王様と籠の鳥

長澤直流

文字の大きさ
49 / 52
第6章

選択の儀~第1世代~16 ※背後注意め

しおりを挟む
 王宮で出迎えるクリスチーネを下がらせ、ライアナが湯殿を経由して寝室に入ると、シェルミーユは公務の衣装のままベッドで横になっていた。
 久し振りに表舞台に出たせいか、疲れてそのまま眠ってしまったようだ。
 ライアナは少し残念に思いながらも、そんなシェルミーユを愛おしくも思い、そっとその頬に手を添えた。
 不意にシェルミーユの手がライアナのその手に重ねられる。
 驚いて微動だにできずにいるライアナの姿を、シェルミーユはとろんとした瞳に映して言った。
「おかえり……なしゃ……いましぇ……」
 寝ぼけているのか、舌っ足らずのその声がライアナの欲情をそそる。
 ライアナは堪らずシェルミーユに口付けた。
「んっんん……」
「シェルミーユ、すまん。シェルミーユっ」
 口付けを繰り返していくと次第にシェルミーユの頬がほんのりと色付いてゆく。
 少し苦しそうに呻いたシェルミーユから唇を離すと、それを惜しむように煌めく銀糸が互いの唇をつないでいた。
 涙目で赤らむシェルミーユはとても扇情的だが、今宵はどこか幼げにも見える。
 まだ夢の中にいるのだろうシェルミーユに、駄目元でライアナは一縷の望みをかけて囁いた。
(俺は此度頑張った……頑張った……だから――)
「俺に…………ほ、褒美を――」
 次の瞬間ライアナは言葉を失った。
 シェルミーユがライアナに向けて両腕を広げ、優しく微笑んでいたのだ。

「おいでぇ……」

 それは通常のシェルミーユからは想像が出来ないほど甘い態度と声音だった。
(ああ、やはり寝ぼけている……だが――)
 それを利用しない手は無かった。
(すまん、すまんなシェルミーユ。やはり今宵も逃してやるわけにはいかぬ、お前は寝ぼけている時ほど素直でめっぽう可愛いのだ)
「たとえ覚えていなくても……了承し、誘ったのはお前だからな」
 ライアナはそう呟くと、小さく笑ってシェルミーユの腕の中へと吸い込まれてゆくかのように、そっと体を重ねた。
 シェルミーユはライアナが胸に納まると、まるで小さな子供を抱きしめるかのように優しく彼を包み込み、再び瞳を閉じて微睡みの中へと帰って行った。
 包みこまれたライアナはシェルミーユの温もりを堪能した後、その大きな手を器用に動かし、シェルミーユの衣装を脱がしてゆく。
 衣装から解放されてゆくシェルミーユからは緊張が解けた吐息がもれ、ライアナが髪飾りや乱れた結い髪をゆるゆるとほどいてやると、その表情はさらに穏やかになっていった。
 ライアナは露わになった白い柔肌に手を這わせ、口付けを降らし、舌を這わせてシェルミーユの肌を堪能してゆく。
「んふっ」
 気持ちよさそうな声を上げて寝返りを打つシェルミーユの背中を舐めながら、ライアナは這わす手を下肢へと忍ばせ、既に起ち上がりかけていたシェルミーユの控えめな雄をその手で優しく包みやわやわと扱いた。
「ぁっ……ん……」
 シェルミーユの艶めかしい声音に喉を鳴らしながら、ライアナは忍ばせたもう片方の手をシェルミーユの秘部に宛がい、指を深く潜らせ、解すように巧みに動かす。
「ん、んんっ」
 シェルミーユはライアナから与えられる快感に耐えるように悩ましげに眉間にしわを寄せ、自分の指をくわえた。
 快感に身悶えるシェルミーユの柔肌がほんのりと桃色に色付いてゆく。
 控えめな雄がぷくりと蜜を滴らせ、解された秘部がクパクパと口を開く背徳的なシェルミーユのその艶めかしい姿、そのすべてがライアナを許し、肯定し、まるで誘っているかのようだ。
 ライアナはうっとりとその肢体を眺めながら胡座をかくと、シェルミーユの両脇を抱きかかえる様にして、そそり立ち凶器と化した己の一物をシェルミーユの秘部に宛てがい一気にくわえ込ませた。
「ひっ!?  あっっ――ああっ」
 ライアナの一物が体内に滞りなく収まるやいなやシェルミーユは弓なりに反り、駆け走った快感に抗うことも出来ずに瞬時に達してしまう。
 あまりのことにシェルミーユは一気に覚醒したが、ライアナは混乱しているシェルミーユをそのままベッドに仰向けに倒し、間髪入れずに腰を動かし始めた。
「ひゃっ、あ、ああ、あんっ――あうっ、はっ、はふぅっ、っっっ――」
 玉のような汗をかきながらシェルミーユは止めどなく押し寄せる快感に耐える。そして一際最奥に突かれた時、焼けるほどの熱い激流が体内に流れるのを感じ、先程の射精の余韻に浸る間も余裕も無く再び果ててしまった。
 シェルミーユは訳もわからずただ気が狂いそうな快感に耐えるため、力いっぱいシ-ツを握りしめ顔の前で腕を交差し体を強張らせたが、到底耐えられるものでは無かった。
「ああぁぁぁ……っ」
 漏れ出す声に羞恥に身を染め、シェルミーユは体を震わせた。
「シェルミーユ」
 体を繋げたまま、その快感の元凶たるライアナがシェルミーユの耳元でその名を恍惚とした声音で呼ぶ。
「ラ……イアナ……これはどういう――?」
 涙目でシェルミーユがそう問うと、ライアナは目を細め優しく微笑んで言った。
「覚えていないのかい? お前が誘ってくれたんじゃないか」
「わ、……私が? まさか――」
「こう俺に両の手を広げ、笑顔で言ってくれた。優しい声音で『おいで』と……」
『おいで』その言葉を聞いた途端、シェルミーユは身に覚えがあったのか顔を真っ赤に染めて慌てて言った。
「そんな……違っ……だっ、だってあれは――ゆ」
「ゆ?」
 ライアナが首を傾げる。
「……ぁぁぁ……、何でも無い」
 シェルミーユは恥ずかしそうにライアナから目を逸らした。
 ライアナはシェルミーユの手を取るとその甲に口付けを落として言った。
「此度は初めてのお勤めご苦労であった。……疲れたであろう」
 予想しなかったライアナの労いの言葉に驚き、シェルミーユがライアナへ視線を戻すと、その顔は少しだけ寂しく、苦しそうな笑みを浮かべていた。
 シェルミーユは自然とライアナの手を取り、その甲に口付けを返す。
「……ライアナ、ありがとう。此度は御公務に出席できて私はとても嬉しかった」
「シェルミーユっ」
「んっ」
 思いもよらない返しに体内のライアナが嵩を増し、シェルミーユはビクンと体を震わせた。
「す、すまん。今抜く――」
「いや、いい」
 シェルミーユの言葉に腰を引こうとしていたライアナの動きが止まる。
 ライアナは奇跡でも見るように、ゆっくりとシェルミーユの方を見た。
 シェルミーユはライアナの手を掴んだまま、その手に視線を落とした。
(……夢では無かった)
 ライアナの涙を目にして以来、シェルミーユの夢の中のライアナは時々弱者の姿を見せていた。
 夢の中のライアナならばいくら甘やかしても現実に何の影響もなく、シェルミーユの自尊心もダメージは少なかった……それ故にシェルミーユは夢の中のライアナをついつい甘やかしてしまう傾向にあった。
(……夢ではなく、現実だった)
 確かにシェルミーユは覚えている。
 不安そうに、今にも泣きそうな顔をして褒美を強請るライアナの様を――
(らしくも無い……らしくも無い、だからこそ放ってなどおけなかったし、己の胸に誘ってしまった。……まさか現だったとは……油断した。……とうとう現実にまで情が湧いてしまったというのか……)
 シェルミーユは瞳を閉じ、少しだけ自嘲的に微笑んだ。

 ライアナに視線を向けると、ライアナの瞳は期待と欲望とが入り乱れ、ギラギラと痛いくらいに瞬いていた。しかし、一見力強いその瞳の奥には確かに小さな弱さが潜んでいる事をシェルミーユは知っている。
 ただ、それが適応されるのは自分が関わることだけだとは今でもやはり思ってはいなかった。
(何故無視出来ないのだろう、……何故こんなにも胸が締め付けられるように痛むのだろう)
 不意に垣間見せるライアナの弱さを目にする度にそう自分に問いかけてきたが、その答えは中々出そうにない。
 いや、もしかしたら心の奥底ではわかっているのに、答えを出してしまうことに躊躇いがあるのかもしれない。
 だがしかし、気付いてしまったシェルミーユにはライアナのその小さな弱さを放っておく事が出来なくなっていた。

 寝ぼけて言ったこと、たとえ反故にしたところでライアナはシェルミーユを責めはしないだろう…………だが――


「くれてやる」

 シェルミーユは、止せばいいのにと思うもやめられない己に呆れながらライアナの頬を両手で包み、その瞳をまっすぐに見つめて囁いた。

「褒美が……欲しいんだろ?」

 ライアナは驚愕に目を見開いた。そして瞬時に己を律した。
 今にもとびかかりたい気持ちをぐっと耐えてでも、彼には先に確認しておきたいことがあったのだ。
「それは……」
 緊張してか言葉が詰まってしまう。
「それは同意の下……ということでいいんだな」
 ライアナの問いに、シェルミーユは言葉を詰まらせた。
「――――ほ、褒美だから――……」
 シェルミーユは恥ずかしそうに目を伏せてそう言い――――
「…………ただ、やはり加減は……頼む」
 続けて全身を真っ赤に染めながら消え入りそうにそう呟いた。
 ライアナはシェルミーユのその応えに破顔し、その瞳に歓喜と情欲の炎を宿らせる。
「……善処しよう」
 そう言ってシェルミーユの全身に口付けを惜しみなく降らすライアナに、あまり加減は期待できそうにないなと口の中で小さくぼやき、シェルミーユはライアナに身を委ねるべく瞳を閉じた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

超絶美形な悪役として生まれ変わりました

みるきぃ
BL
転生したのは人気アニメの序盤で消える超絶美形の悪役でした。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

スライムパンツとスライムスーツで、イチャイチャしよう!

ミクリ21
BL
とある変態の話。

処理中です...