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7.REALEFFECT
ウサギの夢はサイバーパンクを彩れるか
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そんなのお構いなしな能天気スパイ気取りウサギがここには一匹迷い込んでいた。
「ファンタズム・セットアップ、大自在壊界位、パシュパタストラ!」
ほのかはこの何とも言えない空気を打ち破るように(いや、そんなこと少しも考えてねえだろうが)高らかに宣う、
なんかカッコいいポーズとともに両手を天高く突き上げると、過剰なまでに莫大な光に飲み込まれるほのか。「眩しッ」……いや、そこはなんとかしなさいよ。
そうして、そんな無駄にここにいる全員の目を眩ませた光が凪ぐと。
それは青白い光を放つ巨大な矢じりだった。ほのかは平たく鋭利な先端を持つ矢じりの柄部を両手で掴み、あたかも剣のように持っている。それは内に脈打つ強大なエネルギーを凝縮している。どこからどう見てもほのかの身の丈どころか人類が持つにはあまりにも不相応な聖遺物。
「……ほのか、そんな物騒なモン、どこで拾ってきた?」
「うむ、とにかくめちゃくちゃ強いやつを幻想具現化したのだ! 我、ワクワクすっぞ!」
「世界どころか宇宙規模の大破壊を巻き起こす奴だ、絶対に最大出力で撃つなよ、絶対だぞ」
「お? いいだろう、ふふふん、そういうことだな! 我はそういうお約束もわかるすごいウサギなのだ!」
その小さな体格に似つかわしくないお胸をふふんと自慢げに反り返すほのか。
完全に嫌な予感しかしないが、とりあえずこの聖遺物がなんかとんでもないエネルギーが渦巻く巨大な矢じりとして形を保っている分には大丈夫か。……ドジっ子属性のほのかがうっかりぶん投げてしまわないうちになんとかしなきゃな。
「やい、偽アーサー、その聖遺物は内殻から盗み出された物だ、返してもらうぞ!」
ほのかはその残酷な運命の鍵を握っていたであろう忌まわしき聖剣を前に、その境遇を恨むどころか、威風堂々、ずばッととアーサーと対峙していた。ほのか、マジで吹っ切れたんだな、などとなんだか後輩を見守るような生温かい視線。これで変な格好じゃなきゃ絵になるんだけど、今のほのかはエッチな褐色バニーガールだ、完全に痴女だ。
「……これはボクの物だ」
「何言ってるのだ? このなんちゃっての王様気取りが」
「ああ~、えーと、ほのか、話がややこしくなっちまうけどさ、こいつは本物のアーサー王なんだよ、マジで」
「またまた~、ルジネまで何を言っているのだ、異世界転生ファンタジーじゃあるまいし」
残念ながらこいつは何も知らない。またしても、だ。ホント、不憫なヤツ。
「我から見れば、ここは完全にサイバーパンクの成れの果てのディストピアだ」
ああ、そうか、内殻は技術を否定し、信仰を肯定し、自然こそを礼讃した。そんな世界しか知らないなら確かにこの世界は完全にイカれて見えるだろうな。
「だからこそ、この世界は楽しい! だからこそ、このディストピアでできた友達は助けなくてはな!」
「あ、おい、待て!」
威勢よく先制したのはほのかだった。というか、喜々として勝手に飛び出して行ってしまった。なんかチラッと見えた顔真っ赤だったけど、きっと最後の台詞、自分で言っといて恥ずかしかったんだな。
「うははは、我の溢れ出る力に恐れおのにょにょくがいい!」噛んだな。
尊大な高笑い。あまりにも不遜で、ちっさい身体のどこからその莫大な自信が溢れ出るのか不明。
獣の身体能力は未だ健在。
明らかに自身の体格とは合わない巨大な矢じりを背負ってなお、その速度は落ちず。
単純な筋力だけじゃない、視力なんかの五感や危険察知能力も(実は)オレらとは一線を画している(はず)。
自身の体長の何倍もの距離を跳躍可能な兎の脚力が仮想フィールドを抉る。電子粒が巻き上がる砂塵となり彼女がそこにいた痕跡を残す。それを確認できた時にはほのかはもうすでにさらに遠く、さらに速く、アーサーに差し迫っている。
「俺の外装起因機関はまだ稼働率が低い、俺はまだ動けねえ」
「クソ、あの騒がしい三月兎め」
その鎧こそが拘束具であるかのようにゆっくりとしか動くことのできないアハルギを置いて、オレも遥か先のほのかを追いかける。かしゃり、右手の幻想籠手が呼応するかのように高鳴るけど、まだお前の出番じゃねえよ。
「天誅! アーサー殿!」
なんか間違ってる気がするけど、テンション極まってるならそれでいっか。
ほのかは巨大な矢じりをバトンのように軽やかに振り回し、アーサーと数度打ち合う。
それを難なくこなすほのかの身体能力もだが、あの強大なエネルギーの塊と他愛なく対峙する聖剣に、再度底の見えない計り知れなさを感じてしまう。
「隙あり!」
アーサーの懐に飛び込むほのか。喉元を狙って矢じりを突き上げるが、アーサーは冷ややかにほのかを見下ろしていた。ほのかの攻撃は読まれていた、聖剣を無機質に振り下ろす。
「うははは! この矢じりがただデカいだけの武器だと侮っていたな! 神造武器はこんなこともできちゃうのだ!」
ぺたりと開脚、前傾、会心をずらす。ほとんど威力のなくなった斬撃を背中の矢じりで受ける。と立ち上がりざまに聖剣を弾き、同時に背の矢じりの先端をアーサーに向ける。超至近距離、煽情的な前屈みの体勢、背中を反らすとぷるんと胸が強調される、にやり、挑発的な上目遣い、両手を背に、銃を担いだままのいびつな射撃体勢。
「神性領域極縮小、電装空間固定、神罰執行期限を英雄王に設定、うはは、全承認!」
そして。
一切の躊躇いもなく撃ち出される超大出力のレーザーキャノン。その威力は宇宙を破壊するほど凄まじく。
何もかもが青白い光に包まれて何も見えなくなってしまう。
吹き飛ばされないように踏ん張りつつ、かろうじてほのかの方を見てみると。
その甲高い轟音にも掻き消されない尊大な高笑いと共に矢じりを背中に乗せて極太の青白いレーザー砲を射出するその構えは、あの時のあいつとよく似ていた。変なところで親子感出してくるじゃねえか。思わず苦笑。
「それは人には手に余る。ましてや、キミのような穢れた混種が持つべき代物じゃない」
だがしかし、それはアーサーを穿つことなく真っ二つに断ち切られる。レーザーは急速に凪いで、光の帯となって空へと静かに消えていく。
姿を現したアーサーは全くの無傷だった。
「差別反対!」
それでもほのかは攻撃を止めない。
身体全体を使って、まるで自身の肢体を這わせるように矢じりを振り回しながら、レーザー砲を四方八方に乱射する。うおッと、そんな風に軽々しく神様の武器をくるくるさせるんじゃあない!
怒涛の連撃を続けるほのか。飛び交うレーザービームがまるでアイドルのコンサートみたいにフィールドを彩る。
しかし。それでもなお。
「無駄だ、それを神に授けられた者ですら御しきれぬのだ」
予想外のほのかの善戦に観客も歓声を上げるが、聖剣を讃えるその力には及ばない。
因果との逆転。
観客が勝利を願えば願うほどその出力を上げる希望の集約器。
聖遺物でさえあの出力だった。本物の聖剣が古より一体どれほどの願いで鍛錬されてきたのかオレらには計り知ることなどできやしない。
聖剣が閃く。
咄嗟に矢じりでガードするが、ずるり、振り抜かれた一閃は矢じりを横一文字に両断する。その様を見る驚愕に見開かれたほのかの表情。
「う」
矢じりが崩壊したことによりその内に渦巻く未曽有のエネルギーが暴走を始める。ほのかは暴発する寸前の矢じりの残骸の一片をアーサーへと蹴りつけ、手に持つ方を高々と放り投げた。
空高く舞う矢じりはその形を留めておけず、耳を塞ぐだけでは防げないほどの爆発音と衝撃を迸らせた。
まるで花火だ。
宇宙規模の破壊をもたらすはずの光の爆発を、歓声まで上げて楽しそうに見つめるギャラリー。
「ふう、危ない危ない」
ある意味でこの場にいる全員を救ったような気がしなくもないほのかは、なんか一仕事終えたような雰囲気を醸し出しながら大きくため息を吐く。いや、それ全部お前のせいだぞ。
そんなほのかを。
「な」
あっさりと切り伏せる無傷の白い影。
「これで一人」
「ファンタズム・セットアップ、大自在壊界位、パシュパタストラ!」
ほのかはこの何とも言えない空気を打ち破るように(いや、そんなこと少しも考えてねえだろうが)高らかに宣う、
なんかカッコいいポーズとともに両手を天高く突き上げると、過剰なまでに莫大な光に飲み込まれるほのか。「眩しッ」……いや、そこはなんとかしなさいよ。
そうして、そんな無駄にここにいる全員の目を眩ませた光が凪ぐと。
それは青白い光を放つ巨大な矢じりだった。ほのかは平たく鋭利な先端を持つ矢じりの柄部を両手で掴み、あたかも剣のように持っている。それは内に脈打つ強大なエネルギーを凝縮している。どこからどう見てもほのかの身の丈どころか人類が持つにはあまりにも不相応な聖遺物。
「……ほのか、そんな物騒なモン、どこで拾ってきた?」
「うむ、とにかくめちゃくちゃ強いやつを幻想具現化したのだ! 我、ワクワクすっぞ!」
「世界どころか宇宙規模の大破壊を巻き起こす奴だ、絶対に最大出力で撃つなよ、絶対だぞ」
「お? いいだろう、ふふふん、そういうことだな! 我はそういうお約束もわかるすごいウサギなのだ!」
その小さな体格に似つかわしくないお胸をふふんと自慢げに反り返すほのか。
完全に嫌な予感しかしないが、とりあえずこの聖遺物がなんかとんでもないエネルギーが渦巻く巨大な矢じりとして形を保っている分には大丈夫か。……ドジっ子属性のほのかがうっかりぶん投げてしまわないうちになんとかしなきゃな。
「やい、偽アーサー、その聖遺物は内殻から盗み出された物だ、返してもらうぞ!」
ほのかはその残酷な運命の鍵を握っていたであろう忌まわしき聖剣を前に、その境遇を恨むどころか、威風堂々、ずばッととアーサーと対峙していた。ほのか、マジで吹っ切れたんだな、などとなんだか後輩を見守るような生温かい視線。これで変な格好じゃなきゃ絵になるんだけど、今のほのかはエッチな褐色バニーガールだ、完全に痴女だ。
「……これはボクの物だ」
「何言ってるのだ? このなんちゃっての王様気取りが」
「ああ~、えーと、ほのか、話がややこしくなっちまうけどさ、こいつは本物のアーサー王なんだよ、マジで」
「またまた~、ルジネまで何を言っているのだ、異世界転生ファンタジーじゃあるまいし」
残念ながらこいつは何も知らない。またしても、だ。ホント、不憫なヤツ。
「我から見れば、ここは完全にサイバーパンクの成れの果てのディストピアだ」
ああ、そうか、内殻は技術を否定し、信仰を肯定し、自然こそを礼讃した。そんな世界しか知らないなら確かにこの世界は完全にイカれて見えるだろうな。
「だからこそ、この世界は楽しい! だからこそ、このディストピアでできた友達は助けなくてはな!」
「あ、おい、待て!」
威勢よく先制したのはほのかだった。というか、喜々として勝手に飛び出して行ってしまった。なんかチラッと見えた顔真っ赤だったけど、きっと最後の台詞、自分で言っといて恥ずかしかったんだな。
「うははは、我の溢れ出る力に恐れおのにょにょくがいい!」噛んだな。
尊大な高笑い。あまりにも不遜で、ちっさい身体のどこからその莫大な自信が溢れ出るのか不明。
獣の身体能力は未だ健在。
明らかに自身の体格とは合わない巨大な矢じりを背負ってなお、その速度は落ちず。
単純な筋力だけじゃない、視力なんかの五感や危険察知能力も(実は)オレらとは一線を画している(はず)。
自身の体長の何倍もの距離を跳躍可能な兎の脚力が仮想フィールドを抉る。電子粒が巻き上がる砂塵となり彼女がそこにいた痕跡を残す。それを確認できた時にはほのかはもうすでにさらに遠く、さらに速く、アーサーに差し迫っている。
「俺の外装起因機関はまだ稼働率が低い、俺はまだ動けねえ」
「クソ、あの騒がしい三月兎め」
その鎧こそが拘束具であるかのようにゆっくりとしか動くことのできないアハルギを置いて、オレも遥か先のほのかを追いかける。かしゃり、右手の幻想籠手が呼応するかのように高鳴るけど、まだお前の出番じゃねえよ。
「天誅! アーサー殿!」
なんか間違ってる気がするけど、テンション極まってるならそれでいっか。
ほのかは巨大な矢じりをバトンのように軽やかに振り回し、アーサーと数度打ち合う。
それを難なくこなすほのかの身体能力もだが、あの強大なエネルギーの塊と他愛なく対峙する聖剣に、再度底の見えない計り知れなさを感じてしまう。
「隙あり!」
アーサーの懐に飛び込むほのか。喉元を狙って矢じりを突き上げるが、アーサーは冷ややかにほのかを見下ろしていた。ほのかの攻撃は読まれていた、聖剣を無機質に振り下ろす。
「うははは! この矢じりがただデカいだけの武器だと侮っていたな! 神造武器はこんなこともできちゃうのだ!」
ぺたりと開脚、前傾、会心をずらす。ほとんど威力のなくなった斬撃を背中の矢じりで受ける。と立ち上がりざまに聖剣を弾き、同時に背の矢じりの先端をアーサーに向ける。超至近距離、煽情的な前屈みの体勢、背中を反らすとぷるんと胸が強調される、にやり、挑発的な上目遣い、両手を背に、銃を担いだままのいびつな射撃体勢。
「神性領域極縮小、電装空間固定、神罰執行期限を英雄王に設定、うはは、全承認!」
そして。
一切の躊躇いもなく撃ち出される超大出力のレーザーキャノン。その威力は宇宙を破壊するほど凄まじく。
何もかもが青白い光に包まれて何も見えなくなってしまう。
吹き飛ばされないように踏ん張りつつ、かろうじてほのかの方を見てみると。
その甲高い轟音にも掻き消されない尊大な高笑いと共に矢じりを背中に乗せて極太の青白いレーザー砲を射出するその構えは、あの時のあいつとよく似ていた。変なところで親子感出してくるじゃねえか。思わず苦笑。
「それは人には手に余る。ましてや、キミのような穢れた混種が持つべき代物じゃない」
だがしかし、それはアーサーを穿つことなく真っ二つに断ち切られる。レーザーは急速に凪いで、光の帯となって空へと静かに消えていく。
姿を現したアーサーは全くの無傷だった。
「差別反対!」
それでもほのかは攻撃を止めない。
身体全体を使って、まるで自身の肢体を這わせるように矢じりを振り回しながら、レーザー砲を四方八方に乱射する。うおッと、そんな風に軽々しく神様の武器をくるくるさせるんじゃあない!
怒涛の連撃を続けるほのか。飛び交うレーザービームがまるでアイドルのコンサートみたいにフィールドを彩る。
しかし。それでもなお。
「無駄だ、それを神に授けられた者ですら御しきれぬのだ」
予想外のほのかの善戦に観客も歓声を上げるが、聖剣を讃えるその力には及ばない。
因果との逆転。
観客が勝利を願えば願うほどその出力を上げる希望の集約器。
聖遺物でさえあの出力だった。本物の聖剣が古より一体どれほどの願いで鍛錬されてきたのかオレらには計り知ることなどできやしない。
聖剣が閃く。
咄嗟に矢じりでガードするが、ずるり、振り抜かれた一閃は矢じりを横一文字に両断する。その様を見る驚愕に見開かれたほのかの表情。
「う」
矢じりが崩壊したことによりその内に渦巻く未曽有のエネルギーが暴走を始める。ほのかは暴発する寸前の矢じりの残骸の一片をアーサーへと蹴りつけ、手に持つ方を高々と放り投げた。
空高く舞う矢じりはその形を留めておけず、耳を塞ぐだけでは防げないほどの爆発音と衝撃を迸らせた。
まるで花火だ。
宇宙規模の破壊をもたらすはずの光の爆発を、歓声まで上げて楽しそうに見つめるギャラリー。
「ふう、危ない危ない」
ある意味でこの場にいる全員を救ったような気がしなくもないほのかは、なんか一仕事終えたような雰囲気を醸し出しながら大きくため息を吐く。いや、それ全部お前のせいだぞ。
そんなほのかを。
「な」
あっさりと切り伏せる無傷の白い影。
「これで一人」
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