縁は縁でも腐ってる

長澤直流

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◆貳拾壹

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 朝方、美慶は気怠げな溜め息を吐いた。
 先程まで身を重ねていた総満は成り行きが急だったため、昨日放置した勤めのこともあり、明け方家臣達に泣きつかれて勤めを果たしに行った。
 人一人分の温もりを失ったしとねは先程までの行いに由来する汗やら何やらを吸いとってしっとりとしていて冷たく、不快だ。
「何か御用ですか? 宇木殿」
「お腹は……空いておりませぬか? ……何か御用意致しましょうか……?」
 障子の前をうろつく気配を感じて美慶が廊下側にそう声を掛けると、宇木は遠慮がちに尋ねてきた。
「要りませぬ。……それより再度湯殿を用意して頂きたい」
「た、直ちに――!」
 美慶は宇木が立ち去るのを待ってから、重い体に鞭打って上半身を上げ、一人きりの部屋で壁側に向かってその名を呟いた。

「……伊織」

 すると壁の向こうから一人の男が姿を現し、美慶に水の入った竹筒と丸薬を手渡した。美慶は無言で受け取ると躊躇うこと無く口に含む。丸薬は痛み止めを含めた滋養強壮剤で、総満程では無いにしても宗近の相手を日々していた美慶にとっては馴染みのものであった。丸薬を口にし、一息吐いた美慶は静かに伊織に問うた。
「して、如何に――?」
「総満様はあの後すぐにご出立なさり、各所で馬を乗り換えつつ豊稔に向かわれました。豊稔では宗宜様とお会いし、証拠を見せた上で、宗宜様の言い分をお聞きになったところ、宗宜様が臣を使って総満様に奇襲をおかけになったため、総満様はその場で臣をお斬りになり、間を置かず宗宜様を斬首なされました。その後、総満様は長谷川様をはじめとした家老を呼び出し、次期当主を宗近様の弟君の御子息であらせられます宗頼様に当たらせるように提言の後、その足で極国にお戻りになられました」
「そうか……。大儀であった、下がって良い」
 美慶が伊織の方を見ずにそう言うと、伊織は気づかわしげに口を開いた。
「……美慶様、あの……お体の具合は――」
「…………夜通し貫かれ続けて良いと思うか?」
 美慶は自嘲気味に口端を上げた。美慶の体は初ではないとはいえ、さすがに悲鳴を上げていた。菊花などは少し痺れを残して白い蜜が伝うのを甘んじて享受している状態だ。美慶はなんだか粗相しているようで気持ち悪く感じていたが、眉を顰める事しか出来なかった。
「……申し訳ございませぬ、お助けすることが出来ず――」
「……気に負うな、丸薬を口に出来ただけでも御の字よ。それに――」
 美慶は一太刀で斬り落とされていた宗宜の首を思い出した。
 綺麗な切断面は、総満が力と技の調節に長けている証拠でもあった。
「……邪魔が入れば血を見ることになったやもしれぬ……」
 総満は首取りに疲れたと言いながらも全くその様子は無く、体力も精力も美慶とは桁違いで、美慶が何度気を失っても手放す素振りさえ見せなかった。家臣達に泣きつかれてしぶしぶ閨から去る時でさえ、唇を尖らせ不満げな様子を見せた。

(既に側室を何人か迎えていると聞いたが……よほど飢えているのか足りぬのか……執拗に攻めよってからに――――)

 美慶はさすがに疲れていた。
 気怠げにまぶたを閉じ、溜息を吐く。
「まぁ、……彼奴もただの興味本位だろう。元々豊満な肉付きの女好きだとの事だ。未知なるものへの好奇心故の一時のこと……直にお役御免となるだろうから――それまでの辛抱だ」
「…………畏れながら総満様は…………」
「なんだ?」
 美慶は伊織を怪訝そうに見つめた。
「……いえ、何でもございませぬ。失礼致します」

 総満が閨を去る際、美慶は伏せていたため気付きようもなかったが、小姓達に連れていかれる総満の顔を物陰から見ていた伊織は、美慶の考えに手放しで賛同することが出来なかった。
(一見、玩具を取り上げられた子供のように拗ねていたようにも見えたが……美慶様に背を向けた後のあの顔は――)
 総満の顔を思い出したと同時に全身が粟立ち、得体の知れぬ不安が伊織を襲う。
(獲物を手中に入れた獣を思わせる微笑みにして、腹が満たされ切れていないようなギラギラしたあの瞳…………一時の気の迷いでは済まされないのではないだろうか……)

 伊織のこの読みは図らずも当たってしまう事となる。そしてもう一人、図らずも察してしまった者がいた。
 宇木である。

 伊織が姿を消して間もなくして現れた宇木が、美慶に湯殿の準備が済んだことを伝えると、美慶は褥から這いずるようにして離れ、言い辛そうに顔を背けて呟いた。
「…………すみませぬが、新しい褥に変えて頂きたい」
「………………――――畏まりまし……た」
 宇木は花弁のように血の散る褥に言葉を詰まらせ、思わず美慶の方を見たが、怪我を隠している様子は見受けられなかった。
(――と、いうことはやはり…………破瓜も無しに、これ程とは――)
 宇木は美慶の褥に手を掛け、そのずしりとした重さに絶句した。視線を逸らす美慶に全てを察した宇木は軽く頷くとその褥を秘密裏に処分することにした。
「湯浴みされている間に新しい物に変えておきまする…………傷薬をお持ち致しましょうか?」
「……無用です。ただ……湯殿まで肩を貸して頂きたい」
「畏まりました」
 宇木はそう言って美慶に肩を貸しながら、これから増えるであろう美慶に対する総満の執着を予期せずにはいられなかった。
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