーー②
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魔王城最深部、玉座の間。
異形の骨と絢爛豪華な宝玉で彩られ……ていたはずの玉座には、座してなお見上げるほどに巨大な異形。でも……
その巨躯にはぼろぼろのローブの上から、絶えずバチバチと放電している強大な光の剣が突き刺さり、真黒な鎖が無数に絡み付き、ありとあらゆる剣や武器がその身体に差し込まれていた。
それらには古く錆び付いているものからまだ真新しいものまである。ひしゃげた夥しい量の武器たちに覆い尽くされて、その見るも無残な姿の全容は、いびつに歪んでしまってはっきり見ることができない。
巨大な玉座は、ありとあらゆる宝石も装飾も剥ぎ取られ、今や黒い骨を積み上げただけのガラクタにしか見えない。周りもなんだか剣かなにかで彫られたしょーもない落書きだらけだ。
「如何にも。此の世界のものは我が一側面を、魔王、アヴァルギリオン、と呼ぶ」
自身の陰惨たる現状なんて気にしていない、至極泰然とした様で。その地の底から響くような声は空虚に木霊する。
そう、確かに、この廃墟に打ち捨てられた失敗作のオブジェのようなものこそが……
「おお、我が魔王様、このような痛ましいお姿になってしまわれて……」
「気にするな、ティアマト殿。ただの意趣返しであろう。我が好きにやらせているのだ」
それにしても意趣返しにしては悪質すぎるんじゃないかしら? これが勇者に倒されてもなお、数千年にわたって復讐されるべき者の姿なの? だって、もう力は無いんでしょ? こんなのただの弱い者いじめじゃない。
「全ての冒険者の最終到着点、といえば聞こえがよいが、つまるところ強くなりすぎて特に何もすることが無くなってしまった冒険者が、とりあえず魔王がいるみたいだから倒しに行くべ、オレらなら余裕っしょ、みたいなノリで向かう場所じゃからな」
「そんな村の心霊スポットに肝試しに行く悪ガキみたいなテンションなの?」
「それに、今は転生者の中にも魔王を名乗るものがいるみたいだし」
あ、それ、途中で寄った村で聞いたな。転生魔王群雄割拠ってか? 世紀末過ぎるでしょ。そういうのはぜひとも他所でやってもろて。
「……それにしても、」
ぎぎぎ、ローブの奥の首が傾いで、あ、きっと魔王はわたしたちを一瞥すると、
「……ずいぶんと珍しい組み合わせのパーティが来たな」
ぽつりと、つい思わず、って感じでそう呟いた。
あ、確かに。
パッと見、わたし達は司書とおじいちゃんとドラゴンと子どものパーティだ。ほぼ無職、かろうじて魔法使いが1人。マジで弱そう。実質ドラゴンだけのソロパーティ。なんでこんなところに村人がいるんだ、みたいな場違い感。
「わしらは貴方と戦う気はない、少し話がしたいのじゃ」
「ほう、其れも珍しい、朽ち果てる事も叶わぬ我の様なものとの対話を望むとは」
魔王の言葉と相反して、そのくぐもった声に抑揚はない。それでも、なんとなく嬉しそうに思ったのは気のせいかな?
「其れで。我と斯様な話がしたいと?」
「ね、ねえ、わたしの名前は【透明幻想・錯綜少女基底】。わたしは、自分が何なのかを探しているの」
ぎしり、魔王が軋む。
なんだか、魔王って、実はそんなに怖いものじゃないような気がしてきた。
いや、数千年前の悪行をわたしは知らないし、それに、今は見るも無残な姿になっているからそう見えるだけかもしれないけど。それでも、魔王はわたし達との対話の意思を持っている。話せばわかる、は全世界共通じゃないかしら?
そういえば、わたしは勇者と魔王の物語を詳しく知らなかった。どうやって勇者はこんな強大な魔王を倒して、そして、どうして魔王はここに封印されているのか。
わたしはそんなことも知らないまま、伝説の英雄譚のその先にいる。
「ねえ、魔王、“始源拾弐機関”について何か知ってないかしら?」
「うむ。而して。知っているも何も、我こそが“始源拾弐機関”の一つである」
「「「「……え゛ッ!!?」」」」
わたし達3人の驚愕に、ついでにアズも加わる。アズも知らんかったんか!?
異形の骨と絢爛豪華な宝玉で彩られ……ていたはずの玉座には、座してなお見上げるほどに巨大な異形。でも……
その巨躯にはぼろぼろのローブの上から、絶えずバチバチと放電している強大な光の剣が突き刺さり、真黒な鎖が無数に絡み付き、ありとあらゆる剣や武器がその身体に差し込まれていた。
それらには古く錆び付いているものからまだ真新しいものまである。ひしゃげた夥しい量の武器たちに覆い尽くされて、その見るも無残な姿の全容は、いびつに歪んでしまってはっきり見ることができない。
巨大な玉座は、ありとあらゆる宝石も装飾も剥ぎ取られ、今や黒い骨を積み上げただけのガラクタにしか見えない。周りもなんだか剣かなにかで彫られたしょーもない落書きだらけだ。
「如何にも。此の世界のものは我が一側面を、魔王、アヴァルギリオン、と呼ぶ」
自身の陰惨たる現状なんて気にしていない、至極泰然とした様で。その地の底から響くような声は空虚に木霊する。
そう、確かに、この廃墟に打ち捨てられた失敗作のオブジェのようなものこそが……
「おお、我が魔王様、このような痛ましいお姿になってしまわれて……」
「気にするな、ティアマト殿。ただの意趣返しであろう。我が好きにやらせているのだ」
それにしても意趣返しにしては悪質すぎるんじゃないかしら? これが勇者に倒されてもなお、数千年にわたって復讐されるべき者の姿なの? だって、もう力は無いんでしょ? こんなのただの弱い者いじめじゃない。
「全ての冒険者の最終到着点、といえば聞こえがよいが、つまるところ強くなりすぎて特に何もすることが無くなってしまった冒険者が、とりあえず魔王がいるみたいだから倒しに行くべ、オレらなら余裕っしょ、みたいなノリで向かう場所じゃからな」
「そんな村の心霊スポットに肝試しに行く悪ガキみたいなテンションなの?」
「それに、今は転生者の中にも魔王を名乗るものがいるみたいだし」
あ、それ、途中で寄った村で聞いたな。転生魔王群雄割拠ってか? 世紀末過ぎるでしょ。そういうのはぜひとも他所でやってもろて。
「……それにしても、」
ぎぎぎ、ローブの奥の首が傾いで、あ、きっと魔王はわたしたちを一瞥すると、
「……ずいぶんと珍しい組み合わせのパーティが来たな」
ぽつりと、つい思わず、って感じでそう呟いた。
あ、確かに。
パッと見、わたし達は司書とおじいちゃんとドラゴンと子どものパーティだ。ほぼ無職、かろうじて魔法使いが1人。マジで弱そう。実質ドラゴンだけのソロパーティ。なんでこんなところに村人がいるんだ、みたいな場違い感。
「わしらは貴方と戦う気はない、少し話がしたいのじゃ」
「ほう、其れも珍しい、朽ち果てる事も叶わぬ我の様なものとの対話を望むとは」
魔王の言葉と相反して、そのくぐもった声に抑揚はない。それでも、なんとなく嬉しそうに思ったのは気のせいかな?
「其れで。我と斯様な話がしたいと?」
「ね、ねえ、わたしの名前は【透明幻想・錯綜少女基底】。わたしは、自分が何なのかを探しているの」
ぎしり、魔王が軋む。
なんだか、魔王って、実はそんなに怖いものじゃないような気がしてきた。
いや、数千年前の悪行をわたしは知らないし、それに、今は見るも無残な姿になっているからそう見えるだけかもしれないけど。それでも、魔王はわたし達との対話の意思を持っている。話せばわかる、は全世界共通じゃないかしら?
そういえば、わたしは勇者と魔王の物語を詳しく知らなかった。どうやって勇者はこんな強大な魔王を倒して、そして、どうして魔王はここに封印されているのか。
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