イマジンコード・オーバー・ザ・シンギュラリティ~少年は幻想魔剣の夢を見るか~

儀仗空論・紙一重

文字の大きさ
2 / 48
1.SINGULARITY

幻想(ヴァーチャル)は現実(リアル)を越えることができるか

しおりを挟む
「クソ、もう終わっちまったのかよ」

 ネオンに照らされた夜の片隅で。

 見上げてみると、ついさっきまで街中に爆音で実況されていた試合の結果が華々しく夜空を覆い尽くさんとする巨大なホログラムスクリーンに映し出されていた。

 長い金髪に細身の白い鎧を着た王子様みたいなキザ野郎が取り繕った笑顔でインタビューを受けている。あんな子供だましのゲームの何が楽しいんだ。

「オレには幻想なんて抱いてるヒマはないんだ」

 オレにはやるべきことがある。

 そのために、誰しもがあのゲームに夢中になる今日という日を選んだというのに。

 オレは視線を逸らす。今日の目的はこんなところでゲーム観戦することじゃない。17歳というのは青春真っ盛りで、だからこそこんなところでバカみたいに空を見上げている時間は1秒もないんだ。

 オレはそんな、バカみたいに空を見上げて熱狂する雑踏をすり抜けながらぼそりと呟くけど、そんな小さな呟きなんて誰の耳にも届くことなく、この騒々しいだけの大歓声の中で簡単に掻き消された。

「確かにここに実存としてある自分自身しか信用しない。魔法なんてただのお気軽なマジックの延長だろうが」

 少し前に降っていた雨のせいで濡れた薄暗い路地裏。ここまで来ればもう喧騒は聞こえない。

 それのさらに奥に行った片隅にある、何時潰れても(経営的にも、そう、物理的にも、だ)おかしくないようなジャンク屋。

 雨に濡れたそのガラスには陰鬱な眼差しでオレを見る、赤い目に黒い瞳孔、無造作に伸びた黒い髪の少年が写っていた。

 そんな陰気臭い少年から目を逸らすように、オレはどう見ても怪しい黒いパーカーのフードを目深に被り、できる限り静かに店内へと入っていく。そう、店主に気付かれないように、だ。

 幸いにもこの悪趣味で乱雑なジャンク屋のハゲデブオヤジ店主は、今だ興奮冷めやらぬさっきの勝負のハイライトやら解説チャンネルにログインしているようでオレの存在には気づいていない。

 さっさとお借りするか。

 そう、決して盗むんじゃない、ちょっと借りるだけ。もちろん不要なら返すし、必要となればお金は払うさ、そのうち。

 ちょっと前に下見した時に透明化の魔法はセキュリティロックされていることは確認済みだ。こんな店のクセに防犯対策だけはやたらとしてあるのがなんか腹立たしいな。

「お、待たせたな、お嬢さん」

 そして、早速オレはお目当ての物を見つける。

 ずっと前から目を付けていた掘り出し物。

 きっとこの店主の目は完全にガタがきた赤錆まみれのジャンクで出来ているんだろう。

 これが何かわからないなんて。

 これから感じる尋常ならざる魔力は、凡人以下どころかさっぱりナノマシンを持っていないオレにだってわかるぞ。

 ……いや、これが何のパーツだったのかオレにもさっぱりだが。

 ま、とにかくオレが有効に活用してやる方がこの掘り出し物も本望だろ。 

 ほとんど薄れてしまった罪悪感が、それでも心臓の鼓動を急かすのをわずかに苛みながら、ゆっくりとそれに手を伸ばした時、

「何か探してるのか?」

「あ、は、はいッ! あ、えーと、これがほしい、かも……?」

 トップランカー同士の試合の日、なんて一年に一度の祭典みたいな日に、いや、そもそもこんなところに客がいること自体が珍しいのだろう。

 ハゲデブ店主は怪訝な表情で、フードに隠れたオレの顔を、そして、オレが伸ばした手の先を見る。

「あ、はは、いや、違うな、これかなあ?」

 なんとか引きつった愛想笑いを作ると、ビクッとしながら適当なガラクタを指差す。

「アンタまだ若いだろ、そんなもん、何に使うんだ?」

「ああ、いや、ほら、これ見てよ、オレ、あんまり魔力なくてさ、」

 この場を切り抜けるためとはいえ、自分で言っといて屈辱的な台詞と共に、右手の肘から先を覆うように装着された“幻想籠手(エンチャント・ガントレット)”を掲げてみる。

「…………」

 無言でオレを見る何か言いたげな店主の表情。クソ、まだ疑ってるな。

「あ、そうだ、おやっさんも見てただろ、さっきの試合。魔力なくてもさ、オレもあんな風になりたくてさ」

「……まあ、それじゃそれが必要か」

 よし、まだいける。店主もあの試合の興奮で少し浮かれてると見た。

 思わず出てしまいそうになるほくそ笑みをなんとか愛想笑いで上書きしつつ。

「けどよ、それ買えるか?」

 値段を見ると、げ、なんだよ、これ。

 適当に指差した先には、到底オレには手が出せそうにないような値札がぶら下がっていた。なんでこんなガラクタにこんな値段付けてるんだ!

「ああ、じゃあ買えないっすね、はは」

 そうして、そそくさと店を出て行こうとするオレを、

「おい、ちょっと待て、まさか俺の店で万引きなんてしてないだろうな」

 ドスの効いた声で引き留める。ついでに店の防犯カメラの映像にでもアクセスしているのか、眼球が右上の方を向いている。

 ……おいおい、バレないだろうな。

「その右手の籠手見せてみろ」

 オレはゆっくりと振り返ると、銃を突き付けられたみたいに両手を上げる。

「いや、持ってるわけないでしょ、ほら」

「……そうか、疑ってすまんな、また来てくれよ」

「ああそうするよ。今度は大金持ちになってからね」

 オレは負け惜しみの捨て台詞を吐き出すと、逃げ出すように今度こそ足早に店を出た。

「……はッ、現実なんてこんなもんよ。全部まやかしだ、子どもだましの魔法なんてクソ喰らえ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

社会の底辺に落ちたオレが、国王に転生した異世界で、経済の知識を活かして富国強兵する、冒険コメディ

のらねこま(駒田 朗)
ファンタジー
 リーマンショックで会社が倒産し、コンビニのバイトでなんとか今まで生きながらえてきた俺。いつものように眠りについた俺が目覚めた場所は異世界だった。俺は中世時代の若き国王アルフレッドとして目が覚めたのだ。ここは斜陽国家のアルカナ王国。産業は衰退し、国家財政は火の車。国外では敵対国家による侵略の危機にさらされ、国内では政権転覆を企む貴族から命を狙われる。  目覚めてすぐに俺の目の前に現れたのは、金髪美少女の妹姫キャサリン。天使のような姿に反して、実はとんでもなく騒がしいS属性の妹だった。やがて脳筋女戦士のレイラ、エルフ、すけべなドワーフも登場。そんな連中とバカ騒ぎしつつも、俺は魔法を習得し、内政を立て直し、徐々に無双国家への道を突き進むのだった。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

異世界転生したおっさんが普通に生きる

カジキカジキ
ファンタジー
 第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位 応援頂きありがとうございました!  異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界  主人公のゴウは異世界転生した元冒険者  引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。  知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?

処理中です...