92 / 235
起承転結《 》
―― 【深層義肢】――④
しおりを挟む
「この大戦により、【軌条空論・紙一重】が司っていた世界の均衡は崩れた。我々は錯誤世界秩序機能としてこの世界を守らねばならぬ、そう、たとえ敗北者だとしても」
ああ、なんて虚しい機能だろうか。
感情を排したような無機質な言葉と口調。【深層義肢】が元々そんな感じだったのかはわからないけど、そんな彼女のノイズ混じりの音声がとても寂しくて、やっぱり悔しくて。
「……ねえ、たとえ、この世界に必要ないとしても……?」
この世界はとっくにわたし達、“始源拾弐機関”のことなんて必要なくて、神様の思い描く新世界では完全に、恐るるに足らない敵だ。それなのに、わたし達は結局この錯誤世界の秩序を維持するための機能として存在しなくてはならない。今さらこの世界のどこに守るべき秩序なんてあるのだろうか。
「それなら、わたし達は何のために存在しているんだろう」
ずっと前、わたしは、自分がこの世界に必要なのかどうかわからなかった。
この物語の主人公がわたしであるべき理由を見いだせなかった。
いや、まだわからないままだ。
だけれども、わたしが必要じゃない理由もなかったんだ。
無色透明で何も持たないわたしでも、きっと存在理由がある。それを探す物語だ。
だからこそ、“始源拾弐機関”をただのシステムなんかだと思いたくない。彼らにだって胸躍る物語とこの壊れてしまった世界にだって存在するべき理由が必ずあるはずなんだ。どれほどの時間が掛かってもわたしはそんなお話を聞いてみたい。
……でも、神様には? あの飄々とした小烏丸は自身の存在理由を教えてくれるだろうか。きっと教えてくれないだろうな。
「我は存在定義を司るもの。だが、我には存在理由は分からぬ」
「うん、わたしにもわからない。だけど、きっとそれはだれかが司っていたり教えてくれるようなものじゃないと思うんだ。それは、見つけるもの、だもの」
「そうか、そなたはそれを探しているのだな」
「そう、わたしの物語はそういう物語、わたしがわたしの足でわたし自身を探すわたしのための物語」
「……素敵な物語だ。しかし、こんなにも小さな足で、しかも裸足で、我らはそなたをたった独りで歩かせてしまったのだな、すまない、心より謝罪したい」
「んーん、だ・か・ら、これはそういう物語だからいいんだって」
ホントはもっと穏やかな旅路になると思っていたんだけどね、ちゃんとかわいい靴も履いて、あのマイペースな馬車にまったり揺られたりなんかしちゃって。そして、どこかで世界を守っているような大きな機械鎧に出くわして戦々恐々とするんだ。
そんな物語のはずが、小鳥遊 小烏丸とかいう訳わからんのが勝手にわたしの物語をテコ入れしやがったせいで、こんな殺伐としたお話になっちゃったけど。わたしのモチベーションの低下でエタっちまったらタダじゃおかないぞ。
「それに、この物語、実は独りだったときなんてあんまりないのよ?」
そう、わたしのそばにはいつも誰かがいてくれた。そのおかげで楽しかったこともさみしかったこともあって、だから、わたしが独りだった、なんて感じたこともなかった。まあ、それにはいつも唐突で理不尽かつ不条理な別れが伴ってはいたのだけれども。
ーー ーー
ああ、なんて虚しい機能だろうか。
感情を排したような無機質な言葉と口調。【深層義肢】が元々そんな感じだったのかはわからないけど、そんな彼女のノイズ混じりの音声がとても寂しくて、やっぱり悔しくて。
「……ねえ、たとえ、この世界に必要ないとしても……?」
この世界はとっくにわたし達、“始源拾弐機関”のことなんて必要なくて、神様の思い描く新世界では完全に、恐るるに足らない敵だ。それなのに、わたし達は結局この錯誤世界の秩序を維持するための機能として存在しなくてはならない。今さらこの世界のどこに守るべき秩序なんてあるのだろうか。
「それなら、わたし達は何のために存在しているんだろう」
ずっと前、わたしは、自分がこの世界に必要なのかどうかわからなかった。
この物語の主人公がわたしであるべき理由を見いだせなかった。
いや、まだわからないままだ。
だけれども、わたしが必要じゃない理由もなかったんだ。
無色透明で何も持たないわたしでも、きっと存在理由がある。それを探す物語だ。
だからこそ、“始源拾弐機関”をただのシステムなんかだと思いたくない。彼らにだって胸躍る物語とこの壊れてしまった世界にだって存在するべき理由が必ずあるはずなんだ。どれほどの時間が掛かってもわたしはそんなお話を聞いてみたい。
……でも、神様には? あの飄々とした小烏丸は自身の存在理由を教えてくれるだろうか。きっと教えてくれないだろうな。
「我は存在定義を司るもの。だが、我には存在理由は分からぬ」
「うん、わたしにもわからない。だけど、きっとそれはだれかが司っていたり教えてくれるようなものじゃないと思うんだ。それは、見つけるもの、だもの」
「そうか、そなたはそれを探しているのだな」
「そう、わたしの物語はそういう物語、わたしがわたしの足でわたし自身を探すわたしのための物語」
「……素敵な物語だ。しかし、こんなにも小さな足で、しかも裸足で、我らはそなたをたった独りで歩かせてしまったのだな、すまない、心より謝罪したい」
「んーん、だ・か・ら、これはそういう物語だからいいんだって」
ホントはもっと穏やかな旅路になると思っていたんだけどね、ちゃんとかわいい靴も履いて、あのマイペースな馬車にまったり揺られたりなんかしちゃって。そして、どこかで世界を守っているような大きな機械鎧に出くわして戦々恐々とするんだ。
そんな物語のはずが、小鳥遊 小烏丸とかいう訳わからんのが勝手にわたしの物語をテコ入れしやがったせいで、こんな殺伐としたお話になっちゃったけど。わたしのモチベーションの低下でエタっちまったらタダじゃおかないぞ。
「それに、この物語、実は独りだったときなんてあんまりないのよ?」
そう、わたしのそばにはいつも誰かがいてくれた。そのおかげで楽しかったこともさみしかったこともあって、だから、わたしが独りだった、なんて感じたこともなかった。まあ、それにはいつも唐突で理不尽かつ不条理な別れが伴ってはいたのだけれども。
ーー ーー
0
あなたにおすすめの小説
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
神の加護を受けて異世界に
モンド
ファンタジー
親に言われるまま学校や塾に通い、卒業後は親の進める親族の会社に入り、上司や親の進める相手と見合いし、結婚。
その後馬車馬のように働き、特別好きな事をした覚えもないまま定年を迎えようとしている主人公、あとわずか数日の会社員生活でふと、何かに誘われるように会社を無断で休み、海の見える高台にある、神社に立ち寄った。
そこで野良犬に噛み殺されそうになっていた狐を助けたがその際、野良犬に喉笛を噛み切られその命を終えてしまうがその時、神社から不思議な光が放たれ新たな世界に生まれ変わる、そこでは自分の意思で何もかもしなければ生きてはいけない厳しい世界しかし、生きているという実感に震える主人公が、力強く生きるながら信仰と奇跡にに導かれて神に至る物語。
オバちゃんだからこそ ~45歳の異世界珍道中~
鉄 主水
ファンタジー
子育ても一段落した40過ぎの訳あり主婦、里子。
そんなオバちゃん主人公が、突然……異世界へ――。
そこで里子を待ち構えていたのは……今まで見たことのない奇抜な珍獣であった。
「何がどうして、なぜこうなった! でも……せっかくの異世界だ! 思いっ切り楽しんじゃうぞ!」
オバちゃんパワーとオタクパワーを武器に、オバちゃんは我が道を行く!
ラブはないけど……笑いあり、涙ありの異世界ドタバタ珍道中。
いざ……はじまり、はじまり……。
※この作品は、エブリスタ様、小説家になろう様でも投稿しています。
神様の忘れ物
mizuno sei
ファンタジー
仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。
わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる