イマジンコード・オーバー・ザ・シンギュラリティ~少年は幻想魔剣の夢を見るか~

儀仗空論・紙一重

文字の大きさ
8 / 48
2.BADSCHOOL

少年は屋上で見た風景にセンチメンタルを感じられるか

しおりを挟む
「おい少年、一つ尋ねたいことがあるのだが、」

「は?」

 屋上を目指してゆらゆら彷徨っていると突然声を掛けられて、やべ、サボってるやつが他にもいたのかと、なんだか幼い声音と相反する尊大な口調に思わず振り返ってしまった。

 そこには不敵な笑みを浮かべながら両手を腰に当てる少女の姿。

 快活そうな大きな赤い瞳に耳が隠れる長さのクセがある白髪のショートカット、メグリと同じくらい小柄な身長と小麦色の肌、それらの特徴とはあまりにも不釣り合いなご立派なお胸のふくらみ。

 そして。

 ぴこりと揺れる頭の上の……ウサギの耳のような白い何か。髪と同じ白色だけど新型の後付けデバイスか何かか? しかし、それにしてもあまりにも一体化しすぎてやしないか?

 動植物のモチーフを直接模した造形は野蛮だとして嫌われている。それらは原始的で、テクノロジーを以て管理されなければ簡単に滅んでしまう脆い物だから。

 そんなものを、頭の上に付けながら堂々としている少女は一体何者なのか。

 こんなやつ見たことない。

「ここはどこだ? どうやら道に迷ってしまったみたいでな」

「は? いや、まあ、ここは学校だ」

「む、ここは……、そうか、外殻で身体改造無しの生身とは珍しくてな、我が同胞かと思ったのだが」

 彼女が着ているのはこの学校の制服じゃない。転校生か。それでも、ここがどこか知らないとかあり得るか? しかもその制服すら全然似合っていない。まるで初めて袖を通したような違和感がある気がする。

「むむ、その心臓の聖遺物は……そうか、少年もやはり」

 ウサギ耳少女はオレの心臓に刺さってる魔剣を見つけて、ぶつぶつと何か呟いていた。

 それにしても、ウサギ耳といいこの制服姿といい、そして、東洋日本地域最大級であるこの卦照(ケテル)学園のことを知らないっていうのは。

 怪しすぎるな。

「では、我はこれで」

「あ、お、おい」

「あ、そうだ、我のことは当局には内緒で」

 訳わからんウサギ耳の少女は人差し指をやたらと形のいい唇に当てて悪戯っぽくそう言うと踵を返してそのまま立ち去ってしまった。ま、触らぬ神になんとやらとも言うし、放っておいた方が身のためだろう。

「……しかし、今日はコスプレイヤーにやたらと遭遇する日か? おお、恐っ」

 そして、オレは屋上へと続く扉の前。

 屋上は立ち入り禁止だけど、今どき屋上に登ってやろう、などという酔狂な中二病患者は滅んで死んじまったらしく。

 もはや電子ロックすらされていなかった。誰かが飛び降り自殺でもしたらそうすんだ、学校の責任だぞ。まあ、きっと飛び降りたって警備ドローンが助けてくれるんだろうけど。

 ああ、それならいっそ……

(おや、主は死にたがりか? せっかくわらわを好きに弄べるのに)

「だからその言い方やめろ」

 どんなに高い屋上から眺めてみたって、ときおり電子的なノイズが走る空は誇らしげにそびえ立つ高層ビル達が無残に切り取っていて何も面白味もない。噂によると天気は龍が管理しているらしいが、そんなもん信じられるか。

 そんなつまらない景色に溶け込むように。

 まるで一枚のイラストのように。

 そこには幼なじみの姿。

 ボブに切り揃えられた青い髪が無機質で生ぬるい風に揺れている。

 何か考え事でもしているのだろうか。フェンスに寄りかかりながら遠くを見つめるその瞳は、いつものメグリとは違う憂いがあった。

「あら、奇遇ね、感傷に浸りたくて屋上なんてとんだ青春クソ野郎じゃない」

「お前、たまにすげー痛烈ド畜生な時あるよな」

 オレに気付いたメグリがにししと笑う。その表情はいつものメグリだった。

「つーか、メグリでもサボるのな」

「え、まあそうね、脳みそに直接学習内容を流し込まれる授業なんてつまらないもん」

「効率は良いんだろうけどな」

 全人類が同じ内容を同じ過程を経て同じ学習装置で勉強する。

 これだけ見ればなんて平等で平和な世界だと思うだろう。

 いや、実際平和になったんだ。

 貧富の差による学習機会の喪失は回避できるし、学力が上がれば生活基準は自ずと向上する。

 知識に違いがないなら、そして、全てオンラインでできるなら。

 もはや国なんて必要ない。

「わたしは紙とペンを使って自分の力で知識を得たいの。ぱらぱらと本をめくるあの感じが好きなの。勝手にインプットされた知識なんて何の役に立つと思う?」

「お前だって時代遅れの古臭い考えじゃん」

「ホントだ」

「さっき図書館に行ってきたんだ、全く似合ってないコスプレイヤーがいたけどそれ以外はおすすめだぞ」

「ふふ、図書館ならもう行ってるわよ。それにしてもルジネに図書館を紹介されるなんて意外ね」

 こんな風にメグリと話すのも久しぶりだった。

 学校に行かなくなってからはずっと疎遠、というかオレの方がなんとなくメグリを避けていた。

 こいつは容赦しない。

 オレの繊細な心情なんてお構い無しに学校に引きずって行くだろう。

 だから、オレはメグリ達一家が寝静まる夜に行動していたんだ。いつもオレの部屋の前にご飯を置いといてくれるメグリの母さんには悪いけど。

 メグリん家、そう、ワンダリング一家はみんなお節介焼きでありがたくて困るんだ。

「なあ、メグリはこの世界をどう思う?」

「どうって言われてもねえ。ワタシはこの世界しか知らないんだもん、そんなのわかんないよ」

「まあ、確かにそうだよな」

「まあ、おとぎ話とか物語の世界に憧れたりはするかな」

「お前の聖遺物みたいに?」

「あれもそうかもね、ワタシが想像するワタシのための物語」

 この世界に足りない物は想像力かもしれない。

 だからこそメグリみたいな少し普通じゃないだけの女子高生が上位ランカーとして君臨していても何ら不思議じゃない。

 想像力は無限大。

 メグリの聖遺物はそう思わせるのに十分だ。

「世界だとか運命だとか、なんとなく壮大なこと言う人ってロクなもんじゃないわよ?」

「それもそうだ、オレも含めてな」

 この世界はこれっぽっちの感傷すらさせてくれないのか、実にいいタイミングで授業終わりのチャイムが鳴る。嗚呼、無常成り、此の世界。

「たまにはルジネも教室行ってみなよ」

「おう、考えとくわ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

盾の間違った使い方

KeyBow
ファンタジー
その日は快晴で、DIY日和だった。 まさかあんな形で日常が終わるだなんて、誰に想像できただろうか。 マンションの屋上から落ちてきた女子高生と、運が悪く――いや、悪すぎることに激突して、俺は死んだはずだった。 しかし、当たった次の瞬間。 気がつけば、今にも動き出しそうなドラゴンの骨の前にいた。 周囲は白骨死体だらけ。 慌てて武器になりそうなものを探すが、剣はすべて折れ曲がり、鎧は胸に大穴が空いたりひしゃげたりしている。 仏様から脱がすのは、物理的にも気持ち的にも無理だった。 ここは―― 多分、ボス部屋。 しかもこの部屋には入り口しかなく、本来ドラゴンを倒すために進んできた道を、逆進行するしかなかった。 与えられた能力は、現代日本の商品を異世界に取り寄せる 【異世界ショッピング】。 一見チートだが、完成された日用品も、人が口にできる食べ物も飲料水もない。買えるのは素材と道具、作業関連品、農作業関連の品や種、苗等だ。 魔物を倒して魔石をポイントに換えなければ、 水一滴すら買えない。 ダンジョン最奥スタートの、ハード・・・どころか鬼モードだった。 そんな中、盾だけが違った。 傷はあっても、バンドの残った盾はいくつも使えた。 両手に円盾、背中に大盾、そして両肩に装着したL字型とスパイク付きのそれは、俺をリアルザクに仕立てた。 盾で殴り 盾で守り 腹が減れば・・・盾で焼く。 フライパン代わりにし、竈の一部にし、用途は盛大に間違っているが、生きるためには、それが正解だった。 ボス部屋手前のセーフエリアを拠点に、俺はひとりダンジョンを生き延びていく。 ――そんなある日。 聞こえるはずのない女性の悲鳴が、ボス部屋から響いた。 盾のまちがった使い方から始まる異世界サバイバル、ここに開幕。 ​【AIの使用について】 本作は執筆補助ツールとして生成AIを使用しています。 主な用途は「誤字脱字のチェック」「表現の推敲」「壁打ち(アイデア出しの補助)」です。 ストーリー構成および本文の執筆は作者自身が行っております。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...