184 / 235
目的、この物語のテーマ
―― 【飢餓之太刀・饗宴姫】 ――⑫
しおりを挟む
……物語の破綻はかろうじて免れたみたいだ。
だって、メアリーがいなくなってもまだこの物語は続いているから。
だけど、彼女が残した爪痕はあまりにも大きく。
現実改変の影響がどこに残っているのかわからない。それはこの物語の外からやってきて、そして、無遠慮に再編集しやがったメアリーにしか計り知れない。この世界で生きるわたし達には、今現在のこれこそが現実。どんなに受け入れがたくとも、だ。
それでも、作者であるわたしにもわかることがあって、世界から拒絶されたような違和感だけはどうしても拭えず、クソ、またわたしの物語が改変された、と歯噛みすることしかできない。
現実改変に被災しないようにと展開していた物語を元に戻す。
そして、改めて、この世界を、この囁き森を見渡す。
「……クソ」悪態。
ああ、あの優しい木漏れ日と深く生い茂った木々が織りなす生命の躍動は、何者にも介入されずに育ち、荒々しくも神秘的だった囁き森は。
無残にへし折られた巨樹達、めくれ上がった地面、捩じれた大地。
今はもう見る影もなく荒廃してしまった。やったのはほとんどわたし達だけど、だけど、アヴァリスとメアリーさえ来なければこんなことにはならなかった。わたし達には森を保護しながら戦う、なんて余裕はなかった。
目の前の凄惨たる有り様を見て、徒労じみた後悔ばかりが押し寄せてくる。わたしの方こそ、この森を滅茶苦茶にした張本人じゃないか。
わたしの両腕の中で、少女はその緑色がすっかり枯れ果てて、眠るように力なく抱えられている。助けられなかった……?
約束も守れず、この森を破壊し、何も成し遂げていない。
女の子一人も守れずに何が主人公だ。
「……■■キティ、あ■の子は、無事だ■ろうか■■■■」
ひどくノイズ交じりでくぐもった音声が聞こえた。声だけで全然大丈夫なさそうな感じがする。きっと壊れている。だけど。
機能停止してなかったんだ! 思わず声のした方へと駆け出す。まるで、何かに縋り付きたいだけの子どもみたいで格好悪い。
「観測機さん! 良かった、無事で」ほっと安堵。
彼を守ることはできなかったけど、誰かがそばにいてくれるのは心強くて。
だって、わたしは約束を守れなかったから。
どんなに卑怯だと言われても、独りで抱えるにはあまりにも辛かったから。
彼に叱ってほしかった、なんならアヴァリスみたいに叩き潰されても良かった。わたしはそれくらいのことをしてしまったんだから。
だけど、メアリーの現実改変に間近で巻き込まれた影響か、彼の身体はねじ切れてほとんど失われていて、残っていたのは頭部と胸上部、そして、右肩から先のみだった。これじゃあ動けない、ほとんど機能停止状態だ。
それでも、彼は傷口からときおり火花を弾けさせながらもまだ生きていた。土まみれで地面に転がるその姿は、また地面に埋もれているみたいで。だからこそ、余計に心が痛かった。彼を助けられなかったのだってわたしの力不足のせいだ。
「創造物たる我には感情など存在し得ぬものだと思っていた」
彼自身はそれを特に気にしている様子でもなく。自分はただの観測機、ただの機械、ただの装置、ただの代替え可能な量産品、そういう存在だと認識しているからだろう。
だけど、今の彼は。
「だが、我は怒り、今は深く悲しんでいる」
そう、今の彼は自身の感情を知っている。その変化を自覚している。
もう、彼はただの機械じゃない、少女の死を悲しむ一人の機械だ。
「……ごめんなさい、ごめんなさい。わたしが何もできなかったから……」
言葉にしてしまえば許してもらえるという欺瞞に満たされてしまう。だからずっと固く口を結んでいたのに、無機質なはずの彼の言葉があまりにもわたしの胸を抉るから、我慢できずに吐き出してしまった。わたしの胸の中で永遠に重く沈み込ませていたかったのに。
「この世界の再生の兆しが失われてしまった」
彼は慰めてはくれなかった。いいえ、それでいい。わたしにそんな資格ない。
だって、メアリーがいなくなってもまだこの物語は続いているから。
だけど、彼女が残した爪痕はあまりにも大きく。
現実改変の影響がどこに残っているのかわからない。それはこの物語の外からやってきて、そして、無遠慮に再編集しやがったメアリーにしか計り知れない。この世界で生きるわたし達には、今現在のこれこそが現実。どんなに受け入れがたくとも、だ。
それでも、作者であるわたしにもわかることがあって、世界から拒絶されたような違和感だけはどうしても拭えず、クソ、またわたしの物語が改変された、と歯噛みすることしかできない。
現実改変に被災しないようにと展開していた物語を元に戻す。
そして、改めて、この世界を、この囁き森を見渡す。
「……クソ」悪態。
ああ、あの優しい木漏れ日と深く生い茂った木々が織りなす生命の躍動は、何者にも介入されずに育ち、荒々しくも神秘的だった囁き森は。
無残にへし折られた巨樹達、めくれ上がった地面、捩じれた大地。
今はもう見る影もなく荒廃してしまった。やったのはほとんどわたし達だけど、だけど、アヴァリスとメアリーさえ来なければこんなことにはならなかった。わたし達には森を保護しながら戦う、なんて余裕はなかった。
目の前の凄惨たる有り様を見て、徒労じみた後悔ばかりが押し寄せてくる。わたしの方こそ、この森を滅茶苦茶にした張本人じゃないか。
わたしの両腕の中で、少女はその緑色がすっかり枯れ果てて、眠るように力なく抱えられている。助けられなかった……?
約束も守れず、この森を破壊し、何も成し遂げていない。
女の子一人も守れずに何が主人公だ。
「……■■キティ、あ■の子は、無事だ■ろうか■■■■」
ひどくノイズ交じりでくぐもった音声が聞こえた。声だけで全然大丈夫なさそうな感じがする。きっと壊れている。だけど。
機能停止してなかったんだ! 思わず声のした方へと駆け出す。まるで、何かに縋り付きたいだけの子どもみたいで格好悪い。
「観測機さん! 良かった、無事で」ほっと安堵。
彼を守ることはできなかったけど、誰かがそばにいてくれるのは心強くて。
だって、わたしは約束を守れなかったから。
どんなに卑怯だと言われても、独りで抱えるにはあまりにも辛かったから。
彼に叱ってほしかった、なんならアヴァリスみたいに叩き潰されても良かった。わたしはそれくらいのことをしてしまったんだから。
だけど、メアリーの現実改変に間近で巻き込まれた影響か、彼の身体はねじ切れてほとんど失われていて、残っていたのは頭部と胸上部、そして、右肩から先のみだった。これじゃあ動けない、ほとんど機能停止状態だ。
それでも、彼は傷口からときおり火花を弾けさせながらもまだ生きていた。土まみれで地面に転がるその姿は、また地面に埋もれているみたいで。だからこそ、余計に心が痛かった。彼を助けられなかったのだってわたしの力不足のせいだ。
「創造物たる我には感情など存在し得ぬものだと思っていた」
彼自身はそれを特に気にしている様子でもなく。自分はただの観測機、ただの機械、ただの装置、ただの代替え可能な量産品、そういう存在だと認識しているからだろう。
だけど、今の彼は。
「だが、我は怒り、今は深く悲しんでいる」
そう、今の彼は自身の感情を知っている。その変化を自覚している。
もう、彼はただの機械じゃない、少女の死を悲しむ一人の機械だ。
「……ごめんなさい、ごめんなさい。わたしが何もできなかったから……」
言葉にしてしまえば許してもらえるという欺瞞に満たされてしまう。だからずっと固く口を結んでいたのに、無機質なはずの彼の言葉があまりにもわたしの胸を抉るから、我慢できずに吐き出してしまった。わたしの胸の中で永遠に重く沈み込ませていたかったのに。
「この世界の再生の兆しが失われてしまった」
彼は慰めてはくれなかった。いいえ、それでいい。わたしにそんな資格ない。
0
あなたにおすすめの小説
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
幼女と執事が異世界で
天界
ファンタジー
宝くじを握り締めオレは死んだ。
当選金額は約3億。だがオレが死んだのは神の過失だった!
謝罪と称して3億分の贈り物を貰って転生したら異世界!?
おまけで貰った執事と共に異世界を満喫することを決めるオレ。
オレの人生はまだ始まったばかりだ!
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します
桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる
積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!
ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。
悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。
知識スキルで異世界らいふ
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる