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起承転結《 》
―― 【深層義肢】――⑧
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「ところでわたしはどれくらい眠っていたの?」
「およそ30年ほどだ」
「は?」素っ頓狂に。
30年って、春が来て夏が暑くて秋は落ち葉が綺麗で冬は寒い、あの長い1年間が30回分? それって、とっても長い時間だよね? アズがイッシュ坊と呼んでいた子どもが、あんなにおじいちゃんになるのが60年、それの半分の時間よ? それに、それに!
「わたしの身体は成長していないわ、おっぱいが小さいままよ!」
とうとう自分で言葉にしてしまって激しく後悔。わたしのボインボインの伸びしろはどこ? ここ?
それに、ラフィーナは!? エルルカは!? おじいちゃんはまだ生きてる!?
ぐるぐる混乱。意味がわからない。
眠り姫もいいとこだわ。かっこいい王子様は現れなくて自力で起きたけどね。
そんなに長い年月の間中ずっとあの地下に埋もれてしまわなかったのは、きっと【軌条空論・紙一重】のおかげだ。ずっと助けられてばかりで、なんだかぎゅっと心が苦しくなる。
老いることもなく、成長の伸びしろもなく、食べることもなく、ただひたすら眠っていただけなのに30年もの間何一つ変わらず姿を維持できていた。やっぱり、わたしは普通のヒトとは明確に違うモノで、“始源拾弐機関”のひとつなんだ。
でも、そうだとしても。
ヒトとは違う時間で存在しているのだとしても。
世界は変わってしまったのに、わたしは変わらなくてもいいのか?
そんなはずがない。
もうわたしが知っている世界じゃない。わたしのことを誰も知らないかもしれない。
また、やり直しだ。
真っ白なページがわたしの目の前にある。そこから始めなきゃいけない。
真っ黒に塗り潰されたページが目の前にある。それを終わらせなければいけない。
わたしはまた、世界を知るところからはじめなくちゃいけない。
わたしはこれから、神様の創ったこの世界を壊さなくちゃいけない。
「……また、はじまりはじまり、からか」思わず、うんざり吐息。
こんな最悪なはじまりはじまりなんてあってたまるか。
だけど、こんな最低なめでたしめでたしも許せないの。
「よし、行こうか、物語はまだ始まったばかりなんだから」
「ばう!」
そうして、メルトを従えて勢いよく駆け出そうとして、ふと振り返る。
「必ずあなたを助ける! それまで待っていて!」
「うむ。それはなんとも希望に満ちた言葉だ。我はそれを糧に機能し続けようぞ」
相変わらず世界は瓦礫と乾いた風で吹き曝されていて、そして、空はうんざりするほどにどこまでも青い。陽光は弱々しく、どうやら、わたしとメルトの出発の門出は祝してくれないみたいだ。
わたしは世界に嫌われている。
でも、それでもいいんだ。
壊れてしまった世界にも確かに色づく彩りはあって、たとえこの世界に嫌われていたって、わたしはここに生きているんだから。
無色透明でも、わたしにだって色彩はあるんだから。
「そうだ、わたしの名前はねーー!」
ーーMy ghost! A little voice is urging me on……
「およそ30年ほどだ」
「は?」素っ頓狂に。
30年って、春が来て夏が暑くて秋は落ち葉が綺麗で冬は寒い、あの長い1年間が30回分? それって、とっても長い時間だよね? アズがイッシュ坊と呼んでいた子どもが、あんなにおじいちゃんになるのが60年、それの半分の時間よ? それに、それに!
「わたしの身体は成長していないわ、おっぱいが小さいままよ!」
とうとう自分で言葉にしてしまって激しく後悔。わたしのボインボインの伸びしろはどこ? ここ?
それに、ラフィーナは!? エルルカは!? おじいちゃんはまだ生きてる!?
ぐるぐる混乱。意味がわからない。
眠り姫もいいとこだわ。かっこいい王子様は現れなくて自力で起きたけどね。
そんなに長い年月の間中ずっとあの地下に埋もれてしまわなかったのは、きっと【軌条空論・紙一重】のおかげだ。ずっと助けられてばかりで、なんだかぎゅっと心が苦しくなる。
老いることもなく、成長の伸びしろもなく、食べることもなく、ただひたすら眠っていただけなのに30年もの間何一つ変わらず姿を維持できていた。やっぱり、わたしは普通のヒトとは明確に違うモノで、“始源拾弐機関”のひとつなんだ。
でも、そうだとしても。
ヒトとは違う時間で存在しているのだとしても。
世界は変わってしまったのに、わたしは変わらなくてもいいのか?
そんなはずがない。
もうわたしが知っている世界じゃない。わたしのことを誰も知らないかもしれない。
また、やり直しだ。
真っ白なページがわたしの目の前にある。そこから始めなきゃいけない。
真っ黒に塗り潰されたページが目の前にある。それを終わらせなければいけない。
わたしはまた、世界を知るところからはじめなくちゃいけない。
わたしはこれから、神様の創ったこの世界を壊さなくちゃいけない。
「……また、はじまりはじまり、からか」思わず、うんざり吐息。
こんな最悪なはじまりはじまりなんてあってたまるか。
だけど、こんな最低なめでたしめでたしも許せないの。
「よし、行こうか、物語はまだ始まったばかりなんだから」
「ばう!」
そうして、メルトを従えて勢いよく駆け出そうとして、ふと振り返る。
「必ずあなたを助ける! それまで待っていて!」
「うむ。それはなんとも希望に満ちた言葉だ。我はそれを糧に機能し続けようぞ」
相変わらず世界は瓦礫と乾いた風で吹き曝されていて、そして、空はうんざりするほどにどこまでも青い。陽光は弱々しく、どうやら、わたしとメルトの出発の門出は祝してくれないみたいだ。
わたしは世界に嫌われている。
でも、それでもいいんだ。
壊れてしまった世界にも確かに色づく彩りはあって、たとえこの世界に嫌われていたって、わたしはここに生きているんだから。
無色透明でも、わたしにだって色彩はあるんだから。
「そうだ、わたしの名前はねーー!」
ーーMy ghost! A little voice is urging me on……
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